ホビットの冒険

概要

カテゴリー書籍・資料等
スペルThe Hobbit, or There and Back Again
その他の呼び名往きて還りし物語(There and Back Again)

解説

ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン教授による、『指輪物語』の前作(前史)にあたる小説。
ホビットビルボ・バギンズはなれ山への冒険と、五軍の合戦、その道中で一つの指輪を手に入れた次第が記されている。

元来『ホビットの冒険』は、トールキンが自分の子供達向けに作った童話である。だがトールキンは友人に勧められて、1937年にこの本を出版。好評のため、続編を望む声が彼のもとに寄せられた。そこでトールキンは続編として『指輪物語』を書くことになる。

特に断りのない限り、瀬田貞二翻訳による岩波書店から出版中の日本語版に基づいて記述する。

目次

  1. 思いがけないお客たち (An Unexpected Party)
  2. ヒツジのあぶり肉 (Roast Mutton)
  3. ちょっとひと息 (A Short Rest)
  4. 山の上と山の底 (Over Hill and Under Hill)
  5. くらやみでなぞなぞ問答 (Riddles in the Dark)
  6. 一難去ってまた一難 (Out of the Frying-Pan into the Fire)
  7. ふしぎな宿り (Queer Lodgings)
  8. ハエとクモ (Flies and Spiders)
  9. 牢から逃げだすたるのむれ (Barrels Out of Bond)
  10. 心からの大かんげい (A Warm Welcome)
  11. 入口の階段に腰かけて (On the Doorstep)
  12. 中にはいってたしかめる (Inside Information)
  13. 竜のいぬまに (Not at Home)
  14. 火と水 (Fire and Water)
  15. 雲がよりつどう時 (The Gathering of the Clouds)
  16. 真夜中のとりひき (A Thief in the Night)
  17. 雲がふきちる時 (The Clouds Burst)
  18. 帰りの旅 (The Return Journey)
  19. もとの古巣 (The Last Stage)

なおソフトカバー版では8章までが上巻、9章からが下巻に収録されている。

あらすじ

中つ国がまた若く、様々な不思議な生き物で満ち溢れていた時代(第三紀2941年)。
袋小路屋敷にて平穏無事に暮らしていたホビット族のビルボ・バギンズは、魔法使いガンダルフの訪問を受けたことをきっかけに、ドワーフソーリン・オーケンシールド率いる13人のドワーフ(ソーリン、バリンドワリンフィーリキーリドーリノーリオーリオーイングローインビーフールボーフールボンブール)と共に、スマウグに奪われたはなれ山の王国と財宝を奪回するための冒険に参加する。

詳細はホビットの冒険/あらすじを参照。

版について

『ホビットの冒険』は最初に出版されてから後、ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンによって、第3版まで修正が行なわれた。

初版
1937年出版。(『指輪物語』の序章にあるとおり)「ビルボゴクリなぞなぞ遊びでビルボが勝ったため、ゴクリがビルボに指輪を贈り物として渡した」というように書かれている。
第二版
1951年出版。(執筆していた『指輪物語』に準じて)「ゴクリが落とした指輪を、ビルボが拾った」という内容に修正されている。岩波書店の『ホビットの冒険』はこの版を底本としている。
第三版
1966年出版。第二版にさらに細かい修正が行われ、特に『指輪物語』の世界観にそぐわない描写やセリフなどが変更されている。原書房の『ホビット ゆきてかえりし物語』はこの版を底本としている。

カバーデザイン

トールキンのデザイン最終案 アレン・アンド・アンウィン社初版(1937)のカバー
左がトールキンによってデザインされたカバーイラスト案で、右がアレン・アンド・アンウィン社から実際に出版されたもの。
トールキンは太陽を赤色にしようとしたが、アレン・アンド・アンウィン社との協議の末、赤色は削られた(デザイン案では薄くピンク色に塗られている)。この赤色は下記の邦訳「オリジナル版」のカバーで再現されている。
イラストの外周にはルーン文字が書かれている。

þe hobbit, or, þere and back again. beiŋ þe record of a years
iourney made by bilbo baggins of hob
biton. compiled from his memoirs by i r r tolkien. and publish
ed by george allen and unwin ltd.

The Hobbit, or There and Back Again, being the record of a year's journey made by Bilbo Baggins of Hobbiton; compiled from his memoirs by J.R.R. Tolkien, and published by George Allen & Unwin Ltd.

邦題について

邦題を『ホビットの冒険』としたことについて瀬田貞二は、後書きに以下のように記している。

この本の原著の題は、「そのホビット――ゆきて帰りし物語――」という、ずばり、あっさりしたものでありましたけれども、ホビット族という小人たちに、私たちはおなじみではありません。おそらく、この本の作者が作り出した種族かもしれません。そこで私は、ここに『ホビットの冒険』と訳しておいたのですが、どうかこの本も、アリスやピノキオやニールスと同じように、「ホビット」だけですぐわかり、愛されるようになってもらいたいものだと、思います。

日本語版書籍

大きく分けて二種類の邦訳が出版されている。

岩波書店版・瀬田貞二
本邦初の翻訳で、1965年初版。訳者である瀬田貞二は続編である『指輪物語』の翻訳も担当(田中明子との共訳)。さらに『シルマリルの物語』や『終わらざりし物語』といった関連作品も、瀬田による翻訳を大筋として踏襲している。そのため、日本の古くからのファンにはこの瀬田訳による岩波書店版が正当なものと認識されている事が多い。
原書房版・山本史郎
1997年初版。厳密には研究書(トールキンの原作に研究者による注釈を付したもの)の邦訳である。固有名詞をはじめ、従来のものとは異なる独自の訳を採用しており、日本の古くからのファンにはあまり評判が良くない。詳細は『ホビット ゆきてかえりし物語』を参照。

両翻訳については小説『The Hobbit』の翻訳対比表も参照のこと。
当項目では岩波書店版について述べるため、原書房版については当該項目を参照されたい。

ソフトカバー版

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岩波少年文庫。上下巻。寺島龍一による挿絵入り。

「物語コレクション」版

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上下巻。挿絵はない。

「オリジナル」版

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横組みになっている。表紙がトールキンのイラストになっているほか、トールキン本人による挿絵が収録されている。翻訳者による後書きはない。

電子書籍版版

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ソフトカバー版を電子書籍化したものが、最初ソフトカバー版と同様に上下巻分冊された状態で販売されていた。理由は不明だがその販売は中止され入手できなくなっていたが、上下巻をセットにした形で再度販売開始された。

オーディオブック版

永吉ユカによる朗読のものが、audiobook.jpにて上下巻セットにて発売中。

他のメディアへの展開

映画化

1977年には、ランキン・バスによってTV映画用にアニメ化されている。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の成功を受けて、2012年から2014年にかけて実写映画『ホビット』三部作が公開された。『ロード・オブ・ザ・リング』の雰囲気を強く受け継いでおり、原作の民話・童話的要素は減らされ、また『指輪物語』の設定なども参考にしたオリジナル展開が多数追加されている。

備考

トールキン本人による画集に、『トールキンのホビットイメージ図鑑』がある。
解説書に『ホビット ゆきてかえりし物語』がある。
パロディ小説として『ノービットの冒険 ゆきて帰りし物語』が発表されている。

コメント

最新の6件を表示しています。 コメントページを参照

  • 1977年のアニメ版を見てびっくり。ドワーフで生き残れるのが6人だけって。原作初期原案に基づいたという説もあるけれど不明。 -- 2015-04-12 (日) 01:48:42
    • 個々のドワーフに見せ場をつくってやるなら、見所のある死に場所を作るのが手っ取り早いですからね。実際実写版でも、ドワーフの死者が増えると予想していた人は多いですし、バーリンさえ生きていれば映画LotRのセリフとは矛盾しないですし(ギムリもすでに生まれてるから、グローインが死んでも問題ない -- 2015-06-08 (月) 23:43:46
      • と言うか、アニメ版続編の王の帰還ではレゴラスとギムリが出てこない -- 2015-12-12 (土) 23:26:05
      • グローインはトーリンの臨終のシーンに立ち会ってるので死んでませんよ。 -- 2018-05-10 (木) 22:51:55
    • ネタバレなので詳述はしないけれど、アニメではビルボがガンダルフに生存者の人数を尋ねたときのやり取りがすごく切ない。 -- 2015-06-17 (水) 01:15:54
  • キッズ向けにしては話がシリアスに展開しますよね。ビルボも途中までは仲間を助ける旅だったのに、戦争になってからは何も出来ずに仲間を失ってしまう。めでたしめでたしではなく、達成感と挫折感を思い知る童話。 -- 2015-06-22 (月) 04:10:12
    • まんが日本昔ばなしも怖い話はいくつかあったし -- 2016-12-31 (土) 23:08:49
  • 結局、みんな何のために戦っていたのでしょうか?黄金と富のためだったのか、それともそれぞれの矜持とか誇りのためだったのか… -- 2015-08-30 (日) 23:14:44
    • 故郷を取り戻すってのは大きいと思います。特に頑固なドワーフならば尚更
      そして、自分達や親を導き氏族を絶望から復興させたソーリンを見殺しにできなかったのかもしれませんね
      勿論お宝大好きな種族なので、そういった欲も少なからずあったのでは? -- 2022-09-06 (火) 17:34:31
    • 最初は誰もが黄金のために戦っていた、しかしその過程でかれらは黄金を手放すことを学び、それによって最後には黄金よりもっと大切なものを手に入れることができた、という物語です
      指輪物語にも共通する「宝を手放す」というテーマがすでにホビットの冒険の時から徹底されていたところが面白いですね -- 2023-09-02 (土) 01:31:45
  • MCUドラマのファルコン&ウィンターソルジャーで、バッキーが「ホビットの冒険なら1937年に原作を読んでる!」と言ってたのに驚いた。確かにバッキーは原作リアルタイム世代だったな。 -- 2022-09-01 (木) 22:15:12
    • アメリカでのホビットの出版が1938年(ホートン・ミフリン社)らしいので個人輸入したんじゃないのか?と言う説がまことしやかにささやかれているとか -- 2023-10-03 (火) 06:49:47
  • 久々に読み返してふと疑問に思ったのですが、最初のホビットの説明に第三紀には当然なかったであろう白雪姫とガリバーの名が出ているのですが、これはビルボではなく教授が書いたものなのでしょうか?(第三版以降で改訂されていたらすみません。原書房版の内容を失念したもので) -- 2023-09-01 (金) 23:32:19
    • ビルボが書いたものではないことは確実ですが(仰る通り第三紀には存在しないものなので)、教授かもしれないし、あるいは赤表紙本の伝本の過程で写本に紛れ込んだ記述かもしれない -- 2023-09-02 (土) 01:26:16
    • ビルボやフロドにより西方語で書かれた原典では白雪姫やガリバーとかの単語ではなかったんでしょうね。
      我々が様々な名訳迷訳に感動したり泣かされてるように、英語に「翻訳」される過程で、読者に分かりやすくさせるためにその言葉に置き換えたのだと僕チンナンタルチア。 -- 2023-09-02 (土) 12:11:01
  • 英語についてまるきり無知なのでどなたか教えていただけたら幸いです。映画のサブタイトル「an unexpected journey」ですが、なぜ冠詞が「a」なのでしょうか?ビルボはもちろん、ガンダルフにとっても、中つ国においても特別で語り継がれる旅なので気になりました。素人質問で申し訳ありません。よろしくお願いします。 -- 2024-01-16 (火) 23:39:14
    • TOEIC700程度のゴミゴミですが…頑張って解釈。(誤っていればどんどんご指摘願います)
      冠詞について、まず英語ではaのほうがより一般的です。(語弊はありますが)Theは英語では「特別」よりどちらかというと「特定、限定的」な意味合いも時に強いです。
      たとえばThe Lord of the ringsの場合のTheは、「指輪王がサウロン以外には存在しない」ことも暗示しているわけです。
      一方で、Unexpected Journeyは最終的には中つ国の歴史を揺るがすものとなりましたが、あくまでその初めはたいへん牧歌的、即物的(竜から王国を取り戻す、ビルボにとっては単純な冒険)なものです。
      そこから、まさにUnexpectedな様々な冒険が待っており、スケールもどんどん凄くなっていくわけで。
      そういう意味ではあまりガチガチに明確に固めないAnとなったのではないかと。これから始まる冒険ですしね。
      またJourney自体が、長い旅や旅の結果より道中にフォーカスした単語なので、ここでTheを使うと第1作目で完結するようなイメージになるんじゃないでしょうか。
      英語熟語でも、「(終わった)旅はどうでした?大変じゃなかった?」はHow was the journey?ですし、一方で「人生とは旅(のようなもの)」はLife is a journeyなので。 -- 2024-01-17 (水) 09:52:51
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