#author("2023-08-20T00:25:52+09:00","","")
* ルーシエン [#u54efe0f]
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[人名]]|
|~スペル|Lúthien|
|~異訳|ルシアン、ルシエン|
|~その他の呼び名|[[ティヌーヴィエル]]、美しきルシアン(Lúthien the Fair)|
|~種族|[[エルフ]]([[シンダール]])と[[マイア]]の血を引く|
|~その他の呼び名|[[ティヌーヴィエル]](Tinúviel)|
|~種族|[[エルフ]]([[シンダール]])と[[マイア>マイアール]]の血を引く|
|~性別|女|
|~生没年|~[[第一紀]]|
|~生没年(1)|[[二つの木の時代]](1200)頃~[[第一紀]](467)|
|~生没年(2)|[[第一紀]](469)~(503)|
|~親|[[シンゴル]](父)、[[メリアン]](母)|
|~兄弟|無し|
|~配偶者|[[ベレン>ベレン(バラヒアの息子)]]|
|~配偶者|[[ベレン>ベレン(バラヒルの息子)]]|
|~子|[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]](息子)|

** 解説 [#Explanation]

[[星々の時代]]、[[シンダール・エルフ>シンダール]]の王[[シンゴル]]と、[[マイア]]の[[メリアン]]の間に生まれた一人娘。[[ティヌーヴィエル]]と呼ばれる。[[中つ国]]のあらゆる者の中で、最も美しい存在といわれた(その姿は、彼女自身の子孫である[[アルウェン]]に非常に似ていたという)。
[[ニフレディル]]の花は、[[ネルドレス]]の森にルーシエンが生まれた時に花開いたといわれる。
[[上古]]に生きた[[エルフ]]の乙女で、この世のあらゆる存在の中で最も美しい女性だと言われる。
[[人間]]の英雄[[ベレン>ベレン(バラヒルの息子)]]と結ばれ、彼と共に[[冥王]][[モルゴス]]の[[鉄の王冠]]から大宝玉[[シルマリル]]の一つを取り戻した。その功業と運命は[[レイシアン]]という歌に歌われている。

*** ベレンとの恋とシルマリルを求める旅路[#qe512add]
>その衣は曇りのない蒼穹のように青く、その目は、星明かりの夕空の如き灰色をしていた。マントには金色の花々が繍りされ、髪は、宵闇のように黒かった。かの女の輝かしさ、かの女の美しさは樹々の葉にきらめく光、清冽な水のせせらぎ、夜露の上に瞬く星々のようであった。そしてその顔には、照り映える光があった。((『[[シルマリルの物語]]』「ベレンとルーシエンのこと」))

ルーシエンは、[[ドルソニオン]]から脱出して[[ドリアス]]に迷い込んだ[[ベレン>ベレン(バラヒアの息子)]]と出会って恋に落ち、ベレンは彼女に[[ティヌーヴィエル]]の名を与えた。だが[[人間]]を蔑視するシンゴルは、二人の結婚を認めて欲しくば[[シルマリル]]の一つを取ってくるよう、ベレンに要求する。そのためベレンは旅立ったが、彼が[[サウロン]]に囚われたことを知ったルーシエンは、ドリアスを抜け出してベレン救出に向かった。
途中ルーシエンは[[ケレゴルム]]に騙されて[[ナルゴスロンド]]に捕らえられるが、猟犬[[フアン]]に助けられて脱出。フアンと共に[[トル=イン=ガウアホス]]に向かい、サウロンと戦ってこれを撃退、ベレンを救出した。
[[アルウェン]]は彼女の子孫であり、エルフの中で最もルーシエンに似ていたという。

ルーシエンは、シルマリル探索の旅を再開したベレンに同行する。彼女はベレンと共に、[[アングバンド]]の[[モルゴス]]の王座の前まで行った。ルーシエンは歌によってモルゴスとその召使を眠らせ、その隙にベレンがモルゴスの[[鉄の冠]]からシルマリルの一つを奪った。
だが城門の前にいた目覚めた[[カルハロス]]にベレンが噛み付かれ、奪い取ったシルマリルはベレンの片手ごとカルハロスに食われてしまった。だがベレンとルーシエンは[[ソロンドール]]に救助されてアングバンドから脱出し、傷とカルハロスの牙の毒によって命を落としかけたベレンをルーシエンは介抱し、命を救った。
ベレンとルーシエンはドリアスに帰還し、二人の偉業を知った[[シンゴル]]は、ベレンとルーシエンの婚約を認めた。
*** 前半生 [#u2f00371]

***ベレンの復活と二人の中つ国への帰還 [#b7a63499]
[[星々の時代>二つの木の時代]]に[[ドリアス]]の王国で、[[シンダール・エルフ>シンダール]]の王[[シンゴル]]と、[[マイア>マイアール]]の[[メリアン]]の間に一人娘として生まれた。[[ニフレディル]]の花は、[[ネルドレス]]の森に彼女が生まれた時に花開いたといわれる。
ルーシエンが生まれたのは、[[アルダ]]の全土が平和を謳歌していた時代だった。やがて北方に[[モルゴス]]が君臨すると、ドリアスは[[魔法帯]]で守られるようになり、ルーシエンはその内側で暮らした。

しかし、[[ドリアス]]に襲来した[[カルハロス]]を狩るために出陣した[[ベレン>ベレン(バラヒアの息子)]]が死ぬと、ルーシエンも生身の命を捨てて[[中つ国]]を去る。彼女は[[マンドスの館]]で[[ヴァラール]]に慈悲と憐れみを請い、自分の[[エルフ]]としての不死の命と引きかえにベレンを蘇らせてもらい、二人で中つ国に戻った。
ベレンとルーシエンは一度ドリアスで[[シンゴル]]に再会した後、[[トル・ガレン]]の地で夫婦として過ごした。この地で二人の息子[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]]が生まれている。
父の[[シンゴル]]は、ルーシエンのことを何よりも大切に思っており、いかなる[[エルフ]]の公子でもその夫には不足だと考えていた。
またシンゴルの宮廷詩人[[ダエロン]]はルーシエンを愛し、歌と音楽にその思いの丈の一切を込めていた。

***シルマリルの所有と二人の第二の死 [#tdc0b974]
*** ベレンとの出会い [#ibb44c4e]

[[シンゴル]]が[[ノグロド]]の[[ドワーフ]]に殺され、略奪された[[ナウグラミーア]]に填め込まれた[[シルマリル]]をベレンが奪い返すと、彼は[[トル・ガレン]]のルーシエンのもとにこれを元に持ち帰る。こうしてルーシエンは新たなシルマリルの所有者となった。トル・ガレンの地は束の間ではあったが、シルマリルとナウグラミーアによって増したルーシエンの力によって、[[アマン]]と見紛う程に美しい地となったという。
だが生者必滅の[[中つ国]]の地には輝かしすぎる程に高められたルーシエンの力と美しさは、ベレンとルーシエンの命の終わりを早めたと言われる。やがて二人は共に死に、この世の彼方の境界を越えていったという。ルーシエンのみが、[[エルフ]]の中でただ一人「本当に死んだ」([[マンドスの館]]に行かなかった)とされている。
>エルフの美女なるティヌーヴィエル、命つきせぬエルフの乙女、
陰なす髪は、ベレンをつつみ、双の腕は、銀のようにかがやいた。((『[[指輪物語]] [[旅の仲間]]』「浅瀬への逃走」 [[レイシアン]]の一節。))

のちにベレンとルーシエンの運命は、[[レイシアン]]という歌に歌われることになった。
[[エダイン]]の英雄[[ベレン>ベレン(バラヒルの息子)]]は運命に導かれて[[魔法帯]]を突破し、夏の[[ネルドレス]]の森でルーシエンに行き逢った。
はじめルーシエンは月明かりの下、[[エスガルドゥイン]]川のかたわらにある林間の空地で踊っていたが、たちまち姿を消し、秋と冬にもまた現われては消えていった。その間、ベレンは口を利くことも動くこともできなかったが、春が巡ってきてルーシエンが歌い出すと、ベレンの口も解けて彼女に[[ティヌーヴィエル]]「小夜鳴鳥」と呼びかけた。たちまちルーシエンはベレンの姿を認め、このとき二人は恋に落ちた。ルーシエンは一度逃げ去ったが、絶望に沈むベレンの許に戻ってきてその手を取り、二人は再び夏になったネルドレスの森を逍遥して歩いた。この時の二人ほど大きな喜びを味わった者は現在に至るまで他にいないと言われている。

だが二人の仲はたちまち[[ダエロン]]の知るところとなり、ダエロンは[[シンゴル]]王にそのことを密告する。最愛の娘にはエルフですら釣り合う者はいないと考えるシンゴルは、ましてや卑しい人間の男が娘に思いを寄せたことを知って激怒した。
そこでルーシエンは、ベレンに危害を加えないことをシンゴルに誓わせると、自らベレンをシンゴルの許に引き合わせる。するとシンゴルは、娘と結ばれたければ[[シルマリル]]の一つを手に入れてくるようにとベレンに要求し、暗に彼を葬り去ろうとした。ところがベレンは笑ってこの難題を引き受けた。

*** シルマリル探求 [#e15abcca]

探索行に出たベレンが[[トル=イン=ガウルホス]]で[[サウロン]]に囚われると、不吉な予感に襲われたルーシエンは母の[[メリアン]]からベレンの境遇を聞き出す。他に助けがもたらされる望みがないため、自ら救出に向かうことを決意したルーシエンは、そのことを[[ダエロン]]に相談したために、またも[[シンゴル]]に察知されてしまう。驚き恐れたシンゴルは、[[ヒーリルオルン]]の木の上に家を建てさせると、そこにルーシエンを軟禁した。
そこでルーシエンは魔法で伸ばした自身の髪に眠りのまじないを込めると、それで影のような長衣を織り上げて、番人を眠らせてドリアスから出奔した。

飛び出したルーシエンは[[ケレゴルム]]と[[クルフィン]]に保護されるが、二人は[[誓言>フェアノール#Oath]]に突き動かされてベレンの探索行を妨害した上、ルーシエンの美しさに邪心を起こして彼女を監禁する。だがこれにケレゴルムの猟犬[[フアン]]は憐れを催し、ルーシエンを助けて脱出させるとそのまま背に乗せてトル=イン=ガウルホスまで運び、探索行を手助けした。

ルーシエンは島に通じる橋の上で歌い、土牢からベレンがそれに応えて歌ったのを聞くと、さらに大きな力のこもった歌で塔を揺るがした。そこで[[サウロン]]は次々と[[巨狼]]を差し向け、最後に自ら強大な狼の姿に変じてフアンとルーシエンに挑んできた。あまりの恐ろしさにルーシエンは気が遠くなったが、倒れる刹那に影の長衣をサウロンの鼻先に投げかけ、眠気で虚を突かれたサウロンは激しい戦いの末ついにフアンに組み敷かれて敗北した。
ルーシエンがサウロンから島の支配権を取り上げたことで、要塞は倒壊し地下牢はむき出しになる。破れた土牢で、ルーシエンはベレンと再会した。

しばし再会を楽しんだ二人だが、そこにまたケレゴルムとクルフィンが行き当たり、二人はベレンを殺してルーシエンを奪い去ろうとした。これはベレンの膂力とフアンの真心のために阻止されたが、ベレンはクルフィンの放った矢からルーシエンを庇って負傷し、ルーシエンはフアンに助けられてその傷を癒やした。
ベレンが単身で探索行を再会しようとした時、ルーシエンは後を追いかけてこれを肯んぜず、フアンはもはや二人の宿命は一つに織り合わせられているとベレンを説得した。

ベレンとルーシエンは、巨狼[[ドラウグルイン]]と吸血蝙蝠[[スリングウェシル]]の皮衣で変装し、長い旅の末に[[アングバンド]]にたどり着く。城門は最強の巨狼[[カルハロス]]が守っていたが、ルーシエンは[[マイアール]]の血を発揮して巨狼を眠らせ、二人は地下に潜入しついに地の底にある[[モルゴス]]の玉座まで到達した。そこでルーシエンは、モルゴスの凝視にさらされたが、全ての魔力を尽くしてモルゴスとその廷臣たちを眠らせ、とうとうベレンが[[鉄の冠]]から[[シルマリル]]の一つを取り戻した。
だがこれで力を使い果たしたルーシエンは、地上への道を阻むカルハロスに抗することができず、カルハロスはベレンの右手ごとシルマリルを飲み込んでしまった。二人は[[大鷲]]の[[ソロンドール]]に運ばれて[[ドリアス]]の国境に帰り着いた。

ルーシエンは懸命の治療によってベレンを毒牙の傷から癒やし、二人は再び春の森を逍遥する。二人の功業を聞いて驚嘆したシンゴルは、ベレンとルーシエンの婚約を認めた。

*** 死と生還 [#je4c74ed]

しかし、[[シルマリル]]を飲み込んで狂乱した[[カルハロス]]を討伐するための狼狩りで、ベレンはシンゴルを庇って致命傷を負った。ベレンの死の間際、ルーシエンは[[大海]]のかなたで自分を待っているよう告げる。
そのままルーシエンの魂は、死んだベレンの後を追って[[マンドスの館]]に赴き、[[イルーヴァタールの子ら]]である[[エルフ]]と[[人間]]の悲嘆を歌って[[マンドス]]の心を動かした。それゆえ、二人はついにこの世の涯なる岸辺で再び相会った。
マンドスは[[マンウェ]]に相談し、マンウェは心の裡に[[イルーヴァタール]]の啓示を求めた。その結果、ルーシエンはエルフの運命である不死の命を捨て、ベレンと同じ[[死すべき運命]]に組み込まれることとなり、二人は束の間[[中つ国]]に蘇って夫婦として時を過ごすことになった。

中つ国に戻ったベレンとルーシエンはシンゴルとメリアンに暇を告げると、[[トル・ガレン]]に去り、それゆえその地は「生ける死者の国」を意味する[[ドル・フィルン=イ=グイナール]]と呼ばれるようになった。
この地で二人の間には息子の[[ディオル>ディオル(ベレンの息子)]]が生まれた。また、シンゴルが殺されてシルマリルを嵌め込んだ[[ナウグラミール]]の首飾りが[[ノグロド]]の[[ドワーフ]]に略奪された時、ベレンは[[緑のエルフ]]を率いてこれを破り、ナウグラミールを取り戻してルーシエンの許にもたらした。シルマリルとルーシエンの力により、かの地は束の間[[ヴァリノール]]と見紛うほど美しい地になったという。

やがてシンゴルの世継としてドリアスの王となったディオルの許に使者が来て、シルマリルの付いたナウグラミールをもたらした。そこでディオルは父と母が今度こそ本当に死んで、[[人間の宿命>死すべき運命]]に従い[[世界の圏外>世界の圏]]に去ったことを悟った。
ベレンとルーシエンがこの世を去るのを見た者はなく、ついに二人が身を横たえた場所に墓標を立てた者もいなかったという。

>運命のみちびく道は、長かった。
冷たい灰色の石の山を越え、
鉄の広間を通り、お暗い戸口をくぐり、
朝の来ない夜の森をぬけ、
別れの海にへだてられたが、
二人はついに、ふたたび出会った。
して、遠いそのかみ、二人はともに、
歌いながら、嘆きも知らず森へ去って行った。((『[[指輪物語]] [[旅の仲間]]』「浅瀬への逃走」 [[レイシアン]]の最後の一節。))

*** 画像 [#ac2d511e]

&ref(AlanLee-08-Tinuviel.jpg,,25%,アラン・リー作画によるルーシエン);

** トールキン夫妻との関係 [#ra501117]

[[ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]は、自分の妻[[エディス>エディス・トールキン]]をルーシエンに見立てており、ベレンとルーシエンの物語は二人が経験した苦難に基づいている。
トールキンはエディスが死ぬと、その墓にルーシエンの名を刻ませた。その後、彼自身が死去したとき、トールキンの墓にはベレンの名が刻まれた。

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