ヌーメノール†
概要†
カテゴリー | 地名 |
---|---|
スペル | Númenor |
異訳 | ヌメノール |
その他の呼び名 | 西方国(Westernesse) 星の国(Land of the Star) ヌーメノーレ(Númenórë) アンドール(Andor) エレンナ(Elenna) ヨーザーヤン(Yôzâyan) アナドゥーネー(Anadûnê) アカッラベース(Akallabêth) アタランテ(Atalantë) マル=ヌ=ファルマール(Mar-nu-Falmar) |
解説†
「西方国」の意。第二紀に大海の只中にあった島国。
宝玉戦争で冥王モルゴスと戦った唯一の人間であるエダイン三家のために、ヴァラールが報償として与えた地。この地に住む人間はヌメノール人もしくは「西方の人」の意であるドゥーネダインと呼ばれた。
初代の王はエルロンドの兄弟であるエルロス・タル=ミンヤトゥル。
ヴァラールの恩寵とアマンからやってくるエルフとの交友によって非常に繁栄し、中つ国の並の人間を遥かに凌駕する文明を誇った。だがやがてヌーメノール人は、人間には得られない「不死」を羨むあまり堕落し、最後の王アル=ファラゾーンは冥王サウロンに唆されてアマンへ侵攻した。その結果、ヌーメノールは大海に沈められて滅亡した。このことは滅亡物語アカッラベースに語られている。
ヌーメノール人のうち、最後までエルフの友であり続けた節士派はヌーメノールの没落を逃れて生き残り、中つ国に漂着して亡国の民の王国であるアルノールとゴンドールを築いた。
多数の名前の意味†
- ヌーメノール (Númenor)
- 「西方国(Westernesse)」「西方の地(Westland)」の意。下記のヌーメノーレの短縮形。
- ヌーメノーレ (Númenórë)
- ヌーメノールの、クウェンヤでの完全な形*1。
- アンドール (Andor)
- クウェンヤで「贈り物の地(Land of Gift)」の意。ヴァラールの呼び名。
- エレンナ (Elenna)
- クウェンヤで「星に向かう国(Starwards)」の意。エダインがエアレンディルの星に導かれて航海しこの地を見出したため。より完全な形はエレンナノーレ(Elenna-nórë)であり、「星に向かう土地と名付けられた国(The land named Starwards)」を意味する。ここから「星の国(Land of the Star)」とも呼ばれる。
- ヨーザーヤン (Yôzâyan)
- アドゥーナイクで「贈り物の地(Land of Gift)」の意で、アンドールと同義。
- アナドゥーネー (Anadûnê)
- アドゥーナイクで「西方国(Westernesse)」の意。
- アカッラベース(Akallabêth)
- 滅亡後の呼び名。アドゥーナイクで「滅亡せる国(The Downfallen)」の意。
- アタランテ (Atalantë)
- 滅亡後の呼び名。クウェンヤで「滅亡せる国(The Downfallen)」の意で、アカッラベースと同義。
- マル=ヌ=ファルマール (Mar-nu-Falmar)
- 滅亡後の呼び名。クウェンヤで「波間に没したる国(The Land under the Waves)」の意。
言語†
ヌーメノールの公用語はアドゥーナイクであったが、多くのヌーメノール人はエルフ語であるシンダリンを学び、さらに賢者はクウェンヤまで習得した。有名な場所、尊崇の対象である場所、王族や令名が高い者にはクウェンヤの名が付けられ、ヌーメノールの王はエルダールから心が離れるまで、クウェンヤの名で王位に就いていた。アル=アドゥーナホールの時代になるとエルフ語を使用することは禁じられ、節士の間でのみエルフ語が使われていた。
ヌーメノール人†
詳細はドゥーネダインも参照。
一般のヌーメノール人は、ベレリアンドのエダイン三家の子孫。王家のみは、初代王エルロスから半エルフの血を受け継いでいた。
『終わらざりし物語』によると、ドルーエダインも共に暮らしていたという(だがかれらは没落を感じ取ったのか、やがて島を去った)。
地理†
地形†
ヌーメノールは星形をした島であり、その中央にはイルーヴァタールを祀る聖なる山メネルタルマが聳えていた。メネルタルマの尾根タルマスンダールは五つの半島に向かって伸びていた。
中央部ミッタルマールには、王の直轄地アランドールや牧草地エメリエがあった。北の半島フォロスタールは冷たく荒涼としており、北端には険しく切り立った高台ソロンティルがあった。西の半島アンドゥスタールの北部も荒涼としていたが、南部は緑豊かな地だった。南西の半島ヒャルヌスタールと南東の半島ヒャルロスタールも緑豊かで温暖であった。東の半島オルロスタールは冷涼な地だった。
島は全体として南へ向かって(東に向かっても若干)傾斜しており、南側を除けばほとんどの海岸は切りたった崖になっていた。
アマンに面する西側にはいくつもの湾と港があった。最も北にあるのがアンドゥーニエであり、またアンドゥスタールとヒャルヌスタールの間には大湾エルダンナがあった。
ヌーメノールには主たる川は二つしかなく、第一の川シリルはメネルタルマの谷ノイリナンを発してミッタルマールの南で海に注いでいた。もう一つの川ヌンドゥイネはエルダンナ湾に注いでおり、その流域にはニーシネンという小さな湖があった。
海沿いには数限りない海鳥が、内陸にもおびただしい数の鳥類が生息し、人々から愛されていた。木々も豊富で南部には大きな森があり、大海を越えてエルフから贈られた苗によってその品種はますます豊かになっていた。
しかし金属の類はほとんど、貴金属にいたっては全く産出されず、それが後に中つ国に対する圧制の因の一つとなった。
登場する地名および都市†
- ヒャルヌスタール(南西地方)
- ヒャルロスタール(南東地方)
- オルロスタール(東地方)
歴史†
ヌーメノールの歴代の王†
この一覧の在位年は『終わらざりし物語』収録の「エルロスの家系」に基づく。このため、13代目タル=アタナミルの即位年及び没年と24代目タル=パランティルの即位年は『追補編』収録の「代々の物語」の第二紀の年表と異なる。
名前 | 在位 | |
初代 | エルロス・タル=ミンヤトゥル | 第二紀32~442 (410年間) |
2代 | ヴァルダミル | 442 (1年間)*2 |
3代 | タル=アマンディル | 442~590 (148年間) |
4代 | タル=エレンディル | 590~740 (150年間) |
5代 | タル=メネルドゥル | 740~883 (143年間) |
6代 | タル=アルダリオン | 883~1075 (192年間) |
7代 | タル=アンカリメ | 1075~1280 (205年間) |
8代 | タル=アナーリオン | 1280~1394 (114年間) |
9代 | タル=スーリオン | 1394~1556 (162年間) |
10代 | タル=テルペリエン | 1556~1731 (175年間) |
11代 | タル=ミナスティル | 1731~1869 (138年間) |
12代 | タル=キルヤタン | 1869~2029 (160年間) |
13代 | タル=アタナミル大王 | 2029~2221 (192年間) |
14代 | タル=アンカリモン | 2221~2386 (165年間) |
15代 | タル=テレムマイテ | 2386~2526 (140年間) |
16代 | タル=ヴァニメルデ | 2526~2637 (111年間) |
17代 | タル=アルカリン | 2657~2737 (80年間)*3 |
18代 | タル=カルマキル(アル=ベルザガール) | 2737~2825 (88年間) |
19代 | タル=アルダミン(アル=アバッターリク) | 2825~2899 (74年間) |
20代 | アル=アドゥーナホール(タル=ヘルヌーメン) | 2899~2962 (63年間) |
21代 | アル=ズィムラソーン(タル=ホスタミア) | 2962~3033 (71年間) |
22代 | アル=サカルソール(タル=ファラッシオン) | 3033~3102 (69年間) |
23代 | アル=ギミルゾール(タル=テレムナール) | 3102~3177 (75年間) |
24代 | タル=パランティル(アル=インズィラドゥーン) | 3177~3255 (78年間) |
25代 | 黄金王アル=ファラゾーン(タル=カリオン) | 3255~3319 (64年間) |
ヌーメノールの王位継承†
ヌーメノールでは権威の象徴は笏杖であり、ヌーメノールの王位を示すヌーメノールの王笏を受け継いだ王の世継が統治者たる王(または女王)になった。王はその在位中に正統な王位継承権を持つ者を世継に指名し、それを国内で宣言した。以降、王の世継は王の会議の一員となって国政を学んだ。統治せずに譲位した二代目の王ヴァルダミル以降、ヌーメノール王は年老いると世継に王笏を譲るのが習わしであり、その後は耄碌する前に自分の意志で世を去るのが常だった。
またヌーメノール王は王笏以外にも王家重代の宝器として、アランルース、バラヒルの指輪、ドランボルレグ、ブレゴルの弓の四つを受け継いだ。このうちバラヒルの指輪は4代目の王タル=エレンディルが長女のシルマリエンに与えたので、アンドゥーニエの領主家の宝となった。
だが13代目の王であるタル=アタナミルは耄碌してでも生に執着し、最期まで王笏を譲ろうとはしなかった。そして15代目のタル=テレムマイテ以降、王位は王の死によって世継に受け継がれるようになった。
ヌーメノール最後の王アル=ファラゾーンは正統な世継であった従姉妹のミーリエル(タル=パランティルの娘)と無理やり結婚して、彼女から王位を簒奪した挙句、大艦隊を率いてアマンへ侵攻し、ヌーメノールの没落を招いた。この時ヌーメノールの王笏はアル=ファラゾーンと共に失われた。王家の宝器のうち、アランルース、ドランボルレグ、ブレゴルの弓もヌーメノールの没落によって失われ、アンドゥーニエの領主家に受け継がれていたバラヒルの指輪だけが没落から救われた。
王位の継承法†
6代目の王タル=アルダリオンは、一人娘のアンカリメに王位を継がせる為に、王位の継承に関する法を改定した。だがその内容は『追補編』と『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」で述べられているものとでは異なっている。
『追補編』ではまず以下の記述がある。
第六代の王は一子を残した。それは娘であり、かの女が最初の女王[統治権ある女王]となった。その当時、男女を問わず王の第一子(the eldest child)が王位を継承するという王家の法(law)が制定されたからである。*4
またアルセダインのアルヴェドゥイがゴンドールの王位を要求した箇所では以下の記述がある。
『なおまた、昔ヌメノールにおいては、王位は男女を問わず王の長子(the eldest child)に伝えられた。この慣習(law)が戦乱絶え間ないこの亡命の地で守られていないことは事実である。しかしオンドヘル王の子息たちが子なくして世を去った今、われらが参考とすべきわれら民族の慣習はかかるものであった。』
(原註)この慣習(law)は(王からわれらがお聞きしたところでは)ヌメノール第六代の王タル=アルダリオンがひとりっ子の娘を残して死んだ時、ヌメノールで作られたものである。かの女は最初の統治する女王、タル=アンカリメとなった。しかし、かの女以前にこの慣習は行われていなかった。
つまり統治者(統治権を持つ王・女王)の最年長の子が、男女を問わず王位を継承する。ただし統治者に子が無かった場合については触れられていない。
一方、『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」では以下のように述べられている。
後の時代に、タル=アルダリオンが変更した相続法は「新法(new law)」、それまでのものは「旧法(old law)」と呼ばれた。だが「旧法」は本来は法律(law)ではなく、誰も疑問に思わない古くからの慣習(custom)であったという。
「旧法」の慣習では、統治者の最年長の息子が世継となり、統治者に息子がいない場合は、エルロスの家系の男系の子孫のうち最も統治者に近い男性の親族が世継になるとされていた(この場合、統治者とは男の王に限定される)。
一方「新法」では、統治者に息子がいない場合は、最年長の娘が世継になるとされた(この場合、統治者とは男の王ないし女王)。ただし王の会議の提案により、女性の世継には王位の継承を拒否する自由が与えられた。彼女が拒否した場合は、男系女系に関わらず、統治者に最も近い男性の親族が世継となる。また彼女が王位を継承しても、子供が無いまま崩御ないし退位した場合も同様である。
また会議の要望によって、女性の世継は定められた期間内に結婚しなければ退位するものとされた。タル=アルダリオンはこの条項に、王の世継はエルロスの家系の者としか結婚できず、これに背けば王の世継の資格を失う、と付け加えた。彼は妻エレンディスとのいさかいの原因を、彼女がエルロスの家系ではなかった(エルロスの家系の者より寿命が短かった)ことに求めたからである。後にアルダリオンは女性の世継・女王の結婚を義務付けたこの条項を廃止した(娘アンカリメがこれを嫌ったためと思われる)。だが結婚相手をエルロスの家系の者に限定することはその後も慣習(custom)として残った*5。
なお、旧来通りの統治者の最年長の息子の世継は、女性の世継のように王位を拒否はできない。ただし統治者は王位をいつでも世継に譲ることができたので、即位してすぐに譲位することもできた。この場合は少なくとも一年は王位にあったとみなされた。その唯一の例がヴァルダミルである。
これは『追補編』の方式とは異なる。統治者の最年長の子が娘でも、息子が生まれればその息子(最年長の息子)が世継となり、王位を継承することになる。
『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」と「エルロスの家系」ではこの二つの異なる法に基づくと思われる王位の継承例がそれぞれ示されている。
- アンカリメへの継承とソロントの企て
- 「アルダリオンとエレンディス」によると、タル=アルダリオンの「新法」により、一人娘のアンカリメが王の世継に指名された*6ことで彼女の許には多くの求婚者が現れた。彼女は彼らを拒絶していたが、結局はエルロスの家系の出身で求婚者の一人だったハッラカールと結婚した。彼女が結婚した理由については、王の会議の勧告とも、アルダリオンの妹アイリネルの息子ソロント(アンカリメの従兄)が王位を狙っていたからともいわれる。 女系男子であるソロントは、旧法では王にはなれない身分だったが、新法ではアンカリメが結婚しなければ王の世継になれる可能性が浮上した(これは新法における、女性の世継に結婚を義務付けた条項がまだ存在していることを前提としている)。そこで彼は、なかなか結婚しなかったアンカリメに対し、王の世継の地位を放棄するように迫った。アンカリメはこのソロントの意図を挫くために結婚したという。
また別の話では、アンカリメが結婚したのはアルダリオンが結婚の義務の条項を廃止した後のことだという。この場合、彼女が女王になっても子を産まずに死ねば、ソロントにはまだ王位を継げる可能性があった。そこで彼女は子供を産んでソロントの野心を完全に潰すために結婚したのだという。
一方「エルロスの家系」では、タル=アルダリオンにより、王に息子がなかった場合は最年長の娘が王位を継ぐように相続の法(law)が改められたことで、本来は王位を継げるはずだったソロント*7が長い間結婚していなかったアンカリメに対し世継の地位を放棄するよう迫り、アンカリメは結婚したことになっている。
- スーリオンへの継承とアンカリメの圧力
- 「アルダリオンとエレンディス」によると、タル=アンカリメの息子アナーリオンには初め二人の娘がいたが、この二人は王の世継になることを拒否した。それは祖母である女王アンカリメを恐れ嫌っていたからであるとされる*8。女王はこの二人に結婚を許さず、彼女らは独身だったという。アナーリオンには最後に息子のスーリオンが生まれ、彼が王位を継いだ。
「エルロスの家系」では、スーリオンの項に「タル=アナーリオンの三番目の子である。姉たちは王笏を拒んだ。」とのみある。
- テルペリエンとミナスティルへの継承
- 「エルロスの家系」によると、スーリオンの次代は女王のテルペリエンだが、彼女はイシルモという弟がいながら王位を継いでいる。「アルダリオンとエレンディス」での方式ならイシルモが王位を継ぐはずであり、彼女への継承は『追補編』での方式に基づいていると思われる。そのテルペリエンは結婚せず子が無かったため、イシルモの息子ミナスティルがテルペリエンから王位を継いだ*9。だが『追補編』の方式は、統治者に子が無かった場合については何も触れていない。
なお、『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」では、タル=アルダリオンの「新法」の影響により、王の世継はエルロスの家系の者としか結婚できない慣習(custom)が生まれたとされている。一方、『シルマリルの物語』の「アカッラベース」では、アル=ファラゾーンが従姉妹のミーリエルに自分との結婚を強制させたことは「たとえ王家の中であろうと、再従兄妹以上に近い血縁同士の結婚を認めないヌーメノールの法(laws)に照らしても悪しき行為であった。」と述べられている。「エルロスの家系」でも「この結婚はヌーメノールの法(law)にも反していた。かの女はかれの父親の兄弟の子だったからである。」と述べられている。
画像†
本設定創作の経緯†
これはアトランティス伝説(Wikipedia:アトランティス)のトールキン的解釈である。トールキンが水没する都市の悪夢を何度も見たことが、彼の神話にアトランティス伝説が組み込まれるきっかけとなった。この話を作ってから、トールキンはその悪夢を見なくなったという*10。
ドラマシリーズ『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』における設定†
中つ国の人間の国よりも高度に栄えているヌーメノールが映像化されているが、中つ国でサウロンの台頭が始まる以前にヌーメノール人とエルフが疎遠になっているなど、時系列が大きく短縮されている。
コメント†
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