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トゥーリン

概要

カテゴリー人名
スペルTúrin
その他の呼び名ネイサン(Neithan)
ゴルソル(Gorthol)
アガルワエン、アガルワイン(Agarwaen)
アダンエゼル(Adanedhel)
モルメギル(Mormegil)
スリン(Thurin)
森野人(Wildman of the Woods)
トゥランバール(Turambar)
ダグニル・グラウルンガ(Dagnir Glaurunga)
種族人間エダイン
性別
生没年第一紀(464)~†(499)年(享年35)
フーリン(父)、モルウェン(母)、シンゴル(養父)
兄弟ラライス(妹)、ニエノール(妹)
配偶者ニエノール
なし

解説

フーリンモルウェンの息子。ラライスニエノールの兄。トゥオルの従兄弟。エダインの家系であるハドル家の正統な嫡子であった。
ベレンと並んで知られる第一紀人間エダイン)の英雄*1で、ナルン・イ・ヒーン・フーリンという歌物語(『シルマリルの物語』第21章および『The Children of Húrin』)の主人公。

トゥーリン・トゥランバールの名でよく知られ、黒の剣グルサングの使い手であったことからモルメギルの名でも呼ばれた。
武勇に優れて数々の功業を立て、最後はグラウルングを討ち果たした。だが彼はモルゴスに捕らえられた父フーリンを通してモルゴスの呪いを受けており、彼の行動はその多くが裏目に出て、彼自身や彼の周りの人々を破滅に導くことになってしまった。

ドル=ローミンでの幼少期

母親譲りの黒髪のかれは、気質をも譲りうけたらしかった。陽気な性格ではなく、言葉を覚えるのが早くて実際の歳よりもおとなびて見えた割には、口数も少なかった。トゥーリンは不正や侮蔑を容易に忘れることがなかった。しかしながら父親の熱情は息子にも宿っており、突然激昂することがあった。ただし憐憫の情を覚えやすく、生きものたちの苦しみや悲しみに涙を誘われるのだった。この点でも父親に似ていた。*2

ベレンルーシエンが出会った年に父フーリンの領国ドル=ローミンで生まれる。フーリンは軍役のために家を留守にしがちだったため、厳格な母モルウェンの下で育った。当時のトゥーリンは召使のサドルを話し相手の友人とし、彼にだけ自分の心の内を語った。自分と異なり快活な妹のラライスを誰よりも愛したが、悪しき吐息によって喪った。
八歳の時にニルナエス・アルノエディアドの戦でフーリンが消息を絶ち、ドル=ローミンが入植してきた東夷の脅威にさらされると、トゥーリンはモルウェンによってドリアスへ送り出された。彼はゲスロングリスニアに護衛されてドリアスへ向かった。

ドリアスでのトゥーリン

トゥーリンたちはドリアスの国境の森までたどり着いたものの、魔法帯の力に阻まれてさ迷い、力尽きかけていた時にベレグと出会ってメネグロスに案内された。シンゴルは、ニルナエス・アルノエディアドで奮戦したフーリンに敬意を表してトゥーリンを自らの養子とした。トゥーリンはこの地で成長し、後にベレグの戦友として、彼と共にドリアスの国境で戦うようになる。
だがある時、メネグロスに戻ったトゥーリンが、戦いから戻ったばかりための汚れた姿のままで大広間に赴いた際に、シンゴルの相談役の一人で、トゥーリンの集める尊敬や功績を妬んでいたサエロスというエルフの定席をそれとは知らずに占めてしまう。これに腹を立てたサエロスはトゥーリンの身なりを嘲笑し、無視されるとさらに彼の家族を侮辱した。トゥーリンは怒り、サエロスに杯を投げつけた。これを恨んだサエロスは、翌日森の中でトゥーリンを襲うが、逆にトゥーリンに撃退される。サエロスはトゥーリンに追い立てられる途中で川に落ち、岩に激突して死んでしまう。トゥーリンは、この罪により囚われの身になることを拒み、ドリアスから逃亡した。

ガウアワイスの無法者として

トゥーリンはテイグリン川の南の森で無法者の集団ガウアワイスに遭遇するが、武勇を認められ彼らの仲間となる。トゥーリンは「不当なる扱いを受けたる者」の意味であるネイサンと名乗るようになった。その後、トゥーリンはラルナハの娘を襲おうとしていたガウアワイスの首領フォルウェグを殺し、自ら新たなガウアワイスの首領となった。彼らはエルフであれ人間であれオークであれ、近くを通りかかった者を襲って暮らしていた。

ある時彼は、ガウアワイスの仲間であるオルレグと共に偵察に出ていたが、オークに発見されてオルレグは殺されてしまい、トゥーリン一人が辛うじてガウアワイスの仲間のいる宿営地に戻った。ところがそこでは彼の留守中に、アンドローグらがベレグをドリアスの間者だと疑って捕らえ、飲まず食わずで木に縛りつけていた。ベレグは、トゥーリンを赦してドリアスに連れ戻すべく、シンゴルの命によって派遣されていたのである。
トゥーリンは幼い頃からの恩人に災難をもたらした自らの行いを恥じたが、誇りのためにシンゴルの許しを拒み、ベレグを一人でドリアスに帰した。この時トゥーリンは「アモン・ルーズに自分を捜せ」とベレグに予言している。

以後トゥーリンは悔い改め、ガウアワイスはモルゴスの配下以外の者を襲うことを止める。やがてトゥーリンはガウアワイスを率いて、捕らえた後に命乞いを聞き入れた小ドワーフミームの案内で、アモン・ルーズにある隠れ家バル=エン=ダンウェズに住み着くようになった。そこにベレグが再び現れ、ドリアスに戻るようにトゥーリンをもう一度説得する。だがトゥーリンはやはり聞き入れず、説得に失敗したベレグは彼への愛情に負け、分別に背いてトゥーリンの元に留まった。
この地でトゥーリンは、ベレグの持ってきたドル=ローミンの龍の兜を身につけ、ベレグと共にモルゴスの手下と戦うようになった。そのためアモン・ルーズの周辺はドル=クーアルソルと呼ばれるようになり、モルゴスを敵とする人々もトゥーリンとベレグの元に集まってきた。
だが、あるときミームがオークに捕らえられると、エルフであるベレグを憎んでいたミームに案内されたオークによってアモン・ルーズの隠れ家が攻撃される。ガウアワイスはほとんどが殺されて、トゥーリンはオークに捕らえられた。
彼はオークたちによってタウル=ヌ=フインまで連行されるが、ここでオークたちが夜営した隙に、トゥーリンは連れ去られた彼を追って来たベレグに助け出される。だがトゥーリンは、暗闇の中でベレグを敵と見誤り、彼の剣アングラヒェルを奪って斬殺してしまう。

ナルゴスロンドのトゥーリン

それからあと、トゥーリンは次第にオロドレスの覚えがめでたくなり、ナルゴスロンドのエルフたちの心も、ほとんどといってよいくらいにかれになびいた。かれは若く、まさに成年に達したばかりであり、モルウェン・エレズウェンの息子であることは一見して紛れもなく、黒い髪に白い肌、目は灰色で、その顔はかみつ世のいかなる人間よりも美しかったからである。かれの言葉遣いと挙措きょそ動作は、ドリアスの古式ゆかしい王国のそれであり、エルフの中に立ちまじってさえ、ノルドールの偉大な家系の出であると受け取られても不思議ではなかった。*3

トゥーリンはベレグを誤殺した衝撃で茫然自失したまま、ベレグと共にトゥーリンを救出に来たグウィンドールに案内されて、ナルゴスロンドに向かう。その途中、グウィンドールの導きでエイセル・イヴリンの淵の水を飲み、癒されて正気を取り戻した。この時トゥーリンはベレグを悼んでラエル・クー・ベレグと名づけた歌を歌った。

トゥーリンはグウィンドールによって、ナルゴスロンドに導かれる。ナルゴスロンドではトゥーリンは正体を隠し、「ウーマルスの息子アガルワエン」と名乗ってオロドレスに仕えた。ナルゴスロンドの刀鍛冶たちによってアングラヒェルがグルサングとして鍛えなおされると、それを振るって戦功を上げたため、彼自身が「黒の剣」の意味であるモルメギルと呼ばれるようになった。
オロドレスの娘でグウィンドールの恋人だったフィンドゥイラスは、次第にトゥーリンに思いを寄せるようになるが、トゥーリンはそのことに気づかなかった。

やがてトゥーリンは、オロドレスに重用されるようになる。しだいに彼の影響でナルゴスロンドの軍隊は隠れ潜むことを止め、堂々と戦いに出るようになる。だがこのため、それまで隠されていたナルゴスロンドの場所はモルゴスに突き止められてしまう。グラウルングオークの大軍に攻め寄せられてトゥムハラドの合戦でオロドレスは討ち死にし、ナルゴスロンドは陥落した(ナルゴスロンドの寇掠)。
トゥーリンはかろうじて瀕死のグウィンドールを救出する。その時グウィンドールは、フィンドゥイラスのみがトゥーリンを凶運から救うことができると予言し、フィンドゥイラスを救うよう頼んで息絶えた。ナルゴスロンドに向かったトゥーリンは、そこにいたグラウルングに立ち向かおうとしたが、グラウルングに呪いをかけられる。判断力を失ったトゥーリンは、捕虜として連れ去られていこうとするフィンドゥイラスが自分の目の前にいたにもかかわらず、母のモルウェンと妹のニエノールが危険だと思い込み、ドル=ローミンに急行してしまう。

ドル=ローミンへの旅

ドル=ローミンにたどり着いたトゥーリンは、かつてフーリンの屋敷に仕えていたサドルと再会する。サドルの話を元に、トゥーリンはモルウェンとニエノールの行方を尋ねるが、東夷ブロッダの妻でモルウェンたちを援助していたアエリンから、モルウェンたちが既にドリアスに逃げたことを知ったとたん、トゥーリンにかけられていたグラウルングの呪縛が解けた。自暴自棄になったトゥーリンは、モルウェンたちを迫害していたブロッダを投げ飛ばして死に至らしめ、ブロッダの客だった他の東夷の族長たちを斬り捨てた。彼はハドル家の生き残りたちの助力でかろうじてドル=ローミンから脱出した。

それからトゥーリンは連れ去られたフィンドゥイラスを探すが、その途中で出会ったブレシルの男たちから、フィンドゥイラスは既に殺され、テイグリンの渡り瀬の近くの塚に葬られたことを知らされた。

ブレシルのトゥーリン

トゥーリンは絶望のあまり一時は衰弱したがブレシルの人間に救われ、トゥランバールを名乗ってブレシルで生活するようになった。
やがて彼は、記憶を失いフィンドゥイラスの塚で行き倒れになっていたニエノールを発見する。だが二人は互いに実の兄妹とは気付かず、トゥーリンは名前の無いニエノールをニーニエルと名付け、後に結婚した。

その翌年の春、トゥーリンは廃墟となっていたナルゴスロンドからグラウルングが再び現われ、ブレシルを襲撃するために近づきつつあることを知ると、これと戦うため出陣。トゥーリンはグラウルングをカベド=エン=アラスで待ち伏せして致命傷を与えるが、自分もグラウルングの傷口から吹き出した龍の血の毒に手を焼かれ、邪眼によって気絶させられ倒れる。その後意識を取り戻した彼は自力でネン・ギリスまで戻るが、そこで待っていた者たちの口から自分が気を失っている間に、トゥーリンの真実を知って自殺したニーニエルのことを知ると、それを認めずニーニエルの死の原因をブランディルのせいだと思って彼を殺す。
その直後トゥーリンはテイグリンの渡り瀬で、グラウルング来襲の知らせを聞いて救援にやってきたマブルング一行に出会う。その時トゥーリンは、ドリアスにいるはずの母と妹の消息をマブルングに訊ねる。そして、二人はトゥーリンを探してナルゴスロンドへ向かった時にグラウルングに襲われ、母親のモルウェンは行方知れずとなったこと、彼がニーニエルと名づけた娘は、グラウルングに忘却の呪縛をかけられていた実の妹のニエノールだったこと、したがってブランディルを殺したのは不当であり、こうしてグラウルングの呪いが成就したことを知ると、トゥーリンは自らの剣グルサングで自害した。
カベド・ナエルアマルスとなったカベド=エン=アラスには、マブルングらによってトゥーリンとニエノールの墓が作られた。この墓には後に父フーリンの手で母モルウェンも葬られ、ベレリアンドが水没した後にトル・モルウェンになったと言われる。

多数の名の意味

エルフ語の名前は、言及の無い限りシンダリンである。

ネイサン (Neithan)
本文中では「不当なる扱いを受けたる者(the Wronged)」*4の意味とされる。ドリアスから逃げ出した後、ガウアワイスで名乗っていた名。字義通りには「奪われたる者(one who is deprived)」の意味。
ゴルソル (Gorthol)
「恐るべき兜(Dread Helm)」の意味。トゥーリンがガウアワイスの二人の首領の一人として名乗った名。彼が戦場で龍の兜を身に帯びていたため。
ウーマルスの息子アガルワエン (Agarwaen, son of Úmarth)
「凶運の息子にして血に汚れたる者(the Bloodstained, son of Ill-fate)」の意味。ナルゴスロンドに来たトゥーリンが自ら称した名。
アダンエゼル (Adanedhel)
「エルフ人間(Elf-man)」の意味。ナルゴスロンドでの呼び名。トゥーリンが母のモルウェンからエルフと見紛う美貌を受け継ぎ、ドリアスで養育された言葉遣いや物腰は洗練されていて、まるでエルフの公子のように見えたため。
モルメギル (Mormegil)
「黒の剣(Black Sword)」の意味。ナルゴスロンドでの呼び名。トゥーリンが黒の剣であるグルサングを振るって戦功を挙げたため。
スリン (Thurin)
「秘密(Secret)」の意味。フィンドゥイラスがトゥーリンにつけた名。
森野人もりやじん (Wildman of the Woods)
トゥーリンがブレシルの人間達に出会った時、自ら名乗った名。
トゥランバール (Turambar)
クウェンヤで「運命の支配者(Master of Doom)」の意味。ブレシルの森で暮らしていた時にトゥーリンが名乗った名。トゥーリン自身はこの名を「黒き影の支配者(Master of the Dark Shadow)」の意味とした。
ダグニル・グラウルンガ (Dagnir Glaurunga)
グラウルング殺し(Glaurung's Bane)」の意味。カベド=エン=アラスにあるトゥーリンの墓石(不運なる者たちの墓石)に刻まれた言葉。

コメント

最新の6件を表示しています。 コメントページを参照

  • 着想元のクレルヴォの国フィンランドでは妹を犯すと言うのは禁忌を犯したという意味以外に軽蔑の意味合いも含まれており、罵倒にも用いられていた。結果的に妹を死なせてしまった罪悪感だけではなく、己の男としての尊厳に傷をつける行為をしてしまった恥じらいや苦しみもあった事を考慮すると、やはり耐え難いものがあっただろうなと思う -- 2021-10-20 (水) 23:52:36
  • ネイサンを書き間違えると姉さんになりそう -- 2022-10-17 (月) 18:57:37
  • 近頃よく目にする作者によるキャラ曇らせ(進撃のライナーetc)の先駆けだな -- 2023-02-14 (火) 00:44:13
  • 上で「トゥーリンの軍事能力は無能か有能か」って論議があるけど個人的には部隊指揮や小部隊戦闘ではガチクソの有能、一軍を率いた指揮官としては無能ってか極めて無謀ってイメージだなぁ。
    良くも悪くも戦士や隊長クラスの役割に向いている。 -- 2023-02-14 (火) 09:43:29
    • 知性は高いが無謀な将と言うランキングでは、フェアノール、エアルヌア、バルドールと共に上位を目指せる感じでしょうかね?あと死線をくぐっている割にはどうしてもフレンドファイアを行ったり一時的狂気に陥ったりと言う所が心配ですぞ? -- 2023-02-14 (火) 18:26:23
      • フェアノールは言わずもがなだし、エアルヌアもアングマール戦争の経緯からして軍事的直観力や判断力に優れているとは思いますが。
        バルドールってなにか知性のあるエピソードありましたっけ?どう見ても愛すべき激バカくらいの評価が精々だと思うんですが…。
        無謀って共通項以外で、トゥーリンやフェアノール、エアルヌアとバルドールは結びつかんでしょう。 -- 2023-02-14 (火) 19:20:34
        • 確かにバルドールは知性も悲惨な可能性が大ですね。 -- 2023-02-14 (火) 20:11:18
          • ある意味奴にとって王位を継げなかったのはメタ的には救いなのかも。
            暗君の少ないローハンの歴史では珍しい、フェンゲルのような暗君として更なる汚名を残してしまった可能性は高い。 -- 2023-02-14 (火) 21:04:28
  • グウィンドールかわいそう… -- 2023-02-25 (土) 17:35:49
  • したり顔でご高説を垂れるようななろう主人公よりはトゥーリンみたいな色々と逸脱したキャラの方が余程創作物として魅せる物がある。まあ、現代社会がこういう滅茶苦茶な行動を忌避するからなろう系の小綺麗で鼻持ちならないキャラしか受容できなくなったんだろうけど。 -- 2023-03-19 (日) 13:18:08
    • 別に世の中なろう系ばっかじゃなく、小説にしろ漫画にしろ映画にしろ、好き好んでなろう系ばかり読んだり観ない限りは破天荒なキャラクターなんてうじゃうじゃいると思いますが…。
      なんでそんな無駄に上から目線なんですか。 -- 2023-03-19 (日) 14:41:16
    • 創作ものと言うより、「味方から疎まれる、ついフレンドファイアをやらかす」というのは正妻ヘラから恨まれたヘラクレスや一族から忌まれたヤマトタケルなど、古代の神話では珍しくなかったような。 2023-03-19 (日) 15:52:56
      • そしてなんか掲示板の機能が誤作動をおこしておる。修正しないと。この意見、別にトールキンのオリジナリティを批判しているわけではなく、破天荒を狙ったというよりは伝統的な作風なんじゃないかと言う意味。面白さはや物語の出来はそりゃ文句なし。 -- 2023-03-19 (日) 15:55:47
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