キルス†
概要†
カテゴリー | 言語 |
---|---|
スペル | Cirth |
異訳 | キアス |
その他の呼び名 | ケアタール(Certar)、ルーン文字(runes) |
ベレリアンドのシンダール族のエルフが石や木に名前や碑文を刻むために考案した文字。キルス(cirth)の名はシンダリンでの複数形で、単数形はケアス(certh)*1。クウェンヤでの名は複数形ケアタール(certar)、単数形ケアタ(certa)。
刻みやすいよう直線で構成された角張った形をしており、作中ではその形状がよく似ていることからルーン文字と呼ばれるが、現実のルーン文字とは歴史だけではなく文字そのものなどにも差異があることに注意(Wikipedia:ルーン文字)。
解説†
『追補編』の追補Eではアンゲルサスのキルスとその音価の一覧表が収録されている。キルスはその形状によってグループ分けがなされ、表では二つの小さな丸で区切られている。
音価表で★印が付いているキルスはドワーフがアンゲルサス・モリアで導入し、彼らだけが用いた文字。―があるものは左がアンゲルサス・ダエロン、右がアンゲルサス・モリアの音価。括弧で囲まれたものはエルフ語に用いる時のみの音価。
キルスの歴史†
キルスを最初に考案したのはドリアスの伶人ダエロンであると言われる。ベレリアンドのシンダール族のエルフに用いられた初期の古いキルスは後世のアンゲルサスに比べると単純な形態だった。ベレリアンドでシンダール族と交流を持ったドワーフはキルスを高く評価し、彼らを通して東の地へ伝わり、ドワーフ、人間、そしてオークに至るまで多くの民に知られるようになった。各々の民は自分たちの文字の能力とその用途に応じてキルスに変更を加えて用いた。そのようなキルスは第三紀末においても谷間の国の人間*2やロヒルリム*3、そしてオーク*4に用いられていた。
その頃、シンゴルの王国の伝承の
長 、吟遊詩人のダエロンが、ルーン文字を考案したと言われている。そして、シンゴルの許に出入りしていたナウグリムは、この文字を習い覚え、その発明を非常に喜んで、ダエロンの考案を同族のシンダール以上に高く買ったという。
ダエロンのこのルーン文字、キルスは、ナウグリムによって山脈のかなたの東の地に伝えられ、いろいろな種族に知られるに至った。しかし、シンダールがこの文字を記録に用いたのは、戦乱の時代に入るまでは非常に少なく、記憶に留められていたことの多くは、ドリアスの廃墟の中に消滅してしまったのである。*5
一方、第一紀のベレリアンドではアマンからやって来た流謫のノルドール族のエルフがもたらしたテングワール(フェアノール文字)の影響を受けて、キルスの改良と再編が行われた。そうして生み出されたキルスのアルファベットのことをシンダリンで「長いルーン文字の列(Long Rune-rows)」を意味するアンゲルサス(angerthas)と呼び、中でも最も充実し完成度の高いものは「ダエロンの字母(Alphabet of Daeron)」すなわちアンゲルサス・ダエロン(Angerthas Daeron)と呼ばれた。エルフの伝承ではダエロンが古いキルスに追加と再編を施し、このアンゲルサスを完成させたと言われているからである。
キルスは銘や碑文を刻むために考案された文字であり、中つ国の西方諸国のエルフたち(エルダール)にはそのようにしか用いられず、彼らの間では真の筆写体(true cursive forms)は誕生しなかった。そしてフェアノール文字がもたらされるとエルダールはそちらを筆記に用いるようになり、やがてキルスをほとんど使わなくなった。*6
第二紀のエレギオンのエルフは例外的にアンゲルサス・ダエロンの使用を続け、それは彼らと交流のあったモリアのドワーフに伝わった。アンゲルサスはモリアのドワーフが最も好むアルファベットとなり、彼らを通して北方の地に広まった。そのためドワーフが用いたアンゲルサスはアンゲルサス・モリア(Angerthas Moria)とも呼ばれた。ドワーフはフェアノール文字にも通じていたが自身の言語クズドゥル(ドワーフ語)はキルスで記すことにこだわり、キルスのペン字書体(written pen-forms)を生み出した。
ケルサス・ダエロン†
シンダリンを表記するために考案されたキルスのアルファベットのこと。後のアンゲルサス・ダエロンの基となった。
追補Eによると後世のアンゲルサスに比べると音価の割り当ては体系的ではなかった(unsystematic)とされ、以下のことが説明されている。
- キルスの中で最も古いものは1・2・5・6番、8・9・12番、13・15番、18・19・22番、29・31番、35・36番、39・42・46・50番。
- 軸線(a stem)と枝(a branch)でできたキルス(上記の1~31番)のうち、枝が片側だけに付いたキルスは通常右側に付いたものが使用された。枝が左側に付いたキルスも使用されたが表音上での意味はなかった。
- 13・15番がhの場合は35番がsを、13・15番がsの場合は35番がhを表した。hとsの音価の割り当てはその後も厳密に定められない傾向があった。
- 39・42・46・50番は母音を表し、その後のキルスの発展においても母音に用いられた。
アンゲルサス・ダエロン†
ケルサス・ダエロンに追加と改良が施され、文字の形状と音価が体系的になるように再編されたキルスのアルファベットのこと。このアンゲルサスを完成させたのはダエロンと言われているが、主要な追加部分である13~17番(ch-系列)と23~28番(kw-系列)の二系列はシンダリンにはない音を表すのに使われたため、この部分はエレギオンのノルドール族の考案と思われる。
この再編には明らかにフェアノール文字の影響があった。すなわち以下の原則に基づいている。
- 枝にストローク(a stroke)が加わることで声(voice)が加わる。
- ケアスが左右反転することは閉鎖が開いて摩擦音になること(opening to a ‘spirant’)を示す。
- 軸線の両側に枝を置くことで声と鼻音性(nasality)が加わる。
フェアノール文字と同様の子音の系列に並べ直すと以下のようになる。
p-系列 | t-系列 | ch-系列*7 | k-系列 | kw-系列 | |
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無声閉鎖音 | 1 p/p/ | 8 t/t/ | 13 ch/t͡ʃ/ | 18 k/k/ | 23 kw/kw/ |
有声閉鎖音 | 2 b/b/ | 9 d/d/ | 14 j/d͡ʒ/ | 19 g/ɡ/ | 24 gw/ɡw/ |
無声摩擦音 | 3 f/f/ | 10 th/θ/ | 15 sh/ʃ/ | 20 kh/x/ | 25 khw/xw/ |
有声摩擦音 | 4 v/v/ | 11 dh/ð/ | 16 zh/ʒ/ | 21 gh/ɣ/ | 26 ghw/ɣw/, w/w/ |
有声鼻音 | 6 m/m/ | 12 n/n/ | 22 ŋ/ŋ/ | 27 ngw/ŋw/ | |
7 (mh/ṽ/), mb/mb/ | 38 nd/nd/ | 17 nj/nd͡ʒ/ | 33 ng/ŋɡ/ | 28 nw/nw/ |
その他子音 | |||
---|---|---|---|
29 r/r/ | 30 rh/r̥/ | 31 l/l/ | 32 lh/l̥/ |
34 s/s/ | 35 s/s/ | 36 z/z/, ss/ss/ | |
54 h/h/ |
- 5・6・7番は上記の原則から外れた音価が与えられた。古いシンダリンにおいてmは軟音化(soft mutation)によって摩擦音化したmh*8になった。このmhを表すにはmのケアスを反転させることが最も適当だったが5番は左右対称の形なので、6番にmを、7番にmhの音をあて*9、5番には代わりにhw(無声のw)の音をあてた。また7番のmhはエルフ語の時のみの音価とされており、それ以外の言語では子音の組み合わせmbを表す。*10
- 30番はrh(無声のr)、32番はlh(無声のl)を表す。
- 34・35番はどちらもsを表す(フェアノール文字29・30番と同様)。
- 36番は理論的にはzの音を表す。ただしクウェンヤとシンダリンではzの音が無くなったので、代わりに二重の子音ssを表した(フェアノール文字31・32番と同様)。
- 38番は頻出する音連続(sequence)のndを表した。ただしケアスの形状の点では歯音系列(t-系列)の8~12番とは関連がない。
母音と半母音 | |||||
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39 i, y/j/ | 42 u | 46 e | 48 a | 50 o | |
43 ū | 47 ē | 49 ā | 51 ō | ||
44 w/w/ | 5 hw/ʍ/ | ||||
45 ü | 52 ö |
- 43・47・49・51番は長母音。*11
- 39番は母音iまたは子音y/j/を表す。
- 44番は子音w。上述の通り5番は無声のwであるhw。
- 45番はウムラウトのüでシンダリンの母音y/y/のこと。
- 52番はウムラウトのöで古いシンダリンの母音œのこと(二重母音のoeではない)。*12
番号は振られていないがアンゲルサスの表には以下の文字も載せられている。
- th/tʰ/やkh/kʰ/のような有気音を表すために「+h」を示す短い縦線をケアスの右下に添えた。
- 「&」を表すケアス。
アンゲルサス・モリア†
アンゲルサス・ダエロンはエレギオンのノルドール族と交流のあったモリアのドワーフに伝わり、彼らはアンゲルサスに変更を加えた上でこれを使用した。このアンゲルサスを特にアンゲルサス・モリアと呼ぶ。ドワーフが施した変更によってキルスの形状と音価は一部で体系的ではなくなった。
p-系列 | t-系列 | ch-系列 | k-系列 | kw-系列 | |
---|---|---|---|---|---|
無声閉鎖音 | 1 p/p/ | 8 t/t/ | 13 ch/t͡ʃ/ | 18 k/k/ | 23 kw/kw/ |
有声閉鎖音 | 2 b/b/ | 9 d/d/ | 29 j/d͡ʒ/ | 19 g/ɡ/ | 24 gw/ɡw/ |
無声摩擦音 | 3 f/f/ | 10 th/θ/ | 15 sh/ʃ/ | 20 kh/x/ | 25 khw/xw/ |
有声摩擦音 | 4 v/v/ | 11 dh/ð/ | 30 zh/ʒ/ | 21 gh/ɣ/ | 26 ghw/ɣw/, w/w/ |
有声鼻音 | 6 m/m/ | 22,53 n/n/ | 36 ŋ/ŋ/ | 27 ngw/ŋw/ | |
7 (mh/ṽ/), mb/mb/ | 33 nd/nd/ | 38 nj/nd͡ʒ/ | 37 ng/ŋɡ/ | 28 nw/nw/ |
その他子音 | |||
---|---|---|---|
12 r/r/ | 31 l/l/ | 32 lh/l̥/ | |
54 s/s/ | 17 z/z/ | ||
34 h/h/ | 35 ’/ʔ/ |
- アンゲルサスに新しいキルス(37・40・41・53・55・56番、以下太文字)を導入した。これらのキルスはドワーフのみが使用した。
- クズドゥルの語頭にある母音を伴う声門摩擦音と声門閉鎖音*13を表すため、34番をh/h/、35番を’/ʔ/とする。sは54番を用いる。
- jとzhは29・30番を用い、14・16番は捨てる。*14
- rには12番を、nには53番を用いる。また形状が似る22番も混同でnに使用される。
- ŋは36番を用い、zは17番を用いる(sとzで形状に類似性を持たせる)。
- njには38番を、ndには33番を、ng/ŋɡ/には37番を用いる。
母音と半母音 | |||||||
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39 i | 42 u | 46 e | 48 a | 50 o | 55 | ||
43 ū | 47 ē | 49 ā | 51 ō | 56 | |||
40 y/j/ | 41 hy/j̊/ | 44 w/w/ | 5 hw/ʍ/ | ||||
45 ü | 52 ö |
- 子音y/j/は40番で表し、39番の母音iと区別する。
- 40番を反転させた41番はhy(無声のyであり、/ç/に似た音)を表す。
- 55・56番は元々は46番を半分にしたもので、英語のbutter/bʌtə/で聞かれるような母音*15を表すのに用いる。 弱くかすかに発音される場合は軸線もなく、単にストロークのみで表記される場合が多かった。
アンゲルサス・モリアはマザルブルの間の墓碑銘及び『指輪物語』の標題紙に用いられている。それらの表記には以下の特徴がある。
- nには22番のみが用いられている。
- 英文では35番をsに使用する(恐らくsとhの音の割り当てが逆転している)。
- 英語のson/sʌn/のoは56番、定冠詞the/ðə/のeは55番。またtranslated/tɹɑːnzleɪtɪd/のeにはストロークのみの56番が使用されている。
- 英語のbook/bʊk/のooは長母音ōの51番で表す。
アンゲルサス・モリア(エレボール・モード)†
エレボールのドワーフはアンゲルサス・モリアに更に変更を加えたものを使用した。これはエレボール・モード(the mode of Erebor)として知られる。追補Eで述べられている変更箇所は以下の通り。この他にも文字の異なる音価や特異なエレボール式キルス(Ereborian cirth)があるが、追補Eではそれらは「マザルブルの書」に例示されているとしている。
- jとzhの音には再導入した14・16番を用いる。
- 29・30番はgとghを表すか、19・21番の異体字として用いる。
- 43番をzに用いる。*16
- 17番はks(x)に用いる。
- psを表す57番、tsを表す58番のエレボール式キルスを導入する。
マザルブルの書での英文の表記では以下の特徴がある。
- マザルブルの間の墓碑銘と同じくsには35番が*17、hには54番が用いられている。
- 38番を母音(及び半母音)の組み合わせou(ow)に用いる。またai(ay), au*18, ea, eu(ew), oaを表すキルスが存在する。
- 二重のlを表すケアスが存在する。
- gは29番を用いる。ただしforged/fɔːd͡ʒd/のgは19番、bridge/bɹɪd͡ʒ/のgは14番。
- bright/bɹaɪt/の黙字のghは21番。
- nは判読できる限りでは22番のみが用いられている。
- 黙字のe、曖昧母音のe、過去形edのeはいずれも55番。
p-系列 | t-系列 | ch-系列 | k-系列 | kw-系列 | |
---|---|---|---|---|---|
無声閉鎖音 | 1 p/p/ | 8 t/t/ | 13 ch/t͡ʃ/ | 18 k/k/ | 23 kw/kw/ |
有声閉鎖音 | 2 b/b/ | 9 d/d/ | 14 j/d͡ʒ/ | 19,29 g/ɡ/ | 24 gw/ɡw/ |
無声摩擦音 | 3 f/f/ | 10 th/θ/ | 15 sh/ʃ/ | 20 kh/x/ | 25 khw/xw/ |
有声摩擦音 | 4 v/v/ | 11 dh/ð/ | 16 zh/ʒ/ | 21,30 gh/ɣ/ | 26 ghw/ɣw/, w/w/ |
有声鼻音 | 6 m/m/ | 22,53 n/n/ | 36 ŋ/ŋ/ | 27 ngw/ŋw/ | |
7 (mh/ṽ/), mb/mb/ | 33 nd/nd/ | 37 ng/ŋɡ/ | 28 nw/nw/ | ||
57 ps/ps/ | 58 ts/ts/ | 17 ks/ks/ |
その他子音 | ||||
---|---|---|---|---|
12 r/r/ | 31 l/l/ | 32 lh/l̥/ | ll | |
54 s/s/ | 43 z/z/ | |||
34 h/h/ | 35 ’/ʔ/ |
母音と半母音 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
39 i | 42 u | 46 e | 48 a | 50 o | 55 | ||
47 ē | 49 ā | 51 ō | 56 | ||||
40 y/j/ | 41 hy/j̊/ | 44 w/w/ | 5 hw/ʍ/ | ||||
45 ü | 52 ö | ||||||
ai(ay) | |||||||
eu(ew) | au | 38 ou(ow) | |||||
ea | oa |
また次のような略式の表記も確認できる。
- 上側に置いた短い縦線で定冠詞theを表す。
- 4番(v)は単体で前置詞of/ɒv/を、同じく43番(z)はbe動詞のis/ɪz/を表す場合がある。33番(nd)がendを表す場合もある。
- 47番(ē)がseek, deepのeeを表す。51番(ō)はtook, pool, soonのooも表す。
- 三ページ目では22番の下に横線を置くことでcannotのnnを、同様の表記をした48番でFrár, Náliの長母音āを表す。*19
キルスを用いた数字の表記も確認できる。
- 39, 50, 52, 上下反転した51, 22番の下に点一つを置くことで数字の1, 2, 3, 4, 5を表す。
- 三ページ目の左上には縦線が六本並べられている。これは6を表す可能性がある。
『The Letters of J.R.R.Tolkien』のLetter 118にもエレボール・モードのキルスで英文が書かれている。そこから分かることは以下の通り。
- マザルブルの書と同じくsは35番、hは54番、nは22番。
- Hughの黙字のghは30番。
- 文字の上に曲アクセント記号[ˆ]のような記号を置くことでその文字が二重になることを示す(happy)。
- Christmasのch(hは黙字)は18番(k)に「+h」を示す短い縦線を添えて表記。
- runesの黙字のeは55番。
その他のルーン文字†
『The Hobbit』のルーン文字†
『The Hobbit』では上記のキルスとは異なるルーン文字がスロールの地図と、オリジナルのカバーのイラストに使用されている。このルーン文字についてトールキンは同書の冒頭にある著者註で以下のように説明している。*20
- 本書に登場する英語のルーン文字はドワーフのルーン文字の代用である。
- 基本的に現代の文字(作中で読み上げられるスロールの地図の文章)と比較すれば解読は出来る。ただし地図上にはXを表す文字*21は出てこない。
- IとUの文字はJとVにも用いられる。
- QはないのでCWで代用する。
- Zもないが必要ならドワーフのルーン文字のZ*22を用いてもよい。
- 現代の文字では二文字で表される音(二重音字)であるth, ng, eeはルーン文字では一文字で表す。同様にeaやstを表す文字*23が使用される場合もある。
また『The Letters of J.R.R.Tolkien』のLetter 25(1938年)では「三十二文字から成るアルファベットであり、アングロ・サクソンの碑文のルーンと似ているが、同一ではない。」*24としている。
『The Hobbit』で使用された英語のルーン文字については『ホビット ゆきてかえりし物語』に一覧表が収録された。
以下はスロールの地図のルーン文字についての補足。
- door/dɔː/のooとwalk/wɔːk/のaにはOの文字が使われている。
- last/lɑːst/のaにはアングロサクソン・ルーンのacと同じ形の文字が使われている。
- Dの文字には異体字がある。
『The Letters of J.R.R.Tolkien』のLetter 112は同様のルーン文字によって書かれた手紙である。以下はその補足。
- この手紙ではSの文字を左右反転したものが二重音字のshを表す。*25
- nextのxは上記の説明とは異なる文字が使用されている(上掲のルーン文字の表の右側)。
- dwarvish, cover, veryのvにはUのルーン文字の異体字が使われている。ただしnoveber, eveningのvはUと同形。
- 文字の下に点を一つ置くことでその文字が二重になることを示す。(Hobbit, appears)
- road/rəʊd/のoaはアングロサクソン・ルーンのacと同じ形の文字が使われている。
「ゴンドリンのルーン文字」†
トールキンが恐らく1920年代に考案したと思われる、Gondolinic Runes(ゴンドリンのルーン文字)と題されたルーン文字。『The Treason of Isengard』でその存在が言及されている。
クリストファ・トールキンがPaul Nolan Hydeに資料を送り、1992年のMythlore誌にこのルーン文字についての記事が掲載された。また2004年のParma Eldalamberon 15にも記事が掲載された。下の画像はLisa StarのウェブサイトTyalie Tyelelliévaに掲載された一覧表である。
アンゲルサスとは全く異なるが文字の形状と音が関連性を持つという特徴は共通している。ただしこのルーン文字は結局作品中には登場しなかった。*26
子音 | |||
---|---|---|---|
t/t/ | p/p/ | ch/t͡ʃ/ | k/k/ |
d/d/ | b/b/ | j/d͡ʒ/ | g/ɡ/ |
th/θ/ | f/f/ | sh/ʃ/ | h/h/ |
dh/ð/ | v/v/ | zh/ʒ/ | χ/x/ |
n/n/ | m/m/ | ŋ/ŋ/ | |
mh/m̥/ | ŋh/ŋ̊/ | ||
r/r/ | rh/r̥/ | l/l/ | lh/l̥/ |
s/s/ | z/z/ | ||
w/w/ | y/j/ | ||
ƕ,hw/ʍ/ | ꜧ,hy/j̊/ | x,ks/ks/ |
mh, ŋh, rh, lh, hw(ƕ), hy(ꜧ)は無声のm, ŋ, r, l, w, yを表す。
母音 | |||||
---|---|---|---|---|---|
短母音 | a | e | i | o | u |
長母音 | ā | ē | ī | ō | ū |
前舌化母音 | |||||
短母音 | æ | œ | y | ||
長母音 | ǣ | œ̄ | ȳ |
æ, œ, yは前舌化したa, o, u(ウムラウトのä, ö, ü)であり、/æ/, /ø-œ/, /y/の音。
映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定†
グラムドリングとアンドゥーリルにはアンゲルサス・ダエロンで銘が刻まれている。
モリア内部の壁には多数のキルスが刻まれ、マザルブルの書にもエレボール・モードのキルスが書かれている。
グロンドとサウロンの口の兜にもキルスが刻まれている。
コメント†
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