黒門の戦い†
概要†
カテゴリー | 歴史・事件 |
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スペル | Battle at the Black Gate |
その他の呼び名 | 黒門前の戦い (Battle before the Black Gate) |
解説†
第三紀3019年3月25日に行われた、指輪戦争の事実上の決戦となった戦い。
ゴンドールやローハンの軍勢からなる西軍が、指輪所持者の任務をサウロンから隠すため黒門に陽動攻撃を仕掛け、モルドールの軍勢がこれを迎撃した。サウロンは黒門を開いて、モルドールの軍勢をはじめハラドリムや東夷などの属国からなる大軍を解き放ち、燃えかすの山に西軍を包囲。絶対的多数の敵を前に、西軍は絶望的な状況となる。だが合戦の最中に指輪所持者が一つの指輪を破壊したことでサウロンの力は消滅、サウロンの意志に動かされていたモルドール軍も狼狽して総崩れとなり、西軍は逆転して勝利を収めた。
参戦国、勢力†
戦況†
開戦に至るまで†
「わしらは指輪は持っておらぬ。
叡智 の極 みか、大愚の果てか、それは消滅させられるべく遠く送られた。わしらを消滅させることを恐れてな。これがなければ、力でかの者の力を敗ることはできぬ。じゃがわしらはいかなる犠牲を払ってもかの目をかれの真の危険から引き離しておかなければならぬ。わしらは武力で勝利はかちとれぬが、武力によって指輪所持者に唯一 の可能性を与えることはできる。たとえそれがおぼつかないものであってもな。」*1
角笛城の合戦とアイゼンガルドの陥落によって、パルス・ガレンで捕らえられたホビット(メリーとピピン)は救出され、さらにオルサンクのパランティールがアラゴルン二世の手に渡る。アラゴルンは指輪所持者からサウロンの目を逸らすためパランティールを用いて彼に挑戦、鍛え直された剣を示して自らの素性を明らかにした。
これに怒り焦ったサウロンはペレンノール野の合戦を起こしたが、予定を早まった攻撃であったためにモルドール軍はゴンドールとローハンの軍勢によってかろうじて撃退された。
かれ(サウロン)から宝を奪った剣が鍛え直された。偶然の風向きの変化はわが方に幸いした。かれの最初の攻撃は思い設けぬ敗北に終わり、総大将が滅びてしもうた……*2というこの一連の事態に、サウロンは一つの指輪がゴンドールに拠る大将たちの手に落ちたとの疑いを強くする。
他者が一つの指輪に込められた力を完全に使いこなすには習熟期間が必要であり、さらに指輪を手にする者は一人であるため、必ずその所有権を巡って権力闘争が起こるはずであった。敵の手に落ちた指輪をサウロンが奪い返せる望みは、その機会を突けば指輪がサウロンを助けるかもしれないという点にあった。そのためサウロンはゴンドールの動静に全注意を集中させる。
実際には一つの指輪はモルドールに送り込まれており、次に予想されるさらに大規模な攻撃に耐える力はもはやゴンドールとローハンには残されていなかった。
武力によってサウロンを打倒することはできず、望みは指輪所持者の任務達成にしかないと看破するガンダルフは、指輪所持者からサウロンの注意を逸らし続けるためには自分達が囮となり、黒門に捨て身の陽動攻撃を仕掛けるしかないと提案。アラゴルン二世、イムラヒル、エーオメル、エルロンドの息子ら西軍の大将たちはこの提案に同意する。
ミナス・ティリスに残る守備隊はアングボール率いる辺境の諸侯国の援軍4000人で増強され、さらにエルフヘルム率いるローハン軍の主力3000騎がアノーリエンから来る敵を西街道で待ち伏せするために残された。
大将たちは割ける限りの総勢7000名を連れて出立する。アラゴルン二世が諸侯国の兵からなる2000人を、イムラヒルがドル・アムロスおよびミナス・ティリスの兵からなる3500人を、エーオメルが馬を失ったロヒルリムを500人を組み、エーオメル自身は麾下の500騎の騎兵を率い、それとは別にエルロンドの息子たちと北方のドゥーネダイン(野伏)、ドル・アムロスの騎士たちが加わった500騎の騎兵があった。つまり徒歩の兵が6000人で騎馬の兵が1000騎だが、これは行路の足場の悪さを考慮してのことだった。
ガンダルフ、レゴラス、ギムリ、ピピン、ベレゴンドらもそれに加わっている。だがメリーは黒の息の負傷が癒えたばかりだったため、ミナス・ティリスに残された。
西軍の行軍†
「もしこれが茶番劇なら、笑うにはあまりにも痛切すぎる。いいや、これは五分五分の大熱戦に最後に進める
駒 なのだ。そしてどちらが勝ったにしろ、これがゲームを終了させるのだ。」*3
西軍は3019年3月18日にミナス・ティリスを出立。オスギリアスからアンドゥインを渡り、翌19日には前衛部隊がモルグル谷に達してモルグルドゥイン川の橋を落とすとともに、死の原に火を放つ。さらに十字路には東のモルグル峠や南からの攻撃に備えて、土地勘のある射手からなる強力な守備隊を残した。21日には西軍はイシリエンで、オークと東夷の強力な分遣隊にはじめて攻撃されたが、ヘンネス・アンヌーンのマブルングの偵察隊から警告を受けていたため首尾よく撃退した。しかしこれは、西軍を黒門まで誘導するサウロンの陽動だった。23日にはイシリエンを去り、モランノンの荒廃地に達したが、目に入らないながらも絶えず西軍の上を跳梁していたナズグールと恐るべき獣の恐怖や、モルドールの伝承の恐ろしさ前に、意気をくじかれる兵が続出する。ここでアラゴルン二世は弱気な者達に去ることを許したが、可能ならカイル・アンドロスを奪取するよう彼らに命じた。この段階で総勢は6000名に満たなくなっていた。
24日に荒廃地で最後の野営をした夜、西軍はおびただしい数のおぼろな影と狼の吠え声に取り囲まれたが、朝になるとそれらは消え失せる。25日に西軍は黒門に達した。
黒門前での、戦闘直前の駆け引き†
「出会え!」と、かれらは叫びました。「暗黒の国の王をここへ
出 だせ! かれに応報の罰を下さん。不法にもゴンドールに戦いを仕かけ、その国土を力づくで奪いしためなり。ここにゴンドールの王はかれがその悪を償 い、然 る後 永遠に立ち去ることを要求する。出会え!」
長い沈黙がありました。城壁からも城門からも、それに答える叫び声も物音も何一つ聞かれません。しかしサウロンはすでにかれの計画を用意していたのです。そしてこれらのねずみを襲って殺す前に、ます手ひどく弄んでやれと思ったのでした。*4
西軍は戦いに先立ち、黒門の北にある二つの小高い丘(燃えかすの山)に陣取った上で軍使を立て、サウロンに宣戦布告する。西軍の軍使団はガンダルフを長として、アラゴルン二世、エルロンドの息子たち、イムラヒル、エーオメルら大将たちが同行し、さらにレゴラス、ギムリ、ペレグリンが加わった。これでサウロンを敵とする全ての自由の民の種族から最低一人は証人が出ることになった。これに近衛騎士団とアルウェンの旗印、ふれ役と喇叭手が続いた。
西軍の呼び出しに応じて黒門から現れたモルドールの軍使団は、サウロンの口を先頭にその護衛兵の一隊が続いたのみで、黒地に赤目のサウロンの旗印を一つ携えていた。
姿を現したサウロンの口は西軍の大将たちを侮辱するとともに、キリス・ウンゴルの塔でフロド・バギンズから押収された塚山出土の剣、ロスローリエンのマントとブローチ、ミスリルの胴着といった装身具を示して彼らを脅迫する。口は捕虜のホビットへの拷問をちらつかせて「ゴンドールとその同盟者は二度とサウロンを攻撃しないと誓言して直ちに大河以西に撤退すること」「大河以東の地は永久にサウロンの直轄地となること」「大河以西の霧ふり山脈およびローハン谷に至るまでの地はモルドールの属領とし、住民の自治は認めるが武装を禁ずること」「アイゼンガルドはサウロンが領有した上で彼の副官(サウロンの口)の居城とし、その再建に手を貸すこと」といったサウロンからの条件を伝えた。
しかしガンダルフは、口のわずかな反応からホビットが実は捕らえられていない可能性を見抜いて条件を拒否。口から装身具を奪い返した。
サウロンの口は西軍の大将たちの怒気に圧されて反転遁走したが、その途中に部下たちが取り決められていた合図の角笛を吹き鳴らし、黒門は開け放たれて戦いが開始された。
黒門の戦い†
予期されていたように交渉が決裂すると、サウロンは開かれた黒門からだけでなく、歯の塔の東の灰の山脈側に潜ませていた東夷の軍勢や、黒門の両側の丘陵に潜ませていたオークを解き放ち、その数は西軍の10倍以上はあり、さらにサウロンの軍勢を弱らせる太陽は、モルドールの煙霧に覆われて、光はほとんど地上に届かなかった。
燃えかすの山の二つの丘にはアルウェンの旗印、ローハンの旗、ドル・アムロスの旗が美しくも絶望的に掲げられ、それぞれの丘は完全にモルドール軍に包囲される。アラゴルンとガンダルフは丘のひとつに立ち、東側の丘にはドゥーネダイン、エルロンドの息子たち、西側の丘にはイムラヒル、ミナス・ティリス、ドル・アムロスの兵達が、一番攻撃が激しいであろう黒門の方面に立っていた。イムラヒルの陣営の最前線近くには、覚悟を決めたピピンも塚山出土の剣を握りしめ、ベレゴンドと共に立っていた。
やがて、恐るべき獣に乗ったナズグールが空を跳梁する中、まずモルドール軍のオークが矢を西軍に浴びせかけ、それからゴルゴロスから来た山トロルが西軍の最前線に襲いかかった。この時ベレゴンドは攻撃を盾と兜で防いだものの、その力に圧倒され気を失って倒れる。ベレゴンドを倒したトロルが、彼の喉を噛み切ろうと掴み上げたところ、ピピンはそのトロルに対して塚山出土の剣を突き刺す。剣に込められた力もあって刃はトロルの急所にまで達したが、ピピンは自分が倒したトロルの下敷きになってしまう。その瞬間ピピンは「鷲たちが来るぞう!」という叫び声を聞いたが、意識が朦朧としていたピピンは、これは五軍の合戦の時の話だと混同して、そのまま気を失ってしまう(戦いが終わった後、ピピンはギムリに発見された)。
だが実際に大鷲は戦場に姿を現し、恐るべき獣に乗ったナズグールに襲いかかった。
戦いの終わり†
この時、指輪所持者フロド・バギンズは、ついに滅びの山のサンマス・ナウルにたどり着いたが、とうとう一つの指輪の誘惑に屈し、指輪を自分のものと宣言して、自分の指にはめてしまう。この瞬間サウロンは一つの指輪の所在、西軍の目論みに気が付いて怒りと恐怖に駆られ、全ての意思を滅びの山に向けて、ナズグールを急行させる。その瞬間、他のモルドールの軍勢は、自分たちを駆り立てていたサウロンの意思が消えたため、動揺する。敵の狼狽を見取った西軍の兵は反撃に転じるが、ガンダルフは待つように呼ばわった。
やがて、フロドから指輪を奪ったゴクリが滅びの罅裂に墜落し、一つの指輪は失われた。そして大地は揺れ動き、黒門と歯の塔そしてバラド=ドゥールは崩れ落ち、サウロンは消滅した。
そして大将たちが南の
方 モルドールの地をまじろぎもせず見つめるうちに、雲のとばりになお黒く、巨大な人の影のようなものが上って来たように思えました。それは一切の光を徹 さないほど黒く、頭に稲妻の冠を頂き、空をいっぱいに占めていました。下界を見降ろして高く大きく頭をもたげると、それは途方もなく大きな手をみんなに向けて嚇 すように突き出しました。その恐ろしさは総毛立つほどでしたが、それでいてもはや何の力もなかったのです。なぜなら、それが一同の上に身を屈 めたちょうどその時、大風がそれをさらって運び去り、消え去ったからです。そのあとはしーんと静まりました。*5
こうして、モルドールの軍勢を動かしていたサウロンの意思と存在が消滅した結果、オークやトロル、その他の獣など、サウロンの意思が吹き込まれた生物は正気を失い、自害するか希望もなく逃げ去った。サウロンの同盟軍だった東夷やハラドリムなどのうち、最も大胆不敵で西方世界を憎んでいた者達は、最後の抵抗をするために集結したが、ほとんどは東へ逃げ去り、西軍に降伏する者もいた。
ガンダルフは、軍の指揮をアラゴルンに任せると、自分はグワイヒィルを呼び、滅びの山にいるはずのフロド・バギンズとサムワイズ・ギャムジーを救出するための助力を要請。ランドローヴァルとメネルドールが同行して、グワイヒィルはガンダルフを滅びの山へと連れて行く。
一方の滅びの山では、指輪を失ったフロドは、全ての望みも喪失して抜け殻のようになっていたが、まだ希望を失っていなかったサムがサンマス・ナウルからフロドを連れ出す。しかし山腹に出たものの、噴火した滅びの山の裂け目や溶岩に逃げ道をふさがれ、やがて二人は倒れてしまう。だがグワイヒィルらに救出され、その後イシリエンに運ばれてアラゴルンの手当を受ける。
やがて回復した二人は4月8日、イシリエンのコルマッレンの野でアラゴルンによる栄誉礼を受ける。またフロドとサムは、エルフのマントやミスリルの胴着などを返還されている。
こうして再会した指輪の仲間はしばらくイシリエンにいたが、負傷していた兵が回復し、東夷やハラドリムの残党と戦っていた兵、モルドール北部の要塞を破壊していた兵などが戻ってくると、エレッサール王の戴冠式のため、ミナス・ティリスへと凱旋した。
映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定†
最終戦略会議はミナス・ティリスの外のテントではなく、白の塔の王と執政の間で行われており、レゴラスやギムリもその場にいる。だがイムラヒルは登場しない。
劇場公開版(コレクターズ・エディション)とエクステンデッド・エディションでは、この場面の編集が異なっている。ガンダルフが、サウロンがこの陽動にひっかからないのではと懸念するのに対し、劇場公開版では、ギムリの発言が作戦遂行を後押しした形になっているが、エクステンデッド・エディションではギムリの発言は、ガンダルフの懸念発言の前となっている。代わりにアラゴルンが作戦に自信を見せ、パランティールを使ってサウロンにアンドゥーリルを見せ挑発する場面が付け加えられている。
サウロンの口は劇場公開版では登場していないが、エクステンデッド・エディションには登場している。ただし原作とは異なり、アラゴルンに首をはねられて死んでいる。
黒門での戦闘開始前に、映画オリジナルのアラゴルンの演説シーンが入っている。また敵に向かっていくアラゴルンに続き、ペレグリン・トゥックと(原作ではミナス・ティリスで療養しているためこの戦いには参加していなかった)メリアドク・ブランディバックが走り、それに続いて他の兵士たちが駆けだしていくという演出にされた。
一つの指輪破壊後は、西軍がいる場所以外は、黒門や歯の塔を含めて地面が崩落しており、サウロンの軍勢はそれに飲み込まれている。
初期の脚本では、この場面でサウロンとアラゴルンの直接対決が行われる予定だったが、実際には原作通りサウロンは登場せず(詳細はサウロンの項目を参照)、撮影済みのサウロンとアラゴルンの戦闘シーンは、編集によってトロルとアラゴルンの戦闘に差し替えられた。
また、モルドールの不毛な荒野の再現のため、このシーンはニュージーランド軍の射爆場で撮影された(その背景に黒門などが合成されている)。そのため撮影前に軍によって入念に不発弾の捜索と除去が行われ、また出演者は事前に、不発弾の形状などについての説明を受けたという。
さらにエキストラにも、ニュージーランド軍の兵士が多数参加している。そのため初めて、軍の整列が綺麗にできたという。だが戦闘シーンでニュージーランド軍の兵士は、「実際には殴らず、殴っているように見せるような演技」を知らず、またヒートアップしたこともあって実際に撮影用小道具の剣などで殴り合ったため、小道具が壊れたり怪我人が多く出たりしたという*6。
『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』における設定†
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