モリア†
概要†
カテゴリー | 地名 |
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スペル | Moria |
その他の呼び名 | カザド=ドゥーム(Khazad-dûm)*1 フルナルギアン(Phurunargian) ドワローデルフ(Dwarrowdelf)*2 ハゾドロンド(Hadhodrond) |
解説†
シンダリンで「黒い坑」の意。元来は「ドワーフの館」を意味するカザド=ドゥームなどと呼ばれた。
霧ふり山脈にあるドワーフ(長鬚族)の地下王国。二つの木の時代から第三紀にかけての非常に長い期間に渡って栄え、盛時にはその壮麗さによりあらゆる種族に広く知られるようになったが、廃墟となってからはその暗く底知れない地下空間とそこに潜む怪物達のために恐怖を伴って口にされる名ともなった。
非常に広大かつ複雑な構造をしており、かつてここに住んでいたドワーフですら全容を完全に把握していたわけではない。
出入り口は、西のエレギオン(柊郷)側に1つ、東のナンドゥヒリオン(アザヌルビザール)側に1つある。
かれは杖を高く持ち上げました。するとその瞬間、稲光のような光がぱっと燃え上がりました。大きな影がいくつも躍り上がっては消えました。ほんのしばらくの間、かれらは頭上に石から切り出したたくさんの巨大な柱で支えられた非常に大きな天井を見ました。一同の前方にも左右にもすごく広大でがらんとした空間が広がっています。ガラスのように滑らかに磨かれたその黒い壁は、光に照り映えて、きらきらっと光りました。他にも三つ入口が見えました。黒々と暗いアーチです。一つはかれらのまっすぐ前を東に開いています。そしてあとの二つは両側にありました。それから明かりが消えました。*3
「ここはドワローデルフの偉大なる王国であり都であるのです。それに昔は少しも暗くはなく、われわれドワーフの歌の中に今なお伝えられているように、目もあやな美しさと光に満ち満ちていたのです。」*4
多数の名について†
- モリア (Moria)
- シンダリンで「黒い坑(Black Chasm)」の意。ギムリは黒坑(Black Pit)と訳した。
- カザド=ドゥーム (Khazad-dûm)
- クズドゥルで「ドワーフの居館(Mansions of the Dwarves)」の意。通常ドワーフはクズドゥルの名を秘密にするが、この名に関しては秘密としなかったため、他種族にも広く知られていた。
- フルナルギアン (Phurunargian)
- 共通語原文で「ドワーフが掘った洞穴(Dwarf-delving)」、「ドワーフの穿ちたるところ(Delving of the Dwarves)」を意味する古い名前。
- ドワローデルフ (Dwarrowdelf)
- 共通語のフルナルギアンをトールキンが古風な英語に「翻訳」したもの*5。DwarrowsはDwarfの「言語学的に想定される正しい複数形」であり、delfはdelvingの意。
- ハゾドロンド (Hadhodrond)
- カザド=ドゥームのシンダリン表記。ハゾド(Hadhod)はカザード(Khazâd)の音写で、ロンド(rond)は館の意味。モリアと呼ばれる以前にエルフはこう呼んでいた。
歴史†
カザド=ドゥームとしての繁栄†
星々の時代、長鬚族の始祖である不死のドゥリンがケレド=ザーラムの湖をのぞき込んだとき、自分が王位に就く幻影を見たという。それがきっかけになって、霧ふり山脈の東おぼろ谷側にカザド=ドゥームが穿たれた。不死のドゥリンは太陽の第一紀に至るまでこの地を統治し、以来カザド=ドゥームは長鬚族のドワーフの本拠地となった。
怒りの戦いによってベレリアンドが崩壊すると、ノグロドとベレグオストのドワーフの生き残りの多くはカザド=ドゥームに移住し、人口が増大する。
第二紀になると、エレギオンのエルフとの交易によって非常に栄え、山脈の西側に新たに扉が設けられた(西門)。何よりミスリルが発掘されるのがモリアの繁栄の礎だった。そのためカザド=ドゥームの名はドワーフ以外の種族にも広く知れ渡るようになる。
扉を閉ざしての抵抗†
第二紀1697年、サウロンの攻撃によってエレギオンが滅亡すると、ドワーフはカザド=ドゥームの扉を閉ざして閉じこもる。こうしてカザド=ドゥームは外からのサウロンの攻撃を退けることに成功したが、そのためにサウロンの憎悪を受け、可能な時にはいつでもドワーフを苦しめるようにと全てのオークに指令が出されるきっかけとなった。
最後の同盟の戦いでは、モリアのドワーフはサウロンを敵として戦った。
ドゥリンの禍†
第三紀に入っても、ドワーフはモリアで暮らし続けていた。
だがドワーフはミスリルを求めて、モリアの地を深く掘り進みすぎてしまう。そのため第三紀1980年、地下に潜んでいたバルログを呼び起こしてしまった。
モリアの王であったドゥリン六世とその息子のナーイン一世はバルログに殺され(ためにモリアのバルログは「ドゥリンの禍」と呼ばれるようになる)、生き残ったドワーフも、モリアを逃れて各地に四散した。目覚めたバルログの恐怖はモリアのみならず、ロスローリエンをはじめとした近隣にまで広がった。
かくてカザド=ドゥームは滅び、モリアの名は忌まわしいものとして自由の民に記憶されることとなった。
モリア奪回の試みと失敗†
以後モリアは、サウロンが送り込んだオークが徘徊する廃墟と化した。
第三紀2790年、当時の長鬚族の王スロールは放浪と狂気の果てに単身モリアに帰還しようとして、そこに巣食っていたオークの首領アゾグに殺される。このため「ドワーフとオークの戦争」が起こり、モリアの東門の前ではナンドゥヒリオンの合戦が戦われた。この戦いでモリアのオークは敗北したが、ドワーフが受けた被害も大きかったため、モリアの奪回は果たされなかった。
その後2941年の五軍の合戦により、モリアをはじめ霧ふり山脈のオークはほとんどが死ぬか逃げ去ったと思われた。
そのため2989年、はなれ山からバリンの一党が、モリアを再興しようとこの地にやってくる(『ホビットの冒険』に登場したドワーフでは、オーインとオーリが同行した)。かれらはオークの残党をいったんは駆逐することに成功し、入植は軌道に乗ったかに見えた。だがその後銀筋川をさかのぼって襲来してきた新手のオーク達により包囲され、さらに深層に潜んでいた「ドゥリンの禍」ことバルログが到来したために、バリンの一党は2994年に全滅した。はなれ山への連絡は途絶え、バリンたちの運命はその後長いこと知られることはなかった。詳細はマザルブルの書も参照のこと。
通過者†
具体的な時期は不明だが、ガンダルフはかつてスラーイン二世の行方を求めて長期間モリアを捜索したことがあったという。その時ガンダルフは壊れて開いたままになっている東門(おぼろ谷口)からモリアに入り込み、東から西へと抜け、最後に西門を内側から押し開くことで無事通過に成功した。
指輪の仲間がやってくる前年の3018年8月には、エルフとオークの双方に追跡されたゴクリもまた、東門からモリアへ逃げ込んだ。彼は何か月もかけて西門まで辿り着いたが、押すだけで門が開くということがわからず、またそれもできないほど衰弱していたため、指輪の仲間がやってくるまでモリアに閉じ込められていた。
指輪の仲間のモリア通過†
指輪の仲間は第三紀3019年(大いなる年)、サウロンの監視を逃れて霧ふり山脈を西から東へと通過するため、モリアを通り抜けることを選んだ。
指輪の仲間はマザルブルの間を発見し、そこに残されていたマザルブルの書からバリンたちの運命を知る。その後、(おそらくペレグリンの行動が呼び覚ました)オークによって一行は襲撃を受け、さらに深層からバルログが襲来する。ガンダルフはドゥリンの橋の上でバルログと対峙して共に奈落へと落ちた。残った指輪の仲間は東門から外へと脱出した。
モリアのオークはその後も執拗な追撃を続け、ロスローリエンやアンドゥインなどで指輪の仲間はモリアから送り出されたオークの部隊に接触している。
ガンダルフとバルログの戦い†
一方、ガンダルフはバルログと奈落に落ちた後、地の底にある「いやはての石の土台」に達した。ガンダルフはバルログと戦いながらドワーフの作った通路に戻って無限階段を上り、ドゥリンの塔があるケレブディル山頂へと到達。ここで繰り広げられた『山頂の闘い』によって、長年モリアに潜んでいたドゥリンの禍はガンダルフによって討ち果たされた。
ドワーフによるモリアの奪回†
ナンドゥヒリオンの合戦の時、ダーイン二世はドゥリンの一族がふたたびモリアを歩くまでには、世の中が変わり、われわれ以外の別の力が出現しなければならないのですと予言している。
The Peoples of Middle-earthには、第四紀になってドゥリン七世がモリアを奪回するエピソードについてのメモがあるが、この案が廃棄されたのか、単に忘れられ手をつけられていなかったかは定かではない。
構造†
モリアは霧ふり山脈の三つの山、カラズラス(赤角山)、ケレブディル(銀枝山)、ファヌイゾル(雲乗山)の下に築かれている。
以下は、原作に記されているモリアの構造の描写についてまとめたものである。
- 西門 (West-gate)
- エレギオンからモリアに至る道の終わりにある、モリアの西側の出入り口。西門の扉はイシルディンで細工がなされ、合言葉を唱えなければ外からは開かないようになっている。西門を入ると、200段ある階段がある。階段の上は、床が平らで天井がアーチ状になった廊下が先へと続いている。この廊下は途中幾重にも分岐しつつ山中を下り、やがて番人の詰所のある三つの分岐路につながる。
- 番人の詰所 (guardroom)
- 西門から6~7時間歩き続けた先にある、この部屋の南側にある廊下を見張るための番人の詰所。指輪の仲間はここで休憩した。詰所の床には井戸が穿たれており、ピピンが石を落として反響音を響かせた。詰所が見張る廊下は、東側が3つに分かれている(左側は急な下り、右側は登り、中央はほぼ平坦だが狭い)。ガンダルフは悩んだ末、空気の澄んだ右側の道を選んだ。その廊下は曲がりくねりながら登りが続き、やがて大通りとなって第二十一広間の西側入り口に達する。
- 鉱脈 (lodes)
- ミスリルの鉱脈が、北のカラズラスの方に向かって続き、暗闇の中へ下っているという。
- 第二十一広間 (Twenty-first Hall)
- 番人の詰所から8時間、20マイル以上歩き続けた先にある広大な広間。第七層すなわち大門の六層上にある。石から切り出した沢山の巨大な柱で天井が支えられ、黒い壁はガラスのように磨かれている。第二十一広間の東西南北には、それぞれ別の場所へと通じる通路がある。東側の壁の上部には、外の光を招き入れるための採光筒がある。指輪の仲間はここで休憩した。
- マザルブルの間 (Chamber of Mazarbul)
- 第二十一広間の北側アーチ門を出てすぐ、通路の東に入り口がある部屋。マザルブルの間の中にはさらに東にも扉があり、第二広間の方へと向かう長い下り階段がある。指輪の仲間はこの部屋でバリンの墓所とマザルブルの書を発見。その後オークなどに西側から襲撃された後、東へ抜けて第二広間へ向かった。
- 第二広間 (Second Hall)
- 第一深層すなわち大門の一層下にある広間。第二十一広間よりもさらに天井が高く奥行きがあり、大樹の幹に似せて彫られた柱によって天井が支えられている。指輪の仲間がモリアを通過したとき、第二広間にはオークによって炎の放たれた割れ目が作られていた。だが指輪の仲間はマザルブルの間から東へ抜ける通路をたどって割れ目の東側に出て、そのまま東のドゥリンの橋へと向かったため、炎に行く手を遮られずに済んだ。東側は奈落が口を空けており、ドゥリンの橋がかかっている。
- ドゥリンの橋(Durin's Bridge)
- 第二広間の東側、第一広間に達する通路の西側にひらいた奈落にかけられたアーチ橋。奈落は非常に深く、誰もその深さを測ったことはない。ガンダルフはここでバルログを食い止めて橋を破壊し、共に奈落へ落ちて行った。奈落の底には深く冷たい水があり、いはやての石の土台がある。
- いやはての石の土台 (the uttermost foundations of stone)
- ドゥリンの橋がかかっている奈落が行き着く果てにある場所。この近くには名前も持たぬ者たちによって掘られた、ドワーフたちの掘ったトンネルよりもさらに深いトンネルがある。そのトンネルは、ドワーフの秘密のトンネルにも通じている。奈落に落ちたガンダルフとバルログは戦い続けてここに到達した。
- 無限階段 (Endless Stair)
- ドワーフによって作られた、最下層の土牢からケレブディル山頂のドゥリンの塔まで延々と続く螺旋階段。逃れるバルログを追ってガンダルフがここを登っていった。
- ドゥリンの塔 (Durin's Tower)
- 無限階段が通じる先にある、ケレブディルの山頂を刻んで築かれた塔。
- 第一広間 (First Hall)
- モリアの東門である大門がある広間。第二広場からは奈落にかけられたドゥリンの橋を過ぎて幅広の大階段を上り、音の反響する広い廊下を通った先に位置する。門のある東面にはいくつもの採光筒が穿たれており、日中にはそこから差し込む光のために眩いばかりに明るい広間だった。
- 大門 (Great Gates)
- モリアの東側の出入り口。モリア東門(East-gate of Moria)、おぼろ谷口(Dimrill Gate)とも呼ばれる。門の外はナンドゥヒリオン(おぼろ谷)の谷間であり、ここはナンドゥヒリオンの合戦の舞台となった。門の扉は壊れて開いたままになっており、こちら側からは容易にモリアに入り込むことができた。
東側の大門周辺は初期に築かれた部分であり、旧モリア(Old Moria)と呼ばれる。*6
マザルブルの書には、オーインが第三深層の上部武器庫(upper armouries)を捜し、柊郷の門(西門)へ行ったという記述もあるが、具体的な位置は定かではない。
ガンダルフによると、西門から東門までは直線距離で40マイル以上はあり、指輪の仲間は2日ほどかかってモリアを通過した。
関連項目†
画像†
他の作品に与えた影響†
『指輪物語』で指輪の仲間が通過するこのモリアは、多数のRPG作品の「地下迷宮」(ダンジョン)のイメージ成立に多大な影響を与えた。
その名も'Moria'という、ローグライクゲーム(Wikipedia:ローグライクゲーム)も存在する。
映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定†
第二十一広間、マザルブルの間などが再現されているが、ドゥリンの橋に至る第二広間の階段は、映画演出のためデザインがダイナミックにアレンジされている。
また、原作においてピピンが石を落とした井戸は、番人の詰所ではなくマザルブルの間にあり、ピピンは石ではなく不用意に触ったドワーフの骸と、鎖でつながれた桶を落としている。
地図と書物の装丁を担当したダニエル・リーヴによって、モリア内部の詳細な地図が製作されている。
グッズ†
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カザド=ドゥームの名で、繁栄している時期のモリアが映像化されている。
エレギオンと友好関係を築く前という設定であるためか、西門の描写は原作とも映画『ロード・オブ・ザ・リング』とも異なる。
ゲーム『ロード・オブ・ザ・リングス オンライン』における設定†
バリン一党は全滅しているが、指輪の仲間が通過したあとであるため、ドゥリンの禍も滅びている。そのためモリアを奪回しようと、くろがね連山のドワーフが入植を試みており、モリア内部には第二十一広間を中心として、各所にドワーフの拠点が点在している。
モリア内部の構造は原作にきわめて忠実に再現されているほか、ジラグジギルから光を取り込むために作られた鏡の間(Hall of Mirrors)、水車のある給水場(Woterworks)*7、赤角山鉱脈(Redhone Lodes)、銀枝山鉱脈(Silvertine Lodes)、敵に占拠されている第十六広間(Sixteen Hall)やカザド=ドゥームの鉱炉(Forges of Khazad-dûm)など、原作設定から矛盾しないようにしつつ拡張された、多数のオリジナルの施設が存在する。
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