#author("2019-11-23T16:15:39+09:00","","")
* &ruby(ひと){一};つの&ruby(ゆびわ){指輪}; [#d34d9ced]
#contents
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[物・品の名前]]|
|~スペル|the One Ring|
|~その他の呼び名|一つ(the One)&br;イシルドゥアの禍(Isildur's Bane)&br;主なる指輪(Master-ring)&br;支配する指輪、支配の指輪、すべてを統べる指輪、すべてを支配する指輪(Ruling Ring)&br;大いなる指輪(Great Ring)&br;大いなる力の指輪(Great Ring of Power)&br;滅びの指輪(Ring of Doom)&br;[[いとしいしと]](my precious)|

『[[ホビットの冒険]]』劇中において、[[ビルボ・バギンズ]]が「偶然」手に入れるという形で登場した「身につけると体が透明になる」魔法の指輪。
『ホビットの冒険』では物語の一つの要素でしかなかったが、続編である『[[指輪物語]]』では、この''一つの指輪''が物語全体の焦点となる。

>三つの指輪は、空の下なる[[エルフ]]の王に、&br; 七つの指輪は、岩の&ruby(やかた){館};の[[ドワーフ]]の君に、&br;九つは、[[死すべき&ruby(さだめ){運命};>死すべき運命]]の[[人の子>人間]]に、&br; 一つは、暗き&ruby(みくら){御座};の[[冥王]]のため、&br;影横たわる[[モルドール]]の国に。&br; 一つの指輪は、すべてを統べ、&br; 一つの指輪は、すべてを見つけ、&br; 一つの指輪は、すべてを捕らえて、&br;  くらやみのなかにつなぎとめる。&br;影横たわるモルドールの国に。&br;&br;Three Rings for the Elven-kings under the sky,&br; Seven for the Dwarf-lords in their halls of stone,&br;Nine for Mortal Men doomed to die,&br; One for the Dark Lord on his dark throne&br;In the Land of Mordor where the Shadows lie.&br; One Ring to rule them all, One Ring to find them,&br;One Ring to bring them all and in the darkness bind them&br; In the Land of Mordor where the Shadows lie.(([[力の指輪]]についての伝承の歌))

** 解説 [#Explanation]

[[冥王]][[サウロン]]が、他の[[力の指輪]]およびその所持者を支配するために作った指輪。

その目的を達成するため、サウロンは一つの指輪に自らの魔力の根幹を移し込まなければならなかった。そのため、一つの指輪が存在している限りサウロンは何度倒されても復活することができたが、もし万がいち一つの指輪が無に帰すればサウロンも滅びることになった。
この指輪の力によって[[第二紀]]のサウロンは[[中つ国]]の大部分を支配下に置いて[[暗黒時代]]をもたらしたが、サウロンが[[最後の同盟]]に敗れた時に彼の手から奪われ、[[第三紀]]のほとんどを通じて行方不明になっていた。もし復活したサウロンの手に一つの指輪が戻れば、サウロンの力は完全なものとなり、中つ国は再び暗闇に覆われてしまうだろう。

一つの指輪にはサウロンの邪悪な力が込められているため、これを用いる者は必ず堕落させられる。また、指輪そのものが見えざる意志を持ち、復活したサウロンの元へ戻ろうとしている。
この指輪を破壊するには、これが鍛造された場所である[[滅びの山]]の[[サンマス・ナウア]]にある[[滅びの罅裂]]に投げ込むしかない。

行方不明になっていたこの一つの指輪が再び「発見」されたことから『[[指輪物語]]』は始まる。

*** 外見、性質 [#z9f2116f]

一見すると黄金色に輝く、何の飾りもない指輪である。表面は滑らかで傷一つなく、じっと見つめる者は、指輪の形の単純にして完璧な美しさに驚嘆するようになる。
しかし実際にはその表裏に火の線のような筆致で

&ref(ringinscription.jpg,,50%,一つの指輪の銘);

>アッシュ ナズグ ドゥルバトゥルーク、 アッシュ ナズグ ギムバトゥル、 アッシュ ナズグ スラカトゥルーク、 アグ ブルズム=イシ クリムパトゥル &br; (Ash nazg durbatulûk, ash nazg gimbatul, ash nazg thrakatulûk agh burzum-ishi krimpatul)

すなわち

>一つの指輪は、すべてを統べ、一つの指輪は、すべてを見つけ、一つの指輪は、すべてを捕らえて、くらやみのなかにつなぎとめる。 &br; (One Ring to rule them all, One Ring to find them, One Ring to bring them all and in the darkness bind them)

という[[力の指輪]]についての詩の一節が、[[フェアノール文字]]を使って[[暗黒語]]で刻まれている(フェアノール文字が使われたのは、暗黒語の文字が細工に向かないためと想像される)。

サウロンが一つの指輪を手にしていた時はこの銘文は常にはっきりと表れていたが、[[イシルドゥア]]がサウロンの手から指輪を奪うと、指輪が冷えるにつれて次第に文字も薄くなり消えてしまった。だが'''サウロンの手の黒くして火のごとく燃えいたる熱気を恋うる'''((イシルドゥアが一つの指輪について書き残した文献中の表現。))ためか、指輪を火中に投じて熱すれば、再びその文字を浮かび上がらせることができる。

一つの指輪は、その重さも大きさも一定ではないと感じられることがままあった。実際に指輪はその意志によって、持ち主の指からするりと抜け落ちることがあった(そのため[[ビルボ・バギンズ]]および[[フロド・バギンズ]]は、紛失しないよう指輪に細い鎖を通して首にかけるなどして持ち歩いていた)。その造られた場所である[[滅びの山]]の[[火の室>サンマス・ナウア]]に近づくにつれて指輪は耐え難いほど重く、また燃えるように熱く感じられるようになっていった。

この指輪を傷つけたり破壊する方法は、[[滅びの罅裂]]へ投げ込む以外には知られていない。

*** 効果 [#h0ed8354]

:体が透明になる|普通の者がこの指輪を嵌めると体が不可視になり、視力が弱くなって聴力が鋭くなるといった効果が得られる。ただし[[太陽]]の光を受けると地面に影が落ちる。
これは実は[[幽鬼>ナズグール]]の棲む幽界に移転させられるためであり、この状態ではナズグールの不可視の実体を見ることができるが、ナズグールの方からも指輪を嵌めた者の姿がはっきり見えるようになる。この他にも、[[死すべき運命の者>人間]]には本来知覚できない領域の事柄を視たり聴いたりできるようになる。
繰り返しあるいは長期間指輪を使用し続けていると、指輪を外している時でも次第に体が薄れていき、ついには完全に見えなくなって幽鬼と化してしまうという(([[ゴクリ]]は指輪の使用が頻繁でなかったためか、[[ホビット]]としての頑強さのためか、細りはしたが薄れるまでには至らなかった。))。

:不老長寿をもたらす|持ち主は、ただ持っているだけでも外見が老化することがなくなり、本来の寿命を越えても生き続けるようになる。
しかしそれによって力が増したり意欲が増進することはなく、[[ビルボ・バギンズ]]はその感覚を'''引っ張って引き伸ばされた'''、'''少ないバターを大きすぎるパンの上になすりつけたような'''と表現しており、やがては耐えがたい苦痛につながるとされる((ただしゴクリの場合は外見が著しく変化している。それが長い年月によるものか特殊な条件によるものかは不明。))。そして上述の通り、心身が摩耗することで次第に[[幽鬼>ナズグール]]に近づいていく。
この効果はその者が指輪の影響下にある限り持続するようで、[[ゴクリ]]もビルボも指輪が手元から離れた後もほとんど老けることなくそのまま生き続けた(([[ガンダルフ]]は、[[ビルボ>ビルボ・バギンズ]]が'''安らかに眠れる'''可能性については言明を避けつつも、自分の意志で手放したために「影響を脱するまで幸せに生き続けるだろう」と述べている。また[[ゴクリ]]は指輪を失った後に'''年を取ったように感じた。がっくりと老いこんだように感じた'''といい、ガンダルフはそれを「少し元気を回復した」ことだと述べている。))。だが一つの指輪が消滅すると、ビルボは一気に老けこんでしまった。

:能力を増幅する|指輪の本質的な力の一つで、その者に本来備わっている能力を増大させると共に、その者が抱いている願望をも増大させる。そのため所持者は力への致命的な誘惑に晒されることになる。
[[ガラドリエル]]はもし自分が指輪を取れば美しく戦慄すべき女王になるだろうと予見し、[[ボロミア]]は指輪さえあれば自らの旗の下に諸国を糾合してみせると豪語し、指輪を手にした[[サムワイズ>サムワイズ・ギャムジー]]は諸国から召集した軍勢でサウロンを打倒して[[モルドール]]を緑地に作り変えることを夢想した。また、強固な意志で[[生者>灰色の一行]]も[[死者>死者の軍勢]]も統率する[[アラゴルン>アラゴルン二世]]を見た[[レゴラス]]は、もし彼が指輪を取れば恐るべき君主となったであろうと述べている。
ただし、指輪はその者の生来の資質に応じた力しか与えない。そのため、指輪の力を充分に引き出そうとすれば、それに見合うだけの強い意志と願望が備わるよう自らを鍛錬しなければならない。

:[[力の指輪]]の支配|一つの指輪は元々、力の指輪とその所有者の意志を支配するためのものであった。一つの指輪を完全に使いこなすことができる者は、全ての力の指輪の作用を見て取り、その所持者の精神を読み取り、その両方を望むがままに捻じ曲げていくことができる。
長期間一つの指輪を所持していた[[フロド>フロド・バギンズ]]は隠されているはずの[[ネンヤ]]を視認し、その所持者である[[ガラドリエル]]の願望を誰よりも明敏に読み取ることができた。

:[[サウロン]]の権力の奪取|一つの指輪の力を完全に使いこなした者は、サウロンが指輪を使って築き上げてきた一切のものを習い覚え、我が物とすることができるだろうと言われている。
[[サムワイズ>サムワイズ・ギャムジー]]が[[指輪所持者]]であったのはごく短期間のことだったが、指輪が[[滅びの山]]に近づき力を増していたために、彼はその力の一部を無意識に行使することができた。指輪を嵌めたサムは[[オーク]]の[[言葉>オーク語]]を理解することができ、指輪を嵌めていない状態であってもそれは彼に威圧的な外見を与え、オークを恐怖で敗走させることができた。また、指輪の隷属下にある[[ゴクリ]]はもし[[フロド>フロド・バギンズ]]から指輪を通じて命じられれば、それがたとえ'''断崖から跳び降りることであろうと、火中に身を投ずることであろうと'''((『[[指輪物語]] [[二つの塔>指輪物語/二つの塔]]』「黒門不通」))服従せざるをえなかった(これは[[滅びの山]]の山腹でゴクリがフロドを襲ったことによって現実のものとなり、ゴクリは[[滅びの罅裂]]でその通りの最期を遂げることになる)。

:堕落|指輪を持つ者はこれに魅せられて心を奪われ、堕落していく。そればかりか、たとえ所持者ではなく、一度も指輪を見たり触れたりしていない者でさえも、指輪を欲しいと思っただけで心が堕落させられてしまう。堕落の進行はその者の生来の資質・動機の善悪に応じて早い遅いの違いはあるが、結局は何人もこれを免れることはできず、最後には全員が悪に落ちる。
力と意志の弱い者は、指輪の力に隷属する[[幽鬼>ナズグール]]と化する。
偉大な力ある者であれば、指輪に込められた強大な魔力を引き出し、おそらくサウロンを打ち倒すことすら可能となる。だがその場合、堕落したその者自身が次なる[[冥王]]として君臨することになる。

:見えざる意志を持つ|指輪にはサウロンの邪悪な力が込められているため、復活した主人の許へ戻ろうとして所持者の裏をかいたり危険を呼び寄せたりする。
[[イシルドゥア]]は[[あやめ野]]で[[オーク]]の伏兵部隊に襲撃され、さらに[[大河]]で指輪が指から抜け落ちてオークに射殺された。[[ゴクリ]]は指輪に魅了されて意欲を失くし、そのため[[オークの洞窟>ゴブリン町]]で指輪に見捨てられた。[[フロド>フロド・バギンズ]]は[[ナズグール]]が接近する度に指輪を嵌めたいという衝動に駆られ、また指輪は[[ボロミア]]に働きかけるとともに[[パルス・ガレン]]で[[指輪の仲間]]の離散を招いた。後に[[ガンダルフ]]は、もし指輪が彼らの手許にあればそれを使用せざるを得ない事態が起こったであろうとして、仲間の離散でそれが遠くに運び去られたのは僥倖だったかもしれないと述べている。
このため、指輪をただ持ち続けることはおろか、それをどこかに隠して放置したり、捨てたりすることにも非常な危険が伴う。

*** イシルドゥアの禍 [#me3db159]

一つの指輪は、[[イシルドゥア]]が身を滅ぼす因になった事から、''イシルドゥアの禍''とも呼ばれていた。これは北方([[アルノール]])の伝承で使われていた言葉で、南方([[ゴンドール]])では一つの指輪の存在はほとんど忘れ去られ、これが最後にどうなったかも覚えられていなかった([[ボロミア]]などは、[[最後の同盟]]の戦いでサウロンが敗れた後、一つの指輪は破壊されたと思っていたと考えており、サウロンも[[ゴクリ]]から情報を得るまで、そう考えていたようである)。そのため、[[ファラミア]]と[[ボロミア]]が見た夢歌に「イシルドゥアの禍」という言葉が出てきても、ファラミアたちにはこの言葉の意味するものが理解できなかった。

** 一つの指輪の歴史 [#acde0537]

>それは、数々の偉大ないさおしと身の毛のよだつ悪業に満ちた長い長い物語です。((『[[指輪物語]] [[旅の仲間>指輪物語/旅の仲間]]』「エルロンドの会議」))

*** 力の指輪が作られる [#o520eb00]

[[第二紀]]のはじめ、[[サウロン]]は正体を隠して[[エレギオン]]の[[ノルドール]]・[[エルフ]]に接近して様々な知識を授ける一方、彼らの作業を監督してその秘法の一切を把握した。
第二紀1500年頃、[[ケレブリンボール]]を筆頭とする[[グワイス=イ=ミーアダイン(エルフの金銀細工師達>グワイス=イ=ミーアダイン]])は、[[九つの指輪]]、[[七つの指輪]]、[[三つの指輪]]からなる[[力の指輪]]を完成させる。

そこでサウロンは1600年頃、[[モルドール]]の火の山[[オロドルイン]]において、全ての力の指輪を支配することができる''一つの指輪''を鍛造した。'''一つの指輪は全てを統べ、一つの指輪は全てを見つけ、一つの指輪は全てを捕らえて、くらやみのなかにつなぎとめる'''を含む力の指輪についての詩は、一つの指輪を完成させた時にサウロンが口にしたものである。

*** 指輪を巡る最初の戦い [#pa7bfe82]

サウロンが一つの指輪を完成させた瞬間、[[エルフ]]たちは彼の正体と目論見に気づき、[[力の指輪]]を使用せずに隠した。

このためサウロンの目論見は失敗し、1963年から力の指輪を巡るサウロンとエルフの戦いが始まる。1695年、サウロンは[[エレギオン]]を攻め滅ぼして[[九つの指輪]]と[[七つの指輪]]を奪い、[[ケレブリンボール]]を殺す(この時[[エルロンド]]はエレギオンの残党を率いて[[裂け谷]]を作った)。
[[三つの指輪]]の在り処を求めたサウロンは[[リンドン]]をも攻め滅ぼそうとするが、1700年に[[ギル=ガラド]]は[[ヌーメノール]]の援助を得て反撃し、1701年にサウロンは[[エリアドール]]より駆逐された。

[[モルドール]]に撤退したサウロンは[[九つの指輪]]を[[人間]]に与えて[[指輪の幽鬼>ナズグール]]とし、東方へと勢力を伸ばした。
だが3261年に[[ヌーメノール]]軍が[[ウンバール]]に上陸するとサウロンは降伏し、3262年にサウロンはヌーメノールへと連行された。3262年から3310年にかけて、サウロンはヌーメノールの地で[[アル=ファラゾーン]]を籠絡し、ファラゾーンに[[ヴァリノール]]を攻撃させる。その結果、[[イルーヴァタール]]の手によって3319年にヌーメノールは滅ぼされたが、サウロン自身もその没落に巻き込まれて肉体を失った。サウロンの魂は3320年には[[バラド=ドゥーア]]に戻り、一つの指輪をはめて再び形を取った。

*** サウロン一つの指輪を失い、イシルドゥアの禍となる [#hee7348e]

[[ヌーメノール]]の[[忠実なる者]]達が破滅を逃れ、[[中つ国]]に[[アルノール]]と[[ゴンドール]]の王国を築いていることを知ったサウロンは、憎しみに駆られて3429年にゴンドールを急襲した。だが、サウロンの力がまだ完全には回復していない一方で、彼が不在の間に[[ギル=ガラド]]の力が伸長していた。
[[最後の同盟]]の戦いで、サウロンは[[エレンディル]]と[[ギル=ガラド]]によって倒された。この時[[イシルドゥア]]が、折れた[[ナルシル]]の柄本でサウロンの指ごと一つの指輪を切り取る。イシルドゥアは[[エルロンド]]と[[キーアダン]]の忠告を無視し、購いの品として一つの指輪を自分のものとする。こうして3441年に[[第二紀]]は終わった。
[[第三紀]]2年、[[イシルドゥア]]は[[ゴンドール]]の統治を甥の[[メネルディル]]に委ねると、自分は[[アルノール]]を統治するため北方へと旅立った。その途中[[あやめ野]]で[[オーク]]に襲撃される。[[イシルドゥア]]は一つの指輪を持って脱出しようと、これを指にはめて姿を消した。だがあやめ野の近くの[[アンドゥイン]]を泳いで渡ろうとしているときに、一つの指輪は指から抜け落ちる。その結果彼は[[オーク]]に見つかって射殺され、指輪は行方不明になった。

*** 指輪の再発見 [#u0c4d2a2]

一つの指輪は長らくあやめ野の[[アンドゥイン]]川底に眠り続けていたが、第三紀2463年、釣りを行っていた[[デアゴル]]が偶然この指輪を発見する。すると彼と共にいた[[スメアゴル>ゴクリ]]は、デアゴルを殺して指輪を奪った。その後スメアゴル(やがてゴクリと呼ばれるようになる)は、一族の秘密を探り出すのに指輪を使っていたが、やがて嫌われ者として集落を追放され、指輪を持って[[霧ふり山脈]]の[[ゴブリン町]]よりも深いそこにある、深い洞窟の中に潜んだ。
ゴクリは指輪を[[いとしいしと]]と呼び、ほとんど常に持ち歩いて手放そうとしなかったが、暗い洞窟の底ではほとんど指輪を使う必要がなかった。指輪はゴクリの精神をほとんど食い尽くした結果、ゴクリは洞窟の外へ出ていくような意欲もなくしていった。

第三紀2941年、指輪はゴクリを見捨て、オークの洞窟通路内で彼の手から抜け落ちた。だがそれを、偶然にも[[はなれ山>エレボール]]への旅に向かう途中、[[ゴブリン町]]で仲間とはぐれて、ゴクリの洞窟に迷い込んだ[[ビルボ・バギンズ]]が、暗闇の中を手探りしていたところ発見して手に入れる。当初はこの指輪が「一つの指輪」とは気づかれず、単純に「体が透明になる(だけの)魔法の指輪」とだけ思われた。ビルボは、指輪の透明になる力で[[ゴクリ]]や[[霧ふり山脈]]の[[ゴブリン]]から逃げ出す。その後もビルボは、たびたび透明になる指輪の力を使って[[トーリン二世]]たち仲間を助け、[[エレボール]]への遠征という冒険を成功させる。そして翌2942年に[[ホビット庄]]へ、旅で手に入れたその他の宝と共に、指輪も持ち帰った(『[[ホビットの冒険]]』)。ビルボはこの指輪の存在をできるだけ秘密にしたがり、[[自分の書いた本>西境の赤表紙本]]の中などでも、「ゴクリとのなぞなぞ遊びに勝ったことによってもらった贈り物」と称した。

ビルボは、この指輪の存在がしだいに自分の中で大きくなっていき、異変を感じるようになったため、指輪を手放すことを計画する。3001年、彼は[[ガンダルフ]]の助けを借りて、指輪を自分の後継者の[[フロド・バギンズ]]に譲り渡した。

*** 指輪の正体の判明 [#za6cd597]

ビルボが手に入れた指輪の正体についてずっと疑念を抱いていた[[ガンダルフ]]は、[[ホビット]]の中でもビルボの老いが非常に緩やかなこと、そして3001年にビルボが一瞬垣間見せたこの指輪への狂気にも似た執着などから、この指輪が長年失われたままであった「一つの指輪」なのではないかと恐れるようになる。
そのためガンダルフは、指輪を譲り受けたフロドを度々訪問し、彼の様子を観察した。フロドもまた、ビルボと同様に長寿の兆候を見せていたが、まだ指輪による不健全な影響とは断定できなかった。

一方でガンダルフはこの謎を[[アラゴルン二世]]に相談し、3009年からは彼と共に[[ゴクリ]]の捜索を断続的に行い、指輪の出自を確認しようと務めた。だがゴクリは「盗っ人」バギンズを追って既に洞窟を後にしており、二人はゴクリを発見できなかった。
3017年、ガンダルフはゴクリの捜索を諦め、[[イシルドゥア]]が一つの指輪についての記録を残しているのではないかと期待して[[ゴンドール]]に赴き、[[デネソール二世]]の許しを得て都の書庫で資料の捜索を行った。その結果、イシルドゥアが残していた記録を発見し、一つの指輪の判別方法、すなわち「火にあぶると、フェアノール文字が表れる」という情報を得た。
その直後、アラゴルンがゴクリを発見して[[闇の森]]に連行したという知らせを受けたガンダルフは、闇の森へ向かう。ガンダルフはゴクリを尋問し、指輪がスメアゴルに及ぼした異常な長寿などの影響、イシルドゥアが死んだ[[あやめ野]]で指輪が発見されたこと、指輪をなくした後[[霧ふり山脈]]から出たゴクリは、[[モルドール]]に囚われて尋問を受けていたこと等を知った。
同時に、サウロンもゴクリを拷問して、これらの情報を得た可能性が高いこと、そして(ビルボがゴクリに会ったとき、自分で名乗ってしまったとき)「バギンズ」が指輪を持っているという情報を掴んだであろう事もわかった。

3018年4月12日、フロドの元を訪れたガンダルフは、フロドの指輪を暖炉の火の中に投げ込む。すると指輪には、イシルドゥアが残した記録と同じ文字が表れた。こうしてフロドの持つ指輪が「一つの指輪」であることが確認された。

*** 指輪の逃走 [#pbe2e37b]

予想されるサウロンの魔の手から逃れるため、フロドはガンダルフの忠告に従い、指輪を持って密かに[[裂け谷]]へと避難することに決める。フロドは、なるべく騒ぎにならないよう[[ホビット庄]]から姿を消す準備をする時間を得るため、ビルボの誕生日があり、ビルボが[[はなれ山>エレボール]]への旅に出発した9月に、自分も出発することにした。[[ゴクリ]]はホビット庄の場所を知らなかったため、サウロンもまだその正確な場所を掴んでいないことを、[[野伏]]などの情報により知っていたガンダルフは、フロドのこの計画を認めた。そこでフロドは、[[袋小路屋敷]]を引き払う手筈などを整える。

ホビット庄を[[野伏]]が守るよう手はずを整えていたガンダルフは、そのまま袋小路屋敷に滞在しつつ情報を集めていた。だが6月末に不穏な予感と情報(6月20日に起こった[[モルドール]]の[[オスギリアス]]攻撃)を受け取ったガンダルフは危機感を募らせ、さらなる情報収集に[[ブリー村]]近辺まで赴いたところ、[[サルマン]]に遣わされた[[ラダガスト]]に出会う。ガンダルフはラダガストより、[[ナズグール]]が[[大河>アンドゥイン]]を渡ってホビット庄へと向かっていることを知らされる。
そこでガンダルフは、予定を早めて直ちに出発するようフロドに警告する手紙を書いて[[バーリマン・バタバー]]に預け、自分はサルマンの助力を得るため[[オルサンク]]へと向かった。ところがバタバーは手紙をホビット庄に送ることをすっかり忘れてしまい、さらにガンダルフは裏切ったサルマンに監禁されたため、フロドに警告は届かなかった。

結果としてフロドは、当初の予定通り9月の23日に出発する。
その時にはナズグールはサルマンの手の者から得た情報によって((『[[終わらざりし物語]]』の記述による。ナズグールに情報を与えたのは[[グリマ]]とも、サルマンの手下の仲介人ともされる。))ホビット庄に到達しており、野伏らの守りを突破して庄内に侵入していた。
フロドは何度も危うくナズグールに捕えられるところだったが、[[アラゴルン>アラゴルン二世]]らの助力で辛くも切り抜け、10月20日に裂け谷へと逃れることができた。

*** 一つの指輪の破壊 [#t2878f4a]

10月25日、裂け谷において[[エルロンドの会議]]が開かれ、一つの指輪の処遇が話し合われる。会議の結果、一つの指輪を[[モルドール]]の[[滅びの山]]にある、[[サンマス・ナウア]]の[[滅びの罅裂]]に投げ込み、破壊することでサウロンの脅威を永久に排除するのが採りうる唯一の方法であることが決定された。その間フロドが[[指輪所持者]]となり、[[指輪の仲間]]とともに旅をすることになった。

3018年12月25日、指輪の仲間は裂け谷を出発。3019年2月26日、指輪の仲間は[[パルス・ガレン]]で離散してしまう。だがフロドと、彼に付き従う[[サムワイズ・ギャムジー]]はモルドールへの旅を続ける。3月13日、サムは[[キリス・ウンゴル]]にて、フロドが[[シェロブ]]の毒によって死んだと思い込み、自分が旅を引き継ぐことにして、フロドの体から一つの指輪を取る(こうしてサムは、僅かの間だが[[指輪所持者]]となった)。
だがフロドが生きていることを知り、3月14日に[[キリス・ウンゴルの塔]]でフロドの救出に成功したサムは、指輪をフロドに返す。それからフロドとサムは、滅びの山への旅を再開した。
3月25日、フロドとサムは[[サンマス・ナウア]]に到着。だがこの時、とうとう一つの指輪の魔力に屈してしまったフロドは、指輪を自分のものであると宣言する。その直後、フロドに襲いかかったゴクリが一つの指輪を奪い、その後[[滅びの罅裂]]に指輪もろとも落下してしまう。その結果一つの指輪は破壊され、[[サウロン]]の力は永遠に消滅した。

** 指輪の設定について [#Setting]

[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]が最初『[[ホビットの冒険]]』で「魔法の指輪」としてこの指輪を登場させたとき、指輪についての深い設定は考えていなかった。だが『ホビットの冒険』の続編を考えることになったトールキンは、この「魔法の指輪」の意味に再注目、[[死人占い師]]との関連を思いつき、そこから一連の構想が立てられていった。

>物語が育つにつれて、それは(過去に)根をおろし、予期しなかった枝をあちこちにさし出すことになったのだが、その主要な&ruby(テーマ){主題};となるものは、この物語と『ホビット』をつなぐものとして必然的に指輪を選んだことによって、最初から決まっていたのである。きわめて重要な章である「[[過去の影>指輪物語/旅の仲間/あらすじ#FOTR1-2]]」はこの物語の一番古い部分の一つである。((『[[指輪物語]] [[追補編>指輪物語/追補編]]』「著者ことわりがき」[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]の言葉。))

*** 寓意について [#l1c95d5a]

『[[指輪物語]]』が発表された当時、「一つの指輪は原子爆弾を意味している」という批評家からの意見が上がった。だが[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]は、同作において隠された意味やメッセージを意図してはおらず、寓意よりも「適応性」(applicability)を重視していることを述べた。

>わたしは、事実であれ、作為であれ、読者の考えや経験に応じてさまざまな適応性を持つ歴史のほうがずっと好きである。わたしには、「適応性」と「寓意」とを混同しているむきが多いように思われるのだが、一方は読者の自由な読み方に任され、他方は著者の意図的な支配に委ねられるものである。((『[[追補編]]』「著者ことわりがき」トールキンの言葉。))

** 画像 [#Image]

&ref(ringinscription_circle.jpg,,30%,円環の指輪の銘); &ref(ringinscription_draft.jpg,,10%,指輪の銘の草案);

** 映画『[[ロード・オブ・ザ・リング]]』における設定 [#Lotrmovie]

|~俳優|アラン・ハワード(Alan Howard)(声)|
|~日本語吹き替え|不明|

一つの指輪が登場人物にささやきかける誘惑が、声として表現されている。
[[サウロン]]から[[イシルドゥア]]が指輪を取り上げた直後、大きさが[[人間]](イシルドゥア)のサイズにまで小さくなっているのがはっきり示されている。

*** グッズ [#zdaf5451]

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** 映画『[[ホビット>ホビット(映画)]]』における設定 [#Hobbitmovie]

[[前述>#Setting]]のように、[[原作>ホビットの冒険]]が書かれたときはこの指輪の設定は深く考えられていなかったが、映画では『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』の設定に合わせ、演出が掘り下げられた。そのため『ロード・オブ・ザ・リング』と同様に、指輪がささやきかける場面が描かれている。指輪の力を感じ取ったらしい[[スマウグ]]が「[[precious>いとしいしと]]」と言い、指輪が反応する場面もある。
また原作よりも強く[[ビルボ>ビルボ・バギンズ]]が指輪に執着する。特に[[闇の森]]で指輪を落とし、[[蜘蛛]]のような生き物が指輪に触れたために激怒して殺害、その直後に我に返って指輪の魔力に気がついたビルボが描かれた。
ビルボは指輪のことを終始秘密にしていたが、[[ガンダルフ]]は[[霧ふり山脈]]で''魔法の指輪''をビルボが拾ったことに気づいており、帰郷時の別れ際「魔法の指輪は軽々しく使うものではない」と忠告している。この時ビルボは、指輪は落としたと噓をついている。

*** グッズ [#h9a97250]

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** コメント [#Comment]

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