ヴァラール語

概要

カテゴリー言語
スペルVlarin
異訳ヴァラリン
その他の呼び名Lambe Valarinwa(ランベ・ヴァラリンワ)

解説

ヴァラール自身の言語。アマンにいたエルダール達ですら、この言語を知るものはほとんどいなかったとされる。

The War of the Jewels』「Quendi and Eldar」における記述

アイヌルヴァラールマイアール)はアルダにおいてエルの子らの姿を纏う場合が多かったため、彼らは独自の言語を持っていた。
アマンエルダールエルフ)はアイヌルと交流を持ったが、ヴァラール語を話せるまで学んだ者は、たどたどしい話し方の者を含めてもほとんどおらず、一般には僅かな単語や名前が知られたに過ぎない。ヴァラール語に最も習熟したエルダールはフェアノールだったが、後のヴァラールとの対立から、彼はその知識を誰にも教えなかった。
ヴァラール語に関する知識の多くはすでに失われており、残っているもののほとんどは“I Equessi Rúmilo”すなわち“The Saying of Rúmil”(ルーミルの言葉)とされる口伝や、中つ国におけるノルドール族の伝承の大家であるペンゴロズが伝えたものである。しかしそれらの知識も、ヴァラール語としての正確さは怪しいとされる。

“The Saying of Rúmil”曰く、言語に長けたエルダールでもヴァラール語を自分たちの言葉に大きな変更や短縮なしに取り入れるのは難しく、少数の言葉しか取り入れられなかった。なぜならヴァラールの言葉と声は大きくて厳格で、しかもその動きは素早くかつ繊細で、音の真似をするだけでも困難であり、ヴァラール語の単語も長いものが多かった。
これに対しペンゴロズは、言語としてのヴァラール語はエルフ語とは異質であり、エルダールにとって馴染みのない子音が多く含まれ、その響きはエルフの耳には明らかに心地よいものではなかった、としている。

“The Saying of Rúmil”曰く、ヴァラール語の多くの単語や単語の一部はエルフ語に似て、更にそれらは似た意味や同じ意味を持つ。
これに対しペンゴロズは、ヴァラール語は人間の言葉(特にドゥーネダインマラハの族の言葉、つまりアドゥーナイク)に似ているとしている。またドワーフの言葉(クズドゥル)にも似ているとし、ドワーフの伝承通り、彼らのために(ヴァラールの一人である)アウレが作った言語であるならば不思議ではないとしている。

固有名詞

Aȝūlēz
アウレ(Aulë)のこと。意味は不明。
Arǭmēz*1
オロメ(Oromë)のこと。エルダールは「角笛の音」の意味のエルフ語の語根ROMからの連想で、オロメの名を‘horn-blowing’(角笛を吹く), ‘horn-blower’(角笛を吹く者)と解釈したが、実のところそのような意味はない。黎明期のエルフの歴史によると、エルフの前に姿を現した彼が名前を聞かれて明かした名であり、アイヌルヴァラールマイアール)が本名を明かした唯一の例外である*2。だが意味については「オロメ。私だけにそれは与えられる。だから私はオロメだ」*3としか答えなかった。
Aþāraphelūn
‘appointed dwelling’(定められた住処)の意味とされる。クウェンヤに翻訳したものがアルダ(Arda)。Aþāraphelūn Amanaišālメルコールが傷つける前の‘Arda Unmarred’(無傷のアルダ)、Aþāraphelūn Dušamanūðānでメルコールが傷つけた‘Arda Marred’(傷ついたアルダ)の意味。
Aþāraigas
‘appointed heat’(定められた熱)の意味とされる。太陽のこと。
ayanūz
クウェンヤに取り入れられた形がアイヌ(ainu)*4。またainuから派生したクウェンヤの形容詞が‘holy’(聖なる)の意味のaina。
Ezellōχār
エゼッロハール(Ezellohar)のこと。クウェンヤではKoron OiolaireやKorollaireと翻訳される。
Ibrīniðilpathānezel
テルペリオン(Telperion)のこと。
māχananaškād
縮めて改変した語形がマハーナクサール(Máhanaxar)。クウェンヤでRithil-Anamoと訳されることもある。
māχanāz(単数形)、māχanumāz(複数形)
‘Authorities’(権威者)の意味。クウェンヤに翻訳したものがアラタール(Aratar)*5であり、ヴァラールの中で主だった者たちを指す。クウェンヤにはMáhan(単数形)、Máhani(複数形)の形で受け入れられもした。
Mānawenūz
‘Blessed One, One (closest) in accord with Eru’(祝福された者、エルに(最も)沿う者)の意味。クウェンヤに取り込む過程で縮めて改変された形がマンウェ(Manwë)*6
Oš(o)šai
‘spuming, foaming’(泡立ち)の意味とされる。オッセ(Ossë)のこと。
næχærra
ルーミルによって記録された、オロメの乗馬であるナハル(Nahar)のヴァラール語名。ペンゴロズによると、エルフがオロメに乗馬の名とその意味を尋ねた時、オロメは「ナハル、彼の駆けんとする際の鳴き声からそう呼ばれる」*7と答えたという。
Phanaikelūth
‘bright mirror’(明るい鏡)の意味とされる。のこと。
Tulukhastāz
‘the golden-haired’(金髪の者)の意味とされる。トゥルカス(Tulkas)のこと。
Tulukhedelgorūs
ラウレリン(Laurelin)のこと。
Ul(l)ubōz
クウェンヤに取り込む過程で縮めて改変された語形がウルモ(Ulmo)。Ulmoの名は「注ぎ出す(pour out)」の意味のエルフ語の語根ULとの連想から、‘the Pourer’(注ぐ者)の意味に解釈された。

単語

akašān
‘He says’(彼が言う)の意味。彼とはエルのこと。クウェンヤに取り入れられた形はaxanで‘law, rule, commandment’(法、掟、戒律)の意味。
(a)šata
‘hair of head’(頭髪)。Tulukhastāzの名に含まれる。
aþāra
‘appointed’(定められた)の意味。クウェンヤに取り入れられた形はasarで‘fixed time, festival’(定刻、祭)の意味。
delgumā
‘dome’(丸屋根)の意味。特にヴァリノールの上のDome of Varda(ヴァルダの蒼穹)を指す。だがタニクウェティルにあるイルマリンの館の丸屋根にも使われる。クウェンヤに取り入れられた形はtellumaであり、ガラドリエルの哀歌に含まれる。
iniðil
‘lily’(百合)または他の大きな花(単数形)のこと。クウェンヤに取り入れられた形はindil。
ithīr
‘light’(光)。
maχallām
おそらくマーハナクサル(Máhanaxar)のヴァラールの座席(単数形)のこと。クウェンヤに取り入れられた形はmahalmaで、‘throne’(玉座)の意味。
māχan
‘authority, authoritative decision’(権威、権威ある決定)の意味とされ、上記のmaχallāmに要素として含む。クウェンヤではMáhanの形で取り入れられ、上記のmāχanāzのようにアラタールの一人を指す。
mirubhōze-
本来はもっと長い語とされる。‘wine’(果実酒)の意味のmirub-を要素として含む。クウェンヤに取り入れた形がミルヴォーレ(miruvóre)、シンダリンではミルヴォール(miruvor)となる。
šebeth
‘air’(空気)。
tulukha(n)
‘yellow’(黄色)。Tulukhastāzの名に含まれる*8
ul(l)u
‘water’(水)。Ul(l)ubōzの名に含まれる。
uruš, rušur
‘fire’(火)。

その他

アマン(Aman)、アンバール(Ambar)*9アタニ(Atani)、エア(Eä)、エル(Eru)、エステ(Este)、イルモ(Irmo)、カラキルヤン(Kalakiryan)、メルコール(Melkor)、ペローリ(Pelóri)、ナーモ(Námo)、タニクウェティル(Taniquetil)、ヴァラール(Valar)、ヴァルダ(Varda)はヴァラール語からの翻訳名であるとされる。ただしヴァラール語の原語は不明*10

ペンゴロズ曰くアヴァサール(Avathar)、ネッサ(Nessa)、ウイネン(Uinen)はエルフ語の名ではない。ネッサとウイネンのそれぞれの夫の名(トゥルカスオッセ)はヴァラール語から取り込まれたものなので、彼女たちの名も同様かもしれないとしている。*11

ヴァンヤール族はノルドール族よりも多くの言葉をヴァラール語から取り入れたといわれる。古い詩の中にみられる、ヴァンヤール族のみが用いた色の名として、緑がezelまたはezella、黄がtulka、赤がnasar、青がulbanの四つが挙げられている。

ノルドール族のアマンからの逃走に関する古い伝説の一つによると、ノルドール族の視界からヴァリノールの山々がアラマンの霧で隠れた時、フェアノールは拒絶の仕草として両手を上げ「私は行く。光の中でも闇の中でも再び見ることはないぞ、Dahanigwishtilgūn」*12と叫んだという。Dahanigwishtilgūn(別伝ではdāhan-igwiš-telgūn)は謎の言葉だが、タニクウェティル(Taniquetil)のことではないかともいわれる。

外部リンク

コメント

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  • ヴァラール語って、何語が元になっているのでしょうか?
    言語に長けたエルフ達でも理解するのは難しいと聞きましたが。 -- 2023-12-10 (日) 13:05:51
    • 不明です。
      人によってはアッカド語に似ていると感じる人もいますが、トールキンはインスピレーション元を示しておらず、言語構造から推測しようにも手がかりが少なすぎるため、明らかになっていません。
      ただこの記事にも述べられているように、トールキンはヴァラール語はアドゥナイクとクズドゥルに似ていると述べており、その二つはどちらもヘブライ語が元になっています。だとすれば同じセム語派であるアッカド語がヴァラール語の元になっていたとしても不思議はありません。
      エルフ語とヴァラール語は互いに「語派」が全く違うと言われているため、それがエルフには習得が困難であった理由の一つだと思われます(エルフ語はインド=ヨーロッパ語派の言語が元になっている) -- 2023-12-10 (日) 13:48:44
      • トールキンってオリエント地域の歴史文化についてどれくらい関心があったのかな。丁度考古学研究の飛躍期で、ツタンカーメンとか歴史的大発見が相次いで世間でもブームになった時期に学者のキャリアをスタートさせてるわけだけど。 -- 2023-12-10 (日) 21:33:27
        • オリエントは旧約聖書の舞台でありユダヤ・キリスト教の発祥の地ですから、トールキンに限らずヨーロッパではずっと学問的に重要な意味を持った地方ですよ。近代のツタンカーメンブームはむしろかなり後発のトレンドで、ヨーロッパには数世紀、下手したら数千年に渡るオリエント学の伝統がずっとある。
          トールキンが抱いていた関心も、ブームに因むものではなく伝統の延長線上にあるものだったでしょう。 -- 2023-12-10 (日) 22:55:50
        • でもインド以東の所謂極東にはまるで関心無さそうだよね。少なくとも作品からは殆んど伺えない。当時の一般欧米市民と同じ様に中国=なんか凄い術を使うびっくり人間・日本=ちょん髷侍、程度にしか思ってなくても不思議じゃない。 -- 2023-12-15 (金) 13:41:30
          • 作品に出てこないからといって関心がないと決めつけるのは早計でしょう。作品は別に作者の全興味を反映したものではない。
            中つ国に極東が出てこないのは、この物語が「ユーラシアの西の果てに住む自由の民の神話」という設定だからで、だから神話の主体にとって馴染みがない遠隔の地理や歴史は意図的に空白にされている。
            極東がそうであるのと同じ理由で南方も空白にされていますが、トールキンは自己の生誕の地として南アフリカに思い入れがあったので、空白=関心がない、という訳ではないのはこの一例を持ってしても事実でないことがわかる。 -- 2023-12-15 (金) 17:56:52
          • トールキンが日本に言及した例が少ないのは事実ですが、だからといって全く認識外だったとかいう事実もない。
            たとえば日本への原爆投下には即座にクリストファへ手紙を宛ててで恐ろしいことだと反応している。
            そもそも『ホビットの冒険』の日本語訳が出た時にはまだ存命だったので普通に日本の出版社や訳者と交流がありました。瀬田貞二に手紙で「自分には日本語の知識がないので訳についてはコメントできないが、寺島龍一の挿絵は最高に素晴らしい」と述べたことは有名なエピソードですし、イギリスでインタビューを受けた際の写真には岩波書店の『ホビットの冒険』の単行本を手にしている姿が写っていたりする。 -- 2023-12-15 (金) 18:06:44
          • っていうか「当時の一般欧米人の認識は日本=ちょん髷侍、程度」って認識がまずもう乱暴すぎる。
            日本が国際社会に認知されてから何年経ってたと思ってるんですか・・・。日本と英国はWW1では同盟国、WW2では敵国関係でめっちゃ関わりがあったし、日本の動静は欧米でも連日ニュースになったりして普通に一般人も情報に接してたんですが・・・。
            なんというか、世の中や他人の心中に対する認識があまりに雑すぎる。 -- 2023-12-15 (金) 18:25:22
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