ウイン

概要

カテゴリー人名
スペルUin
種族セミクジラ
その他の呼び名原初の鯨 (Primeval whale)
グルマ*1の巨鯨 (Gulma's great whale)
最古のセミクジラ (Oldest of the Right Whales)
偉大なる鯨 (The Great Whale)
最も偉大で最も古い鯨 (The mightiest and most ancient of Whales)
性別

※以下、後年に名称が変更されたキャラクターや地名は後年の表記で記す。*2
※『失われし物語』は後年の描写などと異なる部分もあるので、原則として同項に記されている補足的な事項も直訳して記載している。

解説

ウインは、『失われし物語』の第一章第一篇(The Book of Lost Tales 1)および『仔犬のローヴァーの冒険』に登場した。ウインの両篇における登場は、トールキンの作品群の共通性と繋がりの収束点の一つとして記述されている。

ウルモの従者である巨大なセミクジラであり、最も偉大で最も巨大で最も古き鯨である。「計り知れない」程の力を持ち、浜辺や長時間海底で休憩を取るなど「全てにおいて規格外」だとされる。

優しく気遣いのできる性格をしており、ウインクをする茶目っ気も持ち合わせる。

ウインの名前はウイネン の名前と似ているが、この類似性の理由はよくわからないと語録で記されている。

アラン・リーによる挿絵ではザトウクジラに近く、ハーパーコリンズ会社による1998年版の表紙ではマッコウクジラに近い姿をしているが、実際にはセミクジラである。*5

『失われし物語』 にて

ウインの登場は第一章第一篇に限られており、後年のバージョンでは大いなる旅に合わせたトル・エレッセアの運搬がウルモ自身による作業となった。

とある夏の後半の日に、ウルモの命により、トル・エレッセア をウインがクジラ達の中心になって、エルダマールの沿岸とヴァリノールに運ぶ事になった。*6 だが、オッセ(Falman-Ossë)は ウルモがクジラ達と件の島にハーネスを掛ける光景を快く思っていなかった。*7

一行は大海を東方に向かい、中つ国の沿岸に到達した。鉄山脈の北にあるヒスルムを経て、「Bay of Arvalin」に達した直後、オロメ*9イングウェを先頭にしたテレリ族*10が、森から波打ち際*11まで重々しく行進してきた。*12トル・エレッセアが海岸に接岸されると、その場にいた一族の殆どが早速上陸した。ウルモは他の親類を待たないのかと言ったのだが、彼らが涙を流しながら渋ったので上陸を認めた。そして、ウルモとクジラ達は全速力でヴァリノールの海岸を目指した。遠方からでも二つの木を見たテレリ族の心は奪われるのと同時に、これまで通ってきた海原を見返り、静寂の中、他の同族の安否やヴァリノールの孤独など、様々な想いを馳せていた。*13

オッセは怒りにまかせて海上に姿を見せ、ウルモ達を脱兎のごとく追いかけたが、ウルモがウインとクジラ達にヴァラールの力(または威光)を注ぎ込んでいたので、泳ぎと水中の筋力ではウルモすら凌ぐとされるオッセでもかなり遅れをとっていた。

ウルモ達がトル・エレッセアをヒスルムの岩場に接岸させた*14一方で、崖の上にはノルドール*15がいて、パリソールからの苦難に満ちた長き旅の末に自分達は暗闇に捨てられたという想いで苦悶していた*16。そんな彼らを、リーダーでありしんがりを務めていたフィンウェは慰めた。
そんなノルドールやオロメが連れてくるだろうヴィンヤールを含む者達のためにウルモの一行は戻る事に決めた。その決断にエルフ達は喜ぶ一方、オッセの怒りは更に燃えて海を泡立たせた。

ファルマリ達はいまだ密林の闇の中にいた。シンゴル*17が遭難して捜索の甲斐もなく見つからなかったことで恐怖に囚われたが、妖精ウェンデリンの奏でる音楽によって気分を紛らわせることができた。そこにオロメの角笛が鳴り響いたので、暗くなっていたがエルフ達は喜びながらすぐに崖に集まることができた。
オッセがウルモ達が戻ってくるのに合わせて嵐と暗闇を呼んだので、ウルモとウイン達は迂回をせざるを得なかった。ファルマリ達は長いこと待ったが、最終的には無事に島に上がる事ができた。

惑わしの島々にはまだ遠かったが、ヴァリノールへの行程の半分程を過ぎた辺りで、オッセがトル・エレッサに手を掛けた。水中では最高の力自慢で最速の泳ぎ手のアイヌルが全力で引っ張ったので、クジラ達が全力を出してもほんの少ししか前進ができなくなってしまった。
ウルモは遥か先で、オッセの呼び集めた闇の中を法螺貝を吹き鳴らして一行を先導していた。そこでオッセはウイネンと共に、遥か昔から生えて想像を絶するほどに巨大化した*18、おそらくは海草*19やポリプによるロープによって、ウルモが戻ってくる前にトル・エレッセアを海底につなぎとめてしまった。

この事態にウルモはクジラ達にありったけの力を込めるように促し、自身もありったけの神力を込めて手助けした。だが、オッセは岩石やモルゴスが古代に暴れて海底に散らした大量の丸石を使って、島の下に柱を作って対抗した。それらだけでなく、特定の特徴を持つありとあらゆる深海の生物達*20を召喚し、さらにはありとあらゆるサンゴやフジツボや海綿などを島の基部に植えた。

ウルモの怒号*21とウインの尾びれによって海は凄まじい様相を呈した。だが長い事戦いは続き、とうとうウルモは怒りと狼狽を覚えてヴァルマールに一度帰還した。そして、他のヴァラールに「かの島は世界の最も孤独な海原で急速に成長している。かのエルフ達は今すぐには連れてこられないだろう。」と警告した。

トル・エレッセアが後に「離れ島」と呼ばれるようになったのはこの事件がきっかけだった。*22

『仔犬のローヴァーの冒険』 にて

への旅にて、ローヴァー達は魔法使いアルタクセルクセスに会う事は叶わなかったが、アルタクセルクセスが人魚の王女と結婚して海の王国*23にて暮らしている可能性を最も偉大な魔法使いの月の男から聞いた。月から戻ったローヴァー達がそれをプサマソスに伝えると、砂の魔法使いはウインを呼び、ローヴァーを今いるイギリスから太平洋にある海の王国へ運んでくれるように頼んだ。

月の男によって月の反対側への闇へ連れて行かれたこともあり、ローヴァーはウインの真っ暗な口の中に入ることになることをとても怖がったが、ウインの励ましやプサマソスとカモメのミュウの後押しによって何とか目的地に着いた。アルタクセルクセスと再会し、ローヴァーは仔犬には戻れたが忙しいという理由で大きさまでは元に戻してくれなかった。そんなローヴァーをウインは励ましてくれた*24。ウインがこのことをプサマソスに知らせたところ、プサマソスはとても怒った。だが、アルタクセルクセスはロヴァランダムに海中でも暮らせるように変身させてくれた。

二度目の改名をしたロヴァランダムがマーピープル(人魚)達と共に過ごす間、 ウインはロヴァランダムともう一匹のローヴァー*25を乗せて何度か冒険に連れて行ってくれた。一度目は、世界の端に近づきウインの潮吹きの水が世界の端から落ちるほどギリギリまで近寄ってくれた。二度目に、その逆の端またはその近くまで行った*26小暗い海からエルダマール湾を経て、ロヴァランダムは惑わしの島々の先にペローリとファエリーの光を見ることができた(この時、ロヴァランダムは「ティリオン *27 の光を見ることができるかもしれない」と思った)。だが、次の瞬間、ウインは外部の者達を連れてきたことが判明したらお咎めを受けることを恐れ、二匹にこのことを秘密にするように言って急いで潜った。

この旅から戻った二匹のローヴァー達は、すぐに次の旅に出た。今度はアルタクセルクセスについて行き、(ロヴァランダムが起こしてしまった)近海を通るだけで嵐を巻き起こすというとてつもなく巨大で「ヨルムンガルド」を思わせるようなシーサーペントを見にいくのだった。

その後、ロヴァランダムはアルタクセルクセス夫婦とウインに連れられ、海の王国から戻った。その後、全てが解決してロヴァランダム達は幸せな生活を送った。

指輪物語ロールプレイング』にて

ウインはクジラ型のマーフォーク(ウルモに従うアイヌル)であるとされる。また、 Aamumeren Isa という、ザトウクジラ(通常の個体の二倍の大きさ)に変身し、捕鯨者*28を攻撃したり善良な者を水難から救うという水のマイアもいる。「Uini(”鯨”)」や「Hûb-in-Uinin(”鯨湾”)」という呼称にもウインの名が見て取れる。イルカは「ウルモディル」と呼ばれるが、ネズミイルカ等を指す「Porpoise」という単語も使われており、近年までは英語においても「Dolphin」と混同されて使用されていたため、個別表現としての「Porpoise」なのかは不明。

動物としても様々な種類の鯨類が見られ*29、捕鯨を嫌うエルフの描写もある。*32

余談

The Book of Lost Tales 2』では、イッカクとアシカ(またはトド)がウルモの戦車を牽引している。

1957年4月24日版の『Letter to Michael George Tolkien』にて、トールキン自身が1957年にエルサレム聖書を翻訳して発行した『ヨナの書』における「ヨナと鯨」の"鯨"についてコメントしている*33。そして、『仔犬のローヴァーの冒険』において、ウインがローヴァーを口に入れて運ぶ場面は「ヨナと鯨」に基づいているのだという推測もある。

2020年に、タイセイヨウセミクジラの一頭が杖の様な模様を持つ事から「ガンダルフ」と名付けられた。

ヒリロンデの別名である「トゥルファント」は”木の鯨”を意味する。

ギリシャ神話に登場するケートス*34は、海洋神族の長に仕える鯨型の生物であり、民に愛され恐れられた海の女神ケートーと共通の語源を持つとされ、ウインのキャラクター性やウインとウイネンの名前の事例に類似する。

コメント

最新の6件を表示しています。 コメントページを参照

  • 鯨の群れが島を引くってのはドリトル先生を思い出す。 -- 2018-08-23 (木) 16:25:26
  • もうちょっと内容を整理した方が・・・ -- 2018-08-23 (木) 18:34:10
    • 筆者です。仰る事ごもっともだと思います。現状、このWikiにおいては『失われし物語』も『仔犬のローヴァーの冒険』も記載が充実化しておらず、同時にいくつもの記事を編集することも難しいので、後々他の記事を作る際にここの内容を利用できれば良いなと思って詰め込んでしまいました。お詫び申し上げます。お時間をいただければ、少しづつ整理していきたいと思っておりますのでご容赦ください。 -- 2018-08-23 (木) 19:00:25
      • 注釈のテングマールとは、テングワールの誤記でしょうか? -- 2018-08-28 (火) 18:21:13
      • 大変失礼しました、テングワールの打ち間違えでした。 -- 2018-08-28 (火) 20:02:19
      • ラルレリンというのもラウレリンのことだと思われたので修正しておきました -- 2018-08-28 (火) 21:20:33
      • 返信が遅れて申し訳ございません、ありがとうございました! -- 2018-10-31 (水) 14:31:25
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