仔犬のローヴァーの冒険

概要

カテゴリー書籍・資料等
スペルRoverandom

解説

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ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンが著し、編集はウェイン・ゴードン・ハモンドとクリスティーナ・スカルによる。

1925年の9月の上旬、トールキンは家族と共にフィリーの地にて休暇を取っていた。ある日、当時4歳のマイケル・トールキンが海岸で犬の玩具をなくしてしまって気を落とした。トールキンが、そんな息子を元気づけるために、なくした玩具と同じ大きさと色の玩具となった仔犬を主人公にした即興の話を語ったのが『仔犬のローヴァーの冒険』の原型である。

原題「ロヴァランダム」とは、主人公の仔犬ローヴァーが月の世界と海底の王国にて同名の仔犬達(月の犬と人魚犬)と友達になった事がきっかけで二度改名した名前のことである。

ストーリー

仔犬のローヴァーは、黒猫のティンカーと共にイギリスに住む老婆に飼われていた。ある日、休暇中の海の魔法使いのアルタクセルクセスといざこざとなる。彼に噛みついたことによって呪いを掛けられ、ローヴァーは生きた鉛の玩具になった。

玩具屋の店先に置かれたローヴァーをとある少年が購入するが、ある日浜辺にて(ローヴァーにとって都合の良いことに)少年がポケットからローヴァーを落とした。元の仔犬になって飼い主達のところに戻るべく、アルタクセルクセスを探す旅を始めた。そしてプサマソス・プサマティデスと出会い、アルタクセルクセス自身にしかこの魔法を解けないと知った事から、砂の魔法使いの助力を以て驚くべき冒険を経験する事となる。

まずはカモメのミュウに乗って、月の男が住まうへ赴いた。月に到着後、アルタクセルクセスはいなかったが、月の男に出会ったり、月の犬のローヴァーと友達になった。月のローヴァーと紛らわしいので、月の男は地上のローヴァーを「ロヴァランダム」と命名する。ロヴァランダムにも月の男の魔法で翼が生え、白い龍の退治や月の裏側への旅行などの危ないことも含めて二匹は月の探検を楽しむ。

その後、(どうやってかは不明だが)月の男が地球上で眠っている子供達を招待したパーティーにて、ローヴァーは自分をなくした少年と再会した。事情を説明するが、少年が眠りから覚めたため、再び離れてしまう。そして、少年がロヴァランダムをなくしたことにひどく悲しんでいる姿を見て、ロヴァランダムは(老婆とティンカーのところに戻る他に)少年に会いたいという想いを抱く。月の男は、アルタクセルクセスが人魚の王の娘と結婚したため海の王国に住んでいる可能性を指摘し、ロヴァランダムの行き先を示唆した。

プサマソスのいる入り江に戻ったミュウとローヴァー。プサマソスは試しに呪いの解除に挑んだが成功せず、やはりアルタクセルクセスへの謝罪と説得が必要だという事になった。そこでプサマソスはウインを呼び、 ローヴァーを海の王国*1へ運んでくれるように頼んだ。

海の王国にて、ローヴァーは無事にアルタクセルクセスに再会した。魔法使いに謝罪をして、仔犬には戻れたが、魔法使いが忙しいということもあり、大きさはそのままだった。落ち込むローヴァーだったが、ウインに励まされ、人魚犬のローヴァーと友達になり、二度目の「ロヴァランダム」へ改名した。アルタクセルクセスも、ロヴァランダムに水かきを与えてくれた。

人魚達と共に過ごす間、ウインは二匹のローヴァーを、世界の両端、エルダマール湾、惑わしの島々等を経た二度の旅行に連れて行ってくれた。だが、二度目の旅から戻るとアルタクセルクセスは機嫌を悪くしていた。ロヴァランダムが起こしてしまったという大海蛇に対処しなければならなかったためだ。

二匹は魔法使いに同行したが、任務は失敗し、大海蛇の件で人魚達はアルタクセルクセスの追放を求めた。アルタクセルクセス夫婦も同意し、引退してロヴァランダムと共にウインに連れられてイギリスに行った。アルタクセルクセスはウインに背中を預けながらタバコを吸った後、仔犬を元の姿に戻した*2。プサマソスの浜辺から遠く離れたその地(パーショア)でロヴァランダムは彼らと別れ、仔犬は自力で老婆とティンカーのところに戻った。

そこで何と少年とも再会した。少年は老婆の孫なのだ。その後、ロヴァランダムは少年と住み、プサマソスともずっと良き友であり続けた。ロヴァランダムは、長い時が過ぎた後にパーショアを訪れた。そこでアルタクセルクセス夫婦が「A.PAM」という名前で移住していた事を知って驚いた。アルタクセルクセスはチョコレートと「PAM's Rock」*3とタバコを売り、夫人は水泳を教えていた。

登場人物

(編集中です。協力をお願いします)

ローヴァー(Rover)/ロヴァランダム(Roverandom)
主人公の仔犬で、アルタクセルクセスとのいざこざから玩具にされてしまう。
老婆
ローヴァーとティンカーの飼い主でイギリスの田舎で農場を営む。
ティンカー(Tinker)
ローヴァーと一緒に飼われている黒猫。
アルタクセルクセス(Artaxerxes)
イラン出身だとされる*4海の魔法使いで、かつては海全体でも有数の大きさを持つ洞窟に住んでいた。その後に人魚の王国に「常駐の海の魔法使い」*5として勤務しており、人魚王の娘と結婚していたが、気むずかしい性格などもあって周りから少し疎まれていた。
少年(Little Boy Two)
店先で売られる玩具のローヴァーを一目見て気に入り、母親に購入してもらう。もう一人の兄弟がいる。*6
プサマソス・プサマティデス(Psamathos Psamathides)
最も古い「プサマティスト(砂の魔法使い)」であり彼らの頭領でもある。ほとんどの時間を小さな湾の砂浜の砂の下で過ごし、面白い事が起きると現れる。主人公のローヴァーの冒険を助けてくれる心強い味方であり、カモメのミュウやウインとも知り合いであり、彼らを呼び出す事もできる。彼の名前の由来は厳密には不明*7
ミュウ(Mew)
プサマソスの友人のカモメで、月の男との間のメッセンジャーでもある。
月の男(The Man in the Moon)
最も偉大な魔法使いとされる存在でありに住む。
月のローヴァー(Rover the Moondog)
翼を持つ月の犬で月の男のペット。
ウイン(Uin)
該当項目を参照。
人魚王(The Mer-King)
マーピープル(人魚やマーマン)達の王でアルタクセルクセス夫人の父。
アルタクセルクセス夫人(Mrs.Artaxerxes)
海の王国の王女であり、アルタクセルクセスと結婚した人魚。
海のローヴァー(Rover the Seadog)
海の王国に住むアルタクセルクセス夫人の愛犬。数千年を生きており、以前は普通の犬として北方人(ヴァイキング)のペットだった。
白い龍(The Great White Dragon)
月の白いたちの祖であり頭領。巨大な白い龍であり、空を飛び火炎をはく。元々は地球のスノードン山に住んで、ブリテン諸島を荒らしていた。また、マーリンの時代には、カエアドラゴンの地にて赤い龍と戦った。月食を起こそうとするため、月の男とは敵同士とされる*8。二匹のローヴァー達は月の冒険の終盤にこの大龍に追いかけられたが、月の男のロケットで龍の白い体に「ぶち」ができ、大龍は退散する。
月の蜘蛛(The Spiders of the Moon)
ローヴァー達が月の裏側などに赴いた際に出会った二匹の蜘蛛。
大海蛇(The Great Sea Serpent)
とてつもなく巨大*9で「ヨルムンガルド」を思わせるようなシーサーペント。*10近海を通るだけで嵐を巻き起こし*11、月の男ですら、この海蛇を封じ込めるだけの魔法を作り出すには50年間もかかるし、過去に一度だけそうしようとしたところ、大陸が一つ沈んでしまったとされる。海蛇にも頑固な部分もあるためか海の王国でも一種の災害のような扱いを受けているが、運の悪いことにこの大海蛇の潜む洞窟は海の王国からそんなに遠くない場所にあった。

他のトールキンによる作品群との関係 

この物語は、『ホビットの冒険』の成功を受けて1937年に発売される予定だったが、実際には1998年の発売となった。だが、この物語がきっかけとなってトールキンは後に『ブリスさん』等の作品群を執筆した。そして、後年の作品におけるキャラクターや中つ国、『農夫ジャイルズの冒険』に通じる設定が見られる。物語自体も、2008年発行版以降の『農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集』に含まれている。

ウェイン・ゴードン・ハモンドとクリスティーナ・スカルは、『仔犬のローヴァーの冒険』と『失われし物語』と『シルマリルの物語』の関連性を挙げ、ウインの存在と小暗い海の地理的描写を、蜘蛛や龍や山々のイラストの類似性と共に収束点の一つとして言及している。

月の白い龍のデザインは、後に『ホビットの冒険』の地図にあるスマウグの図像に転用された。この龍は『サンタ・クロースからの手紙』でも言及されている。

また、月に生える木は後のマッロルンを思わせる描写がなされている。

余談

最初に物語が執筆されてから70年以上も出版が遅れた理由については、ジョンがアレン・アンド・アンウィン社に持ち込んだ際に、レイナー・アンウィン自身は原稿を評価したものの、おそらくは『指輪物語』の出版が控えていた事が関係しているのではないかとされている。

月には数多くの不思議な生き物達が住んでいる。これらの生き物達は、ルイス・キャロルの作品に登場する生き物達に関連付けられている。

月への道すがら、ミュウとローヴァーは世界の端や「犬の島」*12を眼下にした。この島は、イギリスの「アイル・オブ・ドッグズ」と「ドッガーバンク」に関連付けられている。

トールキンは、1922年にもフィリーの地を訪れていたが、あまり良い感想を持っていなかった*13

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