ヌーメノール †
概要 †
カテゴリー | 地名 |
---|---|
スペル | Númenor |
異訳 | ヌメノール |
その他の呼び名 | 西方国(Westernesse) 星の国(Land of the Star) ヌーメノーレ(Númenórë) アンドール(Andor) エレンナ(Elenna) ヨーザーヤン(Yôzâyan) アナドゥーネー(Anadûnê) アカルラベース(Akallabêth) アタランテ(Atalantë) マル=ヌ=ファルマール(Mar-nu-Falmar) |
解説 †
「西方国」の意。中つ国でエルフの友としてモルゴスと戦った人間であるエダインの三家のために、水没したベレリアンドの代わりにヴァラールから褒美として与えられた、大海に浮かぶ島国。初代の国王はエルロンドの兄弟エルロス・タル=ミンヤトゥア。ヌーメノールに住んだ人々は、ヌーメノール人もしくはドゥーネダインと呼ばれた。
ヌーメノールは第二紀32年に建国され、その後非常に繁栄する。ヌーメノールの人間自身はヴァラールの禁によって西方のアマンへ航海することを禁じられていたが、トル・エレッセアのエルフからアマン由来の様々な贈り物を得た。ヌーメノール人は東に航海して勢力を拡大し、中つ国のエルフと友好を保ち、他の人間達を大きく引き離して文明を発展させた。中つ国でのサウロンとの戦いでは、ギル=ガラドを援助し、自由の民に勝利をもたらした。
しかし、やがてヌーメノールの主流となった王党派のヌーメノール人は、ヴァラールの禁を不服に思い、人間には禁じられた「不老不死」を求めるようなる。そのため王党派は、エルフを妬んで次第に彼らと疎遠になり、中つ国では苛烈な植民地支配を行なった。
アル=ファラゾーンの時代になると、彼らは中つ国の覇権を巡ってサウロンに挑戦。ヌーメノール軍はウンバールに上陸して、サウロンを降伏せしめた。サウロンは捕虜としてヌーメノールに連れ帰られたのだが、ヌーメノール人はサウロンの口車に乗せられ、ついにはアマンへ「不老不死」を勝ち取るために攻め入った。その結果、イルーヴァタールによってヌーメノールは滅ぼされ、第二紀3319年に海中に沈められた。そのことはアカルラベースに語られている。
ヌーメノール人のうち、エレンディルとその息子のイシルドゥアおよびアナーリオンをはじめとする、最後までエルフに友好的だった忠実なる者たちはこの破局から逃れ、水没したヌーメノールから中つ国に漂着する。
彼らは人数も多くなく亡国の身ではあったが、それでも中つ国の人間よりは知識も身体能力もはるかに優れていた。そのため彼らは中つ国西方の人間達の指導者となり、ドゥーネダインとして亡国の民の王国であるアルノールとゴンドールの国を築いた。
名前の意味 †
- ヌーメノール (Númenor)
- 「西方国(Westernesse)」、「西方の地(Westland)」の意。下記のヌーメノーレの短縮形。
- ヌーメノーレ (Númenórë)
- ヌーメノールの、クウェンヤでの完全な形*1。
- アンドール (Andor)
- クウェンヤで「贈り物の地(Land of Gift)」の意。ヴァラールの呼び名。
- 星の国 (Land of the Star)
- 下記のエレンナ(エレンナノーレ)に由来する名。
- エレンナ (Elenna)
- クウェンヤで「星に向かう国(Starwards)」の意。エダインがエアレンディルの星に導かれて航海しこの地を見出したため。
- エレンナノーレ (Elenna-nórë)
- クウェンヤで「星に向かう土地と名付けられた国(The land named Starwards)」の意で、エレンナの完全な形*2。
- ヨーザーヤン (Yôzâyan)
- アドゥーナイクで「贈り物の地(Land of Gift)」の意で、アンドールと同義。
- アナドゥーネー (Anadûnê)
- アドゥーナイクで「西方国(Westernesse)」の意。
- 大いなる島 (The Great Isle)
- ヌーメノールに住んでいたドルーエダインが用いた島を指す語。
- アカルラベース(Akallabêth)
- 滅亡後の呼び名。アドゥーナイクで「滅亡せる国(The Downfallen)」の意。
- アタランテ (Atalantë)
- 滅亡後の呼び名。クウェンヤで「滅亡せる国(The Downfallen)」の意で、アカルラベースと同義。
- マル=ヌ=ファルマール (Mar-nu-Falmar)
- 滅亡後の呼び名。クウェンヤで「波間に没したる国(The Land under the Waves)」の意。
言語 †
ヌーメノールの公用語はアドゥーナイクであったが、多くのヌーメノール人はエルフ語であるシンダール語を学び、さらに賢者はクウェンヤまで習得した。有名な場所、尊崇の対象である場所、王族や令名が高い者にはクウェンヤの名が付けられ、ヌーメノールの王はエルダールから心が離れるまで、クウェンヤの名で王位に就いていた。アル=アドゥーナホールの時代になるとエルフ語を使用することは禁じられ、忠実なる者の間でのみエルフ語が使われていた。
ヌーメノール人 †
詳細はドゥーネダインも参照。
一般のヌーメノール人は、ベレリアンドのエダイン三家の子孫。王家のみは、初代王エルロスから半エルフの血を受け継いでいた。
『終わらざりし物語』によると、ドルーエダインも共に暮らしていたという(だがかれらは没落を感じ取ったのか、やがて島を去った)。
地形 †
ヌーメノールは星形をした島であり、その中央にはイルーヴァタールを祀る聖なる山メネルタルマが聳えていた。メネルタルマの尾根タルマスンダールは五つの半島に向かって伸びていた。
中央部ミッタルマールには、王の直轄地アランドールや牧草地エメリエがあった。北の半島フォロスタールは冷たく荒涼としており、北端には険しく切り立った高台ソロンティルがあった。西の半島アンドゥスタールの北部も荒涼としていたが、南部は緑豊かな地だった。南西の半島ヒャルヌスタールと南東の半島ヒャルロスタールも緑豊かで温暖であった。東の半島オルロスタールは冷涼な地だった。
島は全体として南へ向かって(東に向かっても若干)傾斜しており、南側を除けばほとんどの海岸は切りたった崖になっていた。
アマンに面する西側にはいくつもの湾と港があった。最も北にあるのがアンドゥーニエであり、またアンドゥスタールとヒャルヌスタールの間には大湾エルダンナがあった。
ヌーメノールには主たる川は二つしかなく、第一の川シリルはメネルタルマの谷ノイリナンを発してミッタルマールの南で海に注いでいた。もう一つの川ヌンドゥイネはエルダンナ湾に注いでおり、その流域にはニーシネンという小さな湖があった。
海沿いには数限りない海鳥が、内陸にもおびただしい数の鳥類が生息し、人々から愛されていた。木々も豊富で南部には大きな森があり、大海を越えてエルフから贈られた苗によってその品種はますます豊かになっていた。
しかし金属の類はほとんど、貴金属にいたっては全く産出されず、それが後に中つ国に対する圧制の因の一つとなった。
登場する地名および都市 †
- ヒャルヌスタール(南西地方)
- ヒャルロスタール(南東地方)
- オルロスタール(東地方)
ヌーメノールの歴史 †
ヌーメノールの歴代の王 †
この一覧の在位年は『終わらざりし物語』収録の「エルロスの家系」に基づく。このため、13代目タル=アタナミアの即位年及び没年と24代目タル=パランティアの即位年は『追補編』収録の「代々の物語」の第二紀の年表と異なる。
名前 | 在位 | |
初代 | エルロス・タル=ミンヤトゥア | 第二紀32~442 (410年間) |
2代 | ヴァルダミア | 442 (1年間)*3 |
3代 | タル=アマンディル | 442~590 (148年間) |
4代 | タル=エレンディル | 590~740 (150年間) |
5代 | タル=メネルドゥア | 740~883 (143年間) |
6代 | タル=アルダリオン | 883~1075 (192年間) |
7代 | タル=アンカリメ | 1075~1280 (205年間) |
8代 | タル=アナーリオン | 1280~1394 (114年間) |
9代 | タル=スーリオン | 1394~1556 (162年間) |
10代 | タル=テルペリエン | 1556~1731 (175年間) |
11代 | タル=ミナスティア | 1731~1869 (138年間) |
12代 | タル=キアヤタン | 1869~2029 (160年間) |
13代 | タル=アタナミア大王 | 2029~2221 (192年間) |
14代 | タル=アンカリモン | 2221~2386 (165年間) |
15代 | タル=テレムマイテ | 2386~2526 (140年間) |
16代 | タル=ヴァニメルデ | 2526~2637 (111年間) |
17代 | タル=アルカリン | 2657~2737 (80年間)*4 |
18代 | タル=カルマキル(アル=ベルザガール) | 2737~2825 (88年間) |
19代 | タル=アルダミン(アル=アバッターリク) | 2825~2899 (74年間) |
20代 | アル=アドゥーナホール(タル=ヘルヌーメン) | 2899~2962 (63年間) |
21代 | アル=ジムラソーン(タル=ホスタミア) | 2962~3033 (71年間) |
22代 | アル=サカルソール(タル=ファラッシオン) | 3033~3102 (69年間) |
23代 | アル=ギミルゾール(タル=テレムナール) | 3102~3177 (75年間) |
24代 | タル=パランティア(アル=インジラドゥーン) | 3177~3255 (78年間) |
25代 | 黄金王アル=ファラゾーン(タル=カリオン) | 3255~3319 (64年間) |
ヌーメノールの王位継承 †
ヌーメノールでは権威の象徴は笏杖であり、ヌーメノールの王位を示すヌーメノールの王笏を受け継いだ王の世継が統治者たる王(または女王)になった。王はその在位中に正統な王位継承権を持つ者を世継に指名し、それを国内で宣言した。以降、王の世継は王の会議の一員となって国政を学んだ。統治せずに譲位した二代目の王ヴァルダミア以降、ヌーメノール王は年老いると世継に王笏を譲るのが習わしであり、その後は耄碌する前に自分の意志で世を去るのが常だった。
またヌーメノール王は王笏以外にも王家重代の宝器として、アランルース、バラヒアの指輪、ドランボルレグ、ブレゴールの弓の四つを受け継いだ。このうちバラヒアの指輪は4代目の王タル=エレンディルが長女のシルマリエンに与えたので、アンドゥーニエの領主家の宝となった。
だが13代目の王であるタル=アタナミアは耄碌してでも生に執着し、最期まで王笏を譲ろうとはしなかった。そして15代目のタル=テレムマイテ以降、王位は王の死によって世継に受け継がれるようになった。
ヌーメノール最後の王アル=ファラゾーンは正統な世継であった従姉妹のミーリエル(タル=パランティアの娘)と無理やり結婚して、彼女から王位を簒奪した挙句、大艦隊を率いてアマンへ侵攻し、ヌーメノールの滅亡を招いた。この時ヌーメノールの王笏はアル=ファラゾーンと共に失われた。王家の宝器のうち、アランルース、ドランボルレグ、ブレゴールの弓もヌーメノールの没落によって失われ、アンドゥーニエの領主家に受け継がれていたバラヒアの指輪だけが没落から救われた。
王位の継承法 †
6代目の王タル=アルダリオンは、一人娘のアンカリメに王位を継がせる為に、王位の継承に関する法を改定した。だがその内容は『追補編』と『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」で述べられているものとでは異なっている。
『追補編』ではまず以下の記述がある。
第六代の王は一子を残した。それは娘であり、かの女が最初の女王[統治権ある女王]となった。その当時、男女を問わず王の第一子(the eldest child)が王位を継承するという王家の法(law)が制定されたからである。*5
またアルセダインのアルヴェドゥイがゴンドールの王位を要求した箇所では以下の記述がある。
『なおまた、昔ヌメノールにおいては、王位は男女を問わず王の長子(the eldest child)に伝えられた。この慣習(law)が戦乱絶え間ないこの亡命の地で守られていないことは事実である。しかしオンドヘア王の子息たちが子なくして世を去った今、われらが参考とすべきわれら民族の慣習はかかるものであった。』
(原註)この慣習(law)は(王からわれらがお聞きしたところでは)ヌメノール第六代の王タル=アルダリオンがひとりっ子の娘を残して死んだ時、ヌメノールで作られたものである。かの女は最初の統治する女王、タル=アンカリメとなった。しかし、かの女以前にこの慣習は行われていなかった。
つまり統治者(統治権を持つ王・女王)の最年長の子が、男女を問わず王位を継承する。ただし統治者に子が無かった場合については触れられていない。
一方、『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」では以下のように述べられている。
後の時代に、タル=アルダリオンが変更した相続法は「新法(new law)」、それまでのものは「旧法(old law)」と呼ばれた。だが「旧法」は本来は法律(law)ではなく、誰も疑問に思わない古くからの慣習(custom)であったという。
「旧法」の慣習では、統治者の最年長の息子が世継となり、統治者に息子がいない場合は、エルロスの家系の男系の子孫のうち最も統治者に近い男性の親族が世継になるとされていた(この場合、統治者とは男の王に限定される)。
一方「新法」では、統治者に息子がいない場合は、最年長の娘が世継になるとされた(この場合、統治者とは男の王ないし女王)。ただし王の会議の提案により、女性の世継には王位の継承を拒否する自由が与えられた。彼女が拒否した場合は、男系女系に関わらず、統治者に最も近い男性の親族が世継となる。また彼女が王位を継承しても、子供が無いまま崩御ないし退位した場合も同様である。
また会議の要望によって、女性の世継は定められた期間内に結婚しなければ退位するものとされた。タル=アルダリオンはこの条項に、王の世継はエルロスの家系の者としか結婚できず、これに背けば王の世継の資格を失う、と付け加えた。彼は妻エレンディスとのいさかいの原因を、彼女がエルロスの家系ではなかった(エルロスの家系の者より寿命が短かった)ことに求めたからである。後にアルダリオンは女性の世継・女王の結婚を義務付けたこの条項を廃止した(娘アンカリメがこれを嫌ったためと思われる)。だが結婚相手をエルロスの家系の者に限定することはその後も慣習(custom)として残った*6。
なお、旧来通りの統治者の最年長の息子の世継は、女性の世継のように王位を拒否はできない。ただし統治者は王位をいつでも世継に譲ることができたので、即位してすぐに譲位することもできた。この場合は少なくとも一年は王位にあったとみなされた。その唯一の例がヴァルダミアである。
これは『追補編』の方式とは異なる。統治者の最年長の子が娘でも、息子が生まれればその息子(最年長の息子)が世継となり、王位を継承することになる。
『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」と「エルロスの家系」ではこの二つの異なる法に基づくと思われる王位の継承例がそれぞれ示されている。
- アンカリメへの継承とソロントの企て
- 「アルダリオンとエレンディス」によると、タル=アルダリオンの「新法」により、一人娘のアンカリメが王の世継に指名された*7ことで彼女の許には多くの求婚者が現れた。彼女は彼らを拒絶していたが、結局はエルロスの家系の出身で求婚者の一人だったハルラカールと結婚した。彼女が結婚した理由については、王の会議の勧告とも、アルダリオンの妹アイリネルの息子ソロント(アンカリメの従兄)が王位を狙っていたからともいわれる。 女系男子であるソロントは、旧法では王にはなれない身分だったが、新法ではアンカリメが結婚しなければ王の世継になれる可能性が浮上した(これは新法における、女性の世継に結婚を義務付けた条項がまだ存在していることを前提としている)。そこで彼は、なかなか結婚しなかったアンカリメに対し、王の世継の地位を放棄するように迫った。アンカリメはこのソロントの意図を挫くために結婚したという。
また別の話では、アンカリメが結婚したのはアルダリオンが結婚の義務の条項を廃止した後のことだという。この場合、彼女が女王になっても子を産まずに死ねば、ソロントにはまだ王位を継げる可能性があった。そこで彼女は子供を産んでソロントの野心を完全に潰すために結婚したのだという。
一方「エルロスの家系」では、タル=アルダリオンにより、王に息子がなかった場合は最年長の娘が王位を継ぐように相続の法(law)が改められたことで、本来は王位を継げるはずだったソロント*8が長い間結婚していなかったアンカリメに対し世継の地位を放棄するよう迫り、アンカリメは結婚したことになっている。
- スーリオンへの継承とアンカリメの圧力
- 「アルダリオンとエレンディス」によると、タル=アンカリメの息子アナーリオンには初め二人の娘がいたが、この二人は王の世継になることを拒否した。それは祖母である女王アンカリメを恐れ嫌っていたからであるとされる*9。女王はこの二人に結婚を許さず、彼女らは独身だったという。アナーリオンには最後に息子のスーリオンが生まれ、彼が王位を継いだ。
「エルロスの家系」では、スーリオンの項に「タル=アナーリオンの三番目の子である。姉たちは王笏を拒んだ。」とのみある。
- テルペリエンとミナスティアへの継承
- 「エルロスの家系」によると、スーリオンの次代は女王のテルペリエンだが、彼女はイシルモという弟がいながら王位を継いでいる。「アルダリオンとエレンディス」での方式ならイシルモが王位を継ぐはずであり、彼女への継承は『追補編』での方式に基づいていると思われる。そのテルペリエンは結婚せず子が無かったため、イシルモの息子ミナスティアがテルペリエンから王位を継いだ*10。だが『追補編』の方式は、統治者に子が無かった場合については何も触れていない。
なお、『終わらざりし物語』の「アルダリオンとエレンディス」では、タル=アルダリオンの「新法」の影響により、王の世継はエルロスの家系の者としか結婚できない慣習(custom)が生まれたとされている。一方、『シルマリルの物語』の「アカルラベース」では、アル=ファラゾーンが従姉妹のミーリエルに自分との結婚を強制させたことは「たとえ王家の中であろうと、再従兄妹以上に近い血縁同士の結婚を認めないヌーメノールの法(laws)に照らしても悪しき行為であった。」と述べられている。「エルロスの家系」でも「この結婚はヌーメノールの法(law)にも反していた。かの女はかれの父親の兄弟の子だったからである。」と述べられている。
画像 †
本設定創作の経緯 †
これはアトランティス伝説(Wikipedia:アトランティス)のトールキン的解釈である。トールキンが水没する都市の悪夢を何度も見たことが、彼の神話にアトランティス伝説が組み込まれるきっかけとなった。この話を作ってから、トールキンはその悪夢を見なくなったという*11。
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