キアス

概要

カテゴリー言語
スペルCirth*1
その他の呼び名ケアタール(Certar)*2、ルーン文字(runes)

ベレリアンドシンダールが石や木に名前や碑文を刻むために考案した文字。刻みやすいよう直線で構成された角張った形をしており、作中ではその形状がよく似ていることからルーン文字と呼ばれる。

解説

追補編』の追補Eではアンゲアサスのキアスとその音価の一覧表が収録されている。キアスはその形状によってグループ分けがなされ、表では二つの小さな丸で区切られている。
音価表で★印が付いているキアスはドワーフがアンゲアサス・モリアで導入し、彼らだけが用いた文字。―があるものは左がアンゲアサス・ダイロン、右がアンゲアサス・モリアの音価。括弧で囲まれたものはエルフ語に用いる時のみの音価。
追補E「アンゲアサス」

キアスの歴史

キアスを最初に考案したのはドリアスの伶人ダイロンであると言われる。ベレリアンドシンダールに用いられた初期の古いキアスは後世のアンゲアサスに比べると単純な形態だった。ベレリアンドでシンダールと交流を持ったドワーフはキアスを高く評価し、彼らを通して東の地へ伝わり、ドワーフ、人間、そしてオークに至るまで多くの民に知られるようになった。各々の民は自分たちの文字の能力とその用途に応じてキアスに変更を加えて用いた。そのようなキアスは第三紀末においても谷間の国の人間*3ロヒアリム*4、そしてオーク*5に用いられていた。

その頃、シンゴルの王国の伝承の長、吟遊詩人のダイロンが、ルーン文字を考案したと言われている。そして、シンゴルの許に出入りしていたナウグリムは、この文字を習い覚え、その発明を非常に喜んで、ダイロンの考案を同族のシンダール以上に高く買ったという。
ダイロンのこのルーン文字、キアスは、ナウグリムによって山脈のかなたの東の地に伝えられ、いろいろな種族に知られるに至った。しかし、シンダールがこの文字を記録に用いたのは、戦乱の時代に入るまでは非常に少なく、記憶に留められていたことの多くは、ドリアスの廃墟の中に消滅してしまったのである。*6

一方、第一紀のベレリアンドでは流謫のノルドールアマンからもたらしたテングワールフェアノール文字)の影響を受けてキアスの改良と再編が行われた。そうして生み出されたキアスの字母(alphabet)のことをシンダール語で「長いルーン文字の列(Long Rune-rows)」を意味するアンゲアサス(angerthas)と呼び、中でも最も充実し完成度の高いものは「ダイロンの字母(Alphabet of Daeron)」すなわちアンゲアサス・ダイロン(Angerthas Daeron)と呼ばれた。エルフの伝承ではダイロンが古いキアスに追加と再編を施し、このアンゲアサスを完成させたと言われているからである。

キアスは銘や碑文を刻むために考案された文字であり、中つ国の西方諸国のエルフたち(エルダール)にはそのようにしか用いられず、彼らの間では真の筆写体(true cursive forms)は誕生しなかった。そしてフェアノール文字がもたらされるとエルダールはそちらを筆記に用いるようになり、やがてはキアスそのものを殆ど使わなくなった。*7
第二紀エレギオンのエルフは例外的にアンゲアサス・ダイロンの使用を続け、それは彼らと交流のあったモリアのドワーフに伝わった。アンゲアサスはモリアのドワーフが最も好む字母となり、彼らを通して北方の地に広まった。そのためドワーフが用いたアンゲアサスはアンゲアサス・モリア(Angerthas Moria)とも呼ばれた。ドワーフはフェアノール文字にも通じていたが自身の言語クズドゥル(ドワーフ語)はキアスで記すことにこだわり、キアスのペン字書体(written pen-forms)を生み出した。

ケアサス・ダイロン

シンダール語を表記するために考案されたキアスのアルファベットのこと。後のアンゲアサス・ダイロンの基となった。
追補Eによると後世のアンゲアサスに比べると音価は体系的ではなかった(unsystematic)とされ、以下のことが説明されている。

アンゲアサス・ダイロン

ケアサス・ダイロンに追加と改良が施され、文字の形状と音価が体系的になるように再編されたキアスのアルファベットのこと。このアンゲアサスを完成させたのはダイロンと言われているが、主要な追加部分である13~17番(ch-系列)と23~28番(kw-系列)の二系列はシンダール語にはない音を表すのに使われたため、この部分はエレギオンノルドールの考案と思われる。
この再編には明らかにフェアノール文字の影響があった。すなわち以下の原則に基づいている。

フェアノール文字と同様の子音の系列に並べ直すと以下のようになる。

p-系列t-系列ch-系列*8k-系列kw-系列
無声閉鎖音1 p/p/8 t/t/13 ch/t͡ʃ/18 k/k/23 kw/kw/
有声閉鎖音2 b/b/9 d/d/14 j/d͡ʒ/19 g/ɡ/24 gw/ɡw/
無声摩擦音3 f/f/10 th/θ/15 sh/ʃ/20 kh/x/25 khw/xw/
有声摩擦音4 v/v/11 dh/ð/16 zh/ʒ/21 gh/ɣ/26 ghw/ɣw/, w/w/
有声鼻音6 m/m/12 n/n/22 ŋ/ŋ/27 ngw/ŋw/
7 (mh/ṽ/), mb/mb/38 nd/nd/17 nj/nd͡ʒ/33 ng/ŋɡ/28 nw/nw/
その他子音
29 r/r/30 rh/r̥/31 l/l/32 lh/l̥/
34 s/s/35 s/s/36 z/z/, ss/ss/
54 h/h/
母音と半母音
39 i, y/j/42 u46 e48 a50 o
43 ū47 ē49 ā51 ō
44 w/w/5 hw/ʍ/
45 ü52 ö

番号は振られていないがアンゲアサスの表には以下の文字も載せられている。

アンゲアサス・モリア

アンゲアサス・ダイロンはエレギオンノルドールと交流のあったモリアドワーフに伝わり、彼らはアンゲアサスに変更を加えた上でこれを使用した。このアンゲアサスを特にアンゲアサス・モリアと呼ぶ。ドワーフが施した変更によってキアスの形状と音価は一部で体系的ではなくなった。

p-系列t-系列ch-系列k-系列kw-系列
無声閉鎖音1 p/p/8 t/t/13 ch/t͡ʃ/18 k/k/23 kw/kw/
有声閉鎖音2 b/b/9 d/d/29 j/d͡ʒ/19 g/ɡ/24 gw/ɡw/
無声摩擦音3 f/f/10 th/θ/15 sh/ʃ/20 kh/x/25 khw/xw/
有声摩擦音4 v/v/11 dh/ð/30 zh/ʒ/21 gh/ɣ/26 ghw/ɣw/, w/w/
有声鼻音6 m/m/22,53 n/n/36 ŋ/ŋ/27 ngw/ŋw/
7 (mh/ṽ/), mb/mb/33 nd/nd/38 nj/nd͡ʒ/37 ng/ŋɡ/28 nw/nw/
その他子音
12 r/r/31 l/l/32 lh/l̥/
54 s/s/17 z/z/
34 h/h/35 ’/ʔ/
母音と半母音
39 i42 u46 e48 a50 o55
43 ū47 ē49 ā51 ō56
40 y/j/41 hy/j̊/44 w/w/5 hw/ʍ/
45 ü52 ö

アンゲアサス・モリアはマザルブルの間の墓碑銘及び『指輪物語』の標題紙に用いられている。それらの表記には以下の特徴がある。

アンゲアサス・モリア(エレボール・モード)

エレボールドワーフはアンゲアサス・モリアに更に変更を加えたものを使用した。これはエレボール・モード(the mode of Erebor)として知られる。追補Eで述べられている変更箇所は以下の通り。この他にも文字の異なる音価や特異なエレボール式キアス(Ereborian cirth)があるが、追補Eではそれらは「マザルブルの書」に例示されているとしている。

マザルブルの書での英文の表記では以下の特徴がある。

p-系列t-系列ch-系列k-系列kw-系列
無声閉鎖音1 p/p/8 t/t/13 ch/t͡ʃ/18 k/k/23 kw/kw/
有声閉鎖音2 b/b/9 d/d/14 j/d͡ʒ/19,29 g/ɡ/24 gw/ɡw/
無声摩擦音3 f/f/10 th/θ/15 sh/ʃ/20 kh/x/25 khw/xw/
有声摩擦音4 v/v/11 dh/ð/16 zh/ʒ/21,30 gh/ɣ/26 ghw/ɣw/, w/w/
有声鼻音6 m/m/22,53 n/n/36 ŋ/ŋ/27 ngw/ŋw/
7 (mh/ṽ/), mb/mb/33 nd/nd/37 ng/ŋɡ/28 nw/nw/
57 ps/ps/58 ts/ts/17 ks/ks/
その他子音
12 r/r/31 l/l/32 lh/l̥/ll
54 s/s/43 z/z/
34 h/h/35 ’/ʔ/
母音と半母音
39 i42 u46 e48 a50 o55
47 ē49 ā51 ō56
40 y/j/41 hy/j̊/44 w/w/5 hw/ʍ/
45 ü52 ö
ai(ay)
eu(ew)au38 ou(ow)
eaoa

また次のような略式の表記も確認できる。

キアスを用いた数字の表記も確認できる。

The Letters of J.R.R.Tolkien』のLetter 118にもエレボール・モードのキアスで英文が書かれている。そこから分かることは以下の通り。

その他のルーン文字

『The Hobbit』のルーン文字

The Hobbit』では上記のキアスとは異なるルーン文字がスロールの地図と、オリジナルのカバーのイラストに使用されている。このルーン文字についてトールキンは同書の冒頭にある著者註で以下のように説明している。*18

また『The Letters of J.R.R.Tolkien』のLetter 25(1938年)では「三十二文字から成るアルファベットであり、アングロ・サクソンの碑文のルーンと似ているが、同一ではない。」*22としている。
『The Hobbit』で使用された英語のルーン文字については『ホビット ゆきてかえりし物語』に一覧表が収録された。

『ホビット』のルーン文字

以下はスロールの地図のルーン文字についての補足。

The Letters of J.R.R.Tolkien』のLetter 112は同様のルーン文字によって書かれた手紙である。以下はその補足。

「ゴンドリンのルーン文字」

トールキンが恐らく1920年代に考案したと思われる、Gondolinic Runesゴンドリンのルーン文字)と題されたルーン文字。『The Treason of Isengard』でその存在が言及されている。
クリストファー・トールキンがPaul Nolan Hydeに資料を送り、1992年のMythlore誌にこのルーン文字についての記事が掲載された。また2004年のParma Eldalamberon 15にも記事が掲載された。下の画像はLisa StarのウェブサイトTyalie Tyelelliévaに掲載された一覧表である。
アンゲアサスとは全く異なるが文字の形状と音が関連性を持つという特徴は共通している。ただしこのルーン文字は結局作品中には登場しなかった。*24

子音 母音

子音
t/t/p/p/ch/t͡ʃ/k/k/
d/d/b/b/j/d͡ʒ/g/ɡ/
th/θ/f/f/sh/ʃ/h/h/
dh/ð/v/v/zh/ʒ/χ/x/
n/n/m/m/ŋ/ŋ/
mh/m̥/ŋh/ŋ̊/
r/r/rh/r̥/l/l/lh/l̥/
s/s/z/z/
w/w/y/j/
ƕ,hw/ʍ/ꜧ,hy/j̊/x,ks/ks/

mh, ŋh, rh, lh, hw(ƕ), hy(ꜧ)は無声のm, ŋ, r, l, w, yを表す。

母音
短母音aeiou
長母音āēīōū
前舌化母音
短母音æœy
長母音ǣœ̄ȳ

æ, œ, yは前舌化したa, o, u(ウムラウトのä, ö, ü)であり、/æ/, /ø-œ/, /y/の音。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定

グラムドリングアンドゥリルにはアンゲアサス・ダイロンで銘が刻まれている。
モリア内部の壁には多数のキアスが刻まれ、マザルブルの書にもエレボール・モードのキアスが書かれている。
グロンドサウロンの口の兜にもキアスが刻まれている。

コメント

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  • 雑感1。certh(単数形、一文字)、cirth(certhの複数形、複数の文字)。certhasは要はアルファベットのこと。現実のルーン文字のフサルク(fuþark)に相当する語。アルファベットの一覧では文字を並べるので、ルーン文字の列(Rune-rows)と訳される。Angerthasはang(長い)+certhas。特定の言語だけでなく多言語に対応できる拡張版certhas。多くの音を表すためにその分だけ文字が多くなる→文字の列が長くなる→長いcerthas。 -- 2017-01-16 (月) 03:31:03
  • 雑感2。フェアノール文字に比べると、トールキンが書いたキアスの文のサンプルは少ない。実はバーリンの墓碑銘のクズドゥルを除けば英文しかない。 -- 2017-01-16 (月) 03:37:58
  • 雑感3。アンゲアサス・モリアでのhとsの文字については、追補編の説明とは音の割り当てが逆転している(そういった傾向があったとも説明されている)。雑感2のように基本的に英文のサンプルしかないので断言できないが、35をS、54をhに使うのは、英文のみでの使い方ではないかと思う。 -- 2017-01-16 (月) 03:45:23
  • 雑感4。アンゲアサスに長母音īとȳの文字がないのは不備としか思えない(特にī)。アンゲアサス・ダイロンでのクウェンヤのhyの表記は?同じくアンゲアサス・モリアでの無声のr(クウェンヤとシンダール語に現れる音)は?更にエレボール・モードでの長母音ūは?どうもアルファベットとしては未完成の感が拭えない。 -- 2017-01-16 (月) 03:56:16
  • 自分の創作の中で利用してみたい、けれど追補編を読んだ時から感じていたことだがとても難しそう。これを理解できる人はよく勉強のした方々なんでしょうね。一部のファンサイトの方々には本当に脱帽する -- 2019-09-21 (土) 20:15:56
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