#author("2016-07-13T22:03:37+09:00","","")
* モルゴス [#t18214f9]
#contents
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[人名]]|
|~スペル|Morgoth|
|~その他の呼び名|メルコール((旧訳ではメルコオル))(Melkor) &br; バウグリア(Bauglir) &br; [[冥王]]、暗黒の王(Dark Lord) &br; 世界の暗黒の敵、この世の黒き敵(the Black Foe of the World) &br; 大敵、大いなる敵(the Enemy) &br; 強大な敵、大いなる敵(the Great Enemy) &br; かの大いなる影(the Great Shadow) &br; 暗黒の王(the Lord of the Dark, the Dark King) &br; 暗黒の主(the Lord of the Darkness) &br; 世界の王(King of the World) &br; マンドスの囚人(jail-crow of Mandos)|
|~種族|[[アイヌア]]([[ヴァラール]])|
|~性別|男|
|~生没年||
|~親||
|~兄弟|[[マンウェ]](兄弟)|
|~配偶者||
|~子||

** 解説 [#Explanation]

[[アルダ]]の諸悪の根源。初代[[冥王]]。
元来この者は、[[クウェンヤ]]で「力にて立つ者」(He who arises in Might)の意の''メルコール''の名((この名の[[シンダール語]]の訳名は''ベレグーア''(Belegûr)だが、[[エルフ]]たちはこれを用いず、「大いなる死」(Great Death)の意味の''ベレグアス''(Belegurth)を用いた))で呼ばれた最も強大な[[アイヌア]]であった。だがメルコールは[[イルーヴァタール]]の主題に反逆し、兄弟たる[[マンウェ]]の[[王国(アルダ)>アルダ]]を力ずくで我が物にしようとして数限りない損害をアルダに加えた。そのためメルコールの名は剥奪され、もはや[[ヴァラール]]の一人には数えられない。
[[フィンウェ]]が殺されて[[シルマリル]]が奪い取られたことを知った[[フェアノール]]がこの者を[[シンダール語]]で「黒き敵」(Black Enemy)の意の''モルゴス''と呼び、以後はその名で知られるようになった。シンダール語で「圧制者」(Constrainer)の意である''バウグリア''とも呼ばれた。

アイヌアとしては酷寒と灼熱を生じさせた者だった。しかしモルゴスがアルダに害を加える上で最もよく用いたのが暗闇であり、彼と同一化された暗闇はすべての命ある者にとって甚だしい恐怖の対象となった。このために''[[冥王]]''の名で呼ばれる。
[[中つ国]]では[[ウトゥムノ]]、および[[アングバンド]]を拠点とし、その下には[[マイアール]]の悪霊([[サウロン]]や[[バルログ]]等)や被造物の怪物([[オーク]]、[[トロル]]、[[龍]]等)、邪悪な[[人間]]([[東夷]])等からなるおびただしい数の堕落した召使が集っていた。これらの召使達の中で生き残った者はモルゴス亡き後も[[中つ国]]とそこに暮らす[[自由の民]]を害し続けたが、モルゴス自身はこういった勢力を構築してアルダを侵食することに力を費やしたため、晩期には[[アイヌア]]としての能力をほとんど失っていった。

モルゴスは[[怒りの戦い]]によって虚空に放逐され、現存する目に見える姿では二度と[[アルダ]]に戻ってくることはない。しかし彼の投げかけた暗闇はいまだに[[アルダ]]を覆っており、その意思と虚言は依然として召使達を支配している。

>「予こそ[[長上王]]なり。われはメルコール、全[[ヴァラール]]のうち、最初にあって最も力ある存在、[[世の開闢以前にあって世を創りし>アイヌリンダレ]]者。わがもくろむ影は[[アルダ]]を覆い、地上に起こるすべてのことはひそやかに、だが着実に、わが意を表してゆくであろう。 … 」((『[[終わらざりし物語]] 上』「II ナイン・イ・ヒーン・フーリン」 [[フーリン]]に向けられたモルゴスの大言壮語))

*** 最も力ある者 [#i56125a0]

[[イルーヴァタール]]より、メルコールは全[[アイヌア]]の中で最大の力と知識が与えられており、そればかりでなく他の[[ヴァラール]]の資質をもいくらかずつ分け与えられていた。
しかし彼はやがて自らの手で創造を成したいと欲すようになり、[[不滅の炎]]を求めてただ独り虚空をさ迷うようになる。そのため彼は、他のアイヌアとは異なる独自の考えを抱くようになった。

[[アイヌアの音楽>アイヌリンダレ]]が奏せられた時、メルコールは自分に与えられた&ruby(パート){声部};の栄光をさらに大きなものにしたいと思い、歌唱に自らの考えを織り込んで不協和音を生じさせた。メルコールの力はあまりに大きく、他のアイヌアの斉唱は圧せられ、イルーヴァタールの提示した主題が二度もかき消されるほどであった。中には、むしろ彼に同調して共に不協和音を起こす者達すらいた。
しかしイルーヴァタールが三度目に示した主題は力では決してかき消されることのない悲しみと美が基調となっており、メルコールとその同調者達の不協和音すら取り込んで一つの音楽となった。

>「げにアイヌアは力ある者なり。アイヌアのうちにありて、この上なき力を持つ者はメルコールなり。されど、メルコールは知るべし。すべてのアイヌアは知るべし。われはイルーヴァタールなり。 … 汝メルコールよ、いかなる主題であれ、淵源はことごとくわがうちにあり。何人もイルーヴァタールに挑戦して、その音楽を変え得ざることを知るべし。かかる試みをなす者は、かれ自身想像だに及ばぬ、さらに驚嘆すべきことを作り出すわが道具に過ぎざるべし」((『[[シルマリルの物語]]』「[[アイヌリンダレ]]」 音楽が終わった後の[[イルーヴァタール]]の言葉))

このイルーヴァタールの言葉にメルコールは恥じ入ったものの、心中では密かな怒りを覚えた。
アイヌアの音楽がかれらの眼前に幻視されると、メルコールはアイヌアの誰よりもその場所に心を奪われ、[[アルダ]]とそこに暮らす[[イルーヴァタールの子ら]]([[エルフ]]と[[人間]])を思うがままに支配したいと望むようになる。
彼は本心を隠し、子らのために自らの不協和音から生じた酷寒と灼熱を統御するという口実を自分でも信じ込んで、[[エア]]に下向した最初のアイヌア([[ヴァラール]])の一人となった。

*** 反逆者メルコール [#bbe99756]

>かれの心中に燃える悪意と鬱屈した気分のため、その形は暗く、恐ろしかった。そしてかれは、ほかのヴァラールの誰よりも強大な力と威厳を見せてアルダに降り立ったが、さながら、頭を雲の上に出し、氷を身にまとい、煙と火を頭上に戴き、海を渡る山のようであった。メルコールの目の光は、熱をもって萎らせ、死の如き冷たさで刺し貫く炎のようであった。((同上 最初に形をまとった時のメルコールの様子))

エアに下向した[[ヴァラール]]は、やがて生まれ来る[[イルーヴァタールの子ら]]のために世界を築くという大事業に取り掛かる。しかしメルコールはそこを自分のものだと宣言して思いのままに世界を形作ろうとし、それに抵抗する[[マンウェ]]をはじめとした他のヴァラールと争った。やがてヴァラールが[[アルダ]]の形を造り上げてそれに準じた姿を纏うと、メルコールもそれに応じて強大な姿を纏うようになる。

マンウェは自らの下に[[アイヌア]]の力を招集し、成されることすべてを自分の思う方向にねじ曲げようとするか、あるいは全く損ねてしまおうとするメルコールの妨害に対抗した。メルコールは熱と冷気によって[[ウルモ]]の領域を侵犯しようとするが、ウルモはマンウェと力を合わせてそれを退ける。また、[[アウレ]]の仕事を妬んだメルコールはこれに絶えず損害を与えようとし、アウレはメルコールが加えた傷を修復することに次第に消耗していくようになる。

だが[[トゥルカス]]の到来によってメルコールは完全に打ち負かされ、外なる暗闇に逃亡した。
これによってようやくアルダの構造と秩序は形を成したが、メルコールの絶えざる妨害のためにヴァラールの当初の構想が完全に実現されることはなかった。

*** 暗闇の支配者 [#u61ab75b]

外なる暗闇に逃れたメルコールだが、彼は[[ヴァラール]]に仕える[[マイアール]]の中に多くの間者を持っていた。そのためメルコールは同胞が成し遂げたことを全て把握し、いよいよ憎悪を強くする。
ヴァラールが[[アルダ]]を照らす[[二つの灯火]][[イルルイン]]と[[オルマル]]を完成させ、[[アルマレン]]に宮居を築いてそこに住まうようになると、メルコールは[[夜の壁]]を越えて北方に[[鉄山脈]]を築き、それを防壁として[[ウトゥムノ]]の地下城砦を築き上げる。([[灯火の時代]])

メルコールはまず北方からアルダを浸食し、[[ヤヴァンナ]]が目覚めさせた動植物([[ケルヴァール]]と[[オルヴァール]])を汚染してアルダの春を台無しにする。そしてヴァラールの機先を制し、[[二つの灯火]]を強襲してこれを打ち倒した。灯火が倒壊した衝撃のためにアルダは大損害を被り、その混乱にまぎれてメルコールは[[マンウェ]]の怒りと[[トゥルカス]]の追跡を免れてウトゥムノに逃げ帰る。

ヴァラールはアルダがこれ以上破壊されることを恐れ、[[大海]]を隔てた[[アマン]]へ撤退。以後[[中つ国]]は非常に長い期間、ウトゥムノに君臨するメルコールの支配下に置かれることとなる。

>暗闇にはメルコールが住まい、さまざまな力と恐怖の形をとり、依然としてほしいままに出歩いていた。かれは、山々の頂から山々の下なる深い溶鉱炉に至るまで、冷気と火を支配した。何であれ、残酷なもの、暴力的なもの、死に至るものは、当時、すべてかれの管理のもとにあったのである。((同上「[[クウェンタ・シルマリルリオン]]第一章 世の初まりのこと」))

*** ウトゥムノの冥王 [#n8415dee]

>この暗黒の時代に、メルコールは以後久しく世界を悩ますことになる、さまざまな形、さまざまな種類の怪物たちをほかにも数多く育てたのである。((同上「第三章 エルフたちの到来と捕囚となったメルコールのこと」))

[[ヴァラール]]はアマンを照らす新たな光として[[二つの木]]を生み出したが、中つ国は星々の薄明の下にとどめおかれた。([[二つの木の時代(星々の時代)>二つの木の時代]])
当時の中つ国北方は、地下にメルコールの火と召使達で満たされたウトゥムノが穿たれていたため、無残に荒れ果てていたといい、その力は絶えず南へと伸長していた。メルコールは周囲に[[バルログ]]達を集め、[[鉄山脈]]の西の外れには[[ヴァラール]]の攻撃に対する備えとして[[アングバンド]]を築いて[[サウロン]]をその守りにあたらせる。そして変節させた悪霊や怪物達を放ち、アルダを侵食していった。

[[ヴァラ]]の[[オロメ]]は、こういったメルコールの怪物を狩り立てる狩人であった。メルコールはしばしば中つ国に馬を進めてくるオロメを非常に恐れ、その進行を妨げるために[[霧ふり山脈]]を隆起させた。
他のヴァラールも中つ国のことを見捨てたわけではなく、[[ヴァルダ]]はメルコールに対する挑戦の印として[[メネルマカール]]、[[ヴァラキアカ]]といった新たな天空の星々を築いた。そしてヴァルダが仕事を終えた時、中つ国東方の[[クイヴィエーネン]]湖のほとりに[[エルフ]]が誕生する。

警戒怠りないメルコールは、目覚めたエルフの存在を真っ先に察知したと言われている。そこでメルコールは暗闇と狩人の姿をした悪霊を送り込んでエルフを狩り立て、かれらの心に影を投じるとともに、オロメを恐れるように仕向けた。遠くまでさまよい出たエルフはこの狩人に捕らえられ、仲間たちの許に戻ってくることは二度となかったという。
後の[[エルダール]]の賢者達が推測したところによると、捕らわれたエルフ達はウトゥムノの地下牢に連れて行かれ、そこでメルコールの緩慢かつ残忍な術によって心身共に捻じ曲げられた。かくしておぞましい[[オーク]]族が作り出されたのだと考えられている。

やがてオロメがエルフを発見し、かれらがメルコールに脅かされていることが判明すると、[[ヴァラール]]は[[イルーヴァタール]]の声に従ってエルフを救い出すべくメルコールに戦いを仕掛ける。([[力の戦い]])
メルコールは中つ国北西部でヴァラールを迎え撃ったが打ち破られ、アングバンドは陥落、ウトゥムノは長く熾烈な包囲戦の末ついに落城して徹底的に破壊された。その地下抗は残らずむき出しにされ、最深部に逃れたメルコールは再びトゥルカスに打ち負かされると、アウレの鍛えた[[アンガイノール]]の鎖で縛られて[[アマン]]へと連行された。

*** マンドスの囚人 [#r51e0385]

>「わたしもまたヴァラではないか。げにわれこそ、ヴァリマールの玉座に得意然と坐する[[かの者たち>ヴァラール]]に勝る者であり、アルダの民の中で最も技にすぐれ、最も勇敢なるノルドール族の&ruby(かわ){渝};らぬ友であるのだぞ」((同上「第七章 シルマリルとノルドール不穏のこと」 [[フェアノール]]に向けられたメルコールの甘言))

[[審判の輪]]に引き出されたメルコールは和睦を乞うたが聞き入れられず、[[マンドス>マンドス(地名)]]の砦に3紀の間投獄された。かくして[[アマン]]と[[中つ国]]はその間平和な時代を謳歌することができた。
3紀の刑期が過ぎた後、再び引き出されたメルコールは許しを請うて[[アルダ]]の傷を癒すことを誓い、釈放される。[[マンウェ]]はこれでメルコールの悪は矯正されたと考えたが、彼は内心では妬みと憎しみをますます募らせていた。

メルコールは自身の敗北の原因になった[[エルダール]]を憎み、その間に甘言と虚言を混ぜて不和の種を蒔き、ヴァラールから引き離そうと腐心した。中でも[[ノルドール]]がその標的となり、またノルドールの王子[[フェアノール]]が作り出した[[シルマリル]]を激しく渇望するようになる。
このためフェアノールと[[フィンゴルフィン]]は互いにいがみ合い、メルコールの知識によってもたらされた武器を密かに鍛えて蓄えるようになる。さらにノルドール族は「[[ヴァラール]]は[[中つ国]]を[[人間]]に与えるつもりで、エルダールをアマンに連れて来て閉じ込めているのだ」と不平を漏らすようになった。
こうして[[ヴァリノール]]の至福は汚され、[[二つの木]]の光は陰って影が長く伸びるようになる。

フェアノールが公衆の面前でフィンゴルフィンに剣を突きつけるに及んでついにヴァラールは調査に乗り出し、メルコールの悪意が明らかとなる。メルコールはヴァリノールから姿をくらましたが、突如[[フォルノメス]]で追放生活にあったフェアノールの前に現われると、甘言で彼を懐柔しようとした。しかし彼のシルマリルへの渇望を見抜いたフェアノールは、その眼前で門を閉ざした。
かくして彼は[[アマン]]から姿を消し、二つの木の光は再び明るく輝いた。しかしアマンの民の心中から不安が去ることはなかった。

*** 二つの木の殺害者 [#c3681919]

>さて、メルコールは、アヴァサールに来て[[かの女>ウンゴリアント]]を探し出すと、かつてかれが[[ウトゥムノ]]の圧制者として見せていた姿を再びとった。丈高く、見るだに恐ろしい暗黒の王の姿である。その後かれは、ずっとこの姿をとったまま変わらなかった。((同上「第八章 ヴァリノールに暗闇の訪れたこと」))

メルコールは[[アマン]]から逃走したと見せかけて、その近隣の[[アヴァサール]]にひそみ、「協力するならお前の飢えを癒やすどんなものでも与える」と空約束をして[[ウンゴリアント]]の助力を引き出す。ヴァリノールの祝祭日に舞い戻ったメルコールは、[[テルペリオン]]と[[ラウレリン]]の[[二つの木]]に黒い槍を突き立てて瀕死の傷を負わせ、その傷口からウンゴリアントが樹液をすすり毒を流し込むことで、二つの木を枯死させるに至る。こうしてアマンにはそれまでになかった恐るべき暗闇が招来された。
さらにメルコールとウンゴリアントは[[フォルメノス]]を襲撃して[[フィンウェ]]を殺害。その地下宝物庫にあった[[シルマリル]]を奪って、[[中つ国]]に逃走する。これを知った[[フェアノール]]が彼を''モルゴス''と呼び、以後はその名で知られる。

[[ヘルカラクセ]]を越えて[[ランモス]]にたどり着いたモルゴスは、ここでウンゴリアントと仲違いを起こす。シルマリルに魅了されたモルゴスは、それをウンゴリアントに与えることを拒んだのであった。そのためウンゴリアントは網にかけてモルゴスを殺そうとしたが、モルゴスは恐ろしい叫び声を上げて[[アングバンド]]から[[バルログ]]達を呼び出し、救出される。
そしてアングバンドを再建・強化して[[サンゴロドリム]]の塔を築き上げると、そこに拠って再び[[中つ国]]の制圧を目論んだ。

*** アングバンドの圧制者モルゴス [#zf568f66]

>アングバンドでは、モルゴスが己のために巨大な[[鉄の冠]]を鍛え、自ら世界の王を称した。その印に、かれは王冠にシルマリルを填め込んだ。聖められたこれらの宝玉に触れたことで、かれの手は黒く焦げ、その後も黒い焦げ痕は消えず、火傷の苦痛からも、苦痛からくる怒りからも、ついに遁れることはできなかった。この鉄の冠は耐えがたいほど重かったが、かれは、絶対に頭上から取ろうとはしなかった。((同上「第九章 ノルドール族の逃亡のこと」))

[[アングバンド]]に君臨したモルゴスは、[[サウロン]]、[[バルログ]]、[[オーク]]、[[トロル]]、[[龍]]などの召使達を再び召集・構築し、[[ベレリアンド]]の制圧に乗り出す。このため、ベレリアンドの[[エルダール]]はかれを''モルゴス・バウグリア''と呼んで恐れ憎んだ。
[[第一紀]]の[[宝玉戦争]]は、[[シルマリル]]を戴いてアングバンドに立て篭もるモルゴスに、復讐とシルマリル奪回のため中つ国に帰還してきた[[ノルドール]]、モルゴスの圧制にあくまで抵抗しようとする[[シンダール]]、そしてモルゴスの暗闇を拒んだ[[人間]]である[[エダイン]]達が挑んだ望みなき戦いである。

中つ国に帰還したモルゴスは、まずオークの大軍を築き上げると黒煙とともに送り出し、[[ベレリアンド]]を手中に収めようとした。だがこの大軍は[[ドリアス]]の[[魔法帯]]に拒まれ、あるいは[[シンダール]]と[[ドワーフ]]に撃退され([[ベレリアンド最初の合戦]])、ついには中つ国に帰還したノルドールによって完全に壊滅させられた([[第二の合戦>ダゴール=ヌイン=ギリアス]])。
大敗を喫したモルゴスは、国土を築き始めたノルドールの軍備を試そうと、火炎とともに再びオークの大軍を送り出したが、これも徹底的に撃退され殲滅されるに及び、オークだけではエルダールに抗しえないことを思い知ることになった([[第三の合戦>ダゴール・アグラレブ]])。

第三の合戦に勝利した勢いのまま、ノルドール諸国は[[アングバンドの包囲]]を開始し、以後約400年にわたってモルゴスの勢力は北方に封じられ続けた。
だがノルドールはアングバンドを攻略することはできず、モルゴスはエルダールを打ち破るためのたくらみを続けていた。モルゴスは召使い達にエルフを捕らえるよう命じると、かれらを間者に仕立て、エルダールの情勢とその不和の種子を探るようになる。龍の祖[[グラウルング]]がはじめて姿を見せたのもこの間のことである。だがグラウルングの早すぎる出撃は、モルゴスの意に沿わなかったという。

アングバンドの包囲は[[第四の合戦>ダゴール・ブラゴルラハ]]によって破られた。
モルゴスはまたもや突然にアングバンドから火の川を放ち、[[アルド=ガレン]]を焼き払って[[ドルソニオン]]にまで火勢を広げ、その後を成長しきったグラウルングと、バルログ達を先陣にした想像を絶するオークの大軍勢が続いた。焔と大軍勢はベレリアンドを蹂躙し、ノルドールの諸国は追い散らされて分断された。
この時のモルゴスの勝利は大きく、以後ベレリアンドでは戦いが絶えることがなくなった。また、モルゴスを敵とする者達の勢いは、[[第五の合戦>ニアナイス・アルノイディアド]]まで二度と盛り返すことはなかったが、それすらも涙尽きせぬ敗北に終わることになる(後述)。

>かれはその高慢の鼻をへし折られる[[ウトゥムノ]]時代にも増して、今や完全に憎悪の虜となり、召使いを駆使し、邪悪なる欲望をかれらに吹き込むことに精魂を傾けていたからである。とはいえ、ヴァラールの一員としてのかれの威光は久しく痕を留め、畏怖というより恐怖すべき対象になり果てたのであるが、かれの面前では、最も力ある者以外には、黒々とした恐怖の穴に落ち込まない者はなかったのである。((同上))

*** 太陽を恐れる者 [#h225a97c]

>というのは、かれの敵意が次第に強まり、自ら考えついた悪を、虚言や邪悪な者たちの形をかりて、かれ自身の中から送り出すにつれ、かれの持てる力はそれらの中に移入され、分散されて、かれ自身は、ますます地面から離れられず、暗い砦の中から出るのを厭うようになった。((同上「第十一章 太陽と月とヴァリノール隠しのこと」))

モルゴスの築き上げた勢力は昔日の彼の力を反映した強大なものであったが、モルゴス自身はそれに反比例して小さくなり、[[アイヌア]]としての強大さをほとんど失っていた。

[[第二の合戦>ダゴール=ヌイン=ギリアス]]の直後、ヴァリノールから[[月]]と[[太陽]]が上空に昇る。これにモルゴスとその軍勢は恐れおののき、モルゴスは一度影の精を差し向けて月に攻撃を仕掛けたものの撃退され、太陽に対してはもはやこれに抗するすべを失っていた。弱体化したモルゴスは、力ある[[マイアール]]である[[メリアン]]の目の輝きと、彼女が運ぶ[[太陽]]の光にもはや耐えられなかったのである。
モルゴスの生み出した怪物達の多くもまた、太陽の光に耐えられなかった。[[オーク]]が太陽光を忌み、[[トロル]]が太陽光を浴びると石になってしまうのはこのためである。

以来モルゴスは太陽の光を恐れ、その居所と軍勢を黒煙で覆い隠すようになった。

*** 人間に暗闇を投じた者 [#g4eb0e1c]

>しかし、人間の心に暗い影がさしていることを([[同族殺害]]と[[マンドスの下した宣告>マンドスの呪い]]の影がノルドール族にのしかかっているように)、エルダールは、自分たちが初めて知り合った[[エルフの友たる人間たち>エダイン]]の中にさえ、はっきりと認めたのである。((同上「第十七章 西方に人間の来住せること」))

[[太陽]]が初めて空に昇った時、[[中つ国]]の東方[[ヒルドーリエン]]で[[人間]]族が目覚めた。このこともまた、直ちにモルゴスの知るところとなる。これを大事件と思ったモルゴスは、[[アングバンド]]の指揮を[[サウロン]]にまかせて自ら密かに人間たちの許に赴き、かれらを誘惑したと言われている。
それゆえ、人間族はその歴史のはじめからモルゴスの投じた暗闇に付きまとわれている。[[東夷]]をはじめとした多くの人間がモルゴスとその召使の側に与しがちなのもそのためであった。

モルゴスの暗闇を拒み、そこから逃れようと西方を目指した人間の一派は、[[ベレリアンド]]で[[エルダール]]に出逢い、[[エダイン]]と呼ばれるようになる。人間族の中で、かれらのみが公然とモルゴスを敵として戦うことを選んだが、そのかれらと言えどもモルゴスの暗闇から完全に自由になったわけではなかった。

*** フィンゴルフィンとの一騎打ち [#h5742484]

>そこでモルゴスは現れた。地下の玉座からゆっくり登ってきた。その足音は、地の下を揺るがす雷の如く轟いた。&br; 立ち現れたモルゴスは、黒の鎧に身を固め、塔のように王の前に立ちはだかった。頭には[[鉄の王冠>鉄の冠]]を戴き、紋章のない黒一色の巨大な盾が、嵐を孕む雲のように王の上に影を落とした。 … &br;モルゴスは、地下世界の鉄槌[[グロンド]]を高々と振り上げ、雷光の如く打ち下ろした。((同上「第十八章 ベレリアンドの滅亡とフィンゴルフィンの死のこと」))

[[第四の合戦>ダゴール・ブラゴルラハ]]の敗北をノルドール王家の滅亡と信じた[[フィンゴルフィン]]は憤怒に駆られて単身アングバンドの門前にまで馬を進め、大音声でモルゴスを呼ばわり一騎打ちの挑戦をした。アングバンドへの帰還後、モルゴスが自ら武器を振るって戦ったのはただこの一度のみだった。フィンゴルフィンは公然とモルゴスを侮辱し、そのためモルゴスは乗り気ではなかったが挑戦に応じて姿を現した。

この戦いでフィンゴルフィンは討死したものの、モルゴスは彼の剣[[リンギル]]によって七つの傷を負い、その苦悶のたびにモルゴスの全軍勢は動揺した。フィンゴルフィンは今際の際にモルゴスの左足に斬り付け、この時受けた傷の痛みは以後癒えることがなく、モルゴスはずっと左足を引きずって歩くようになったという。またフィンゴルフィンの亡骸を救出しに飛来した[[ソロンドール]]はモルゴスの顔に消えることのない傷跡を残した。

*** モルゴスの凋落 [#y311473b]

>かの女は、かれの目の前に黒髪のマントを投げかけ、夢を注ぎかけた。かつてかれが独り歩いた外なる空虚のように暗い夢である。突然かれは、丘が山崩れを起こすようにくずおれたかと思うと、雷のように玉座からもんどり落ちて、地獄の床にうつ伏した。鉄の冠が音立てて転げ落ちたあとは、すべてが音もなく静まりかえった。((同上「第十九章 ベレンとルーシエンのこと」))

三つの[[シルマリル]]は依然としてモルゴスの[[鉄の王冠]]に嵌っていたが、彼がその一つを失う事態が起きる。
シルマリル奪取の誓言を立てた[[ベレン>ベレン(バラヒアの息子)]]と[[ルーシエン]]が、幾多の困難を潜り抜けてアングバンドの最奥にあるモルゴスの玉座にまで到達し、ルーシエンは眠りの魔法でモルゴスを眠らせ、ベレンが[[アングリスト]]で鉄の王冠からシルマリルの一つを奪い返したのである。このことは[[レイシアンの歌>レイシアン]]に語られている。
この時、凝視の力でルーシエンの[[変装>スリングウェシル]]を解いたモルゴスは、彼女の美しさに魅せられて邪な下心を懐き、その邪心の罠に自ら陥ったのであった。

この一件は[[フェアノールの息子たち]]に、不可能と思われていたアングバンド攻略の望みを呼び起こし、[[マイズロスの連合]]が提唱される要因となった。だがモルゴスはかねてから間者を通じた不和と裏切りの準備をしていた。マイズロスの軍勢は大軍であったが、モルゴスはその計画を把握し、挑発やおとりの部隊を使ってかれらをアングバンドの門前まで誘い出すと、一挙に主力部隊を出撃させ、さらには切り札に[[グラウルング]]を筆頭とした龍やバルログの部隊を出撃させた。さらに内通していた[[東夷]]の[[ウルファング]]の息子らがマイズロスらを裏切り、エルダールにとっては[[涙尽きざる合戦>ニアナイス・アルノイディアド]]と呼ばれる大敗北となった。

モルゴスはこの戦いで捕えた[[フーリン>フーリン(ガルドールの息子)]]が自分の意志に屈服しないのを見ると、彼の一家に呪いをかけ、自身の歪んだ目と耳でその運命を見聞きさせ、エルダールへの愛を減少させようと試みる([[ナルン・イ・ヒーン・フーリン]])。釈放された後、フーリンは完全にはモルゴスの思い通りにはならなかったが、これによってモルゴスは[[ゴンドリン]]のおおよその位置を把握し、また[[ドリアス]]には滅びの運命が持ち込まれた。
それから11年の間に、ドリアスは滅亡し、ゴンドリンもモルゴスの攻撃によって陥落すると、ベレリアンドにおけるエルフの全王国は滅亡した。[[自由の民]]はわずかに[[シリオンの河口]]と[[バラール島>バラール]]に持ちこたえるのみとなった。

かくしてモルゴスの勝利は目前となったが、そのシリオンの河口より船出した[[エアレンディル>エアレンディル(トゥオルの息子)]]が、ベレンとルーシエンに奪い返された一個のシルマリルによって[[惑わしの島々]]を突破してアマンに到達し、その嘆願を聞き入れた[[ヴァラール]]によって[[エオンウェ]]率いるヴァリノールの軍勢が中つ国へと進軍してくる([[怒りの戦い]])。
モルゴスの築き上げた膨大な勢力はまたたく間に滅ぼされ、最後の切り札である[[アンカラゴン]]を祖とした翼ある龍らも、エアレンディルの[[ヴィンギロト]]と[[大鷲]]によって打ち破られ、[[サンゴロドリム]]はアンカラゴンの下敷きとなって毀れた。[[アングバンド]]は徹底的に破壊され、その奥底に逃れたモルゴスは和睦を求めたが赦されず、再び捕らえられた。

こうしてモルゴスの力は打ち破られ、その凋落がもたらされた。

*** その後 [#m19c5c93]

モルゴスは両足を切断されれると再び[[アンガイノール]]の鎖で縛り上げられ、この世の外なる虚空に投げ出されて、現存する目に見える姿では二度と戻ってくることはないという。天空を航行する[[エアレンディル>エアレンディル(トゥオルの息子)]]([[明星>エアレンディルの星]]がその見張りに立った。

だがモルゴスの蒔いた邪悪な種子は中つ国に残り続けていつまでも果実をつけ、彼の意志は依然として召使い達を支配している。
[[バルログ]]や[[オーク]]、[[龍]]といった堕落した怪物たちは一部が生き残り、後世に禍根を残した。最強の召使[[サウロン]]はモルゴスの後を継いで[[冥王]]となり、再び[[中つ国]]に暗闇を広げた。[[ヌーメノール人]]の堕落も、[[大海]]を渡ってきたモルゴスの影に端を発すると言われている。

>「それでも後世に生じるかもしれぬ災いはほかにいくらもあろう。なぜならサウロン自身、一個の召使、あるいは使者にすぎぬからじゃ。」((『[[指輪物語]] [[王の帰還]] 上』「九 最終戦略会議」 [[ガンダルフ]]の言葉))

世の終わり[[ダゴール・ダゴラス]]において彼は[[アルダ]]に帰還すると言われている。

** 画像 [#db87ddfc]

&ref(johnhowe KillingoftheTrees.jpg,,30%,ジョン・ハウ作画による二つの木を枯らすモルゴスとウンゴリアント); &ref(johnhowe FinglofinsChallenge.jpg,,30%,ジョン・ハウ作画によるフィンゴルフィンと戦うモルゴス);

** コメント [#Comment]

#pcomment(,,noname,,,,reply)