#author("2024-01-27T00:08:32+09:00;2023-08-18T20:54:28+09:00","","")
* トム・ボンバディル [#he5b8996]
** 概要 [#v2f1f763]
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|人名|
|~カテゴリー|[[人名]]|
|~スペル|Tom Bombadil|
|~その他の呼び名|ヤールワイン・ベン=アダール(Iarwain Ben-adar)、フォルン(Forn)、オラルド(Orald)|
|~その他の呼び名|ヤルワイン・ベン=アダル((旧版『指輪物語』ではイアルワイン・ベン=アダール、新版『指輪物語』ではヤールワイン・ベン=アダール))(Iarwain Ben-adar)&br;フォルン(Forn)&br;オラルド(Orald)&br;最年長(Eldest)|
|~種族|不明|
|~性別|男|
|~生没年|不明|
|~親|不明|
|~兄弟|不明|
|~配偶者|[[ゴールドベリ]](妻?)|
|~子|不明|

** 解説 [#bded95c9]
** 解説 [#Explanation]

[[古森]]に住む、不思議な力を秘めた人物。身長は[[ホビット]]よりは高いが、普通の[[人間]]よりは低い。山高の帽子のバンドに青い長い羽根をつけており、青い上衣を来ていた。茶色の長い顎鬚を生やしており、目は生き生きとして青く、顔は熟したリンゴのように赤く、笑うと無数の小じわが刻まれたという。
フロドが会ったときには、ボンバディルは[[ゴールドベリ]]と共に暮らしていたが、かつては[[アルノール]]王朝の女性と関係があったらしい(([[塚山>塚山丘陵]]から出土されたブローチを見たときのボンバディルの言葉'''「ずっと昔、これを肩にとめていたあのひとは美しかった。今度はゴールドベリにこれをつけさせよう。わたしたちはあのひとのことを忘れやしないぞ!」'''))。また[[バーリマン・バタバー]]や[[マゴット]]、[[ギルドール>ギルドール(フィンロド王家)]]などの[[エルフ]]、[[ガンダルフ]]と交友があるようだ。
[[古森]]に住む、不思議な力を秘めた存在。
身長は[[ホビット]]よりは高いが、普通の[[人間]]よりは低く、重量感がある。山高の帽子に青い長い羽根をつけ、青い上衣を着て、黄色いブーツを履いている。茶色の顎鬚を生やしており、目は生き生きとして青く、顔は熟したリンゴのように赤く、笑うと無数の小じわが刻まれたという。
一見して陽気で朗らかであり、何かにつけて歌を歌い、跳ねるようにして動き回って立ち働いていることが多い。滅多に[[馬]]に乗ることはないが、[[でぶのずんぐりや]]という[[小馬]]に乗ることがある。

ボンバディルは不思議な力を持っている。力のある歌を歌い、柳じじいや塚人を退けている。[[一つの指輪]]さえも、ボンバディルを支配する力を持たず、一つの指輪の影響を受けない。
ボンバディルは、古森で[[柳じじい]]に襲われた[[フロド・バギンズ]]たちを救出し、自分の家で休ませた。またフロドたちが[[塚人]]に捕らえられた時も、ボンバディルに救出されている。その時トムは、フロドたちに[[塚山出土の剣]]を見繕って渡している。
>トム・ボンバディルは、陽気なじいさん。
上着は派手な青で、長靴は黄よ。((『[[指輪物語]] [[旅の仲間>指輪物語/旅の仲間]]』「トム・ボンバディルの家で」 ボンバディルの歌の一節))

*** 名前について [#qac63620]
[[第三紀]]末にフロドたち一行が出会った時は、[[枝垂川]]の上流近くに建つ家で、川の娘''[[ゴールドベリ]]''と共に暮らしていた。
また[[バーリマン・バタバー]]や[[マゴット]]などの近隣の[[人間]]や[[ホビット]]、[[ギルドール>ギルドール(フィンロド王家)]]などの[[エルフ]]、[[魔法使い]][[ガンダルフ]]らと交友があったようである。
[[エルフ]]、[[人間]]、[[ドワーフ]]、[[ホビット]]からそれぞれの言葉で名前が付けられていることから([[後述>#name]])、古くは多くの種族に知られた存在でもあったらしい。

トム・ボンバディルは、[[エルフ]]からはヤールワイン・ベン=アダール([[シンダール語]]で「最古にして父なきもの」の意)、[[ドワーフ]]にはフォルン、北方の[[人間]]にはオラルド([[古英語]]で「非常に古い」の意。ロヒアリムの言葉から由来していると思われる)と呼ばれた。ボンバディルという名は、[[バックの里>バック郷]]の住人が名付けたものであるらしい(この名はバックの里に有名な綴りであるという)。以前からボンバディルの存在は、バックの里の[[ホビット]]に知られていた。
ボンバディルは力のある歌を歌い、[[柳じじい]]や[[塚人]]を退けている。[[一つの指輪]]さえも、ボンバディルを支配する力を持たず、一つの指輪の影響を受けない。しかしボンバディルもまた一つの指輪に影響を与えることはできないという。

*** 『[[指輪物語]]』におけるボンバディル [#a85c6436]

[[古森]]で[[柳じじい]]に襲われた[[フロド・バギンズ]]たちを救出し(([[ギルドール>ギルドール(フィンロド王家)]]は別れ際[[フロド>フロド・バギンズ]]たちに'''わたしたちの伝言を国々に送っておこう。旅するエルフ仲間たちに、あなたの旅のことを知らせておこう。また、よい事をする力をもつ者たちに、あなた方のことに気をつけてくれといっておこう。'''と請け負っており、ボンバディルは'''わたしたちはあんたのことを聞いていた。そしてあんたが旅に出たことを知っていた。わたしたちは間もなくあんた方があの川のところにやって来るだろうと思っていた。'''と述べている。))、[[枝垂川]]の滝の辺に建つ自分の家に2日の間滞在させて彼らを保護した。その間フロドたちは古森一帯や[[北方王国]]についての様々な物語を聞いた。
3日目ボンバディルは、また危機に見舞われることがあれば自分に呼びかけるように言うと、フロドたちを送り出した。実際にフロドたちが[[塚山丘陵]]で[[塚人]]に捕らえられると、フロドの呼びかけに応えて現れ、再びフロドたちを救出した。この時ボンバディルは塚山の財宝の中から[[塚山出土の剣]]を選び出してフロドたちに渡し、自分は青い石のはまったブローチを取った(('''ずっと昔、これを肩にとめていたあのひとは美しかった。今度はゴールドベリにこれをつけさせよう。わたしたちはあのひとのことを忘れやしないぞ!'''『旅の仲間』「霧の塚山丘陵」 ブローチを手に取ったボンバディルの言葉。))。
それから[[東街道]]に出るまでフロドたちを見送り、[[ブリー村]]では[[躍る小馬亭]]に泊まるように勧めて、そこで別れた。

[[エルロンドの会議]]では[[一つの指輪]]の処遇案として、指輪の影響から自由であるらしいボンバディルに指輪を預けて敵の手から守ってもらってはどうかと[[エレストール]]が提案している。しかし[[ガンダルフ]]は、ボンバディルは指輪から自由であるがためにその深刻性を理解できず、預かってもいずれ忘れるか飽きるかしてその辺に捨ててしまうだろう、という旨のことを述べている。また[[グロルフィンデル]]は他の全ての者が[[サウロン]]に征服された時には'''最初の者であったのと同じく、最後の者として'''ボンバディルもまた倒れるだろうとして、彼に指輪を預けることは事態の解決につながらないと述べた。
またこの時ガンダルフはボンバディルの力が及ぶ範囲について'''今ではかれは、自分で設定しただれの目にも見えぬ境界線の中の小さな土地にひっこんでしまった。恐らく時節の変わるのを待っておるのじゃろう。じゃから、かれはこの境界線を越えることはあるまいよ'''((以上二つ『旅の仲間』「エルロンドの会議」より))としている。

>トムの国は、ここでおしまい。
トムは、国境をこえていかない。
トムには、守る家がある。
ゴールドベリが、待っている。((『旅の仲間』「霧の塚山丘陵」 [[東街道]]に踏み入ろうとせず、フロド達を見送って去って行った時のボンバディルの歌))

[[指輪戦争]]が終結した後、[[ガンダルフ]]は例の[[東街道]]からの分かれ道のところでフロドたち[[一行>旅人たち]]と別れ、ボンバディルに会いに行ったようである。

>「ボンバディルとゆっくりしゃべろうと思っとるのじゃ。わしが今までの一生にしゃべらなかったくらいしゃべるのじゃ。かれは苔むすほどの不動石じゃが、わしは転がるべく運命づけられた石じゃった。じゃが、わしの転石の日々も終わろうとしておる。わしらには互いに話すことが山ほどあるじゃろう。」((『[[王の帰還>指輪物語/王の帰還]]』「家路」))

*** 短編集におけるボンバディル [#b7d2f2b5]

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ボンバディルは、『[[指輪物語]]』以外の短編作品の主人公として登場する。『[[トム・ボンバディルの冒険]]』の詩は、古い話をホビットが記録しておいたものとされる。『トム・ボンバディル 小舟に乗る』は、フロド達が彼の元を訪れた後に作られたものとされている。
[[ゴールドベリ]]は前者の話にも登場し、ボンバディルは[[柳じじい]]や[[塚人]]と出会っている。後者の話ではボンバディルが[[枝垂川]]を船で下り、途中で出会った[[マゴット]]と共に、[[藺草村]]の旅籠に行っている。
これらの話では、日本語では『[[農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集]]』に収録されているものを読むことができる。
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ボンバディルは短編集『[[トム・ボンバディルの冒険]]』の二つの詩で、主人公として登場している。表題になっているはじめの方の詩は、古い話をホビットが記録しておいたものとされる。後の方の「トム・ボンバディル 小舟に乗る」は、フロド達がボンバディルの元を訪れた後に作られたものとされている。
[[ゴールドベリ]]は前者の話にも登場し、ボンバディルと彼女との馴初めが語られている他、[[柳じじい]]や[[塚人]]も登場する。後者の話ではボンバディルが[[枝垂川]]を船で下り、途中で出会った[[マゴット]]と共に、[[藺草台村]]の旅籠に行っている。

*** トールキン家の人形がモデル [#zdfaa7ae]
これらの話の日本語版は『[[農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集]]』に収録されているものを読むことができる。

元々は、トールキン家の次男マイケルのオランダ人形がこのキャラクターのモデルであり、トールキンが息子達のためにボンバディルを主人公にして作った話が、1934年のオックスフォード・マガジンに掲載された。またトールキンの叔母の要請によって書かれ、編集された短編が『[[トム・ボンバディルの冒険]]』として、1962年に刊行されている。詳細は『[[J.R.R.トールキン 或る伝記]]』に掲載。
*** 名前について [#name]

>「その人物ならば、その頃すでに、最古老の者よりも年老いていた。その頃はボンバディルとはいわなかった。ヤルワイン・ベン=アダルとわれらは呼んでいた。最古にして父なきものの意だ。しかし、それ以後もかれは、いろんな種族からいろんな名前を与えられてきた。ドワーフたちは、フォルンと呼び、北方の人間たちはオラルドと呼んだ。ほかにもまだいろいろ名前があった。」((『旅の仲間』「エルロンドの会議」 [[エルロンド]]の言葉。))

:トム・ボンバディル (Tom Bombadil)|『[[トム・ボンバディルの冒険]]』「まえがき」によれば、[[バック郷]]の住人が名付けたものであるらしい(この名はバック郷に通有な綴りであるという)。以前からボンバディルの存在は、バック郷の[[ホビット]]に知られていた。
:ヤルワイン・ベン=アダル (Iarwain Ben-adar)|[[エルフ]]が用いた[[シンダリン]]での呼び名。上記の[[エルロンド]]の発言では「最古にして父なきもの(oldest and fatherless)」の意と訳されている。ただし1968年の[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]の手紙によると、ヤルワイン(Iarwain)の逐語訳は“old-youth”(年老いて若々しい)であり、見た目が老人でありながら溌剌とした人物だったので付けられた名だという。
:フォルン (Forn)|[[ドワーフ]]からの呼び名。古ノルド語([[Wikipedia:古ノルド語]])で古い(ancient)の意味
:オラルド (Orald)|[[北方の人間>北方の自由の民]]からの呼び名。[[古英語]]で非常に古い(very ancient)の意味。
:最年長 (Eldest)|トム・ボンバディル自身が名乗った、彼の「正体」。後述の引用を参照。

*** トールキン家の人形がモデル [#model]

元々は、トールキン家の次男[[マイケル>マイケル・トールキン]]が持っていたオランダ人形がこのキャラクターのモデルであり、トールキンが息子達のためにボンバディルを主人公にして作った話が、1934年のオックスフォード・マガジンに掲載された。
またトールキンの叔母の要請によって書かれ、編集された短編が『[[トム・ボンバディルの冒険]]』として、1962年に刊行されている。詳細は『[[J.R.R.トールキン 或る伝記]]』に掲載。

** トム・ボンバディルの正体について [#bebc4d48]

ボンバディルは[[第一紀]]の、[[月>月(天文)]]と[[太陽]]が天空に昇る前から[[中つ国]]にいたようである。
『[[指輪物語]]』『[[シルマリルの物語]]』等で語られている諸種族や世界観に照らしても、ボンバディルは非常に奇妙な存在であり、彼が何者かについては[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]もあまり資料を残しておらず、その正体について明言を避けている。そのためボンバディルの正体については、ファンや研究家の間で、様々な関心が持たれてきた。

>トムは川や木よりも先にここにいた。トムは最初に降った雨の粒、最初に実ったどんぐりの実を覚えている。かれは大きい人たちより以前に道を作り、小さい人たちがやってくるのを見た。かれは王たちや墓穴や塚人たちより先にここにいた。エルフたちが西方へ渡り始めた時、トムはすでにここにいた。海が湾曲する前のことだ。かれは星々の下の暗闇が恐れを知らなかった頃のことを知っている――外の世界から冥王が来る以前のことだ。
>「最年長、それがわたしの正体だ。いいかね、皆の衆、トムは川や木よりも先にここにいた。トムは最初に降った雨の粒、最初に実ったどんぐりの実を憶えている。かれは[[大きい人>人間]]たちより以前に道を作り、[[小さい人たち>ホビット]]がやってくるのを見た。かれは王たちや墓穴や[[塚人]]たちより先にここにいた。[[エルフ]]たちが[[西方>アマン]]へ渡り始めた時、トムはすでにここにいた。[[海>大海]]が湾曲する前のことだ。かれは星々の下の暗闇が恐れを知らなかった頃のことを知っている――外の世界から[[冥王]]が来る以前のことだ。」((『旅の仲間』「トム・ボンバディルの家で」 [[フロド>フロド・バギンズ]]たちに古の物語を聞かせた後に、フロドから何者であるかを尋ねられた時のボンバディルの返答。))

ボンバディルが何者かについては[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]もあまり資料を残しておらず、その正体について明言を避けている。そのためボンバディルの正体については、ファンや研究家の間で、様々な説が語られている。
この言葉はボンバディルが、[[灯火の時代]](ひょっとしたらそれよりも遥か以前((ボンバディルの言葉を信じるならば、彼が'''最初に降った雨の粒、最初に実ったどんぐりの実を覚えている'''ためには少なくとも[[灯火の時代]]の頃にはすでに中つ国にいなければならない。[[ヴァラール]]が[[アルマレン]]に住まっていた頃すでに地上に森や川、動物達が存在していたからである。'''かれは星々の下の暗闇が恐れを知らなかった頃のことを知っている――外の世界から冥王が来る以前のことだ'''はいくらか解釈が分かれるが、解釈次第では極めて重大な意味を含んだ言葉となる。)))から[[太陽の第三紀>第三紀]]に到るまでずっと[[中つ国]]に住み続けてきたことを示唆している。

:[[イルーヴァタール]]説|'''最初に降った雨の粒、最初に実ったどんぐりの実を覚えている'''というトムの発言、また「最古にして父なきもの」と呼ばれていることから、彼が万物の父であり、最初に世界にいた者=唯一神イルーヴァタールであると考える説。
だが、トールキンはイルーヴァタールをキリスト教の神と同一視していた。その神がひょっこりと[[中つ国]]にいるのは不自然である(『[[シルマリルの物語]]』の[[アイヌリンダレ]]にも、イルーヴァタールが[[アルダ]]に直接降り立ったという記述はない)。それに「最古にして父なきもの」というのはあくまでエルフにそう呼ばれていたということであって、「父なる神」と解釈すべきかはまた別である。
また絶対神イルーヴァタールであるとするならば、[[サウロンの指輪>一つの指輪]]を含めすべてのものを支配できると考えるのが自然だが、それについてガンダルフは作中で'''「(ボンバディルが指輪を支配する力を持っているのではなく)むしろ、指輪がかれを支配する力を持たぬというべきじゃろう。」'''と、ボンバディルにそこまでの力はないということを語っている。
:[[マイア]]説|イルーヴァタールよりも下位の存在の、マイアであるという説。
ボンバディルのもつ能力から考えると、これがもっとも自然で世界観に馴染む説だと考えられる。またガンダルフのセリフ'''「ボンバディルとゆっくりしゃべろうと思っとるのじゃ。わしが今までの一生にしゃべらなかったくらいしゃべるのじゃ。かれは苔むすほどの不動石じゃが、わしは転がるべく運命づけられた石じゃった」'''からすると、ボンバディルはガンダルフと同位の者=マイアであると想像できる(ただしボンバディルは[[イスタリ]]よりも古くより中つ国にいたはずのため、ボンバディルがイスタリである可能性はない)。
だがボンバディルがどうして中つ国にやってきたのか、どうして中つ国を離れないのか、どうして[[ヴァラール]]に仕えていない(ように見える)のかといった点については、想像の域を出ない。
:[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]説|ボンバディルは、作者であるトールキン、もしくは(読者としての)トールキン家の人間の誰かの投影であるという説。前述のように、ボンバディルのモデルはトールキン家にあった人形であるため、中つ国におけるボンバディルもトールキン家とゆかりの存在と考えることもできる。
また、ボンバディルは強力な力を持ちながらも積極的に物語に関わろうとしないということは、物語の作者=絶対的傍観者ととらえることもできる。そしてトールキンは、中つ国を「準創造」した、つまり偉大なる神の模倣をして小さな世界を作ったと考えていた。ゆえに、(トールキン自身が作った世界の中では)神に準じる力を持ちながらも、神ではない存在=作者の投影である、と想像できる。
ただし、作者の投影がなぜ古森という限られた場所にいて、そこに閉じこもっているのかはよくわからない。
:[[イルーヴァタール]]説|ボンバディルについて述べられている「最長老」「主人」「最古にして父なきもの」「あの方です」といった表現のすべてに該当しうるのは、万物の父(創造主)であり、最初に存在していた者=唯一神イルーヴァタールのみであると考える説。
だが、トールキンはイルーヴァタールをキリスト教の神と同一視していた。その神がひょっこりと[[中つ国]]にいるとは考えづらい(『[[シルマリルの物語]]』の[[アイヌリンダレ]]にも、イルーヴァタールが[[アルダ]]に直接降り立ったという記述はない)。それに「最古にして父なきもの」というのはあくまでエルフにそう呼ばれていたということであって、「父なる神」と解釈すべきかはまた別である。
また絶対神イルーヴァタールであるとするならば、[[サウロンの指輪>一つの指輪]]を含めすべてのものを支配できると考えるのが自然だが、それについてガンダルフは作中で'''(ボンバディルが指輪を支配する力を持っているのではなく)むしろ、指輪がかれを支配する力を持たぬというべきじゃろう。'''((『旅の仲間』「エルロンドの会議」))と、ボンバディルにそこまでの力はないということを語っている。ボンバディルの力に何らかの限界があるというこうした記述は、「万能神」たるイルーヴァタールにはそぐわない。
トールキン自身も[[手紙>The Letters of J.R.R.Tolkien]]の中で、イルーヴァタール説は否定している。
:[[アイヌル]]説|イルーヴァタールよりも下位の存在、すなわち[[アイヌル]]の一種であるという説。アイヌルは[[エア]]や[[アルダ]]に先立って存在し、アルダを作り上げた者達であるため、ボンバディルの様々な属性([[中つ国]]そのものと同じぐらい古い、[[マイア>マイアール]]の[[サウロン]]の力に何らかの形で対抗することができる、歌によって力を発揮する、等々)を、世界観の枠内でもっとも自然に説明できる説だと考えられる。しかし後述するいくつかの難点もある。
まず、アイヌルには[[ヴァラール]]と[[マイアール]]という位階があるが、ボンバディルはどちらに属するのか? どちらの説を採った場合にも利点と難点がある。
ヴァラール説の利点は、マイアールの中でも最強級の力を持つはずのサウロンが造り出した[[一つの指輪]]から、ボンバディルが自由であることを上手く説明できるところにある。しかしヴァラールは「14人(+メルコール)」しか存在しないと明記されているため、そこにボンバディルが入り込む隙がないというのが非常に大きな難点となっている。このため、ヴァラール説はあまり頻繁には唱えられていない。
ボンバディルはマイアであるという説が、おそらくもっとも人口に膾炙している説だと思われる。利点は、マイアールの総数が明記されていないことで、ボンバディルのように中つ国で暮らしている者がいないとも限らない。ガンダルフの'''ボンバディルとゆっくりしゃべろうと思っとるのじゃ。わしが今までの一生にしゃべらなかったくらいしゃべるのじゃ。かれは苔むすほどの不動石じゃが、わしは転がるべく運命づけられた石じゃった'''というセリフも、ボンバディルはガンダルフと同位の者=マイアであると示唆しているように読めなくもない(ただしボンバディルは[[イスタリ]]よりも古くより中つ国にいたはずなので、ボンバディルがイスタリである可能性は低い)。難点としては、彼がサウロンの力の影響から自由でいられることを説明しがたいことである。また、ボンバディルがどうして中つ国にやってきたのか、どうして中つ国を離れないのか、どうして[[ヴァラール]]に仕えていない(ように見える)のかといった点については、想像の域を出ない。
何よりアイヌル説全体にわたる難点として、ボンバディルがアイヌルであることを示す積極的な根拠が何一つ発見できないという点がある。アイヌルであるのなら、なぜトールキンがそれを明記せずこれほどまでに謎のまま残したのか、という重大な疑問にも答えることができない。そのためアイヌル説は、ボンバディルの存在を提示されている世界観の枠内で比較的処理しやすい、というただ一つの利点があるに過ぎない。
:精霊(Spirit)説|アイヌル説に似たものとして、ボンバディルはヴァラールでもマイアールでもない「精霊」であるとする説。トールキンの準備稿や、刊行本の中に断片的に残されている記述からすると、[[アルダ]]にはヴァラールでもマイアールでもない(もしかしたらアイヌルですらないかもしれない)霊的存在がいる可能性がある。ボンバディルはそのような「自然の精霊」の一体であるとするもの。これもアイヌル説と同じく積極的な根拠が見出しがたい点や、そうした「精霊」の概念はトールキンが稿を重ねるにつれて希薄化し排除されていった節がある、といった難点がある。
:[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]説|ボンバディルは、作者であるトールキン、もしくは(読者としての)トールキン家の人間の誰かの投影であるという説。[[前述>#model]]のように、ボンバディルのモデルはトールキン家にあった人形であるため、中つ国におけるボンバディルもトールキン家とゆかりの存在と考えることもできる。また、ボンバディルは強力な力を持ちながらも積極的に物語に関わろうとしないということは、物語の作者=絶対的傍観者ととらえることもできる。そしてトールキンは、中つ国を「準創造」した、つまり偉大なる神の模倣をして小さな世界を作ったと考えていた。ゆえに、(トールキン自身が作った世界の中では)神に準じる力を持ちながらも、神ではない存在=作者の投影である、と想像できる。
ただし、作者の投影がなぜ古森という限られた場所にいて、そこに閉じこもっているのかはよくわからず、この説はほとんど想像の域を出ない。
:メタ的な存在とする説|先のトールキン説もこの一種だが、ボンバディルは作品世界観の枠内には収まりきらない、なにか作品外部の要素が混入(あるいは投影)されたもの=メタ(meta)な存在であるとする説。トールキン説の他にも、トールキンの田園への愛着の化身(あるいは表明)とする説、マイケルのオランダ人形そのものであるという説([[仔犬のローヴァー>仔犬のローヴァーの冒険]]のような)等が考えられる。トールキン自身も手紙の中で、ボンバディルを何らかの観念の代表物、自然への愛着の表現だと述べたことがある。
ただし、作品外の事情を持ち出して作品内の事柄を説明することには少なからず異論もある。また、メタ的な存在であることと、世界観の内側に位置を占めることとは、必ずしも両立しないことではない。

** 映画『[[ロード・オブ・ザ・リング]]』における設定 [#ka4ca8c4]
トールキンが言明を避けている以上、ボンバディルの正体は不明であるとしか言いようのない面が強い。

物語の短縮のため、全く登場しない。ただし[[The Lord of the Rings Trading Card Game]]用に、[[Weta]]監修のもとボンバディルのデザインが作られている。
&ref(Bombadil.jpg,,25%,Wetaデザインによるトム・ボンバディル);
>>「あんたはまだわたしの名前を知らないのかね? 答はこれだけだ。あんたはわたしにだれかというが、そういうあんたはだれなのかね? あんたはただひとりで、あんた自身で、そして名前なき者ではないかね?」((『旅の仲間』「トム・ボンバディルの家で」))

** コメント [#w6b59908]
**[[Iron Crown Enterprises]]による設定 [#mfd7a763]

#pcomment_nospam(,6,,,,,reply)
マイアール説を採用している。
一番最初に[[エア]]に入った[[アイヌル]]の一人で、[[ヤヴァンナ]]の民として創造当初の[[アルダ]]の大部分を覆っていた森林の守り手の[[マイアール]]だったとされる。時代を下るごとに森が縮小し、細分化されていったために、本来持っていた[[マイア>マイアール]]としての力を減退させ、主君である[[ヴァラール]]とも疎遠化してしまったとされている。

** 映画『[[ロード・オブ・ザ・リング]]』における設定 [#Lotrmovie]

物語の短縮のため、全く登場しない。原作でも立ち位置の不明瞭な存在を登場させれば、その分観客の混乱を招きかねないという理由もあると思われる。

ただし[[The Lord of the Rings Trading Card Game]]用に、[[Weta]]監修のもとボンバディルのデザインが作られている。
&ref(Bombadil.jpg,,25%,Wetaデザインによるトム・ボンバディル);   &ref(Tomb.png,,25%);

** ゲーム『[[ロード・オブ・ザ・リングス オンライン]]』における設定 [#LotRO]

&ref(ScreenShot00221.jpg,,10%,『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』におけるトム・ボンバディル);

** コメント [#Comment]

#pcomment(,,,,,,reply)