* &ruby(せいほうご){西方語}; [#r45e6151]
#Contents
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[言語]]|
|~スペル|Westron|
|~異訳|&ruby(ウェストロン){西方語};|
|~その他の呼び名|共通語(Common Tongue, Common Speech)|

** 解説 [#Explanation]

[[第三紀]]の[[中つ国]]西方諸国で広く用いられていた言葉。このため''共通語''とも言う。作中、この言葉は全て[[トールキン]]によって''英語''に「翻訳」されている([[後述>西方語#Translation]])。

>第三紀を通じて、西方語は、[[アルノール]]及び[[ゴンドール]][[両古王国>亡国の民の王国]]の版図内、つまり[[ウンバール]]から北にさかのぼって[[フォロヘル]]湾に至る全沿岸地方、そして[[霧ふり山脈]]と[[エフェル・ドゥアス]]までの内陸部に住む、ことばを使って話すほとんどすべての種族([[エルフ]]を除く)の母国語となった。西方語はまた、[[アンドゥイン]]を北上してさらに広まり、大河アンドゥインの西、霧ふり山脈の東の地方に伝播し、[[あやめ野]]に至る地域にまで用いられるようになった。 … &br; … しかし西方語は、自分たちのことばを守り続けている種族たちにとっても、他種族とつきあうための第二の母国語であり、エルフでさえこれを用いた。アルノールとゴンドールだけでなく、アンドゥインの全流域、そして東は、[[闇の森]]の東の外れまで通用したのである。 ((『[[指輪物語]] [[追補編]]』「F I 第三紀の諸言語と諸種族」 すなわちその使用範囲は[[リンドン]]、[[エリアドール]]、[[ホビット庄]]、[[ロヴァニオン]]、[[ゴンドール]]、[[ローハン]]等からなる全地域、つまり[[第三紀の地図:http://arda.saloon.jp/map2.html]]に描き込まれている範囲と一致する))

[[第二紀]]、[[ヌーメノール人]]の[[アドゥーナイク]](ヌーメノール語)と、[[中つ国]]土着の[[人間]]の言葉([[先ヌーメノール語]])が[[ペラルギア]]で混交したものが元になっており、ヌーメノール人の植民地を中心に広まって共通語となっていった。
後に[[エレンディル]]父子に率いられた[[忠実なる者]]たちが[[ヌーメノール]]の没落を逃れて中つ国に[[亡国の民の王国]]を築くと、彼らの用いた、より[[エルフ語]]の影響を強く受けた共通語(西方語)があまねく各地に広がり、敵たち([[オーク]]など)の間でさえ使われるようになった。これが西方語の興りである。

*** 西方語の単語 [#pf445e14]

全て英語に「翻訳」されているため、オリジナルの西方語それ自体についてはほとんど言及がない。

[[追補編]]にて、[[小さい人>ホビット]]は西方語''バナキル''(Banakil)を英語訳したものであること、[[ホビット庄]]は西方語''スーザ''(Sûza)を英語訳したものであること、[[裂け谷]]にあたる西方語は''カルニングル''(Karningul)であり、[[ドワロウデルフ>モリア]]は西方語''フルナルギアン''(Phurunargian)を英語風に表記したものであるということが示されている程度である。

また、[[フロド・バギンズ]]を西方語で表記すると''マウラ・ラビンギ''(Maura Labingi)となり、[[サムワイズ(サム)>サムワイズ・ギャムジー]]および[[ハムファスト(ハム)・ギャムジー>ハムファスト・ギャムジー]]はそれぞれ''バナジーア''(''バン'')(Banazîr/Ban)および''ラヌガド''(''ラン'')''・ガルプシ''(Ranugad/Ran Galpsi)、[[メリアドク(メリー)・ブランディバック>メリアドク・ブランディバック]]は''カリマク''(''カリ'')''・ブランダガンバ''(Kalimac/Kali Brandagamba)となる。

** さまざまな西方語 [#ye621d91]

[[中つ国]]の共通言語であるとはいえ、その位置づけや、話し方は各種族・各地域によって少なからぬ違いがあった。『[[西境の赤表紙本]]』は基本的に[[ホビット庄]]の[[ホビット]]が用いていた西方語で書かれている。

*** ホビットの西方語 [#m0694e0c]

[[第三紀]]末の[[ホビット]]にとって、西方語は母語であった。

かれらはもともと[[アンドゥイン]]の中部流域に住んでおり、その頃は近隣に住む[[エオセオド]]の言葉(古い[[ローハン語]])を母語にしていたらしい([[ローハン語#ホビットの言葉との関連>ローハン語#Hobbitish]]を参照)。かれらは[[エリアドール]]に移住して[[アルノール]]の領民になって後、西方語を習い覚えて母語とするに至ったが、かれらの西方語には独特の訛りがあった。

その顕著な例が、元来西方語には「敬意を表す二人称代名詞」と「親愛を表す二人称代名詞」との二つが区別されて存在していたが、ホビット庄の西方語からは「敬意を表す二人称代名詞」が抜け落ちてしまったことだった。これはホビットの口調の際だった特徴の一つとなっていたが、英語ではそれを再現することができず、したがって物語上のいくつかの言語的ギャップが分かり難くなってしまったと、トールキンは述べている。

>例を挙げると、[[ペレグリン・トゥック]]は、[[ミナス・ティリス>ミナス・ティリス(ゴンドール)]]に滞在するようになって最初の数日は、[[デネソール大侯>デネソール二世]]をも含め、あらゆる階級の人に、「親しさ」を表わす代名詞を用いた。これは老執政を興がらせたかもしれないが、従者たちの目をむかせたにちがいない。「親しさ」を表わすこの二人称を、だれかれかまわず使ったために、ペレグリンは、故国では非常に身分の高い者であるという噂が広く流布されるということになったにちがいない。((『[[指輪物語]] [[追補編]]』「F II 翻訳について」))

>歩きながら[[ガンダルフ]]は低い声でピピンに話しました。「ペレグリン君や、よいか、言葉に気をつけるんじゃぞ! ホビット式の出しゃばり口を叩いていい時じゃないからな。 … 」((『指輪物語 [[王の帰還]]』「一 ミナス・ティリス」 デネソールに謁見する前のガンダルフの言葉。))

>「予はそなたの奉公を嘉納するぞ。そのゆえは、そなたが言葉によってひるむことなく、また礼にかなった物言いを心得ておるからだ。言葉の響きこそ南国のわれらの耳に奇体にひびくがの。」((同上。ペレグリンの奉公の申し出を受けた際のデネソールの言葉。))

ほとんどのホビットは自分たちの西方語以外は解さなかった。他種族のことばに堪能だったのは[[ビルボ]]、[[フロド]]、[[メリアドク>メリアドク・ブランディバック]]といった一部の知識人のみである。特にフロドは、他種族の話す西方語の特徴に即座に気づき、それに合わせることができたという。

*** 人間の西方語 [#jb45c1f0]

[[自由の民]]に属する[[人間]]にとって、西方語は母語、あるいは第二言語であった。

前述のように、西方語は[[ドゥーネダイン]]をはじめとする[[アルノール]]と[[ゴンドール]]の民から出たものであり、[[中つ国]]においてはかれらの唯一の母語であった。
ドゥーネダインは元々[[アドゥーナイク]]を母語としていたが、中つ国の領民に合わせて西方語を母語とするようになったのである。
かれらは(ホビット庄のものと比べて)格調高く簡潔な話し方を保っていた。

[[ローハン]]の[[ロヒアリム]]は、第三紀末においても自分たちの[[ローハン語]]を母語として保っていたが、主だった者は西方語も用いることができた。その話しぶりはゴンドールのものに似て上品であった。
その他の[[北方の自由の民]]は[[エダイン]]の近縁であるため、かれらの言葉は[[アドゥーナイク]]に、すなわち西方語とも共通するところを多く残していた。

[[ブリー郷]]の人間は西方語を母語としていたが、彼らの近縁である[[褐色人]]らはあくまで自分たちの言葉を保っていた。
[[ドルーエダイン]]もまた自分たちの言葉を保っていたが、中には崩れた西方語を話すことのできる者もいた。

[[東夷]]や[[ハラドリム]]が西方語を解したかどうかは記録にない。

*** エルフの西方語 [#xaa75902]

[[エルフ]]族はあくまで自分たちの[[エルフ語]]を母語とし続けていたが、言葉に習熟した種族であるため、ほとんどの者が西方語も巧みに操ることができた。その話しぶりはエルフ語に似て、ゴンドールのもの以上に古雅であった。

エルフの中でも特に内向的な[[ガラズリム]]はほとんど西方語を解さず、話すことのできる少数の者でもその話しぶりはぎこちなかった。

*** ドワーフの西方語 [#xdd8ebd4]

[[ドワーフ]]もまた言葉に巧みな種族であった。かれらは[[クズドゥル]]を他種族の者には秘密にし、西方語をはじめとしたそれぞれの言葉を習い覚えて巧みに用いた。ドワーフは相手の話しぶりに即座に合わせることができたという。

*** エントの西方語 [#vf22aa07]

[[エント]]は自分たちの内では[[エント語]]を話したが、[[エルフ語]]をはじめ他種族の言葉も容易に習得し、西方語も話すことができた。

*** オークとトロルの西方語 [#v42acd55]

[[オーク]]は[[オーク語]]を母語としていたが、部族間では通用しないほど方言の差が激しかった。そのため[[第三紀]]になると第二言語として西方語を用いるようになった。その話しぶりは粗雑で、オーク語とほとんど変わらぬほど忌まわしいものであった。

[[トロル]]は元々ほとんど言葉を解さず、[[オログ=ハイ]]などは[[暗黒語]]しか話さなかったが、第三紀には崩れた西方語を話せる者もいた。

** 翻訳について [#Translation]

『[[ホビットの冒険]]』『[[指輪物語]]』は、原書である''[[西境の赤表紙本]]''を[[トールキン教授>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]が翻訳して現代の読者に紹介したものである、という立場のもとに書かれている。赤表紙本はホビットの西方語で書かれているが、トールキンはそれを地の文から固有名詞にいたるまで、英語に置き換えて翻訳した。
こう設定することによってトールキンは、作品の著しい特色の一つである緻密な言語的世界観を構築したのだった。

>わたしの取ったこのような措置については、いくらか弁明の必要があるかもしれない。わたしとしては、すべての固有名詞を元の形で残しておくことは、(かれらの視点に立って見ることを、わたしが第一に心がけた)ホビットたちの目に映ったその時代の重要な特徴ともいうべき、二つの言語の鮮やかな対照がぼやけてしまうのではないかと思われたのである。広く使われていた西方語は、われわれにとっての英語のように、かれらにとっては日常的で当たり前なことばであり、片やエルフ名は、はるかに古く尊ぶべきことばの生きた名残なのである。また元の名前をすべてそのまま使えば、西方語もエルフ語も、現代の読者にとってはひとしく耳慣れないものに思われるであろう。((『追補編』「F II 翻訳について」))

そのためトールキンは作品を諸外国に翻訳する際には、英語で書かれている部分は全てその国の自国語に翻訳するように指示し、このような言語的対照性が損なれないことを願っていた。

この意図を尊重して邦訳では、英語部分は通例なら訳されないような固有名詞にいたるまで、可能な限り日本語に意訳するという方針が取られている。

** 映画『[[ロード・オブ・ザ・リング]]』および『[[ホビット>ホビット(映画)]]』における設定 [#movie]

トールキンの出身地にあわせ、特に[[ホビット]]及び[[ロヒアリム]]は、イギリスアクセントの英語を使うように徹底されている。

** コメント [#Comment]

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