シンゴル†
概要†
カテゴリー | 人名 |
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スペル | Thingol |
その他の呼び名 | エルウェ(Elwë) エル(Elu) シンゴルロ(Singollo) 灰色マント王(King Greymantle) 隠れた王(Hidden King) ベレリアンドの王(Lord of Beleriand) |
種族 | エルフ(シンダール) |
性別 | 男 |
生没年 | 二つの木の時代~†第一紀(502) |
兄弟 | オルウェ(弟)、エルモ(弟) |
配偶者 | メリアン |
子 | ルーシエン(娘)、トゥーリン(養子) |
解説†
シンダリンで「灰色マント(Grey-mantle)」の意。クウェンヤ形はシンゴルロ*1。元来の名はクウェンヤでエルウェであり、このシンダリン形がエルである。よってクウェンヤでエルウェ・シンゴルロ、シンダリンでエル・シンゴル、すなわち「灰色マントのエルウェ」とも呼ばれる。
マイアのメリアンの夫となり、ルーシエンの父となる。オルウェと(終わらざりし物語によると)エルモの兄。
星々の時代から太陽の第一紀まで存在した隠れ王国ドリアスの王であり、またベレリアンドにおける全てのテレリ族の上級王でもあるとされていた。彼の率いる民がシンダールである。
彼は大海の東に住むウーマンヤールの王であったが、彼自身はアマンで二つの木の光を目にしたことのある光のエルフであった。
帯びる剣の名はアランルース。
歓喜してかれのまわりに集う友人縁者たちは、驚嘆してかれを仰いだ。なぜなら、もともと美しくもあり気高くもあったとはいえ、今やかれは、マイアールの高貴な者の一人であるかのように見えたからである。髪は銀灰色、背丈はイルーヴァタールの子らの中で最も高かった。そのかれの前には、並々ならぬ宿命が置かれていたのである。*2
アマンの目撃とテレリの旅の先導、そして行方不明†
彼はエルフたちをアマンに招くために、ヴァラールによってそれぞれの部族の代表として選ばれた三人の使節の一人だった。エルウェは、イングウェ、フィンウェと共にオロメに連れられてアマンに到り、その地の素晴らしさと二つの木の光を目撃する。
クイヴィエーネンに戻った彼らは、ヴァラールの招致に応じて西方への移住を行うよう仲間達を説得し、大いなる旅でエルウェは弟のオルウェと共にテレリ族を率いてアマンを目指した。
しかしエルウェは、しばしば友のフィンウェに会うために民から離れることがあり、ある時その帰りにナン・エルモスの森でメリアンと出会った。メリアンに魅せられたエルウェは彼女の手を取り、二人はそのまま森の木々が高く深く生い茂るまで立ちつくしていた。
そのためテレリの縁者達は彼の行方を捜し回ったものの見つけることができず、エルウェは仲間達から消息を絶った。
ドリアスの灰色マント王†
やがて魔法から醒めたエルウェとメリアンはナン・エルモスを後にし、彼を探してアマンへ渡ることのできなかったテレリの民と再会する。エルウェにもアマンへ焦がれる気持ちはあったものの、メリアンの面影にかの地の光を見ることができたためそれに満足し、西方へ渡ることを断念する。
彼はベレリアンドの中央にエグラドール、後にドリアスと呼ばれる王国を築き、大海の東に留まる全てのテレリ族の王と見なされるようになった。以後エルウェはシンダリンで「灰色マントのエルウェ」を意味するエル・シンゴルと呼ばれるようになる。
彼の民は後にシンダール(灰色エルフ)と呼ばれ、シンゴルの威光とメリアンの智慧に照らされてウーマンヤールの中で最も技と叡智に優れたエルフとなった。かれらは星々の時代の中つ国にあって平和を謳歌し、シンゴルの王権は海岸沿いのファラスから青の山脈にほど近いオッシリアンドにいたるまであまねく及んだ。そのため彼はべレリアンドの王を自称した。
この時代に、メリアンとの間に一人娘のルーシエンをもうける。
この繁栄の時代にシンダールはドワーフとはじめて出会い、シンゴルは彼らの巧みな細工の技を重用し、ドリアスと青の山脈にあるノグロドとベレグオストの間には親密な交易関係が築かれた。
そしてメリアンからやがて来たる苦難の時代を予言されたシンゴルは、それに対する備えとしてドワーフの力を借りて壮麗な地下王宮メネグロスを建造し、ドリアスの王都とする。
やがてメリアンの予言通り、二つの木を害してアマンから逃亡してきたモルゴスが中つ国に帰還し、平和な時代が終わる。モルゴスは北方でアングバンドを再建すると、再び中つ国を支配するため暗闇とオークの軍勢を送り出してドリアスを攻撃した(ベレリアンド最初の合戦)。
国土を分断されたシンゴルはメリアンの力によってドリアスを魔法帯で囲み、モルゴスの攻撃を阻む。とはいえ、シンゴルはベレリアンドを恣に蹂躙するモルゴスの軍勢を退ける力は持たなかった。
ノルドールとの確執†
やがてモルゴスを追ってきた流謫のノルドールが中つ国に帰還して太陽の第一紀が始まると、ノルドールの武勇によってオークの軍勢は駆逐され、モルゴスは北方に封じ込められた。
シンゴルはかれらにヒスルムやドルソニオンおよび東ベレリアンドの無人の地に定住する許しを与えたが、多くの公子達が自らの領土に侵入してきたことを必ずしも快く思わず、またモルゴスの脅威が完全に去ったわけでもないため、魔法帯を取り除くことをしなかった。ノルドールの公子達の目にはシンゴルのこの態度は傲慢で冷淡なものと映り、少なからぬ反感を買う。
ノルドールの上級王フィンゴルフィンが催したメレス・アデルサドにも、シンゴルはダエロンとマブルングのみを名代として送るという冷淡な対応を取った。
シンゴルは当初からノルドール帰還の理由について疑念を抱いていた。やがてシルマリルを巡る事件とアルクウァロンデでの同族殺害の真実を知るにいたり、アマンの同族に対して加えられたこの仕打ちに激怒。ノルドールの言葉であるクウェンヤの使用を一切禁止する命令をシンダールに発する。これが後の時代の中つ国においてクウェンヤが古雅語としてしか用いられなくなる原因となった。
しかし、同族殺害に直接の責任のないフィナルフィンの子らに対しては、かれらがテレリのエアルウェンを母(祖母)に持ちシンゴル自身と縁続きであることもあり、当初から同情的であった。
ノルドールの通過を拒む魔法帯もかれらに対してだけは開かれることとなり、フィンロドはシンゴルの影響を受けてナルゴスロンドを築き、またガラドリエルは長くドリアスに滞在してメリアンの教えを受けると共に、シンゴルの縁者であるケレボルンと結婚した。
シンゴルはメリアンの助言を容れて、シルマリルを巡るノルドール族の戦いには極力不干渉の立場を取り、マエズロスの連合にも参加しなかった。
ドリアスは魔法帯の守りによって戦禍を免れ、度重なる合戦においてもドリアスから兵が出されることはほとんど、あるいは全くなかった。
ルーシエンへの愛、ベレンに対する難題と和解†
すべてのイルーヴァタールの子らの中で最も美しいとされる一人娘のルーシエンを、シンゴルは何にもまして大切に思っていた。
シンゴルは当初人間を蔑視しており、そのためベレンが運命に守られて魔法帯を突破し、ルーシエンと恋に落ちると、シンゴルは大いに悲憤する。だがベレンを殺さないとルーシエンに誓言を立ててしまったため、「ルーシエンと結婚したくばモルゴスの鉄の王冠からシルマリルの一つを手に入れてくるように」とベレンに要求、暗に彼を葬り去ろうとした。
このことが、シンゴルとドリアスをマンドスの呪いに結びつけてしまうことになった。それを予見したメリアンはたとえベレンがその使命に失敗しましょうと、あるいは成就して戻りましょうと、殿のお為にはなりませぬ。殿は、殿の娘を、でなければ、殿御自身を滅びの運命に定めてしまわれたのですと言っている*3。
ベレンが旅立ったあと、ルーシエンがベレンを助けるためにドリアスを出奔しようとしていたことをダエロンの密告によって知ると、シンゴルは橅の大樹ヒーリルオルンの上に家を建てさせてそこにルーシエンを軟禁したが、ルーシエンは眠りのまじないを使って脱出し、そのまま行方知れずとなる。
やがてルーシエンをナルゴスロンドに捕らえたケレゴルムが、彼女を妻にするつもりであるという使いをよこした時には、シンゴルは激怒して一戦交えてでもルーシエンを取り戻そうとした。しかしそうなる前に、ルーシエンはまたも消息不明となる。
その後誰も予想しなかったことに、ベレンとルーシエンが探索を成功させ、本当にアングバンドのモルゴスの玉座まで辿り着いてシルマリルの一つを一時的にだが手にしてドリアスに戻ってくる。ベレンが、カルハロスによって食いちぎられ、シルマリルごと失った自分の片手を差し出してカムロスト(空手)を名乗ると、シンゴルは態度を軟化させ、二人の話を聞くうちにベレンの偉大さを認めるようになる。そしてついに、自分の玉座の前で二人の婚約を認めた。
しかし二人の帰還に先立ち、シルマリルを呑み込んで猛り狂ったカルハロスが領内に侵入し、恐ろしい災禍をもたらしていた。シンゴルは、ベレンとマブルング、ベレグらとフアンを連れて狼狩りを決行する。この時ベレンがカルハロスの攻撃からシンゴルを庇い、致命傷を受ける。ベレンは今際の際に取り戻されたシルマリルをシンゴルに差し出し、ここに彼の誓言の成就された。さらにルーシエンは生身の命を捨て、死んだベレンの後を追ってマンドスの館へ去る。
この時、死すべき命の人間に白髪の老年がある如く、シンゴルにも冬が訪れたという。
しかし、ルーシエンはヴァラールに嘆願して彼女もまた常命の存在となるのと引きかえに、ベレンと共に中つ国に生還する。ベレンとルーシエンは、一度シンゴルに再会するとトル・ガレンへ去り、その後再びシンゴルに会うことはなかった。
以後シンゴルは人間に対して好意的となり、フーリンの息子トゥーリンがドリアスを訪れた際には、ニルナエス・アルノエディアドなどで奮戦したフーリンに敬意を表してトゥーリンを養子に迎え、周囲を驚かせた。トゥーリンが、サエロス殺害の嫌疑で裁かれるのを拒んでドリアスを去り行方知れずになった時には、シンゴルは大いに悲しんだ。
シルマリルとナウグラミールを巡る悲劇†
シンゴルは、ベレンとルーシエンが取り戻したシルマリルを手元に置いていたが、やがてこれに心を奪われるようになる。
トゥーリンの死後、フーリンがナルゴスロンドの廃墟からナウグラミールを持ち出してきてシンゴルの許にもたらすと、シンゴルはシルマリルをナウグラミールに嵌めこんで一つの宝とすることを思いつく。彼はメネグロスに滞在していたノグロドのドワーフの一団にこの仕事を請け負わせた。
ところが、シルマリルとナウグラミールの素晴らしさに心を奪われたドワーフは、口実を設けてこの宝物の権利を主張する。それを察して怒りに駆られたシンゴルは用心を忘れて彼らの只中で侮辱的な言葉を返し、報酬の支払いを拒否。そのため、シンゴルはメネグロスの地下の作業場でドワーフ達に殺された。
こうして、ドリアスの王エルウェ・シンゴルロは、メネグロスの地下深きところで死んだのである。イルーヴァタールの子らの中で、かれだけがアイヌルの一人と結ばれていた。そして、中つ国に置き去られたエルフの中でただ一人、ヴァリノールの二つの木の光をその目で見たことのあるかれは、今、死にゆく目でシルマリルを見つめたのである。*4
シンゴルの死を嘆き悲しんだメリアンはアマンへ去り、ドリアスの魔法帯は消失する。このためにドリアスはノグロドのドワーフの報復に対し無防備となり、荒廃し財宝は奪い取られた。トル・ガレンのベレンは息子のディオルと緑のエルフを連れてドワーフ達を攻撃し、シルマリルとナウグラミールを取り返した。
この一件は、その後の長きにわたってドワーフとシンダールの間に遺恨を残し、両種族の不仲の原因となった。
ドリアスの王位はディオルが継いで王国の再建を図ったものの、再びシルマリルを巡ってフェアノールの息子たちの襲撃を受け、ドリアスは完全に滅亡した。
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