- 星となったエアレンディル(Star of Eärendil)についてはエアレンディルの星を参照してください。
- ゴンドール5代目の王エアレンディル(Eärendil)についてはエアレンディル(ケメンドゥルの息子)を参照してください。
エアレンディル†
概要†
カテゴリー | 人名 |
---|---|
スペル | Eärendil |
その他の呼び名 | 半エルフのエアレンディル(Eärendil Halfelven) 航海者エアレンディル(Eärendil the Mariner) 光の君エアレンディル(Bright Eärendil) |
種族 | 半エルフ(エダインとノルドール、ヴァンヤールの血を引く) |
性別 | 男 |
生没年 | 第一紀503~ |
親 | トゥオル(父)、イドリル(母) |
兄弟 | なし |
配偶者 | エルウィング |
子 | エルロンド、エルロス(息子) |
解説†
トゥオルとイドリルの息子。エルウィングと結婚し、エルロンドとエルロスの父となる。
上古の半エルフの英雄、もっとも名高い航海者であり、中つ国からアマンへの航海に成功してヴァラールの憐れみを引き出した。その結果、彼の祖父にあたるフオルが予言したとおり、中つ国の自由の民の救世主となった。
そして彼はシルマリルの輝きを希望の印として永久に空に掲げるべく、天空を航行する明星となった。
世の果てから飛び去って、闇をぬけ、はるかな故国を再び見いだそうと切望して、一つ星のように燃えながら霧の上空をこえて、かれは来た。
日の出前の遠い焔となって、夜明けを待たぬ奇跡となって、北の国の川が薄暮色に流れるところへ。
…
しかしかれには強力な命運があった。
月の光がうすれるまで、丸い星を通すべく、死すべき人の住む此岸にはとどまれない。
使命を伝える者は、とこしえに、かれの輝く燈明であるいやはての西方国のフランミフェルをかかげて、休むことを許されないのだ。*1
混同されることがあるが、エレンディルとは別人。
前半生†
第一紀のゴンドリンで、人間のトゥオルとエルフのイドリルの息子として生まれる。
彼の耳と心には父トゥオルの場合と同じく、絶えず海が語りかけていたという。ゴンドリンが没落すると両親と共に脱出し、シリオンの港へと落ち延びたが、その途中で休息したナン=タスレンの地で父トゥオルから、水の王ウルモがネヴラストの岸辺に現われた時の歌を聴き、エアレンディルの心には海への憧れが目覚めた。
シリオンの港では先に落ち延びてきたドリアスの遺民と共に住まった。そこでエアレンディルはドリアスの王だったディオルの娘エルウィングと結婚し、エルロンドとエルロスの二人の息子の父となった。
トゥオルとイドリルが西方へと航海して去った後はエアレンディルがシリオンの港の領主となり、ベレリアンドの各地から避難してきたエルフと人間を共に治めた。
西方への航海†
船は星空の下、月の下、北の岸べを遠くはなれて、この世の明るい境をこえ、魔の道にひき迷わされた。
かれは凍った山中に影のさすせまい氷雪をきしませて逃げ、暑い坑道、燃える荒野を逃れて、なお星なき海をさ迷った末に、たどりついたのは、虚空の夜だった。*2
エアレンディルはシリオンの港に留まっていたが、西方へ去った父トゥオルと母イドリルの後を追いたいという望みを強く抱くようになった。さらに彼はアマンに到達してヴァラールに憐れみを乞い、中つ国の自由の民の窮状を救いたいとの望みをも抱いていた。
そこでエアレンディルは船造りキールダンの助けを借りてニンブレシルの樺の木からヴィンギロトという船を作ると、三人の水夫(ファラサル、エレッロント、アエランディル)と共に西方への航海に出発する(その時に、イドリルが残した緑の石を身につけていたと言われる)。
だがその航海はヴァリノール隠しによって失敗し、彼らは失望して中つ国に戻ろうとする。しかしその時、シルマリルを持ったエルウィングが白い鳥の姿となってヴィンギロトに辿り着いた。彼らはシルマリルを掲げ、改めて西方への航海を再開する。シルマリルの輝きに導かれた船は影と惑わしを突破して遂にアマンに到達した。
嘆願と半エルフの運命†
「よくぞ参られた、エアレンディル、船乗りの中にて最も世に聞こえし者よ、はからずも来れる待ち設けられし者よ、望みなきに来れる待望せられし者よ!」*3
エアレンディルはアマンに上陸したが、禁じられた不死の国を踏むことで神々の怒りを被ることを恐れ、水夫たちには自分の後に続かないよう命じた。だがエルウィングはこれを聞き入れずにエアレンディルの後に続いて岸辺に降り立ち、二人で運命を共にすることを選んだ。
エルウィングを岸辺に残し、一人でアマンの奥地へ進んだエアレンディルは、無人のティリオンで伝令使エオンウェの出迎えを受ける。ヴァラールの許に参上したエアレンディルは、中つ国のエルフと人間の窮状を訴え、彼らのために憐れみと助力を垂れるよう願った。
ヴァラールはエアレンディルの嘆願を聞き入れたが、彼が再び中つ国に戻ることは許されなかった。また半エルフである彼と妻のエルウィング、そして二人の息子であるエルロンドとエルロス兄弟は、エルフと人間いずれの種族に属するかの選択を迫られた。エアレンディルは本心では父方の人間に属することに心引かれていたが、選択をエルウィングに委ね、エルフの運命を選んだ彼女に従った。
エアレンディルの星†
船中には、汚れのない明るい炎が溢れるほどに充ちみちてゆらいでいた。航海者エアレンディルが舳先に坐り、全身をエルフの宝石屑で輝かせ、額にはシルマリルを結びつけていた。この船で、かれは遠く旅をした。*4
エアレンディルにはさらに強力な宿命が下され、シルマリルの光を掲げて天空を永久に航行することが運命づけられた。ヴィンギロトはヴァラールの手に取り上げられて美しく驚嘆すべきものに作り変えられ、エアレンディルはそれに乗って空の彼方、はるか虚空へまでも航海することになった。
ヴァリノールから飛び立ったエアレンディルが星となって輝くのを認めた中つ国の自由の民は、これをよき印と受け取り、もはや絶望することがなかった。この星はヴィンギロトが虚空に向かうときと虚空から帰ってくるとき、つまり明け方と宵の時間に空に見ることができる。我々の世界で「明けの明星」「宵の明星」として知られているのが、このエアレンディルの星である。
怒りの戦いでは、冥王モルゴスが翼を持つ龍たちを出撃させた時、これを迎え撃つために天空の大鳥たちを引き連れてヴィンギロトに乗って空から参戦。夜を徹して空中で闘った末、エアレンディルは日の出前に黒竜アンカラゴンを打ち倒した。
その後†
エルロスに率いられたエダインの生き残りは、エアレンディルの星に導かれて大海を航海し、ヌーメノールの島にたどり着いた。
『指輪物語』において、裂け谷でビルボ・バギンズが作って歌っていたのがエアレンディルの歌である。またガラドリエルがフロド・バギンズに与えた玻璃瓶には、エアレンディルの星の光が込められている。
名前について†
以下の名前及びその説明は『The Peoples of Middle-earth』「The Shibboleth of Fëanor」による。
- エアレンディル(Eärendil)
- クウェンヤで「わたつみを愛する者(Lover of the Sea)」の意味。父トゥオルが与えた父名。人間であるトゥオルがこの予言的な名を付けたのは、彼の前に顕現したウルモがゴンドリンで生まれる息子が航海者として名声を得ることを予言したからだという。
- Ardamírë(アルダミーレ)
- Ardamir(アルダミル)とも表記される。クウェンヤで"Jewel of the World"(世界の宝玉)の意味。母イドリルが与えた母名。彼の持つ運命を予言した名。
備考†
エアレンディルの名とその物語は、8~9世紀頃の詩人キュネウルフ(Cynewulf)による古英語詩『キリスト(Crist)』の一節に由来する。
Eala Earendel engla Beorhtast
ofer middangeard monnum sendedおお、エアレンデル、天使らの中にありて光輝きわまりなきもの
人の世に送られて、中つ国の空にかかる*5
大学在学中にこの詩を目にして強いインスピレーションを受けたトールキンは、その後1914年頃に「エアレンデルの航海(The Voyage of Éarendel)」と題される詩を書いた。
この詩が、トールキンの中つ国(アルダ)にまつわる神話体系の最初のものとなった。
ハッブル宇宙望遠鏡による観測で2022年に確認された、地球から129億光年先にあり、ビッグバンから9億年後に生まれたと考えられる(観測時点で最古にして最遠の)恒星が、トールキンの物語にちなみ、エアレンディルの語源である古英語Earendelから取られた“エアレンデル”のニックネームで呼ばれている*6*7。
コメント†
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