#author("2023-10-30T22:26:55+09:00;2022-10-14T15:21:03+09:00","","")
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* ウイン [#o63939f1]
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[人名]]|
|~スペル|Uin|
|~種族|セミクジラ|
|~その他の呼び名|原初の鯨 (Primeval whale) &br; グルマ((ウルモの古き呼び名とされる。))の巨鯨 (Gulma's great whale) &br; 最古のセミクジラ (Oldest of the Right Whales) &br; 偉大なる鯨 (The Great Whale) &br; 最も偉大で最も古い鯨 (The mightiest and most ancient of Whales)|
|~性別|男|

※以下、後年に名称が変更されたキャラクターや地名は後年の表記で記す。(((例)  アイヌル→Gods、中つ国→Great Lands、二つの木→[[リンギル]](Ringil)とヘルカル/ヘルカー(Helkar)、イングウェ → Inwë、エッカイア→ Vai、Vaia、Waiya (([[テングワール]] (ここでは Tengwa) の古い呼称にも Vaia と Waiya という呼称が見られ、アペンディックスEではValaと表記されている。))((スウェーデン語では、Valar とはクジラを表す。))、シンゴル→Tinwë Linto、フィンウェ→Nólomë Finwë、アヴァサール→Arvalin、モルゴス→Melko))
※『失われし物語』は後年の描写などと異なる部分もあるので、原則として同項に記されている補足的な事項も直訳して記載している。
** 解説 [#Explanation]

ウインは、『[[失われし物語]]』の第一章第一篇([[The Book of Lost Tales 1>The History of Middle-earth/The Book of Lost Tales 1]])および『[[仔犬のローヴァーの冒険]]』に登場した。ウインの両篇における登場は、トールキンの作品群の共通性と繋がりの収束点の一つとして記述されている。

[[ウルモ]]の従者である巨大なセミクジラであり、最も偉大で最も巨大で最も古き鯨である。「計り知れない」程の力を持ち、浜辺や長時間海底で休憩を取るなど「全てにおいて規格外」だとされる。

優しく気遣いのできる性格をしており、ウインクをする茶目っ気も持ち合わせる。

ウインの名前は[[ウイネン]] の名前と似ているが、この類似性の理由はよくわからないと語録で記されている。

[[アラン・リー]]による挿絵ではザトウクジラに近く、ハーパーコリンズ会社による1998年版の表紙ではマッコウクジラに近い姿をしているが、実際にはセミクジラである。((言語学者であるトールキンは、セミクジラ科の学名である「Eubalaena(ラテン語で ”真の鯨”、"良い鯨")」から着想を得たのかどうかは不明(日本にも似たような呼称が存在した)。セミクジラは、分布範囲である欧米・ニュージーランド・日本などでは、古来より文化的に特別な鯨とされてきた。また、セミクジラにちなんで名付けられた地名も世界中に存在する。)) 

*** 『失われし物語』 にて [#rf96d524]
ウインの登場は第一章第一篇に限られており、後年のバージョンでは[[大いなる旅]]に合わせた[[トル・エレッセア]]の運搬がウルモ自身による作業となった。

とある夏の後半の日に、ウルモの命により、[[トル・エレッセア]] をウインがクジラ達の中心になって、[[エルダマール]]の沿岸と[[ヴァリノール]]に運ぶ事になった。((「Host of Greatest Fish」 という表現がなされているが、これ以降はウインと鯨達のみ言及されているので、魚類が混じっていたというよりもクジラ達を指す表現だと思われる。)) だが、オッセ(Falman-Ossë)は ウルモがクジラ達と件の島にハーネスを掛ける光景を快く思っていなかった。((理由はいくつかある。一つ目は、トル・エレッセアはかつてオッセが発見した島であること。((アイヌルがまだこの世界に新参であり、オッセが探検の最中に浜辺に上陸するまではトル・エレッセアが[[小暗い海]]で寂しく密かに/ぼんやりと漂っていた時代だと記述されている。)) 二つ目は、二つの木が溶けて海水が上昇した際にアイヌルを助けるためにトル・エレッセアごと[[アヴァサール]]の地へ牽引した事があること。三つ目は、エルフ達の運搬に自らの力を必要とされなかったこと。そして四つ目は、そのオッセの秘密の島は彼に了承もなくウルモに召し上げられたことだ。))

一行は[[大海]]を東方に向かい、中つ国の沿岸に到達した。[[鉄山脈]]の北にある[[ヒスルム]]を経て、「Bay of Arvalin」に達した直後、[[オロメ]]((「あぶみ金(stirrup)」という表現がある事から[[ナハル]]に騎乗していると思われる。))と[[イングウェ]]を先頭にしたテレリ族((こちらでは後年の [[テレリ]]族そのものではなくて[[ヴァンヤール]]の事だとされる。))が、森から波打ち際((「海泡石」という表現が使用されている。))まで重々しく行進してきた。((ヒスルムは難所であり、オロメの力と技術を以てしても暗く難しい道のりであった。))トル・エレッセアが海岸に接岸されると、その場にいた一族の殆どが早速上陸した。ウルモは他の親類を待たないのかと言ったのだが、彼らが涙を流しながら渋ったので上陸を認めた。そして、ウルモとクジラ達は全速力で[[ヴァリノール]]の海岸を目指した。遠方からでも二つの木を見たテレリ族の心は奪われるのと同時に、これまで通ってきた海原を見返り、静寂の中、他の同族の安否やヴァリノールの孤独など、様々な想いを馳せていた。((オロメはテレリ達よりも遥か先を進んでおり、彼らを探すために森に戻っていった。テレリ達は、オロメの笛ですら海岸からは聞こえないような深い森にさまよっており、オロメは彼らを探してヒスルムの暗い谷を上ったり下ったりしていた。))

オッセは怒りにまかせて海上に姿を見せ、ウルモ達を脱兎のごとく追いかけたが、ウルモがウインとクジラ達にヴァラールの力(または威光)を注ぎ込んでいたので、泳ぎと水中の筋力ではウルモすら凌ぐとされるオッセでもかなり遅れをとっていた。  

ウルモ達がトル・エレッセアをヒスルムの岩場に接岸させた((この時ウルモは「ファエリー湾([[エルダマール湾>エルダマール#bay]]と思われる)」にある[[ラウレリン]]のきらめきと木々等を見て暖かな気持ちになった。))一方で、崖の上には[[ノルドール]]((Noldoli や Gnomes と表記されている。))がいて、[[パリソール]]からの苦難に満ちた長き旅の末に自分達は暗闇に捨てられたという想いで苦悶していた((当時は太陽も月もきらめかず、彼らが辿ってきた道は、エルフにとっても人間にとっても通るべき行程ではなかったとされている。))。そんな彼らを、リーダーでありしんがりを務めていた[[フィンウェ]]は慰めた。
そんなノルドールやオロメが連れてくるだろうヴィンヤールを含む者達のためにウルモの一行は戻る事に決めた。その決断にエルフ達は喜ぶ一方、オッセの怒りは更に燃えて海を泡立たせた。  

[[ファルマリ]]達はいまだ密林の闇の中にいた。[[シンゴル]]((シンゴルを失ったファルマーリ達は Ellu Melemno(後の[[オルウェ]])を「ソロシムピの王」としてリーダーとした。))が遭難して捜索の甲斐もなく見つからなかったことで恐怖に囚われたが、妖精ウェンデリンの奏でる音楽によって気分を紛らわせることができた。そこにオロメの角笛が鳴り響いたので、暗くなっていたがエルフ達は喜びながらすぐに崖に集まることができた。
オッセがウルモ達が戻ってくるのに合わせて嵐と暗闇を呼んだので、ウルモとウイン達は迂回をせざるを得なかった。ファルマリ達は長いこと待ったが、最終的には無事に島に上がる事ができた。

[[惑わしの島々]]にはまだ遠かったが、ヴァリノールへの行程の半分程を過ぎた辺りで、オッセがトル・エレッサに手を掛けた。水中では最高の力自慢で最速の泳ぎ手のアイヌルが全力で引っ張ったので、クジラ達が全力を出してもほんの少ししか前進ができなくなってしまった。
ウルモは遥か先で、オッセの呼び集めた闇の中を法螺貝を吹き鳴らして一行を先導していた。そこでオッセはウイネンと共に、遥か昔から生えて想像を絶するほどに巨大化した((深海にあるオッセの宮殿の柱ほどの太さにまで成長していた。))、おそらくは海草((「Leather Weeds」と表記されている。))やポリプによるロープによって、ウルモが戻ってくる前にトル・エレッセアを海底につなぎとめてしまった。

この事態にウルモはクジラ達にありったけの力を込めるように促し、自身もありったけの神力を込めて手助けした。だが、オッセは岩石やモルゴスが古代に暴れて海底に散らした大量の丸石を使って、島の下に柱を作って対抗した。それらだけでなく、特定の特徴を持つありとあらゆる深海の生物達((自ら住処を作ったり硬い殻を持つような生物とされている。))を召喚し、さらにはありとあらゆるサンゴやフジツボや海綿などを島の基部に植えた。

ウルモの怒号((またはトランペット。))とウインの尾びれによって海は凄まじい様相を呈した。だが長い事戦いは続き、とうとうウルモは怒りと狼狽を覚えて[[ヴァルマール]]に一度帰還した。そして、他のヴァラールに「かの島は世界の最も孤独な海原で急速に成長している。かのエルフ達は今すぐには連れてこられないだろう。」と警告した。

トル・エレッセアが後に「離れ島」と呼ばれるようになったのはこの事件がきっかけだった。((運ばれる予定地は今日のイギリスの位置であったが、オッセの影響によって今日のアイルランドの位置になったという。))


*** 『仔犬のローヴァーの冒険』 にて [#nd7b8a4b]
[[月]]への旅にて、ローヴァー達は魔法使いアルタクセルクセスに会う事は叶わなかったが、アルタクセルクセスが人魚の王女と結婚して海の王国((日本やハワイやフィリピンやイースター島等に手紙を届けるのに適している太平洋の温かいどこかとされている。))にて暮らしている可能性を最も偉大な魔法使いの月の男から聞いた。月から戻ったローヴァー達がそれをプサマソスに伝えると、砂の魔法使いはウインを呼び、ローヴァーを今いるイギリスから太平洋にある海の王国へ運んでくれるように頼んだ。

月の男によって月の反対側への闇へ連れて行かれたこともあり、ローヴァーはウインの真っ暗な口の中に入ることになることをとても怖がったが、ウインの励ましやプサマソスとカモメのミュウの後押しによって何とか目的地に着いた。アルタクセルクセスと再会し、ローヴァーは仔犬には戻れたが忙しいという理由で大きさまでは元に戻してくれなかった。そんなローヴァーをウインは励ましてくれた((アルタクセルクセスが大きさを元に戻す事に成功するかどうかについて、ウインは疑問的だった。))。ウインがこのことをプサマソスに知らせたところ、プサマソスはとても怒った。だが、アルタクセルクセスはロヴァランダムに海中でも暮らせるように変身させてくれた。

二度目の改名をしたロヴァランダムがマーピープル(人魚)達と共に過ごす間、 ウインはロヴァランダムともう一匹のローヴァー((人魚の王の娘であるアルタクセルクセス夫人の愛犬の人魚犬。))を乗せて何度か冒険に連れて行ってくれた。一度目は、世界の端に近づきウインの潮吹きの水が世界の端から落ちるほどギリギリまで近寄ってくれた。二度目に、その逆の端またはその近くまで行った((後にローヴァーは、これが最もすばらしい旅だったと思い返している。))。[[小暗い海]]からエルダマール湾を経て、ロヴァランダムは[[惑わしの島々]]の先に[[ペローリ]]とファエリーの光を見ることができた(この時、ロヴァランダムは「[[ティリオン>ティリオン(地名)]] ((「Tún」と表記されており、[[トゥーナ]]と同じだと思われる。)) の光を見ることができるかもしれない」と思った)。だが、次の瞬間、ウインは外部の者達を連れてきたことが判明したらお咎めを受けることを恐れ、二匹にこのことを秘密にするように言って急いで潜った。

この旅から戻った二匹のローヴァー達は、すぐに次の旅に出た。今度はアルタクセルクセスについて行き、(ロヴァランダムが起こしてしまった)近海を通るだけで嵐を巻き起こすというとてつもなく巨大で「ヨルムンガルド」を思わせるようなシーサーペントを見にいくのだった。

その後、ロヴァランダムはアルタクセルクセス夫婦とウインに連れられ、海の王国から戻った。その後、全てが解決してロヴァランダム達は幸せな生活を送った。


***『[[指輪物語ロールプレイング]]』にて [#y4471cce]
ウインはクジラ型のマーフォーク(ウルモに従うアイヌル)であるとされる。また、 Aamumeren Isa という、ザトウクジラ(通常の個体の二倍の大きさ)に変身し、捕鯨者(([[ウンバール]]や[[ロスソス]]カルドランの民(Cardolandrim)が捕鯨を行うとされる。))を攻撃したり善良な者を水難から救うという水のマイアもいる。「Uini(”鯨”)」や「Hûb-in-Uinin(”鯨湾”)」という呼称にもウインの名が見て取れる。イルカは「ウルモディル」と呼ばれるが、ネズミイルカ等を指す「Porpoise」という単語も使われており、近年までは英語においても「Dolphin」と混同されて使用されていたため、個別表現としての「Porpoise」なのかは不明。
ウインはクジラ型のマーフォーク(ウルモに従うアイヌル)であるとされる。また、 Aamumeren Isa という、ザトウクジラ(通常の個体の二倍の大きさ)に変身し、捕鯨者(([[ウンバール]]や[[ロッソス]]カルドランの民(Cardolandrim)が捕鯨を行うとされる。))を攻撃したり善良な者を水難から救うという水のマイアもいる。「Uini(”鯨”)」や「Hûb-in-Uinin(”鯨湾”)」という呼称にもウインの名が見て取れる。イルカは「ウルモディル」と呼ばれるが、ネズミイルカ等を指す「Porpoise」という単語も使われており、近年までは英語においても「Dolphin」と混同されて使用されていたため、個別表現としての「Porpoise」なのかは不明。

動物としても様々な種類の鯨類が見られ((セミクジラ/氷の鯨、ホッキョククジラ、ザトウクジラ、コククジラ、シロナガスクジラ、マッコウクジラ、「灰色マッコウクジラ」、「ロンドレーター(マッコウクジラの一種)」、コマッコウ/オガワコマッコウ、「大鯨」、シャチ、「[[フォロヒェル]]湾のシャチ」((描写を見る限り、オーストラリアの「エデンのシャチ」やアイヌ族の「レプンカムイ」や東北のに類似した習性を見せた個体群である。))、イッカク、リヴィアタン・メルビレイを思わせる魔鯨(Demon Whale)の「Ascaraugath」((”聖ブレンダンによる報告や”アイスランドの伝承で恐れられてきた数多の魔鯨「Illhveli」を思わせ、また、[[アカッラベース]]のスペリングとの類似性を指摘する声もある。)) 、マダライルカ等))、捕鯨を嫌うエルフの描写もある。((「Hûb Conath」という湾がエルフ以外の船にとっては浅くて航行が難しいので、捕鯨を嫌うエルフは喜んだ。))

**余談 [#td355dc0]
『[[The Book of Lost Tales 2>The History of Middle-earth/The Book of Lost Tales 2]]』では、イッカクとアシカ(またはトド)がウルモの戦車を牽引している。 

1957年4月24日版の『Letter to Michael George Tolkien』にて、トールキン自身が1957年にエルサレム聖書を翻訳して発行した『ヨナの書』における「ヨナと鯨」の"鯨"についてコメントしている((上記の「Host of Great Fish」という表現は、『ヨナの書』における「Whale」なのか「Fish」なのかはそこまで重要ではない、というトールキンのコメントに由来している可能性を挙げる者もいる))。そして、『仔犬のローヴァーの冒険』において、ウインがローヴァーを口に入れて運ぶ場面は「ヨナと鯨」に基づいているのだという推測もある。 


2020年に、タイセイヨウセミクジラの一頭が杖の様な模様を持つ事から「[[ガンダルフ]]」と名付けられた。

[[ヒリロンデ]]の別名である「トゥルファント」は”木の鯨”を意味する。 

ギリシャ神話に登場するケートス((ギリシャ神話に登場するドラコン(ドラゴンの原型)と類似性を持ち、シルクロードを伝って東洋の竜やマカラのデザインに影響したとされる。))は、海洋神族の長に仕える鯨型の生物であり、民に愛され恐れられた海の女神ケートーと共通の語源を持つとされ、ウインのキャラクター性やウインとウイネンの名前の事例に類似する。

** コメント [#Comment]

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