ミナス・モルグル

概要

カテゴリー地名
スペルMinas Morgul
その他の呼び名じゅの塔(Tower of Sorcery)
死の都(Dead City)
ミナス・イシル(Minas Ithil)
月の塔(Tower of the Moon, Moontower)
月の出の塔(Tower of the Rising Moon)

解説

シンダリンで「呪魔の塔」の意。エフェル・ドゥーアスモルグル谷にある幽鬼の都。
元々は「の塔」を意味するミナス・イシルという名であり、オスギリアスの東を防衛するため、西のミナス・アノール(「太陽の塔」)と対になって築かれた砦だった。この膝元がイシリエンである。

その周囲は空も地もすっかり真っ暗でしたが、そこだけは光で照らされていました。といっても昔のミナス・イシル、すなわち月の塔が山々の谷あいに美しく輝いていたころ、大理石の壁から流れ出ていた閉じこめられた月の光ではありません。緩慢な月食に病む月の光よりも実際のところもっとおぼろな光でした。いやなにおいを放つ腐敗物の光、死屍の燐光のようにちらちらとゆらぎ、風になびいて、何物をも照らさない光なのです。城壁にも塔にも窓が見えました。内なる虚無に向かって開いている無数の黒々とした穴のようです。しかし塔の石積みの一番上の層はゆっくりと回転するのでした。まず一方へそれから反対の方向へと。閣を睨めつける巨大な幽霊の頭のように。*1

ミナス・イシルの名で呼ばれた時代

「南から伝わった話だよ。」ゴクリは再び続けました。「輝く目をした背の高い人間たちのことよ、石の丘のようなかれらのやしきのことよ。それからかれらの王の銀の王冠と、かれの白の木のことよ。不思議な話ばかりだったのよ。かれらはとても高い塔を建てた。その一つは銀白色で、塔の中には月のような石があった。そして塔の周りに大きな白い城壁があった。ああそうよ、月の塔についての話はたくさんあったよ。」*2

ミナス・イシルは元来ゴンドールの建国王の一人イシルドゥルの居城であり、オスギリアス東部を防衛し、モルドールへの威嚇のために築かれた砦だった。白の木も当初はここに植えられていた。
だが第二紀3429年、ヌーメノールの没落を逃れてモルドールへ戻っていたサウロンとの間で戦争が勃発。ミナス・イシルは攻撃を受けて陥落し、白の木も焼かれる。イシルドゥルは妻子と共に木の実生を携えて脱出し、アルノールの父エレンディルの許へ急を知らせに赴いた。
最後の同盟の戦いではゴンドール側に奪回され、アラタンキルヨンらが防衛していた。戦いが終わった後の第三紀2年、イシルドゥルは合戦で命を落とした弟アナーリオンを偲んで白の木の実生を、元あったこのミナス・イシルから、アナーリオンの居城であったミナス・アノールに移植する。

その後、ミナス・イシルをはじめとする国境の砦群はモルドールを監視する役目を担った。しかし第三紀1636年、ゴンドールで猛威を振るった悪疫のために、国境の砦群はほとんどが打ち捨てられ、無防備になる。ゴンドールの王宮はオスギリアスからミナス・アノールに移され、モルドールとの国境は警備手薄なまま放置されることになった。
そのためナズグールをはじめとした悪しき者達が再び密かにモルドールに集結するようになった。

第三紀2000年、アングマールの滅亡から逃れた魔王は配下のナズグール達を率い、キリス・ウンゴルを越えてモルドールから出撃した。彼らはミナス・イシルを包囲攻撃の末2002年に陥落させて占領し、イシルのパランティールを奪った。

ミナス・モルグルの名で呼ばれるようになった時代

「かれらはミナス・イシルを奪い、そこに棲まって、そこと周りの谷間をことごとく荒廃に帰せしめた。そこは空虚のように見えて、そうではなかった。なぜなら崩れ落ちた城壁の中には姿なき恐怖が棲んでいたからである。九人の王たちがそこにいた。」*3

ナズグールの手に落ちたミナス・イシルは甚だしい恐怖の場所へと変貌し、ミナス・モルグルと呼ばれるようになった(その恐怖に対峙するミナス・アノールはミナス・ティリスに改称された)。イシルの石が敵の手に落ちたため、アノールの石が使われることもなくなり、パランティールにまつわる伝承も公からは忘れ去られていった。

第三紀2050年、魔王の挑発に乗り、最後のゴンドールエアルヌルがこの地に向かって消息を断つ。罠にかけられたエアルヌルはミナス・モルグルへ連行され、そこで責め苛まされて非業の最期を遂げたものとゴンドールでは考えられた。
以後、ナズグールはミナス・モルグルを居城とし、警戒的平和の間はそこに屛息して、目に見える姿で外に現れることは長らくなかった。

しかし大いなる年、再発見された一つの指輪の追跡のため、ついにナズグールは黒の乗手の外見を身にまとってミナス・モルグルから出撃した。
指輪戦争が始まると、バラド=ドゥールから赤い稲妻が、それに呼応してミナス・モルグルからは鉛色の稲妻がそれぞれ開戦の烽火として空に放たれた。キリス・ウンゴルへ向かう途上、指輪所持者たちはミナス・モルグルの城門から軍勢を率いて出撃していく魔王の姿を目撃している。

ペレンノール野の合戦によってこの地から出撃した軍勢は殲滅されたが、ミナス・モルグルとその谷には依然として姿なき恐怖が潜み続けていた。そのため黒門に向かう途中の西軍はここに立ち寄ったものの足を踏み入れることはせず、ガンダルフアラゴルンらによって、モルグルドゥインに架かる橋は落とされ、死の花々が咲く原には火が放たれた。
サウロンの没落後も、この地に植え付けられた恐怖があまりにも大きなものであったため、ミナス・イシルとして再建されることはなく、エレッサール王(アラゴルン)によって徹底的な破壊が命じられた。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定

フロド達がこの都市の前を通過する場面などが再現されている。
一方、西軍黒門の戦いに向かうときのミナス・モルグルの描写は省略されている。

画像

『ロード・オブ・ザ・リング』におけるミナス・モルグル 『ロード・オブ・ザ・リング』におけるミナス・モルグル

Iron Crown Enterprises』による設定

ミナス・ティリスが円周状に重なったら層をジグザグに登る構造なのに対して、ミナス・イシルは中心部の城塞に向けて螺旋を描くように城壁と道が築かれている。

Kin Strife Minas Ithil Map.jpg

ゲーム『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』における設定

Update25にて、サウロン滅亡後のミナス・モルグルを探索可能となった。

『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』におけるミナス・モルグル 『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』におけるミナス・モルグル 『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』におけるミナス・モルグルの門 『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』におけるミナス・モルグル

ゲーム『シャドウ・オブ・ウォー』における設定

陥落する前の往時のミナス・イシルの町並みが再現されている。塔のある城塞を中心とした三つの層に分かれており、市街地には円形の劇場などがある。原作で街が陥落したのは第三紀2002年だが、本作では指輪戦争の直前に時系列が変更されている。

物語の序盤に訪れるエリアで、モルドール軍の攻撃に晒されている。市街地の大部分が制圧され、将軍カスタミルの率いるゴンドール軍の守備隊は最上層部に籠城して町の奪回を試みている。

コメント

最新の6件を表示しています。 コメントページを参照

  • ミナス=イシルが陥落したのは、かの英主エアルニル二世の時代。ここで語られているように、彼の叡知と戦略眼からして、イシル救援を行わなかった或いは行う意思がなかったとは考えがたい。しかしながら、思い出してほしいのは彼はアルセダイン救援にも、約束しながら間に合わなかったという点。これは、彼の無能を意味するのでは勿論なく、彼ほどの有能な君主であろうと迂闊には動けないほどゴンドールの防衛力が限界に来ていた、もしくは外部には漏らせないほどの重大かつ緊急、極秘の内部危機が起きていた可能性はないだろうか。彼ほどの英明かつ果敢な君主にしてはアルセダインとミナス=イシル救援失敗はあまりに不思議すぎる。「動きたくてもしかるべき時期に動けなかった、しかもその理由がゴンドールの国威を破壊しかねないほどの恥事だった」ってことはないかな。 -- 2020-09-07 (月) 22:49:33
    • アルセダインへの救援失敗が、第二次大戦時にワルシャワ蜂起時の赤軍みたいに「間に合えたはずだったのにわざと遅延して見殺しした」だったらどうだろうか。これなら「ゴンドールの国威を破壊しかねないほどの恥事」に当たるだろうし、それが流出しかけて宮廷クーデター数歩手前の状態になっていたのかも。 -- 2021-01-12 (火) 11:20:57
      • あーなるほど。ティベリウスのゲルマニア撤退のようなものか。※ワルシャワのスターリンによる蜂起煽動+見殺しコンボ的なものではなく、合理的な判断だったと思いたい。 継続的な国防のための理性的な判断、戦略眼に叶った戦線整理なんだけど国内のタカ派や市民たちからしたら到底受け入れられないという(エアルニル二世の高等な戦略眼など理解できないだろうし)。エアルニル二世自身が国難への戦勝によって即位された経緯からしても、それは彼にとって苦渋の判断だったのかもしれないな。 -- 2021-01-12 (火) 13:02:13
  • 個人的な意見だけど、緩慢な月食、が誤訳のようだ。月が雲に翳らされて薄ぼんやりとしている様が正しいと思う。映像で言うなら、映画ホビット第一部の裂け谷のシーンの煌々とした月がイシルの光で、その直後の風見が丘や映画第三部の冒頭の湖の町やドル・グルドゥアのような不鮮明な月光がモルグルの光。 -- 2020-11-11 (水) 21:51:36
    • the moon ailing in some slow eclipseなので「緩慢な月食に病む」で正しい。月食は年に数回起こることも度々なありふれた現象です。ゆっくりとした蝕で月の光は弱まると共に色も常とは変わっていく、それを「病む」と表現しているわけです。 -- 2020-11-11 (水) 22:17:37
      • そういえば確か、月食は月の裏側に住むドラゴンが原因で起きるんでしたっけ。 -- 2020-11-11 (水) 22:50:52
        • それは仔犬のローヴァーの冒険じゃない? -- 2020-11-11 (水) 23:41:17
      • 皆既月食(皆既食)は、通常は、地球の大気によって屈折した赤い光がわずかに入り込んでいるため、しばしば皆既月食中の月は「赤銅色」と表現されるような「赤黒い色」で見られます。【国立天文台HPより抜粋】 ので、原作描写に忠実と評判のLOTRのような青白くぼんやりとした鬼火や映画の様な感じにはならないと思います。 -- 2020-11-12 (木) 15:09:16
        • 「月食に病む月の光のようにおぼろ」なんであって、月食のような色ではないですよ -- 2020-11-12 (木) 18:28:13
        • 私は色は重要だと思います。死の花々の色、死者の沼地の遺体の皮膚と灯の色、ナズグルの幽体の色、モルグルの塔や城壁や狼煙の色、これら全部paleであると考えています。幽霊やセントエルモの火を思わせる病的な青白い色です。だからこの場面で、読者に月食の一般的な色合いである赤銅色のイメージをわざわざ持ってくるとは思えないです。 -- 2020-11-12 (木) 19:38:52
        • 「しばしば見られる」のであって常に赤銅色ではないですし、肉眼なら尚更。月食=赤銅色というイメージはないです。そもそも原文にはっきり月食と書いてあるのでそこに疑問を呈しても仕方ないですね -- 2020-11-12 (木) 21:41:35
      • ホーンテッド的なバッドムーンのことを言っているとしたら、月食だと変じゃない?欧州人の持つ冬の霧の寒い夜のおぞましい月光の雰囲気が台無しになる。 -- 2020-12-31 (木) 22:02:17
      • ailing paler 病気で青ざめた顔色よりさらに酷い・嫌な状態、つまり死者の色合いのことであり、土気じみた緑色(原作邦訳の仮死状態のフロドの顔色)を意味しているとみるのが正解であると思われる。 『green‐eyedはなぜ「嫉妬」するのか:シェイクスピアの語形成法解明への試み』で検索すれば参考にした論文が読めるのでぜひどうぞ。 -- 2021-03-13 (土) 20:53:49
  • 良くも悪くもモルドールがあってこその戦略拠点なので、再統一された王国が発展しようと打ち捨てられたままなんだろうな。復興する意味が微塵もない、ここまで無価値な拠点も珍しい。 -- 2021-01-12 (火) 08:04:27
    • 戦争博物館にでも改装するか(笑)。最終決戦場だった黒門の方がふさわしいだろうけど、あっちはモルドールの崩壊に巻き込まれて原型とどめてなさそうだし。 -- 2021-03-14 (日) 13:57:21
      • お化けが出たらこまるじゃないか。飾ってた剣が人喰いサーベルになったり、鎧がアックスアーマーになったら駆除するのが面倒すぎ。トル=イン=ガウアホスみたいに呪いを解く→瓦礫といこうではないか。 -- 2021-03-14 (日) 15:08:55
      • 戦争博物館や戦勝記念館、どう考えてもそれくらいしか活用法ないよね。
        交通の便...悪い 特産品...なし(あるにはあるが喜ばれるものにあらず) 人口...なし 経済的特性または産業...なし 始末しなきゃならないリスク...沢山
        冷静になればなるほどこりゃまた酷い土地だ。 -- 2021-03-14 (日) 15:45:02
    • 敢えて言えばモルドール跡を越えて来る東夷やハンド、ヌアネンの解放奴隷との監視兼交易所との中継地ぐらいですかね… -- 2021-03-14 (日) 15:58:42
    • 自分たちの歴史でも自然発生的でない集落特に軍事拠点はその多くが最終的には消滅するか、一部はそれ由来の町になる事で生き永らえますが後者が一切期待できないここは自然に朽ちるか破壊されるかでしょうね。
      多くの資源を費やしても全くリターンが期待できないですから、それなら他の国土の復興や発展に国力を振り分けたほうが断然よいですし。 -- 2021-03-14 (日) 19:59:35
  • 「山脈を防衛線にすべきではない」「国境線は河川に敷くべし」と行動したのはカエサルですが、結果的にゴンドールの対モルドール防衛戦略の失敗を見るとそれがことごとく当たっていてビックリする。
    ・山脈向こうからの襲撃を予測できない
    ・山脈の防衛拠点は襲われたり奪われても救援や奪取が困難
    ・奪われた拠点は敵の侵攻拠点になる
    というリスクは仮想世界でもしっかり再現されている。
    実際ゴンドールはアンドウィン防衛は最後の最後ギリギリまでは果たせているし。 -- 2022-05-21 (土) 09:37:07
    • しかしヨーロッパ、アジアの国境線は山脈に沿って形成されている国境線が多いですよ -- 2022-05-21 (土) 12:48:18
      • それと上で語った「防衛のしやすさ」は別の話題ですよ?
        「防衛しやすい地形」が国境線に常になるわけありません。
        守りやすさは敵からしたら攻めにくい地形でしかないわけですから。
        だから自然国境線は現代に至るまでのこっているわけです。 -- 2022-05-21 (土) 13:18:42
      • どちらかというと「統治しやすさ」の問題ですね。山の向こうの土地まで管理するのは色々と大変 -- 2022-05-21 (土) 20:50:20
      • 上の意見は『山脈を防衛線にする事の危うさ』であって『山脈は国境線にならない』なんてどこにも書かれてないぞ。
        むしろ山脈のような自然国境線はごく自然に成立しやすいが故に、カエサルのような卓越した戦略家からしたら警鐘を鳴らしたくなるんだろう。 -- 2022-05-23 (月) 08:20:27
      • ①川や海の水は穢されていないかぎりはウルモの力によってオークに対する忌避効果があること
        ②オークは場合によって山そのものに洞窟を掘って拠点にできること(サンゴロドリム火山やアングバンド周辺、キリス・ウンゴルなど最たる例)
        というものがあるため史実よりも山と河の戦略的価値の差が大きいように見える -- 2022-05-23 (月) 19:41:12
  • 木の髭はトロルは暗黒時代に作られたエントのまがい物とされていますが、トロルを作ったのってモルゴスですよね? -- 2022-12-20 (火) 17:56:40
    • なぜミナス・モルグルの記事でそれを聞いているのかわかりませんが……。木の鬚は「大暗黒の時代に作られた生き物は日の光に弱い」と言ったのです。この大暗黒の時代とはウトゥムノに拠ったモルゴスが中つ国を支配していた時代を指します。 -- 2022-12-20 (火) 18:05:37
  • 再統一後のイシリエンの防衛は旧ミナスイシル破壊後はどこが担ったのだろうか?
    エミンアルネンの大公領に防衛用の砦でもあるのかな? -- 2023-01-18 (水) 21:32:38
    • オスギリアスもしくはカイア•アンドロスだと思います。 -- 2023-01-28 (土) 11:53:48
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