フェアノール

概要

カテゴリー人名
スペルFëanor
その他の呼び名クルフィンウェ(Curufinwë)、フェアナーロ(Fëanáro)
種族エルフノルドール
性別
生没年二つの木の時代(1169)~†(1497)年
フィンウェ(父)、ミーリエル(母)
兄弟フィンディスフィンゴルフィンイーリメフィナルフィン(異母妹弟)
配偶者ネアダネル
マエズロスマグロールケレゴルムカランシルクルフィンアムロドアムラス(息子)

解説

ノルドール上級王
初代
フィンウェ
?~1495
第2代
フェアノール
二つの木の時代1495~1497年
第3代
フィンゴルフィン
第一紀5~456

ノルドール上級王フィンウェミーリエルの長子で、フィンゴルフィンフィナルフィンの異母兄。妻のネアダネルとの間にマエズロスマグロールケレゴルムカランシルクルフィンアムロドアムラス七人の息子がある。
ノルドール族の史上もっとも技芸に優れた者と言われ、フェアノール文字を考案し、パランティールも彼の作と言われる。わけても大宝玉シルマリルにはアルダの運命が閉じ込められていると言われ、上古宝玉戦争の中心となった。

かれは背が高く、見目形麗しく、支配する力を持っていた。目は射るように鋭く輝き、髪は黒々としていた。目的とするものがあれば、何であれ、断固として熱心にこれを追求した。助言によってかれの行動を変え得た者は数えるほどであり、力によって変え得た者は皆無である。かれは当時にあっても、あるいはそれ以後も、全ノルドール族中、最もすぐれた洞察力と、最も熟練した技の持ち主とされた。*1

生い立ちからシルマリルの制作まで

フェアノールが誕生して間もなく、彼を産むことで心身共に消耗した母ミーリエルは死去した。妻を失った父フィンウェはフェアノールを溺愛したが、フェアノールが青年期にさしかかった頃に旧友イングウェの近親者であったインディスと再婚した。
フェアノールは父の再婚を喜ばなかった。フィンウェとインディスの息子であるフィンゴルフィンフィナルフィンにもあまり好意を抱かず、彼らとは離れて暮らした。

フェアノール自身は、青年期のはじめにネアダネルと結婚し、彼女の父マフタンから鍛冶と石工の技を学んだ。
この時期、フェアノールは自らの知識や技術の追求に没頭し、フェアノール文字や、天然のものよりも強い光を発する人工の宝石マンウェの目のように遠方の物事を見ることができる石といった多くの偉大な発明を成した。

心身ともに成熟し、持てる能力を完全に使いこなすようになったフェアノールは、彼の最高傑作であるシルマリルを制作するにいたる。
この三つの宝玉にはヴァリノール二つの木の光が生きたまま込められていた。彼のシルマリル制作には、近づきつつある運命の予感があったのだとも言われている。結局はシルマリルの中にのみ、ヴァリノールの光が不滅のまま保たれることになったからである。
シルマリルを目にした者は誰もが驚嘆と喜びに満たされた。しかしフェアノールの心は自ら作ったこの作品に堅く縛り付けられており、やがてフェアノールは自尊心から、シルマリルの輝きを自分と父、そして自分の息子たち以外の者に見せることを惜しむようになっていった。

フィンウェ一家の不和

やがてフェアノールとフィンゴルフィンは、己の自尊心からそれぞれの利益と財産を守るために汲々とするようになる。
すると、シルマリルの輝きを渇望し、さらにヴァラールエルフの仲を離間させたいと考えていたメルコールは、ノルドール族の間に未踏の中つ国への憧憬を植え付け、さらにフェアノールとフィンゴルフィンの対立を煽る風説を流した。
フェアノール自身はメルコールの言葉に直接耳を傾けたことはなかったが、同族間で交わされる流言は彼の心に火を付けた。フェアノールはヴァラールへの叛逆と中つ国への帰還の意志を公然と口にし、そのためティリオンは騒然となる。そしてついに、調停のためフィンウェが設けた席上で、フェアノールがフィンゴルフィンに剣を向ける事件が発生する。

そのためフェアノールは審判の輪に召し出されてヴァラールの前で証言することになったが、この調査によりメルコールの悪意が明らかとなる。だがフェアノールは無罪とはされず、同族に剣を向けて平和を乱した罪により、12年の間ティリオンを離れることを命じられた。フェアノールはティリオンを離れ、息子達と共にフォルメノスに住んだ。フェアノールを愛するフィンウェも彼と行動を共にした。

やがてフォルメノスで謹慎中のフェアノールのもとに、突然メルコールが姿を現わす。メルコールは自らの“予言”が実現したことを語り、さらなるヴァラールへの反抗を促そうとしたが、フェアノールは友情を装う彼の仮面の裏にシルマリルへの抑えがたい渇望があることを見抜く。恐怖に駆られながらも、フェアノールはメルコールを罵ってその鼻先で扉を閉ざし、彼を追い払った。

メルコールによるシルマリル略奪とフィンウェ殺害、フェアノールによるノルドール扇動

マンウェタニクウェティルで祝宴を開き、ノルドールの間にある不和を取り除こうとする。フェアノールは渋々ながら出席し、その席上でフィンゴルフィンが誓った「兄(フェアノール)を赦し、一切の不満を忘れて、彼が先に立って導くなら自分はその後についていく」という言葉を一応は受け入れ、手を取って和解した。
だがこの時二つの木が、メルコールウンゴリアントによって枯死させられ、ヴァリノールが暗闇に襲われる。ヤヴァンナは、シルマリルに保存された光を取り出せば二つの木を蘇生させることができると訴えたが、フェアノールはシルマリルを引き渡すことを拒否する。さらにフォルメノスより、フィンウェがメルコールに殺され、シルマリルが奪われたという報せがもたらされた。
父フィンウェのことを何よりも愛していたフェアノールは、メルコールを「モルゴス」と呼んで呪い、暗闇に走り去った。

やがて不意にティリオンに現れたフェアノールは、ノルドール族を前に大演説を行い、モルゴスへの復讐とシルマリルの奪還を訴え、ヴァラールの束縛から逃れて自由を得るために中つ国へと帰還するよう扇動した。彼の言葉には非常に強い力がこもっていたが、その多くはモルゴスがかつて語った虚言に発することであった。

フェアノールの誓言 (Oath of Fëanor)

この時ティリオンにおいて、フェアノールと彼の七人の息子たちは、相手が誰であろうとシルマリルを持つ者を、復讐と憎悪をもって追跡するという誓言を立てた。

そこでフェアノールは、聞くだに恐ろしい誓言を立てた。かれの七人の息子たちも直ちにかれの傍らにすっくと立って、共に全く同じ誓言を立てた。かれらの抜き身の剣は、松明の明かりに血のように赤く照り映えた。たとえイルーヴァタールの御名によろうと、何人なんぴともこれを破ること、あるいは取り消すことのできぬ誓言を立てた。これを守らぬようなことがあれば常闇とこやみに呑まるべしと言い、マンウェの名を呼んで証人になり給えと言い、ついでヴァルダの名を、そしてタニクウェティルの聖なる山を証人に頼み、ヴァラであれ、鬼神であれ、エルフであれ、まだ生まれておらぬ人間であれ、あるいは、偉大なると卑小なるとを問わず、善なると悪なるとを問わず、世の終わりの日まで時が世界にもたらすべきいかなる被造物であれ、かれらからシルマリルの一つを奪う者、手許に置く者、所有する者は誰であれ、この世の果てまで、復讐と憎悪をもって追跡するであろうと誓った。
かくの如く、マエズロスマグロールケレゴルムクルフィンカランシルアムロドアムラスの七人のノルドールの王子たちは、口に出して誓った。この恐るべき言葉を聞いて怯む者は多かった。なぜなら、かく誓われた以上は、善悪を問わず、いかなる誓言であれ、これを破ることはならず、その誓言は世界の果てまで、誓言を守る者をも破る者をも追いかけていくであろうからだ。*2

この誓言はフェアノールの死後もその七人の息子たちを呪縛し続け、ついには彼らの身を滅ぼすことになる。

同族殺害とマンドスの呪い

こうしてフェアノールは、アマンノルドール族の九割もの賛同者を得て、中つ国への進軍を開始した。フェアノールはアルクウァロンデに向かい、テレリを説得して彼らの船で大海を渡ろうと考える。だがフェアノールは、テレリやその王であるオルウェを説得することができなかった。そこでフェアノールは自らの軍勢を集めて力ずくで船を奪い取ろうとし、それを阻止しようとするテレリとの戦闘に発展する。これがエルフによる最初の同族殺害である。
双方に多数の死者を出した末に、装備に勝るノルドール軍が勝利を収め、テレリの船は強奪された。ノルドールは陸路と海路に分かれアラマンに至るが、その地でかれらは同族殺害の咎によりマンドスの呪いを宣告される。
だがフェアノールと息子たちはあくまで進軍を取りやめようとしなかった。フィナルフィンは進軍をやめて引き返したが、フェアノールへの誓いに縛られていたフィンゴルフィンと、フィンゴルフィンの息子たちを見捨てられなかったフィナルフィンの子供たちも進軍を続けざるをえなかった。

しかしアラマンからヘルカラクセを横断して一度に中つ国に向かうには船の数が少なく、かといって船を使わずにヘルカラクセを横断することは無謀にすぎた。さらに時間が経つにつれ、ノルドールの中からフェアノールに対する不満が上がるようになる。
そこでフェアノールは、自らに忠実な者だけを先に船に乗せて船出し、フィンゴルフィン達をアラマンに置き去りにする。中つ国のランモスに上陸したフェアノールは、船をアラマンに返すことをせずにロスガールで燃やしてしまった。
このノルドール同士の裏切りが、同族殺害と、ノルドール族に背負わされた運命から生じた最初の果実であった。

フェアノールの死

フェアノールの軍勢はヒスルムに入り、ミスリムで野営の準備を始める。一方、ロスガールで焼かれた船の炎を見たモルゴスの軍勢は、まだ準備が整っていないフェアノールの軍勢を襲撃した(ダゴール=ヌイン=ギリアス)。
フェアノールの軍勢は数において劣り、不意をつかれたにも関わらず速やかに勝利を収めた。だがフェアノール自身は怒りのあまり味方から突出して敵に包囲され、さらにバルログ達がやって来た。ドル・ダエデロスの境界で孤立無援となったフェアノールは火に包まれ、多くの傷を負いながらも長い間抵抗していたが、とうとうバルログの首領ゴスモグによって致命傷を負った。
フェアノールは追い付いてきた息子たちによって救出された後、ミスリムに引き揚げる途中のエイセル・シリオンに近いエレド・ウェスリンの山腹で、自らの死期を悟って足を止めさせた。サンゴロドリムの城砦を目にしたフェアノールは、死を前にした予見の力により、ノルドール族のいかなる力をもってしてもそれを覆すには至らないことを悟ったが、そのことを口に出そうとはせず、モルゴスの名を三度罵り、息子たちに誓言の死守と父の仇を討つことを託して死んだ。彼の魂は火のように燃え、自らの肉体を灰にして飛び去ったという。

そしてかれは死んだが、埋葬もされず、墓も造られなかった。なぜなら、かれの霊魂は火のように激しく燃えていたので、それが肉体を飛び去る時、肉体は燃えて灰となり、煙のように運び去られたからである。かれと似た者は二度と再びアルダには現われず、かれの霊魂もマンドスの館を離れることはなかった。
ノルドール族の最強の者は、かくの如くして逝った。かれの所為から、かれらノルドール族の最も世に知られる功業も、痛恨極まりない悲しみも生じたのである。*3

フェアノール王家 (House of Fëanor)

フェアノールとその息子たちの家系はフェアノール王家と呼ばれた。本来はノルドール上級王位の継承権もフィンウェの長子であるフェアノールの家系に属していたが、フェアノールの死後、その長男であるマエズロスフィンゴルフィンの長男で従兄弟であるフィンゴンに救出されてサンゴロドリムから生還した際、アラマンでの裏切りの謝罪として王位継承権を放棄してフィンゴルフィンの家系へと譲渡した。
これによってフェアノールの家系はマンドスの宣告に予告された通り「奪われたる者たち(the Dispossessed)」と呼ばれるようになった。これはノルドールの王権とシルマリルを二つながら喪失したことによるという。

フェアノールの息子たちはいずれもフェアノールの誓言の呪縛によって、再三の同族殺害を犯した末に非業の死を遂げた。五男クルフィンの息子でフェアノールの孫にあたるケレブリンボールのみが第二紀まで生き延びてエレギオンを築き、父や祖父と同様名工として名を馳せた。
だがケレブリンボールは、アンナタールと名乗って近づいてきたサウロンに誑かされて力の指輪を制作し、後にサウロンの正体と思惑に気づくと彼に抵抗したが、捕らえられて拷問にかけられた末に死亡した。これによって中つ国におけるフェアノールの家系は途絶えた。*4

指輪物語』作中で指輪の仲間が目にしたモリアの西門には、ケレブリンボールが描いたイシルディンの文様の中央にフェアノール王家の星の紋章があった。

多数の名の意味

以下の名前及びその説明は『The Peoples of Middle-earth』「The Shibboleth of Fëanor」による。

クルフィンウェ(Curufinwë)
フィンウェが与えた父名。初めは父と同じ「フィンウェ」だったが、その優れた技能にちなんでクウェンヤで技(skill)の意味の"curu"の語が加えられた。後にフェアノールは息子のクルフィンにこの名を与えた。
フェアナーロ(Fëanáro)
ミーリエルが与えた母名クウェンヤで「火の精(Spirit of Fire)」の意味。
フェアノール(Fëanor)
伝承で最もよく知られる名。フェアナーロとそのシンダリン形ファイノール(Faenor)が混ざったものと思われる。

コメント

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  • 真面目な話、この人がものすごく謙虚でシルマリル強奪事件後、シルマリル譲渡を約束したうえで「騒擾の責任は我にあり」とか言って公職を退いたりしたらトールキン御大が困ったと思う。 -- 2023-05-13 (土) 17:23:41
  • 作家「新しいキャラクター考えたんですよ」
    編集者「どんなキャラクターですか?」
    作家「はい!
    世界で最も賢く意志が強く技術に優れた人物ですが、同時に誰よりも傲慢なファザコンで嫉妬深く、嫉妬から人格者の異母弟を殺そうとしたりしながら世界で最も美しい宝物を作り出すんです。
    それを巨悪に奪われてしまい父親も殺され、その復讐と奪回のために神に喧嘩を売り、一族を煽動していわば天国から現世に遠征に向かおうとしたなかで同族を殺す罪を犯し、一族に凄まじい呪いをかけられますが一笑に付し、そのあと異母弟を含む煽動した一族の大半を極寒の地に見捨てて、自分に従うものだけを率いて巨悪に戦いを挑み、自分だけ突出して敵本陣で殺されます。死の間際に自分の奪取劇は失敗して子孫も悲劇に見舞われることを予知しますが、構わずに宝物の奪取を子供たちに命じて息絶えるんです!!!」
    編集者「あのですねぇ…属性はたくさん詰め込めばいいってものじゃないんですよ?なんで自分が遠征のために率いた一族をわざわざ捨てていくんですか?意味不明すぎますよ。自分のせいで呪いまでかけられたんですよ?論理破綻しすぎでしょ」 -- 2023-05-14 (日) 11:38:34
  • 過去のコメントで誰かがCVは中田譲治氏が良いと言ってたけど、最近の人なら日野聡氏なんかが適任かもしれない。火に所縁の深いキャラをよく演じてる辺り。 -- 2023-08-01 (火) 13:27:46
    • 英文学のメディアライズを語る時にいきなり何の前提も脈絡もなく日本の声優の話をし始めるの、偏ってる自覚がなさすぎてヤバい
      本来はスレ違いレベルでトールキンと無関係な話なのに、どこにでも通用する一般的な話題だと思ってそうなところがヤバい -- 2023-08-01 (火) 22:24:28
    • ↓2020年4月頃、フェアノールの記事へのコメント。
      ・CV 中田譲二ってイメージ。フィンゴルフィンは土田大さん -- 2020-04-16 (木) 19:18:06
      ・老けすぎじゃね? -- undefined 2020-04-16 (木) 21:57:29
      ・-譲二さん若い役でも結構合うよ 精神~肉体年齢30代後半くらいでしょフェアノール兄貴 -- 2020-04-16 (木) 23:20:33
      ・じゃあ子安武人とか? -- 2020-04-17 (金) 00:18:26
      ...グラウルングやトゥーリンの頁でも複数人レスが付く程度には似たような話題が出たし、何の前提も脈絡もなく話が始まってもそれをヤバイとか偏ってるとかいちいち抑え込もうとするような事を言う人間も出なかった。それがたった2,3年でここまでルールが雁字搦めになるものか。それともそういうコメントが許されてた数年前の方が異常だったのか。
      • 喋り方がきもい話の通じない人も最初の数年はスルーされてた しかしいつまで経っても止める気配がないのでいい加減うんざりされて最後には苦言を呈するコメントがつくようになった そういうこと -- 2023-08-06 (日) 22:43:47
        • あなたみたいな自分を正義と疑ってない、マイルール厨の仕切り屋さんのがよっぽどウザいよ…。
          てか変な人ほど頑なに句点つけない傾向あるけどこれなんなんだ。 -- 2023-08-07 (月) 07:34:59
  • 船を燃やしたときのフェアノールの言葉は本心からのものだったと思えるのが悲しいですね。フィンゴルフィンに対して自分から父の愛を奪おうとしていると糾弾したのも、フェアノール自身が父の愛を独占したいと思っていたと読み取れますから。 -- トム 2023-08-02 (水) 20:08:46
  • 才能は凄いのに性格に問題ありすぎる人
    つかこの人が元祖だろうけど教授は突出して死ぬ脳筋好きね 単騎で敵陣に乗り込みに行く文化でもあるんだろうか -- 2023-08-07 (月) 14:21:47
  • いわばマッドサイエンティスト的なキャラクターのはしり、なのか?
    だがいまだに彼ほど有能でいかれていて意志が超人的な人物はあらゆる創作物で見たことがない。
    “助言によってかれの行動を変え得た者は数えるほどであり、力によって変え得た者は皆無である”という人物紹介好きすぎる。 -- 2023-08-07 (月) 14:56:48
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