#author("2023-05-09T19:02:54+09:00","","")
#author("2023-06-19T17:05:37+09:00","","")
* &ruby(にしざかい){西境};の&ruby(あかびょうしぼん){赤表紙本}; [#w6bbdb77]
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[物・品の名前]]|
|~スペル|Red Book of Westmarch((Red Bookには「名士録」という意味もある))|
|~その他の呼び名|フェリアンナスの赤表紙本(Red Book of the Periannath)|

** 解説 [#Explanation]

[[ビルボ・バギンズ]]、[[フロド・バギンズ]]、そして[[サムワイズ・ギャムジー]]によって主に書かれた、[[第三紀]]末の歴史および[[指輪戦争]]に関する重要な史料集。
[[エラノール]]を祖とし、[[西境の区長]]を勤めた[[髪吉家]]に所蔵されたため「[[西境]]の」と呼ばれた。またこれらの本は全5冊よりなり、赤皮で装幀され、同じ赤いケースに収められていたため「赤表紙本」の名で呼ばれる。

一冊目は元々はビルボの日記兼回顧録であり、[[彼の最初の冒険>ホビットの冒険]]に関する記述が書き込まれた後、資料を引き継いだフロドが[[指輪戦争の記録>指輪物語]]で残りページのほとんどを埋め、それを引き継いだサムワイズによって最後の数章が記されて完成された。
残りの三冊は「[[エルフ語から翻訳したもの>シルマリルの物語]]」と題されており、ビルボが[[裂け谷]]において収集した主に[[上古]]にまつわる膨大な伝承資料からなっている。
最後の五冊目は[[髪吉家]]に所蔵された後に付け加えられたもので、注解や[[系図]]、その他フロドの同志の[[ホビット]]に関する事跡が記されていた。

>とびらには表題がいくつも書かれていて、それが次々と線で消してありました。こういうふうにです。
&br; '''わが日記。思いよらざりしわが旅の記。往きて還りし物語。またその後の出来事。&br; 五人のホビットの冒険。大いなる指輪の物語、編者自身の観察記録とその友人たちの口供とをもとにビルボ・バギンズ編集す。指輪戦争でわれらのなしたことども。'''
&br;ここでビルボの筆跡は終わり、次にフロドの手で書かれていました。
&br; ''指輪の王&br; の没落と&br; 王の帰還''
&br; (小さい人たちの見たこと。ホビット庄のビルボとフロドの回想録に基づき、友人たちの口供ならびに賢者たちの知識によって、補足された。)&br; 裂け谷においてビルボの訳した伝承の諸本からの抜粋を含む。((『[[指輪物語]] [[王の帰還>指輪物語/王の帰還]]』「灰色港」))

赤表紙本の原本は現存しないが、写本や抄本の類が数多く作られ、現代に伝えられている。
それらの中で最も重要なものは、赤表紙本の最初の写本である「セイン本」から作られた、[[フィンデギル]]筆写による[[大スマイアル]]に収蔵されていた写本であろう。
「''[[ミナス・ティリスのセイン本>セイン本]]''」とは、[[ペレグリン・トゥック]]が[[ゴンドール]]に隠退するときに[[エレッサール王>アラゴルン二世]]に献じたもので、[[ミナス・ティリス>ミナス・ティリス(ゴンドール)]]で[[エルフ語]]に関する内容や「[[アラゴルンとアルウェンの物語]]」をはじめとした数々の付記や注釈が施された。
「''[[大スマイアルの写本>セイン本#inGreatSmials]]''」は[[第四紀]]172年([[ホビット庄暦]]1592年)にゴンドールの王の祐筆[[フィンデギル]]によってセイン本から細部にいたるまで完全に筆写されたもので、ビルボの「エルフ語から翻訳したもの」といった他の伝本では失われたり除かれたりした内容を多く残しているという点で重要なものである。

以上のような錯綜した系統関係のため、現存する諸伝本の間には少なからぬ異同があり、検討すべき資料も膨大なものになる。

[[トールキン>ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン]]教授がこれらの伝本および関連資料の内容を比較検討し、[[西方語]]で書かれた内容を「英語に翻訳」して出版したものが『[[ホビットの冒険]]』や『[[指輪物語]]』、および『[[シルマリルの物語]]』などである、ということになっている。

*** その他の史料 [#Others]

西境の赤表紙本の他にも、[[バックルベリ]]や[[タックバラ]]の文庫に収蔵されていた数々の史料が現存している。
特に[[バック郷]]の[[館主]][[メリアドク・ブランディバック]]の著した「[[ホビット庄本草考]]」「[[紀年考]]」「[[ホビット庄の古語および古名]]」、[[セイン]]・[[ペレグリン・トゥック]]らが収集した資料から編纂された「[[西国年代記]]」、「[[黄皮表紙本]]」といった史料は『[[指輪物語]]』に大いに採録・活用されている。
特に[[バック郷]]の[[館主]][[メリアドク・ブランディバック]]の著した「[[ホビット庄本草考]]」「[[紀年考]]」「[[ホビット庄の古語および古名]]」、[[セイン]]・[[ペレグリン・トゥック]]らが収集した「[[西国年代記]]」「[[黄皮表紙本]]」といった史料は『[[指輪物語]]』に大いに採録・活用されている。

** トールキンによる設定としての赤表紙本 [#p739b415]

トールキンは自著『[[指輪物語]]』『[[シルマリルの物語]]』執筆の上で、上述したような詳細な物語内設定を設け、第三者に対して自著の内容を説明する時にはその設定を踏まえた「伝承の研究者・翻訳者」という立ち位置からコメントすることを好んだ。
これには一つには、 '''これらの物語群は“既知”のものとして心に浮かんできました。 … 常に私は、すでに“そこに”、つまりどこかにあるものを記録しているという感じを持っていました。自分で“作り上げている”という感じではなく。'''((『[[シルマリルの物語]]』「一九五一年、ミルトン・ウォルドマン宛、J・R・R・トールキンの手紙より」)) というトールキンの執筆感覚に根ざした理由があった。
またその一方でこの設定は、ある時は意図して、またある時は意図せずして、トールキンの重視する物語の「内的一貫性」に大きく資する技巧要素としても機能した。

『[[ホビットの冒険]]』の初版では、[[ビルボ>ビルボ・バギンズ]]が[[ゴクリ]]から[[指輪>一つの指輪]]を手に入れたくだりは、[[なぞなぞ遊び]]に負けたゴクリが大人しく引き下がったという描写になっていた。ところがトールキンが続編として『[[指輪物語]]』を執筆していくにつれて、[[ゴクリ]]および[[一つの指輪]]は『ホビットの冒険』のそれよりもはるかに邪悪な性質が付与されていき、描写に不一致が生じることになった。
トールキンは『指輪物語』公刊に先立って『ホビットの冒険』を続編の内容に合うように改稿したが、これは「伝承史料をトールキンが編纂したもの」という設定を採ることによって、本来ならば単なる矛盾で終わったはずのこの不一致を「伝本の違いによる内容の異同」「ビルボの嘘が修正されないままの版を参照した結果」として作中で説明し、世界観を補強するものとして逆手に取ることができた(('''ビルボはその備忘録の中にもこのように記し、[[エルロンドの会議]]のあとでさえ、自分ではけっしてこれを修正しなかったようである。赤表紙本の原本には、周知のようにいまだにこの通りに記載されているし、その幾本かの写本及び抄本においても同様である。'''『[[旅の仲間>指輪物語/旅の仲間]]』「序章 指輪の発見について」 '''「しかし、これからわたしが話すのは本当の話です。もしこの中で、わたしが違った話をしたのを聞いた方があれば、」――かれは[[グローイン>グローイン(グローインの息子)]]の方を横目でちらと見ました――「それは忘れて、わたしをゆるしてくださるようにお願いします。」'''『旅の仲間』「エルロンドの会議」))。

これは、トールキンの膨大な未整理の遺稿を息子の[[クリストファ>クリストファ・トールキン]]が整理し刊行することになった時にも一定の効果を発揮した。『[[シルマリルの物語]]』序文においてクリストファは、本文の調子が必ずしも一致していないことについて次のような言及をしている。

>父は、『シルマリッリオン』を、長い年月を通して伝承された結果生き残ってきたさまざまな材料(詩、年代記、口承伝承など)が、後代に至って収集され、その内容が要約されて出来上がった物語として着想するに至ったのである。このような着想は、この本自身の歴史とも酷似している。なぜなら、それ以前に書かれた散文や詩の多くがこの本の土台になっているからである。それ故、ただ制作上の構想の上だけではなく、ある程度は事実においても、本書は要約して語られた物語なのである。

また特に「翻訳」の問題については[[西方語#翻訳について>西方語#Translation]]も参照のこと。

** 映画『[[ロード・オブ・ザ・リング]]』における設定 [#Lotrmovie]

&ref(vlcsnap-00051.jpg,,25%,『ロード・オブ・ザ・リング』における西境の赤表紙本);&ref(vlcsnap-00049.jpg,,25%,『ロード・オブ・ザ・リング』における西境の赤表紙本);

** コメント [#Comment]

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