* モルゴス [#t18214f9]
** 概要 [#Summary]

|~カテゴリー|[[人名]]|
|~スペル|Morgoth|
|~その他の呼び名|メルコール(Melkor)、[[冥王]]、バウグリア(Bauglir)、大敵(Great Enemy)|
|~異訳|メルコオル|
|~種族|[[ヴァラール]]|
|~性別|男|
|~生没年|不明~|
|~親|[[イルーヴァタール]]|
|~兄弟|[[マンウェ]]|
|~配偶者|なし|
|~子|なし|

** 解説 [#Explanation]

名は「黒き敵(Black Enemy)」の意。[[中つ国]]の悪の根源。
元来この者は、メルコール(「力にて立つ者」の意)の名で呼ばれていた。だが[[フェアノール]]は、父親の[[フィンウェ]]がメルコールによって殺されたことを知ると、メルコールをモルゴスと呼んだ。メルコールの名は剥奪されたため、その後はモルゴスとして知られる。圧制者の意であるバウグリアとも呼ばれる。
彼は酷寒と灼熱を生じさせた者で、はじめは光を欲したがそれが得られないと暗闇に下ってそれを支配した。このために[[冥王]]の名で呼ばれる。

*** メルコールの名で知られた時代 [#r51e0385]

元はメルコールは[[マンウェ]]の兄弟で、[[アイヌア]]の中で最も力ある者だった。彼は[[不滅の炎]]を求めて虚空を一人でさまよう内に彼自身の考えに取りつかれ、[[アイヌアの歌>アイヌリンダレ]]が歌われた際に[[イルーヴァタール]]の主題に背き、不協和音を生じさせた。彼の不協和音は多くの同調者を集め、マンウェの率いるアイヌアの歌を二度圧倒したものの、三度目に掲げられたイルーヴァタールの主題に溶け込んで消えた。

[[アルダ]]の歴史がアイヌアの眼前に繰り広げられると、メルコールは自分でも気づかない内に、世界とそこに暮らすイルーヴァタールの子らへの支配欲を抱き、自身から生じた灼熱と寒気を御することを口実にして他の[[ヴァラール]]とともにアルダへと降り立った。そこでメルコールはアルダの支配権を宣言し、アルダの形成期において他のヴァラールと争った。

>かれの心中に燃える悪意と鬱屈した気分のため、その形は暗く、恐ろしかった。そしてかれは、ほかのヴァラールの誰よりも強大な力と威厳を見せてアルダに降り立ったが、さながら、頭を雲の上に出し、氷を身にまとい、煙と火を頭上に戴き、海を渡る山のようであった。メルコールの目の光は、熱をもって萎らせ、死の如き冷たさで刺し貫く炎のようであった。((『[[シルマリルの物語]]』「[[アイヌリンダレ]]」 最初に形をまとったメルコールの様子。))

度重なるメルコールの反乱はヴァラールの構想をことごとく妨げ、本来実現するはずだったアルダの秩序は損ねられた。だが最初の戦いは[[トゥルカス]]の参戦によってヴァラールの勝利に終わり、メルコールはアルダから逃走して外の暗闇に潜んだ。
だがメルコールはヴァラールの民に多くの間者を持っており、アルダの情勢を絶えず監視していた。[[灯火の時代]]、アルダの形が美しく豊かに整えられていくと、彼はひそかに[[中つ国]]に戻り、北方に[[エレド・エングリン]]の山脈と[[ウトゥムノ]]の要塞を築き、アルダの春を汚染する。さらにヴァラールがそれに気づくと、先手を打って[[イルルイン]]と[[オルマル]]の灯火を破壊して逃走し、ウトゥムノに閉じこもった。
これで中つ国の形と秩序は大きく破壊され、ヴァラールはさらなる破壊を招くことを恐れて[[大海]]の西の[[アマン]]に撤退し、[[二つの木の時代]]となった。

>暗闇にはメルコールが住まい、さまざまな力と恐怖の形をとり、依然としてほしいままに出歩いていた。かれは、山々の頂から山々の下なる深い溶鉱炉に至るまで、冷気と火を支配した。何であれ、残酷なもの、暴力的なもの、死に至るものは、当時、すべてかれの管理のもとにあったのである。((同上「第一章 世の初まりのこと」))

この時代、メルコールは[[サウロン]]や[[バルログ]]といった配下の悪霊を呼び集め、ウトゥムノに拠って中つ国を暗闇の下に支配した。また、[[オロメ]]の進行を妨げるために[[霧ふり山脈]]を隆起させ、ウトゥムノの西方にはヴァラールからの攻撃に備えた砦として[[アングバンド]]を築いた。
[[クイヴィエーネン]]で[[エルフ]]が目覚めたのもこの時代のことである。メルコールはエルフの誕生に真っ先に気付き、かれらの心に暗い恐怖の影を落とした。一説によればウトゥムノの地下の暗闇深くに捕らえられたエルフから、メルコールは[[オーク]]を作り出したのだという。

やがてオロメがエルフ達に出会い、メルコールがエルフ達を脅かしていることが明らかになると、ヴァラールはメルコールを捕らえるために中つ国へと進軍した。([[力の戦い]])
メルコールは迎え撃つが打ち破られ、アングバンドは陥落し、籠城していたウトゥムノも徹底的に破壊される。トゥルカスによって捕えられたメルコールは[[ヴァリノール]]に連行され、そこで和睦を乞うたが聞き入れられず、[[アンガイノール]]の鎖で縛り上げられて[[マンドス]]の砦に三紀の間投獄された。

その期限が過ぎた後、メルコールは許しを請うて[[アルダ]]の傷を癒すことを誓い、釈放される。マンウェはこれでメルコールの悪は矯正されたと考えたが、彼は内心では妬みと憎しみをますます募らせていた。メルコールは自身の敗北の原因になった[[エルダール]]を憎み、その間に甘言と虚言を混ぜて不和の種を蒔き、ヴァラールから引き離そうと腐心した。中でも[[ノルドール]]がその標的となり、またノルドールの王子[[フェアノール]]が作り出した[[シルマリル]]を激しく渇望するようになる。
やがて、メルコールのたくらみは発覚したが、メルコールはアマンから姿を隠すと見せかけてその近隣の[[アヴァサール]]にひそみ、そこで[[ウンゴリアント]]の助力を得て、ヴァリノールの祝祭日に舞い戻ると[[テルペリオン]]と[[ラウレリン]]の[[二つの木]]を枯死させ、[[フォルメノス]]を襲撃して[[フィンウェ]]を殺害。さらには[[シルマリル]]を奪って、中つ国の[[アングバンド]]に逃走する。
その時、メルコールは[[フェアノール]]より「モルゴス」の名で呼ばれ、それ以後はその名で知られる。

>アングバンドでは、モルゴスが己のために巨大な[[鉄の冠]]を鍛え、自ら世界の王を称した。その印に、かれは王冠にシルマリルを填め込んだ。聖められたこれらの宝玉に触れたことで、かれの手は黒く焦げ、その後も黒い焦げ痕は消えず、火傷の苦痛からも、苦痛からくる怒りからも、ついに遁れることはできなかった。この鉄の冠は耐えがたいほど重かったが、かれは、絶対に頭上から取ろうとはしなかった。((同上「第九章 ノルドール族の逃亡のこと」))

*** モルゴスの名で知られた時代([[太陽の第一紀>第一紀]]) [#y7938652]

[[中つ国]]に戻ったモルゴスは[[アングバンド]]を再建・増強するとそこに立て籠もり、再び中つ国を支配しようとした。[[サウロン]]、[[バルログ]]、[[オーク]]、[[龍]]などを配下とするモルゴスの軍勢は強大であり、第一紀を通じて幾度となく[[エルダール]]の国々を追い詰め、ついには一つずつ滅ぼしていった。だがモルゴス自身は、そのような勢力を築き上げるため、自分自身の力を多数の邪悪な者たちや虚言を生み出すのに消費し、次第にヴァラとしての力を失っていった。

>かれはその高慢の鼻をへし折られるウトゥムノ時代にも増して、今や完全に憎悪の虜となり、召使いを駆使し、邪悪なる欲望をかれらに吹き込むことに精魂を傾けていたからである。とはいえ、ヴァラールの一員としてのかれの威光は久しく痕を留め、畏怖というより恐怖すべき対象になり果てたのであるが、かれの面前では、最も力ある者以外には、黒々とした恐怖の穴に落ち込まない者はなかったのである。((同上))

中つ国に帰還したモルゴスは、まずオークの大軍を築き上げると黒煙とともに送り出し、[[ベレリアンド]]を手中に収めようとした。だがこの大軍は[[ドリアス]]の[[魔法帯]]に拒まれ、あるいは[[シンダール]]と[[ドワーフ]]に撃退され([[ベレリアンド最初の合戦]])、ついに中つ国に帰還したノルドールによって完全に壊滅させられた([[第二の合戦>ダゴール=ヌイン=ギリアス]])。
大敗を喫したモルゴスは続く[[第三の合戦>ダゴール・アグラレブ]]において、国土を築き始めているノルドールの軍備を試そうと、火炎とともに再びオークの大軍を送り出したが、これも徹底的に撃退され殲滅されるに及び、オークだけではエルダールに抗しえないことを思い知ることになった。

また、第二の合戦の直後、ヴァリノールから[[月]]と[[太陽]]が上空に昇る。これにモルゴスとその軍勢は恐れおののき、モルゴスは一度影の精を差し向けて月に攻撃を仕掛けたものの撃退され、太陽に対してはもはやこれに抗する力を失っていた。以来モルゴスは太陽の光を恐れ、その居所と軍勢を黒煙で覆い隠すようになる。

第三の合戦に勝利した勢いのまま、ノルドール諸国はアングバンドの包囲を開始し、以後約400年にわたってモルゴスの勢力は北方に封じられ続けた。だがノルドールはアングバンドを攻略することはできず、モルゴスはエルダールを打ち破るためのたくらみを続けていた。モルゴスは召使い達にエルフを捕らえるよう命じると、かれらを間者に仕立て、エルダールの情勢とその不和の種子を探るようになる。龍の祖[[グラウルング]]がはじめて姿を見せたのもこの間のことである。だがグラウルングの早すぎる出撃は、モルゴスの意に沿わなかったという。

アングバンドの包囲は[[第四の合戦>ダゴール・ブラゴルラハ]]によって破られた。モルゴスはまたもや突然にアングバンドから火の川を放ち、[[アルド=ガレン]]を焼き払って[[ドルソニオン]]にまで火勢を広げ、その後を成長しきったグラウルングと、バルログ達を先陣にした想像を絶するオークの大軍勢が続いた。焔と大軍勢はベレリアンドを蹂躙し、ノルドールの諸国は追い散らされて分断された。
これをノルドール王家の滅亡と思った[[フィンゴルフィン]]は憤怒に駆られて単身アングバンドの門前にまで馬を進め、大音声でモルゴスを呼ばわり一騎打ちの挑戦をした。アングバンドへの帰還後、モルゴスが自ら武器を振るって戦ったのはただこの一度のみだった。フィンゴルフィンは公然とモルゴスを侮辱し、そのためモルゴスは乗り気ではなかったが挑戦に応じて姿を現した。

>そこでモルゴスは現れた。地下の玉座からゆっくり登ってきた。その足音は、地の下を揺るがす雷の如く轟いた。&br;立ち現れたモルゴスは、黒の鎧に身を固め、塔のように王の前に立ちはだかった。頭には[[鉄の王冠>鉄の冠]]を戴き、紋章のない黒一色の巨大な盾が、嵐を孕む雲のように王の上に影を落とした。(中略)&br;モルゴスは、地下世界の鉄槌[[グロンド]]を高々と振り上げ、雷光の如く打ち下ろした。((同上「第十八章 ベレリアンドの滅亡とフィンゴルフィンの死のこと」))

この戦いでフィンゴルフィンは討死したものの、モルゴスは彼の剣[[リンギル]]によって七つの傷を負い、その苦悶のたびにモルゴスの全軍勢は動揺した。フィンゴルフィンは今際の際にモルゴスの左足に斬り付け、また王の亡骸を救出しに飛来した[[ソロンドール]]はその顔に消えることのない傷跡を残した。この時受けたモルゴスの傷の痛みは以後癒えることがなく、ずっと左足を引きずって歩くようになったという。

この後、シルマリル奪取の誓言を立てた[[ベレン>ベレン(バラヒアの息子)]]と[[ルーシエン]]が、幾多の困難を潜り抜けてアングバンドの最奥にあるモルゴスの玉座にまで到達する。モルゴスの凝視にルーシエンが纏っていた変装は剥がれたが、モルゴスはその美しさに邪な下心を抱き、そのためにルーシエンの魔法にかかり、眠りに落とされてしまう。それとともに彼の全軍勢も眠りに落ち、アングバンドは静まり返った。この時モルゴスは、[[鉄の王冠>鉄の冠]]にはめたシルマリルの一つを奪い返された。

この一件は[[フェアノールの息子たち]]に、不可能と思われていたアングバンド攻略の望みを呼び起こし、[[マイズロスの連合]]が提唱される要因となった。だがモルゴスはかねてから間者を通じた不和と裏切りの準備をしていた。マイズロスの軍勢は大軍であったが、モルゴスはその計画を把握し、挑発やおとりの部隊を使ってかれらをアングバンドの門前まで誘い出すと、一挙に主力部隊を出撃させ、さらには切り札にグラウルングを筆頭とした龍やバルログの部隊を出撃させた。さらに内通していた[[東夷]]の[[ウルファング]]の息子らがマイズロスらを裏切り、エルダールにとっては[[涙尽きざる合戦>ニアナイス・アルノイディアド]]と呼ばれる大敗北となった。

モルゴスはこの戦いで捕えた[[フーリン>フーリン(ガルドールの息子)]]が自分の意志に屈服しないのを見ると、彼の一家に呪いをかけ、自身の歪んだ目と耳でその運命を見聞きさせ、エルダールへの愛を減少させようと試みる。釈放された後、フーリンは完全にはモルゴスの思い通りにはならなかったが、これによってモルゴスは[[ゴンドリン]]のおおよその位置を把握し、また[[ドリアス]]には滅びの運命が持ち込まれた。
それから11年の間に、ドリアスは滅亡し、ゴンドリンもモルゴスの攻撃によって陥落すると、ベレリアンドにおけるエルフの全王国は滅亡した。[[自由の民]]はわずかに[[シリオンの河口]]と[[バラール島>バラール]]に持ちこたえるのみとなった。

かくしてモルゴスの勝利は目前となったが、そのシリオンの河口より船出した[[エアレンディル>エアレンディル(トゥオルの息子)]]が、ベレンとルーシエンに奪い返された一個のシルマリルによって[[惑わしの島々]]を突破してアマンに到達し、その嘆願を聞き入れた[[ヴァラール]]によって[[エオンウェ]]率いるヴァリノールの軍勢が中つ国へと進軍してくる([[怒りの戦い]])。
モルゴスの築き上げた膨大な勢力はまたたく間に滅ぼされ、最後の切り札である[[アンカラゴン]]を祖とした翼ある龍らも、エアレンディルの[[ヴィンギロト]]と[[大鷲]]によって打ち破られ、[[サンゴロドリム]]はアンカラゴンの下敷きとなって毀れた。

アングバンドは徹底的に破壊され、モルゴスはまたも和睦を求めたが許されず、捕えられると両足を切断され、再び[[アンガイノール]]の鎖で縛りあげられると、この世の外の虚空に投げ出され、天空を航行するエアレンディルが見張りに立った。モルゴスは目に見える姿では二度と戻ってくることはないという。
だがモルゴスの蒔いた邪悪な種子は中つ国に残り続けていつまでも果実をつけ、彼の意志は依然として召使い達を支配している。

[[ダゴール・ダゴラス]]において彼は[[アルダ]]に帰還すると言われている。

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