トム・ボンバディル

概要

カテゴリー人名
スペルTom Bombadil
その他の呼び名ヤールワイン・ベン=アダール*1(Iarwain Ben-adar)
フォルン(Forn)
オラルド(Orald)
最年長(Eldest)
種族不明
性別
生没年不明
不明
兄弟不明
配偶者ゴールドベリ(妻?)
不明

解説

古森に住む、不思議な力を秘めた存在。
身長はホビットよりは高いが、普通の人間よりは低く、重量感がある。山高の帽子のバンドに青い長い羽根をつけ、青い上衣を着て、黄色いブーツを履いている。茶色の長い顎鬚を生やしており、目は生き生きとして青く、顔は熟したリンゴのように赤く、笑うと無数の小じわが刻まれたという。
一見して陽気で朗らかであり、何かにつけて歌を歌い、跳ねるようにして動き回って立ち働いていることが多い。滅多にに乗ることはないが、でぶのずんぐりやという小馬に乗ることがある。

トム・ボンバディルは、陽気なじいさん。
上着は派手な青で、長靴は黄よ。*2

第三紀末にフロドたち一行が出会った時は、枝垂川の上流近くに建つ家で、川の娘ゴールドベリと共に暮らしていた。
またバーリマン・バタバーマゴットなどの近隣の人間ホビットギルドールなどのエルフ魔法使いガンダルフらと交友があったようである。
エルフ人間ドワーフホビットからそれぞれの言葉で名前が付けられていることから(後述)、古くは多くの種族に知られた存在でもあったらしい。

ボンバディルは力のある歌を歌い、柳じじい塚人を退けている。一つの指輪さえも、ボンバディルを支配する力を持たず、一つの指輪の影響を受けない。しかしボンバディルもまた一つの指輪に影響を与えることはできないという。

指輪物語』におけるボンバディル

古森柳じじいに襲われたフロド・バギンズたちを救出し*3枝垂川の滝の辺に建つ自分の家に2日の間滞在させて彼らを保護した。その間フロドたちは古森一帯や北方王国についての様々な物語を聞いた。
3日目ボンバディルは、また危機に見舞われることがあれば自分に呼びかけるように言うと、フロドたちを送り出した。実際にフロドたちが塚山丘陵塚人に捕らえられると、フロドの呼びかけに応えて現れ、再びフロドたちを救出した。この時ボンバディルは塚山の財宝の中から塚山出土の剣を選び出してフロドたちに渡し、自分は青い石のはまったブローチを取った*4
それから東街道に出るまでフロドたちを見送り、ブリー村では躍る小馬亭に泊まるように勧めて、そこで別れた。

エルロンドの会議では一つの指輪の処遇案として、指輪の影響から自由であるらしいボンバディルに指輪を預けて敵の手から守ってもらってはどうかとエレストールが提案している。しかしガンダルフは、ボンバディルは指輪から自由であるがためにその深刻性を理解できず、預かってもいずれ忘れるか飽きるかしてその辺に捨ててしまうだろう、という旨のことを述べている。またグロールフィンデルは他の全ての者がサウロンに征服された時には最初の者であったのと同じく、最後の者としてボンバディルもまた倒れるだろうとして、彼に指輪を預けることは事態の解決につながらないと述べた。
またこの時ガンダルフはボンバディルの力が及ぶ範囲について今ではかれは、自分で設定しただれの目にも見えぬ境界線の中の小さな土地にひっこんでしまった。恐らく時節の変わるのを待っておるのじゃろう。じゃから、かれはこの境界線を越えることはあるまいよ*5としている。

トムの国は、ここでおしまい。
トムは、国境をこえていかない。
トムには、守る家がある。
ゴールドベリが、待っている。*6

指輪戦争が終結した後、ガンダルフは例の東街道からの分かれ道のところでフロドたち一行と別れ、ボンバディルに会いに行ったようである。

「ボンバディルとゆっくりしゃべろうと思っとるのじゃ。わしが今までの一生にしゃべらなかったくらいしゃべるのじゃ。かれは苔むすほどの不動石じゃが、わしは転がるべく運命づけられた石じゃった。じゃが、わしの転石の日々も終わろうとしておる。わしらには互いに話すことが山ほどあるじゃろう。」*7

短編集におけるボンバディル

ボンバディルは短編集『トム・ボンバディルの冒険』の二つの詩で、主人公として登場している。表題になっているはじめの方の詩は、古い話をホビットが記録しておいたものとされる。後の方の「トム・ボンバディル 小舟に乗る」は、フロド達がボンバディルの元を訪れた後に作られたものとされている。
ゴールドベリは前者の話にも登場し、ボンバディルと彼女との馴初めが語られている他、柳じじい塚人も登場する。後者の話ではボンバディルが枝垂川を船で下り、途中で出会ったマゴットと共に、藺草村の旅籠に行っている。

これらの話の日本語版は『農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集』に収録されているものを読むことができる。

名前について

「その人物ならば、その頃すでに、最古老の者よりも年老いていた。その頃はボンバディルとはいわなかった。ヤールワイン・ベン=アダールとわれらは呼んでいた。最古にして父なきものの意だ。しかし、それ以後もかれは、いろんな種族からいろんな名前を与えられてきた。ドワーフたちは、フォルンと呼び、北方の人間たちはオラルドと呼んだ。ほかにもまだいろいろ名前があった。」*8

トム・ボンバディル (Tom Bombadil)
トム・ボンバディルの冒険』「まえがき」によれば、バック郷の住人が名付けたものであるらしい(この名はバック郷に通有な綴りであるという)。以前からボンバディルの存在は、バック郷のホビットに知られていた。
ヤールワイン・ベン=アダール (Iarwain Ben-adar)
エルフが用いたシンダール語での呼び名。上記のエルロンドの発言では「最古にして父なきもの(oldest and fatherless)」の意と訳されている。ただし1968年のトールキンの手紙によると、ヤールワイン(Iarwain)の逐語訳は“old-youth”(年老いて若々しい)であり、見た目が老人でありながら溌剌とした人物だったので付けられた名だという。
フォルン (Forn)
ドワーフからの呼び名。古ノルド語(Wikipedia:古ノルド語)で古い(ancient)の意味
オラルド (Orald)
北方の人間からの呼び名。古英語で非常に古い(very ancient)の意味。
最年長 (Eldest)
トム・ボンバディル自身が名乗った、彼の「正体」。後述の引用を参照。

トールキン家の人形がモデル

元々は、トールキン家の次男マイケルが持っていたオランダ人形がこのキャラクターのモデルであり、トールキンが息子達のためにボンバディルを主人公にして作った話が、1934年のオックスフォード・マガジンに掲載された。
またトールキンの叔母の要請によって書かれ、編集された短編が『トム・ボンバディルの冒険』として、1962年に刊行されている。詳細は『J.R.R.トールキン 或る伝記』に掲載。

トム・ボンバディルの正体について

指輪物語』『シルマリルの物語』等で語られている諸種族や世界観に照らしても、ボンバディルは非常に奇妙な存在であり、彼が何者かについてはトールキンもあまり資料を残しておらず、その正体について明言を避けている。そのためボンバディルの正体については、ファンや研究家の間で、様々な関心が持たれてきた。

「最年長、それがわたしの正体だ。いいかね、皆の衆、トムは川や木よりも先にここにいた。トムは最初に降った雨の粒、最初に実ったどんぐりの実を憶えている。かれは大きい人たちより以前に道を作り、小さい人たちがやってくるのを見た。かれは王たちや墓穴や塚人たちより先にここにいた。エルフたちが西方へ渡り始めた時、トムはすでにここにいた。が湾曲する前のことだ。かれは星々の下の暗闇が恐れを知らなかった頃のことを知っている――外の世界から冥王が来る以前のことだ。」*9

この言葉はボンバディルが、灯火の時代(ひょっとしたらそれよりも遥か以前*10)から太陽の第三紀に到るまでずっと中つ国に住み続けてきたことを示唆している。

イルーヴァタール
ボンバディルについて述べられている「最長老」「主人」「最古にして父なきもの」「あの方です」といった表現のすべてに該当しうるのは、万物の父(創造主)であり、最初に存在していた者=唯一神イルーヴァタールのみであると考える説。
だが、トールキンはイルーヴァタールをキリスト教の神と同一視していた。その神がひょっこりと中つ国にいるとは考えづらい(『シルマリルの物語』のアイヌリンダレにも、イルーヴァタールがアルダに直接降り立ったという記述はない)。それに「最古にして父なきもの」というのはあくまでエルフにそう呼ばれていたということであって、「父なる神」と解釈すべきかはまた別である。
また絶対神イルーヴァタールであるとするならば、サウロンの指輪を含めすべてのものを支配できると考えるのが自然だが、それについてガンダルフは作中で(ボンバディルが指輪を支配する力を持っているのではなく)むしろ、指輪がかれを支配する力を持たぬというべきじゃろう。*11と、ボンバディルにそこまでの力はないということを語っている。ボンバディルの力に何らかの限界があるというこうした記述は、「万能神」たるイルーヴァタールにはそぐわない。
トールキン自身も手紙の中で、イルーヴァタール説は否定している。
アイヌア
イルーヴァタールよりも下位の存在、すなわちアイヌアの一種であるという説。アイヌアはエアアルダに先立って存在し、アルダを作り上げた者達であるため、ボンバディルの様々な属性(中つ国そのものと同じぐらい古い、マイアサウロンの力に何らかの形で対抗することができる、歌によって力を発揮する、等々)を、世界観の枠内でもっとも自然に説明できる説だと考えられる。しかし後述するいくつかの難点もある。
まず、アイヌアにはヴァラールマイアールという位階があるが、ボンバディルはどちらに属するのか? どちらの説を採った場合にも利点と難点がある。
ヴァラール説の利点は、マイアールの中でも最強級の力を持つはずのサウロンが造り出した一つの指輪から、ボンバディルが自由であることを上手く説明できるところにある。しかしヴァラールは「14人(+メルコール)」しか存在しないと明記されているため、そこにボンバディルが入り込む隙がないというのが非常に大きな難点となっている。このため、ヴァラール説はあまり頻繁には唱えられていない。
ボンバディルはマイアであるという説が、おそらくもっとも人口に膾炙している説だと思われる。利点は、マイアールの総数が明記されていないことで、ボンバディルのように中つ国で暮らしている者がいないとも限らない。ガンダルフのボンバディルとゆっくりしゃべろうと思っとるのじゃ。わしが今までの一生にしゃべらなかったくらいしゃべるのじゃ。かれは苔むすほどの不動石じゃが、わしは転がるべく運命づけられた石じゃったというセリフも、ボンバディルはガンダルフと同位の者=マイアであると示唆しているように読めなくもない(ただしボンバディルはイスタリよりも古くより中つ国にいたはずなので、ボンバディルがイスタリである可能性は低い)。難点としては、彼がサウロンの力の影響から自由でいられることを説明しがたいことである。また、ボンバディルがどうして中つ国にやってきたのか、どうして中つ国を離れないのか、どうしてヴァラールに仕えていない(ように見える)のかといった点については、想像の域を出ない。
何よりアイヌア説全体にわたる難点として、ボンバディルがアイヌアであることを示す積極的な根拠が何一つ発見できないという点がある。アイヌアであるのなら、なぜトールキンがそれを明記せずこれほどまでに謎のまま残したのか、という重大な疑問にも答えることができない。そのためアイヌア説は、ボンバディルの存在を提示されている世界観の枠内で比較的処理しやすい、というただ一つの利点があるに過ぎない。
精霊(Spirit)説
アイヌア説に似たものとして、ボンバディルはヴァラールでもマイアールでもない「精霊」であるとする説。トールキンの準備稿や、刊行本の中に断片的に残されている記述からすると、アルダにはヴァラールでもマイアールでもない(もしかしたらアイヌアですらないかもしれない)霊的存在がいる可能性がある。ボンバディルはそのような「自然の精霊」の一体であるとするもの。これもアイヌア説と同じく積極的な根拠が見出しがたい点や、そうした「精霊」の概念はトールキンが稿を重ねるにつれて希薄化し排除されていった節がある、といった難点がある。
トールキン
ボンバディルは、作者であるトールキン、もしくは(読者としての)トールキン家の人間の誰かの投影であるという説。前述のように、ボンバディルのモデルはトールキン家にあった人形であるため、中つ国におけるボンバディルもトールキン家とゆかりの存在と考えることもできる。また、ボンバディルは強力な力を持ちながらも積極的に物語に関わろうとしないということは、物語の作者=絶対的傍観者ととらえることもできる。そしてトールキンは、中つ国を「準創造」した、つまり偉大なる神の模倣をして小さな世界を作ったと考えていた。ゆえに、(トールキン自身が作った世界の中では)神に準じる力を持ちながらも、神ではない存在=作者の投影である、と想像できる。
ただし、作者の投影がなぜ古森という限られた場所にいて、そこに閉じこもっているのかはよくわからず、この説はほとんど想像の域を出ない。
メタ的な存在とする説
先のトールキン説もこの一種だが、ボンバディルは作品世界観の枠内には収まりきらない、なにか作品外部の要素が混入(あるいは投影)されたもの=メタ(meta)な存在であるとする説。トールキン説の他にも、トールキンの田園への愛着の化身(あるいは表明)とする説、マイケルのオランダ人形そのものであるという説(仔犬のローヴァーのような)等が考えられる。トールキン自身も手紙の中で、ボンバディルを何らかの観念の代表物、自然への愛着の表現だと述べたことがある。
ただし、作品外の事情を持ち出して作品内の事柄を説明することには少なからず異論もある。また、メタ的な存在であることと、世界観の内側に位置を占めることとは、必ずしも両立しないことではない。

トールキンが言明を避けている以上、ボンバディルの正体は不明であるとしか言いようのない面が強い。

「あんたはまだわたしの名前を知らないのかね? 答はこれだけだ。あんたはわたしにだれかというが、そういうあんたはだれなのかね? あんたはただひとりで、あんた自身で、そして名前なき者ではないかね?」*12

Iron Crown Enterprisesによる設定

一番最初にエアに入ったアイヌアの一人で、ヤヴァンナの民として創造当初のアルダの大部分を覆っていた森林の守り手のマイアールだったとされる。時代を下るごとに森が縮小し、細分化されていったために、本来持っていたマイアとしての力を減退させ、主君であるヴァラールとも疎遠化してしまったとされている。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定

物語の短縮のため、全く登場しない。ただしThe Lord of the Rings Trading Card Game用に、Weta監修のもとボンバディルのデザインが作られている。
Wetaデザインによるトム・ボンバディル Tomb.png

ゲーム『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』における設定

『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』におけるトム・ボンバディル

コメント

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 別の次元から来た存在だと思ってる。そういう意味ではトールキンなのかも知れないな。 -- 2017-10-16 (月) 01:23:36
  • トールキンだとして捉えると、自分の中で感情的にしっくりとくる。アルダを愛する善意の傍観者トールキン。 -- 2017-11-03 (金) 14:00:50
  • モリアに名もなきものがいるのなら、エルには関係なくエアにいたものが、アルダの大森林になぜか惹かれてやって来た、自分のあるものと考えていました。 -- 2018-08-08 (水) 20:36:49
  • トムの家に、人数分だけベッドが用意されていたのは、ギルドールから伝言があったからかな。それと、人数分柔らかいスリッパが置かれていたのは、トムのホビットに対する知識の(少々の)欠如を現してるのかな。 -- 2018-09-03 (月) 14:23:28
  • 執着しないトムにして「忘れやしないぞ」って言わせた青い石のブローチの持ち主との出会いと別れが気になってモヤモヤしますね。 -- 2019-01-13 (日) 16:56:31
    • カルドラン王家の最後の姫君のことなのかな? -- 2019-04-21 (日) 00:53:34
  • 子ども科学電話相談で この世界は朝から始まったのですか と小2の女の子が質問していた。トム・ボンバディルなら 答えを教えてくれるのだらうか -- 2019-05-06 (月) 12:14:45
    • 最初の雨粒が落ちてきた時の空の色はどんな色だったか 教えてほしいけれど トムは何も教えてはくれないのでしょうね。 -- 2019-06-21 (金) 22:31:09
  • 「誰であろうと彼を支配することはできぬ。だが、彼も誰ひとりとして支配することはできぬのじゃ」 -- 2019-07-24 (水) 18:12:17
  • シルマリル読んでヴァラールより下で沢山いるマイアールの内の一種だと思ったわ。指輪に誘惑されないぐらい頑強な反面、活動域が限定されてる感じなのかな~と。 -- 2019-07-28 (日) 08:56:22
  • イルヴァタールが傍観者として作った種族なんじゃ? -- 2019-08-28 (水) 04:53:59
  • トールキンにしろCSルイスにしろ、世界の創生にグノーシス思想の影響が有ることを勘案すると、「真の世界」に現れるはずの理想の人間に、限りなく近い存在として描かれてるんじゃないかと、個人的には考えてます。というか、そういう考えに基づいたら、作者の遊び心でトムを中つ国に登場させても、世界観を壊すことがないし、むしろモルゴスやサウロンによって荒廃した中つ国と、中つ国の後にイルヴァタールとヴァラール達が作り出すことになる、「真の世界」との対比も、暗に示すことができるわけで、だからこそ、トムは中つ国では、浮いた存在なのではないかな~と、思ってます。 -- 2019-09-17 (火) 00:18:07
お名前:

添付ファイル: fileTomb.png 894件 [詳細] fileScreenShot00221.jpg 1310件 [詳細] fileBombadil.jpg 4546件 [詳細]
Last-modified: