#author("2017-10-17T23:48:24+09:00","","")
#author("2018-02-02T20:42:31+09:00","","")
* マザルブルの書 [#x2e1f873]
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[物・品の名前]]|
|~スペル|Book of Mazarbul|

** 解説 [#Explanation]

[[モリア]]への移住を試みた、[[バーリン]]率いる[[ドワーフ]]たち(バーリンの一党)が自らの足跡を記録した書。
入植1年目([[第三紀]]2989年)の記述にはじまり、最後は5年目(2984年)にして、[[マザルブルの間]]でドワーフたちが[[オーク]]に包囲されて脱出できなくなり、'''ワレラ出ズルコト能ハズ。イマハノ時来ル――太鼓ノ音、深キ所ヨリ太鼓ノ音――今ヤカレラ至レリ'''という記述で終わっている。バーリンの死について述べた文章や、最後の'''今ヤカレラ至レリ'''の記述は[[オーリ]]によって記されたと推察される。

>しかしそのうちの一つの打ち割られたふたのそばに、本の残骸が転がっていました。それはめった切りにされた上に刀を突き刺したあともあり、ところどころ焼け焦げたところもありました。それに、古い血のあとのような黒っぽいしみもついていて、読めるところはほとんどないといっていいくらいでした。[[ガンダルフ]]はそっとそれを持ち上げたのですが、墓石の上に置くだけで、綴じたページがパリパリと音をたててくずれました。かれは本の上にかぶさるようにして、しばらくの間口も利かずにじっと読みふけっていました。かれのそばに立っていた[[フロド]]と[[ギムリ]]は、ガンダルフが用心深くページを繰るごとに、これが多くの異なった筆蹟の[[ルーン文字>キアス]]で書かれていることを知りました。おもに、[[モリア]]と[[谷間の国]]の言葉ですが、ここかしこに[[エルフ文字>フェアノール文字]]もありました。((『[[旅の仲間]] 下』「五 カザド=ドゥムの橋」))

マザルブルの書は、[[指輪の仲間]]がモリアを通過した時に[[マザルブルの間]]で発見され、[[ガンダルフ]]によって一部が解読されたが、モリアの暗闇と書の損傷の激しさのために、その場で全ての内容を精査することはできなかった。そのため後にもっとよく調べるようにと[[ギムリ]]に手渡された。その後作中でこの書に関する記述はないが、ギムリによって無事持ち帰られたものと思われる。

** マザルブルの書の「写し」 [#x37e7081]

[[トールキン]]は『[[指輪物語]]』の執筆中にガンダルフが読み上げるページのレプリカを製作し、本の付録にしようとしていた。トールキンはこの付録にかなりこだわっており((完成するまでにトールキンが製作したデザイン案が、1ページ目には四つ、2・3ページ目にはそれぞれ一つずつ残されている。))、ページの傷や汚れまで再現するほどだったが、[[アレン・アンド・アンウィン]]社は費用がかかりすぎるとして反対し、結局『指輪物語』には収録されなかった。彼はマザルブルの書の悲劇性のためには是非とも損傷したページを読者に示すことが必要だと考えていたようである。((『[[J.R.R.トールキン 或る伝記]]』より))
[[トールキン]]は『[[指輪物語]]』の執筆中にガンダルフが読み上げるページのレプリカを製作し、本の付録にしようとしていた。これはページの傷や汚れまで再現するほどのこだわりようだったが((完成するまでにトールキンが製作したデザイン案が、1ページ目には四つ、2・3ページ目にはそれぞれ一つずつ残されている。))、[[アレン・アンド・アンウィン]]社は費用がかかりすぎるとして反対し、結局『指輪物語』には収録されなかった。トールキンはマザルブルの書の悲劇性のためには是非とも損傷したページを読者に示すことが必要と考えていたようである。((『[[J.R.R.トールキン 或る伝記]]』より))
このレプリカは後に、トールキン作品カレンダーや『[[Pictures by J.R.R. Tolkien]]』『[[トールキンによる『指輪物語』の図像世界]]』『[[The Art of The Lord of the Rings by J.R.R. Tolkien]]』に収録された。

&ref(bookofmazarbul_1.jpg,,10%,マザルブルの書 第1ページ); &ref(bookofmazarbul_2.jpg,,10%,マザルブルの書 第2ページ); &ref(bookofmazarbul_3.jpg,,10%,マザルブルの書 第3ページ);

*** 第1ページ [#l65078fa]

[[エレボール・モードのキアス>キアス#erebor]]で英文が書かれている。

|~行|~音写|
||CENTER:1|
||RIGHT:3|
|1|we drove aut orks from the great gate & gard|
|2|…m & tōk the first hall. we sleu many in the br|
|3|?ght sun in the dale. Flōi waz killed by an arr|
|4|ou he sleu the great…eft……Flōi|
|5|under grass near mirrormer……kame|
|6|………ken|
|7|?e repai………|
|8|……………|
|9|we have taken the twentyfirst hall ? northen|
|10|nd to dwell in dhere iz g… air……|
|11|………dhat kan eas…|
|12|watched……the shaft z klear……|
|13|Balin has set up his seat in the chamber v Maz|
|14|arbul………|
|15|gold………|
|16|……………|
|17|……wonderful ?? %%%Durin%%% Akse...sil|
|18|mber helm balin…h?s t??en dhem for his oun|
|19|%%%Balin z nou lord v Moria%%%|
||CENTER:******|
|20|……y todai we found %%%truesilver%%%…|
|21|mt……welforged…|
|22|n? koat…?ll v purest %%%mithri?%%%......|
|23|Ōin to sēk for the uppir armouries v the third dēp|
|24|…go westwards to s…to the hollin gate|

>「これは[[バーリン]]の一党の運命を記した記録のようじゃ。……わしの推測するところでは、ほぼ三十年近い昔、かれらが[[おぼろ谷]]にやってきた時から書き始められたものと思われる。ページにはここにきてからの年度を示す番号がついているようじゃ。最初のページは''一の三''(one ― three)となっておる。だから最初から二ページ欠けているわけじゃ。これを聞かれよ!
「''[[大門>ナンドゥヒリオン#gate]]ヨリ[[おーく>オーク]]ドモヲ追イ払ヒ、部屋ヲ''(We drove out orcs from the great gate and guard)――と、書いてあるようじゃ。次の言葉が焼け焦げていてはっきりせぬが、恐らく――''守備セリ''(room) ――じゃろう。――''ワレラハ力戦シテ谷間ノ明ルキ''(we slew many in the bright)――とある次は、きっと――''日ノ下デ多クヲ倒セリ''(sun in the dale.)、じゃろう。''[[ふろい>フロイ]]ハ矢ニアタリテ討チ死ニセルモ、大物ヲ打チ倒シヌ''(Flói was killed by an arrow. He slew the great.)。それから――''[[鏡ノ&ruby(ウミ){湖};>ケレド=ザラム]]ニ近キ草ノ下ニふろいハ''(Flói under grass near Mirror mere.)――とあり、そのあとの語はにじんではっきりせぬ。次の一、二行も読めぬ。それからそのあとは――''ワレラハ北ノハズレノ第二十一広間ヲノットリ、居室ヲ定メヌ。ココニハ''(We have taken the twentyfirst hall of North end to dwell in. There is)――そのあとが読めぬが、''採光筒''(shaft)のことに触れてあるようじゃ。それから――''ばーりんハ[[まざるぶるノ間>マザルブルの間]]に&ruby(ギョクザ){玉座};ヲ定メタリ。''(Balin has set up his seat in the Chamber of Mazarbul.)」
「記録の&ruby(ま){間};の意味です。」と、[[ギムリ]]がいいました。「今わたしたちがいる所だろうと思います。」
「さて、そのあとはもうずっと読めぬ所が多い。」と、ガンダルフがいいました。「''&ruby(おうごん){黄金};''(gold)とか、''[[ドゥリンの&ruby(せんぷ){戦斧};>ドゥリンの戦斧]]''(Durin's Axe)とか、それに何とか''&ruby(かぶと){兜};''(helm)とかいった語が見えるだけじゃ。そのあとに――''ばーりん、[[もりあ>モリア]]ノ領主ナル''(Balin is now lord of Moria.)――とある。これで章が一つ終わっているようじゃ。いくつか星印があって、今度は別の手で書かれておる。''ワレラハマコトノ銀ヲ見イダセリ''(we found truesilver)――とあるのが読める。そのあとに――''&ruby(せいれん){清錬};''(wellforged)――という言葉があって、それから何か書いてあるな。わかったぞ! ''[[みすりる>ミスリル]]''(mithril)――じゃ。それから最後の二行は――''[[おいん>オイン(ファリンの息子グローインの息子)]]ハ第三深層ノ上部武器庫ヲ求メテ''(Óin to seek for the upper armouries of Third Deep)――か。一ヵ所にじんでわからぬが――''西ノ方[[&ruby(ひいらぎごう){柊郷};ノ門>モリアの壁#gate]]ヘ行ク''(go westwards, a blur, to Hollin gate.)――とあるな。」

*** 第2ページ [#v6c18129]

[[フェアノール文字>フェアノール文字#mazarbul]]を用いて英文が書かれている。ギムリによると、このページの文章を書いたのは[[オーリ]]である。

|~行|~音写|
|1|………?rs|
|2|sins……?eady|
|3|sorrow……estre|
|4|day being dh tenth v novembre|
|5|Balin lord v Moria fell|
|6|in dimrill bale, he went alone|
|7|to look in Mirrormere. ? ork|
|8|shot him from behind ? stone ??|
|9|slew v ork but many more ka…|
|10|p from east up dh Silverloude…|
|11|we resk…b…b?l……|
|12|…a sharp battle……|
|13|we have barred dh gatse but d…f|
|14|…kan hol? dhem long if dhere|
|15|no esk…l be ? horibl……|
|16|suffre ― b…shall hold|
||CENTER:5|

>[[ガンダルフ]]は、口をつぐんで、黙ってページを幾枚かめくりました。「ここのところの数ページはだいたい同じようなものじゃ。急いで書かれており、破損がひどい。じゃが、この明かりでは何と書いてあるかほとんど判読ができぬ。ここでまた何枚か&ruby(な){失};くなっておるに違いないな。というのは、番号が&ruby(コロニー){移住地};の第五年を示すものと思われる''五''(five)に移っておるからじゃ。ええと、待てよ! いや、読めぬ。やはり切られておるし、汚れておる。日の光の中ならもっとよく読めるかもしれぬ。はてな! ここに読めるところがある。エルフ文字を用いた大きい肉太の筆蹟じゃ。」
「[[オーリ]]の筆蹟でしょう。」[[ギムリ]]がそういって、魔法使の腕越しにのぞき込みました。「彼なら&ruby(じょうず){上手};に速く書くことができましたし、よく[[エルフの字>フェアノール文字]]を使っていましたから。」
「かれはせっかくの美しい書体で、よくない知らせを記さねばならなかったようじゃ。」と、ガンダルフがいいました。「はっきり残っている最初の言葉は――''悲シミ''(sorrow)――じゃ、同じ行のあとの部分は終わりが''乍''(estre)となっておるほかは何もわからぬ。そうじゃ、これは''昨''(yestre)に違いない。――''昨日ハ十一月ノ十日ナリ''(day being the tenth of novembre)――と続くのじゃ。――''[[もりあ>モリア]]ノ領主[[ばーりん>バーリン]]、[[オボロ谷>ナンドゥヒリオン]]ニテ討タル。[[鏡ノ湖>ケレド=ザラム]]ヲノゾカントヒトリ出カケシガ、岩蔭ニヒソミタル[[おーく>オーク]]ニ&ruby(ヰコロ){射殺};サレヌ、ワレラハおーくヲ討チ取リシモ、サラニアマタノ……東ヨリ、[[銀筋川]]ヲサカノボリ……''(Balin lord of Moria fell in Dimrill Dale. He went alone to look in Mirror mere. an orc shot him from behind a stone. we slew the orc, but many more … up from east up the Silverlode.)このページの残りはほとんど判読しがたいほど汚れておるが――''ワレラハ門ヲトザシ''(we have barred the gates)――それから――''シバラクハ保チ得ン。タダ''(can hold them long if)――それからこれは多分――''恐ロシキ''(horrible)――じゃ。それから――''&ruby(カウム){蒙};ル''(suffer)――じゃ。バーリンはかわいそうなことをしたのう! モリアの領主の称号を帯びたのも五年に満たなかったようじゃから。」

*** 第3ページ [#tb4969a7]

[[エレボール・モードのキアス>キアス#erebor]]と、最後の一文は[[フェアノール文字]]で英文が書かれている。

|~行|~音写|
||LEFT:?|
|1|we kannot get aut. we kanot getaut|
|2|dhey have taken the bridje & sekond h|
|3|?ll Fraar & lōni & naali fell dhe|
|4|?i b……rest retr……|
|5|maz…bul…we st?? ho……|
|6|?. but hope z…n…ōins p|
|7|…y went 5 dais ago bu? ?odai ? only|
|8|4 r…ned. the pōl z up to the wall|
|9|at westgate. the watcher in the water tō|
|10|k ōin ― we kannot get aut. the end com|
|11|es sōn we hear drums, drums in the dēp|
|12|dhey are koming|

>「そのあとどのようなことが起こったのじゃろうか。が、今は最後の数ページを判読している&ruby(ひま){暇};はない。ここにあるのが終末のページじゃ。」かれは口をとざし、それから、&ruby(ためいき){溜息};をもらしました。
「恐ろしい記録よ。」と、かれはいいました。「かれらはむごい&ruby(さいご){最期};をとげたものとみえる。聞かれよ!――''ワレラ出ヅルコト&ruby(アタ){能};ハズ、ワレラハ&ruby(ノガ){脱};レ得ズ。[[橋>ドゥリンの橋]]ト第二ノ広間ハスデニカレラノ手中ニ落ツ。[[ふらーる>フラール]]、[[ろーに>ローニ]]、[[なーり>ナーリ]]ハカシコニテ討チ死ニセリ。''(We cannot get out. We cannot get out. They have taken the Bridge and second hall. Frár and Lóni and Náli fell there.)――続く四行は&ruby(ふせんめい){不鮮明};で、わずかに――''五日前ニ行キシ''(went 5 days ago.)――と読めるだけじゃ。最後の数行にはこう書かれておる――''池ハ[[西門ノ壁>モリアの壁]]ニ達セリ。[[水中ノ&ruby(カンシシャ){監視者};>水中の監視者]]ハ[[おいん>オイン(ファリンの息子グローインの息子)]]ヲ、&ruby(トラ){捕};フ。ワレラ出ヅルコト&ruby(アタ){能};ハズ。イマハノ時来ル''(the pool is up to the wall at Westgate. The Watcher in the Water took Óin. We cannot get out. The end comes,)――そしてそのあとに――''太鼓ノ音、深キ所ヨリ太鼓ノ音''(drums, drums in the deep.)――とある。これはどういうことじゃろう。最後にひきずるような[[エルフ文字>フェアノール文字]]のなぐり書きで――''今ヤカレラ至レリ''(they are coming.)――とある。あとはもう何も書いてない。」[[ガンダルフ]]は言葉を切り、黙って物思いに&ruby(ふけ){耽};ったまま立ちつくしていました。

** 映画『[[ロード・オブ・ザ・リング]]』における設定 [#Lotrmovie]

[[マザルブルの間]]の場面で原作通り登場。映画『[[ホビット>ホビット(映画)]]』のメイキングによると、書を抱えている遺体は[[オーリ]]である。[[トールキン]]が製作したレプリカよりも傷や汚れが少なく、ページの文章が容易に読み取れる。

最初のページは[[キアス>キアス#erebor]]と、[[フェアノール文字>フェアノール文字#mazarbul]]で以下の文章が記されている。括弧内は推測。キアス、フェアノール文字ともに方式は原作のレプリカと同様のもの。

>and so we come to ōr final hop(e)
Ōin z goind to the westgates to see
if we kan eskap(e) dhat wai
>dh orks have taken all dh lower
(le)vels nd dh upper halls to dh
fifth level, our stores v food
are running low nd we have no
water to drink, unless oin
chan find a way out at dh west
gate we are doomed wedher dh
orks get us or not,&br;
moria will not be ours

次のページはトールキンのレプリカの3ページ目を再現したもので、全文が読み取れる。

>we kannot get aut. we kannot get aut.
dhey have taken the bridje & sekond hall.
Fraar & Lōni & Naali fall dhere br
avely while dhe rest retreated to
Mazarbul. we still hold the chambe
r but hope z fading now. Ōins p
arty went 5 dais ago but todai on
ly 4 returned. the pōl z up to the wall
at westgate. the watcher in the water tō
k Ōin ― we kannot get ait. the end ko
mes sōn. we hear drums drums in the
dēp
dhey are koming

** ゲーム『[[ロード・オブ・ザ・リングス オンライン]]』における設定 [#LotRO]

[[マザルブルの間]]にて、[[オーク]]に襲撃されたときの混乱のためであろう、[[指輪の仲間]]はマザルブルの書をマザルブルの間に置き忘れたことになっている。冒険者がマザルブルの間の瓦礫の中から、書を発見する場面がある。

** コメント [#Comment]

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