(ひと)つの指輪(ゆびわ)

概要

カテゴリー物・品の名前
スペルthe One Ring
その他の呼び名一つ(the One)
イシルドゥアの禍(Isildur's Bane)
主なる指輪(Master-ring)
支配する指輪、支配の指輪、すべてを統べる指輪、すべてを支配する指輪(Ruling Ring)
大いなる指輪(Great Ring)
大いなる力の指輪(Great Ring of Power)
滅びの指輪(Ring of Doom)
いとしいしと(my precious)

ホビットの冒険』劇中において、ビルボ・バギンズが「偶然」手に入れるという形で登場した「身につけると体が透明になる」魔法の指輪。
『ホビットの冒険』では物語の一つの要素でしかなかったが、続編である『指輪物語』では、この一つの指輪が物語全体の焦点となる。

三つの指輪は、空の下なるエルフの王に、
 七つの指輪は、岩の(やかた)ドワーフの君に、
九つは、死すべき運命(さだめ)人の子に、
 一つは、暗き御座(みくら)冥王のため、
影横たわるモルドールの国に。
 一つの指輪は、すべてを統べ、
 一つの指輪は、すべてを見つけ、
 一つの指輪は、すべてを捕らえて、
  くらやみのなかにつなぎとめる。
影横たわるモルドールの国に。

Three Rings for the Elven-kings under the sky,
 Seven for the Dwarf-lords in their halls of stone,
Nine for Mortal Men doomed to die,
 One for the Dark Lord on his dark throne
In the Land of Mordor where the Shadows lie.
 One Ring to rule them all, One Ring to find them,
One Ring to bring them all and in the darkness bind them
 In the Land of Mordor where the Shadows lie.*1

解説

冥王サウロンが、他の力の指輪およびその所持者を支配するために作った指輪。

その目的を達成するため、サウロンは一つの指輪に自らの魔力の根幹を移し込まなければならなかった。そのため、一つの指輪が存在している限りサウロンは何度倒されても復活することができたが、もし万がいち一つの指輪が無に帰すればサウロンも滅びることになった。
この指輪の力によって第二紀のサウロンは中つ国の大部分を支配下に置いて暗黒時代をもたらしたが、サウロンが最後の同盟に敗れた時に彼の手から奪われ、第三紀のほとんどを通じて行方不明になっていた。もし復活したサウロンの手に一つの指輪が戻れば、サウロンの力は完全なものとなり、中つ国は再び暗闇に覆われてしまうだろう。

一つの指輪にはサウロンの邪悪な力が込められているため、これを用いる者は必ず堕落させられる。また、指輪そのものが見えざる意志を持ち、復活したサウロンの元へ戻ろうとしている。
この指輪を破壊するには、これが鍛造された場所である滅びの山サンマス・ナウアにある滅びの罅裂に投げ込むしかない。

行方不明になっていたこの一つの指輪が再び「発見」されたことから『指輪物語』は始まる。

外見、性質

一見すると黄金色に輝く、何の飾りもない指輪である。表面は滑らかで傷一つなく、じっと見つめる者は、指輪の形の単純にして完璧な美しさに驚嘆するようになる。
しかし実際にはその表裏に火の線のような筆致で

一つの指輪の銘

アッシュ ナズグ ドゥルバトゥルーク、 アッシュ ナズグ ギムバトゥル、 アッシュ ナズグ スラカトゥルーク、 アグ ブルズム=イシ クリムパトゥル
(Ash nazg durbatulûk, ash nazg gimbatul, ash nazg thrakatulûk agh burzum-ishi krimpatul)

すなわち

一つの指輪は、すべてを統べ、一つの指輪は、すべてを見つけ、一つの指輪は、すべてを捕らえて、くらやみのなかにつなぎとめる。
(One Ring to rule them all, One Ring to find them, One Ring to bring them all and in the darkness bind them)

という力の指輪についての詩の一節が、フェアノール文字を使って暗黒語で刻まれている(フェアノール文字が使われたのは、暗黒語の文字が細工に向かないためと想像される)。

サウロンが一つの指輪を手にしていた時はこの銘文は常にはっきりと表れていたが、イシルドゥアがサウロンの手から指輪を奪うと、指輪が冷えるにつれて次第に文字も薄くなり消えてしまった。だがサウロンの手の黒くして火のごとく燃えいたる熱気を恋うる*2ためか、指輪を火中に投じて熱すれば、再びその文字を浮かび上がらせることができる。

一つの指輪は、その重さも大きさも一定ではないと感じられることがままあった。実際に指輪はその意志によって、持ち主の指からするりと抜け落ちることがあった(そのためビルボ・バギンズおよびフロド・バギンズは、紛失しないよう指輪に細い鎖を通して首にかけるなどして持ち歩いていた)。その造られた場所である滅びの山火の室に近づくにつれて指輪は耐え難いほど重く、また燃えるように熱く感じられるようになっていった。

この指輪を傷つけたり破壊する方法は、滅びの罅裂へ投げ込む以外には知られていない。

効果

体が透明になる
普通の者がこの指輪を嵌めると体が不可視になり、視力が弱くなって聴力が鋭くなるといった効果が得られる。ただし太陽の光を受けると地面に影が落ちる。
これは実は幽鬼の棲む幽界に移転させられるためであり、この状態ではナズグールの不可視の実体を見ることができるが、ナズグールの方からも指輪を嵌めた者の姿がはっきり見えるようになる。この他にも、死すべき運命の者には本来知覚できない領域の事柄を視たり聴いたりできるようになる。
繰り返しあるいは長期間指輪を使用し続けていると、指輪を外している時でも次第に体が薄れていき、ついには完全に見えなくなって幽鬼と化してしまうという*3
不老長寿をもたらす
持ち主は、ただ持っているだけでも外見が老化することがなくなり、本来の寿命を越えても生き続けるようになる。
しかしそれによって力が増したり意欲が増進することはなく、ビルボ・バギンズはその感覚を引っ張って引き伸ばされた少ないバターを大きすぎるパンの上になすりつけたようなと表現しており、やがては耐えがたい苦痛につながるとされる*4。そして上述の通り、心身が摩耗することで次第に幽鬼に近づいていく。
この効果はその者が指輪の影響下にある限り持続するようで、ゴクリもビルボも指輪が手元から離れた後もほとんど老けることなくそのまま生き続けた*5。だが一つの指輪が消滅すると、ビルボは一気に老けこんでしまった。
能力を増幅する
指輪の本質的な力の一つで、その者に本来備わっている能力を増大させると共に、その者が抱いている願望をも増大させる。そのため所持者は力への致命的な誘惑に晒されることになる。
ガラドリエルはもし自分が指輪を取れば美しく戦慄すべき女王になるだろうと予見し、指輪を手にしたサムワイズは諸国から召集した軍勢でサウロンを打倒してモルドールを緑地に作り変えることを夢想した。また、強固な意志で生者死者も統率するアラゴルンを見たレゴラスは、もし彼が指輪を取れば恐るべき君主となったであろうと述べている。
ただし、指輪はその者の生来の資質に応じた力しか与えない。そのため、指輪の力を充分に引き出そうとすれば、それに見合うだけの強い意志と願望が備わるよう自らを鍛錬しなければならない。
力の指輪の支配
一つの指輪は元々、力の指輪とその所有者の意志を支配するためのものであった。一つの指輪を完全に使いこなすことができる者は、全ての力の指輪の作用を見て取り、その所持者の精神を読み取り、その両方を望むがままに捻じ曲げていくことができる。
長期間一つの指輪を所持していたフロドは隠されているはずのネンヤを視認し、その所持者であるガラドリエルの願望を誰よりも明敏に読み取ることができた。
サウロンの権力の奪取
一つの指輪の力を完全に使いこなした者は、サウロンが指輪を使って築き上げてきた一切のものを習い覚え、我が物とすることができるだろうと言われている。
サムワイズ指輪所持者であったのはごく短期間のことだったが、指輪が滅びの山に近づき力を増していたために、彼はその力の一部を無意識に行使することができた。指輪を嵌めたサムはオーク言葉を理解することができ、指輪を嵌めていない状態であってもそれは彼に威圧的な外見を与え、オークを恐怖で敗走させることができた。また、指輪の隷属下にあるゴクリはもしフロドから指輪を通じて命じられれば、それがたとえ断崖から跳び降りることであろうと、火中に身を投ずることであろうと*6服従せざるをえなかった(これは滅びの山の山腹でゴクリがフロドを襲ったことによって現実のものとなり、ゴクリは滅びの罅裂でその通りの最期を遂げることになる)。
堕落
指輪を持つ者はこれに魅せられて心を奪われ、堕落していく。そればかりか、たとえ所持者ではなく、一度も指輪を見たり触れたりしていない者でさえも、指輪を欲しいと思っただけで心が堕落させられてしまう。堕落の進行はその者の生来の資質・動機の善悪に応じて早い遅いの違いはあるが、結局は何人もこれを免れることはできず、最後には全員が悪に落ちる。
力と意志の弱い者は、指輪の力に隷属する幽鬼と化する。
偉大な力ある者であれば、指輪に込められた強大な魔力を引き出し、おそらくサウロンを打ち倒すことすら可能となる。だがその場合、堕落したその者自身が次なる冥王として君臨することになる。
見えざる意志を持つ
指輪にはサウロンの邪悪な力が込められているため、復活した主人の許へ戻ろうとして所持者の裏をかいたり危険を呼び寄せたりする。
イシルドゥアあやめ野オークの伏兵部隊に襲撃され、さらに大河で指輪が指から抜け落ちてオークに射殺された。ゴクリは指輪に魅了されて意欲を失くし、そのためオークの洞窟で指輪に見捨てられた。フロドナズグールが接近する度に指輪を嵌めたいという衝動に駆られ、また指輪はボロミアに働きかけるとともにパルス・ガレン指輪の仲間の離散を招いた。後にガンダルフは、もし指輪が彼らの手許にあればそれを使用せざるを得ない事態が起こったであろうとして、仲間の離散でそれが遠くに運び去られたのは僥倖だったかもしれないと述べている。
このため、指輪をただ持ち続けることはおろか、それをどこかに隠して放置したり、捨てたりすることにも非常な危険が伴う。

イシルドゥアの禍

一つの指輪は、イシルドゥアが身を滅ぼす因になった事から、イシルドゥアの禍とも呼ばれていた。これは北方(アルノール)の伝承で使われていた言葉で、南方(ゴンドール)では一つの指輪の存在はほとんど忘れ去られ、これが最後にどうなったかも覚えられていなかった(ボロミアなどは、最後の同盟の戦いでサウロンが敗れた後、一つの指輪は破壊されたと思っていたと考えており、サウロンもゴクリから情報を得るまで、そう考えていたようである)。そのため、ファラミアボロミアが見た夢歌に「イシルドゥアの禍」という言葉が出てきても、ファラミアたちにはこの言葉の意味するものが理解できなかった。

一つの指輪の歴史

それは、数々の偉大ないさおしと身の毛のよだつ悪業に満ちた長い長い物語です。*7

力の指輪が作られる

第二紀のはじめ、サウロンは正体を隠してエレギオンノルドールエルフに接近して様々な知識を授ける一方、彼らの作業を監督してその秘法の一切を把握した。
第二紀1500年頃、ケレブリンボールを筆頭とするグワイス=イ=ミーアダイン(エルフの金銀細工師達は、九つの指輪七つの指輪三つの指輪からなる力の指輪を完成させる。

そこでサウロンは1600年頃、モルドールの火の山オロドルインにおいて、全ての力の指輪を支配することができる一つの指輪を鍛造した。一つの指輪は全てを統べ、一つの指輪は全てを見つけ、一つの指輪は全てを捕らえて、くらやみのなかにつなぎとめるを含む力の指輪についての詩は、一つの指輪を完成させた時にサウロンが口にしたものである。

指輪を巡る最初の戦い

サウロンが一つの指輪を完成させた瞬間、エルフたちは彼の正体と目論見に気づき、力の指輪を使用せずに隠した。

このためサウロンの目論見は失敗し、1963年から力の指輪を巡るサウロンとエルフの戦いが始まる。1695年、サウロンはエレギオンを攻め滅ぼして九つの指輪七つの指輪を奪い、ケレブリンボールを殺す(この時エルロンドはエレギオンの残党を率いて裂け谷を作った)。
三つの指輪の在り処を求めたサウロンはリンドンをも攻め滅ぼそうとするが、1700年にギル=ガラドヌーメノールの援助を得て反撃し、1701年にサウロンはエリアドールより駆逐された。

モルドールに撤退したサウロンは九つの指輪人間に与えて指輪の幽鬼とし、東方へと勢力を伸ばした。
だが3261年にヌーメノール軍がウンバールに上陸するとサウロンは降伏し、3262年にサウロンはヌーメノールへと連行された。3262年から3310年にかけて、サウロンはヌーメノールの地でアル=ファラゾーンを籠絡し、ファラゾーンにヴァリノールを攻撃させる。その結果、イルーヴァタールの手によって3319年にヌーメノールは滅ぼされたが、サウロン自身もその没落に巻き込まれて肉体を失った。サウロンの魂は3320年にはバラド=ドゥーアに戻り、一つの指輪をはめて再び形を取った。

サウロン一つの指輪を失い、イシルドゥアの禍となる

ヌーメノール忠実なる者達が破滅を逃れ、中つ国アルノールゴンドールの王国を築いていることを知ったサウロンは、憎しみに駆られて3429年にゴンドールを急襲した。だが、サウロンの力がまだ完全には回復していない一方で、彼が不在の間にギル=ガラドの力が伸長していた。
最後の同盟の戦いで、サウロンはエレンディルギル=ガラドによって倒された。この時イシルドゥアが、折れたナルシルの柄本でサウロンの指ごと一つの指輪を切り取る。イシルドゥアはエルロンドキーアダンの忠告を無視し、購いの品として一つの指輪を自分のものとする。こうして3441年に第二紀は終わった。
第三紀2年、イシルドゥアゴンドールの統治を甥のメネルディルに委ねると、自分はアルノールを統治するため北方へと旅立った。その途中あやめ野オークに襲撃される。イシルドゥアは一つの指輪を持って脱出しようと、これを指にはめて姿を消した。だがあやめ野の近くのアンドゥインを泳いで渡ろうとしているときに、一つの指輪は指から抜け落ちる。その結果彼はオークに見つかって射殺され、指輪は行方不明になった。

指輪の再発見

一つの指輪は長らくあやめ野のアンドゥイン川底に眠り続けていたが、第三紀2463年、釣りを行っていたデアゴルが偶然この指輪を発見する。すると彼と共にいたスメアゴルは、デアゴルを殺して指輪を奪った。その後スメアゴル(やがてゴクリと呼ばれるようになる)は、一族の秘密を探り出すのに指輪を使っていたが、やがて嫌われ者として集落を追放され、指輪を持って霧ふり山脈ゴブリン町よりも深いそこにある、深い洞窟の中に潜んだ。
ゴクリは指輪をいとしいしとと呼び、ほとんど常に持ち歩いて手放そうとしなかったが、暗い洞窟の底ではほとんど指輪を使う必要がなかった。指輪はゴクリの精神をほとんど食い尽くした結果、ゴクリは洞窟の外へ出ていくような意欲もなくしていった。

第三紀2941年、指輪はゴクリを見捨て、オークの洞窟通路内で彼の手から抜け落ちた。だがそれを、偶然にもはなれ山への旅に向かう途中、ゴブリン町で仲間とはぐれて、ゴクリの洞窟に迷い込んだビルボ・バギンズが、暗闇の中を手探りしていたところ発見して手に入れる。当初はこの指輪が「一つの指輪」とは気づかれず、単純に「体が透明になる(だけの)魔法の指輪」とだけ思われた。ビルボは、指輪の透明になる力でゴクリ霧ふり山脈ゴブリンから逃げ出す。その後もビルボは、たびたび透明になる指輪の力を使ってトーリン二世たち仲間を助け、エレボールへの遠征という冒険を成功させる。そして翌2942年にホビット庄へ、旅で手に入れたその他の宝と共に、指輪も持ち帰った(『ホビットの冒険』)。ビルボはこの指輪の存在をできるだけ秘密にしたがり、自分の書いた本の中などでも、「ゴクリとのなぞなぞ遊びに勝ったことによってもらった贈り物」と称した。

ビルボは、この指輪の存在がしだいに自分の中で大きくなっていき、異変を感じるようになったため、指輪を手放すことを計画する。3001年、彼はガンダルフの助けを借りて、指輪を自分の後継者のフロド・バギンズに譲り渡した。

指輪の正体の判明

ビルボが手に入れた指輪の正体についてずっと疑念を抱いていたガンダルフは、ホビットの中でもビルボの老いが非常に緩やかなこと、そして3001年にビルボが一瞬垣間見せたこの指輪への狂気にも似た執着などから、この指輪が長年失われたままであった「一つの指輪」なのではないかと恐れるようになる。
そのためガンダルフは、指輪を譲り受けたフロドを度々訪問し、彼の様子を観察した。フロドもまた、ビルボと同様に長寿の兆候を見せていたが、まだ指輪による不健全な影響とは断定できなかった。

一方でガンダルフはこの謎をアラゴルン二世に相談し、3009年からは彼と共にゴクリの捜索を断続的に行い、指輪の出自を確認しようと務めた。だがゴクリは「盗っ人」バギンズを追って既に洞窟を後にしており、二人はゴクリを発見できなかった。
3017年、ガンダルフはゴクリの捜索を諦め、イシルドゥアが一つの指輪についての記録を残しているのではないかと期待してゴンドールに赴き、デネソール二世の許しを得て都の書庫で資料の捜索を行った。その結果、イシルドゥアが残していた記録を発見し、一つの指輪の判別方法、すなわち「火にあぶると、フェアノール文字が表れる」という情報を得た。
その直後、アラゴルンがゴクリを発見して闇の森に連行したという知らせを受けたガンダルフは、闇の森へ向かう。ガンダルフはゴクリを尋問し、指輪がスメアゴルに及ぼした異常な長寿などの影響、イシルドゥアが死んだあやめ野で指輪が発見されたこと、指輪をなくした後霧ふり山脈から出たゴクリは、モルドールに囚われて尋問を受けていたこと等を知った。
同時に、サウロンもゴクリを拷問して、これらの情報を得た可能性が高いこと、そして(ビルボがゴクリに会ったとき、自分で名乗ってしまったとき)「バギンズ」が指輪を持っているという情報を掴んだであろう事もわかった。

3018年4月12日、フロドの元を訪れたガンダルフは、フロドの指輪を暖炉の火の中に投げ込む。すると指輪には、イシルドゥアが残した記録と同じ文字が表れた。こうしてフロドの持つ指輪が「一つの指輪」であることが確認された。

指輪の逃走

予想されるサウロンの魔の手から逃れるため、フロドはガンダルフの忠告に従い、指輪を持って密かに裂け谷へと避難することに決める。フロドは、なるべく騒ぎにならないようホビット庄から姿を消す準備をする時間を得るため、ビルボの誕生日があり、ビルボがはなれ山への旅に出発した9月に、自分も出発することにした。ゴクリはホビット庄の場所を知らなかったため、サウロンもまだその正確な場所を掴んでいないことを、野伏などの情報により知っていたガンダルフは、フロドのこの計画を認めた。そこでフロドは、袋小路屋敷を引き払う手筈などを整える。

ホビット庄を野伏が守るよう手はずを整えていたガンダルフは、そのまま袋小路屋敷に滞在しつつ情報を集めていた。だが6月末に不穏な予感と情報(6月20日に起こったモルドールオスギリアス攻撃)を受け取ったガンダルフは危機感を募らせ、さらなる情報収集にブリー村近辺まで赴いたところ、サルマンに遣わされたラダガストに出会う。ガンダルフはラダガストより、ナズグール大河を渡ってホビット庄へと向かっていることを知らされる。
そこでガンダルフは、予定を早めて直ちに出発するようフロドに警告する手紙を書いてバーリマン・バタバーに預け、自分はサルマンの助力を得るためオルサンクへと向かった。ところがバタバーは手紙をホビット庄に送ることをすっかり忘れてしまい、さらにガンダルフは裏切ったサルマンに監禁されたため、フロドに警告は届かなかった。

結果としてフロドは、当初の予定通り9月の23日に出発する。
その時にはナズグールはサルマンの手の者から得た情報によって*8ホビット庄に到達しており、野伏らの守りを突破して庄内に侵入していた。
フロドは何度も危うくナズグールに捕えられるところだったが、アラゴルンらの助力で辛くも切り抜け、10月20日に裂け谷へと逃れることができた。

一つの指輪の破壊

10月25日、裂け谷においてエルロンドの会議が開かれ、一つの指輪の処遇が話し合われる。会議の結果、一つの指輪をモルドール滅びの山にある、サンマス・ナウア滅びの罅裂に投げ込み、破壊することでサウロンの脅威を永久に排除するのが採りうる唯一の方法であることが決定された。その間フロドが指輪所持者となり、指輪の仲間とともに旅をすることになった。

3018年12月25日、指輪の仲間は裂け谷を出発。3019年2月26日、指輪の仲間はパルス・ガレンで離散してしまう。だがフロドと、彼に付き従うサムワイズ・ギャムジーはモルドールへの旅を続ける。3月13日、サムはキリス・ウンゴルにて、フロドがシェロブの毒によって死んだと思い込み、自分が旅を引き継ぐことにして、フロドの体から一つの指輪を取る(こうしてサムは、僅かの間だが指輪所持者となった)。
だがフロドが生きていることを知り、3月14日にキリス・ウンゴルの塔でフロドの救出に成功したサムは、指輪をフロドに返す。それからフロドとサムは、滅びの山への旅を再開した。
3月25日、フロドとサムはサンマス・ナウアに到着。だがこの時、とうとう一つの指輪の魔力に屈してしまったフロドは、指輪を自分のものであると宣言する。その直後、フロドに襲いかかったゴクリが一つの指輪を奪い、その後滅びの罅裂に指輪もろとも落下してしまう。その結果一つの指輪は破壊され、サウロンの力は永遠に消滅した。

指輪の設定について

トールキンが最初『ホビットの冒険』で「魔法の指輪」としてこの指輪を登場させたとき、指輪についての深い設定は考えていなかった。だが『ホビットの冒険』の続編を考えることになったトールキンは、この「魔法の指輪」の意味に再注目、死人占い師との関連を思いつき、そこから一連の構想が立てられていった。

物語が育つにつれて、それは(過去に)根をおろし、予期しなかった枝をあちこちにさし出すことになったのだが、その主要な主題(テーマ)となるものは、この物語と『ホビット』をつなぐものとして必然的に指輪を選んだことによって、最初から決まっていたのである。きわめて重要な章である「過去の影」はこの物語の一番古い部分の一つである。*9

寓意について

『J.R.R.トールキン:世紀の作家』によれば、トールキンは寓意を使っていたが、嫌ってもいた*10。『指輪物語』が第二次世界大戦の寓意として―例えば指輪が核兵器の寓意として―読まれた際、異議を唱えている*11。トールキンは寓意よりも「適応性」(applicability)を重視していることを述べた。

わたしは、事実であれ、作為であれ、読者の考えや経験に応じてさまざまな適応性を持つ歴史のほうがずっと好きである。わたしには、「適応性」と「寓意」とを混同しているむきが多いように思われるのだが、一方は読者の自由な読み方に任され、他方は著者の意図的な支配に委ねられるものである。*12

画像

円環の指輪の銘 指輪の銘の草案

映画『ロード・オブ・ザ・リング』における設定

俳優アラン・ハワード(Alan Howard)(声)
日本語吹き替え不明

一つの指輪が登場人物にささやきかける誘惑が、声として表現されている。
サウロンからイシルドゥアが指輪を取り上げた直後、大きさが人間(イシルドゥア)のサイズにまで小さくなっているのがはっきり示されている。

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映画『ホビット』における設定

前述のように、原作が書かれたときはこの指輪の設定は深く考えられていなかったが、映画では『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』の設定に合わせ、演出が掘り下げられた。そのため『ロード・オブ・ザ・リング』と同様に、指輪がささやきかける場面が描かれている。指輪の力を感じ取ったらしいスマウグが「precious」と言い、指輪が反応する場面もある。
また原作よりも強くビルボが指輪に執着する。特に闇の森で指輪を落とし、蜘蛛のような生き物が指輪に触れたために激怒して殺害、その直後に我に返って指輪の魔力に気がついたビルボが描かれた。
ビルボは指輪のことを終始秘密にしていたが、ガンダルフ霧ふり山脈魔法の指輪をビルボが拾ったことに気づいており、帰郷時の別れ際「魔法の指輪は軽々しく使うものではない」と忠告している。この時ビルボは、指輪は落としたと噓をついている。

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コメント

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照(コメントページ直接編集もこちら)

  • 仮に誰かがゴックンした場合どんなことが起こるだろう -- 2017-01-13 (金) 03:17:11
    • 普通に◯ンコと共に排泄されるだろう。指に嵌めなきゃ効力発揮しないし。 -- 2017-01-15 (日) 10:53:51
  • 暗黒語をフェアノール文字で書くってのは英語を日本語のカタカナで書くみたいな感じに思えてちょっと笑ってしまった。そう考えるとちょっと可愛い。 -- 2017-01-13 (金) 13:06:54
    • ワン リング トゥ-ゼム-オール・・・・ -- 2017-01-13 (金) 17:46:15
  • この指輪が、どのくらいの威力をもっていたか、シルマリル、アーケン石との比較はどこにもないね。もし、一番威力の弱いものだったら?たとえば、パランティーアや、アーケン石よりも、弱いとか。 -- 2017-01-16 (月) 11:27:04
    • 比較する必要が無いからだろ。パランティーアや、アーケン石となんで比べることになるんだ。力の指輪同士で比較するのならまだしも。 -- 2017-01-16 (月) 11:36:46
      • そんな喧嘩腰にならんでも… -- 2017-04-21 (金) 20:36:07
      • だからトピ主は元荒しの正義大好きマンだっての -- 2017-04-22 (土) 18:47:54
      • だ・か・ら、そんな喧嘩腰にならんでも… -- 2017-04-23 (日) 01:27:23
      • まだ優しく接してる方だと思うけど。本来ならbanされてもおかしくない相手なんだし。 -- 2017-04-30 (日) 19:38:21
  • 一つの指輪やサウロンの呼び名について、唯一神との類似性を過度に見出すのはいかがなものかと思います。敬虔なカトリックであったトールキンは唯一神の唯一性の表現にはかなり慎重であったはずで、サウロンと一つの指輪にこれほど頻繁に神へのレファレンスを仕込んでいたとは考えにくいかと。
    ‘the One’は特徴的な表現ですから、そこに唯一神(を僭称すること)の含みを読み取るのは自然なことと思いますが、‘Master’やましてや‘the great’にまでそれを見るのはいささか牽強付会の感があります。
    原典にソースがない中でここまで記載を広げるのは問題が大きいと思います。言及はあからさまな‘the One’のみに留め、それ以上の私見の記載は自重すべきかと思うのですが、いかがでしょうか。 -- 2017-04-17 (月) 01:45:49
    • the greatやthe masterはともかく、"the Great"や"the Master"は語義として"God"や"Jesus Christ"を意味するようですよ。 -- 2017-04-21 (金) 18:22:28
    • 賛成です。モルゴスとは異なり、サウロンは完全な無神論者にはなれなかった、ちゅう教授の記述もありますし。彼は自分より上の存在を認めることが出来た、とHoMeには書かれています。 -- 2017-04-21 (金) 19:38:21
    • 「the Master 主キリスト」と英和辞典にあります→http://ejje.weblio.jp/content/the+master ので、the Masterについて掲載するか否かはさておき、掲載するなら情報源として注にでも書いた方がよろしいかと。 -- 2017-04-22 (土) 09:43:16
    • 辞書的にそうした意味があるからといって、実際にその単語がその意味で用いられているとは限りません。意味は複数があるからです。"the Great"はより単純に「大きなもの、偉大なもの」を一般的に表わす表現ですし、"the Master"も同様に「主人」を表わす一般的な表現です。これらの表現が、一般的な意味ではなく特に「神」の意味で一つの指輪については用いられている、とするのは根拠薄弱だと申し上げています。 -- 2017-04-22 (土) 17:36:01
      • たとえば"the Master"は、バッグ郷の館主についても、トム・ボンバディルについても用いられている表現です。"the Master"の意味の中に「神」があるからといって、この語で表現されている一つの指輪と館主とボンバディルが皆「唯一神」の含みがあるとでも仰るつもりでしょうか?"the Great"に至ってはさらに頻出の表現ですが? -- 2017-04-22 (土) 17:40:08
      • この件に限りませんがいい機会なので申し添えておくと、確かに英語において大文字であるか小文字であるかが意味を分けるポイントであることもありはしますが、実際にはそれほど厳密に使い分けられていないケースの方が圧倒的に多いです。大文字で書かれている、小文字で書かれているからといって、常にそこに意味があるわけではないのです。現にトールキンの文章でも、大文字と小文字はさして一貫しておらずルーズに使用されています。ネイティヴの英語とはそういうものです。(定冠詞にも同じことがいえる) -- 2017-04-22 (土) 17:46:55
      • 今の記事は辞書等の情報源も無く英語解説してるのでよろしくない(掲載するならせめて情報源を)、という意図です。そもそもthe Master・the Great関連の英語解説を掲載しない(よって英語用情報源も必要ない)ならば、それで良いのではないかと思います。 -- 2017-04-22 (土) 20:28:50
    • トールキンの「適応性と寓意」についての言葉が丸々引用されているページでこんなことが起こるとは。考察はコメント欄の書き込みに留めておきたいものですね。 -- 2017-04-22 (土) 21:09:14
      • 考察というよりは、多義語が持っている意味の一部だけを強調してしまっている記述だと思います。例えば'lord of the lords'の語義には、唯一神のみならず「東方の王」もありますし。 -- 2017-04-23 (日) 01:15:35
      • 文学というのは流れなのであって、翻訳についてもそうですが、辞書的な考察及びそれを根拠とした議論というのは、本質を見逃してしまう危険な側面があると学生時代によく教授方に指摘されたものです。だから機械翻訳は未だに役に立たないのだとも言っていましたね。 -- 2017-04-23 (日) 06:21:48
      • 一つの指輪に唯一神性は無くは無いでしょう(上記でも'the One'の含みが指摘されてます)。しかしモルドールが東方にあること、サウロンの力が「東の方の黒い影」とアラゴルンに表現されていること、サウロンが東夷を召し使ったこと等を踏まえると、「東方の王」という側面を確実に持っている気がします。'the Great'も、東方の君主(古代ペルシャ等のオリエント王)の称号の英訳として使用されますからね。 -- 2017-04-26 (水) 17:58:09
      • ↑東方を治めているというだけでオリエント君主のイメージに重ねるのはいささか安直だと思います。オリエント君主はあくまで純然たる『地上的』な存在であって、超自然性・超越性が繰り返し強調されているサウロンのイメージとは齟齬がある。サウロンに「東方の王」の言説が重ねられている気配は皆無です。 -- 2017-04-28 (金) 20:48:52
      • 'lord of (the) lords'としての東方の王は、およそ神権支配者(大王・天帝・シャーハンシャーなど)ですので、別段地上に限定されてはいないでしょう。とはいえそうした超自然的支配者も、本来の意味での'the One'に値する力を持っている訳ではありませんが…。一つの指輪・サウロンも、地上的な権力を超越した力―'the One'と称する力―の持ち主ではあるでしょうけど、究極的には天上天下を支配するような力には及んでいません。バラド=ドゥアの塔から睥睨するに至ったまでですし、最期には「もはや何の力もなかったのです。(中略)大風がそれをさらって運び去り、消え去ったからです」。 -- 2017-04-30 (日) 00:39:26
      • ↑問題は西欧の'Lord of Lords'の文脈からみて地上的かどうかであって、当該文化での位置づけは問題ではありません。トールキンの立つ文脈から言えば、東方の王というのはあくまで異教徒の大君主であってそれ以上でも以下でもない。対するサウロンに仮託されているのは、地上的な異教徒の王ではなく、むしろそうした異教徒達を背後から支配している『大悪魔』のそれであって、領地が東方にあるのはその文脈の上での事と捉えるのが妥当です。 -- 2017-04-30 (日) 01:21:21
    • 一週間経って特に異論がないため、該当部分は差し戻しました。 -- 2017-04-30 (日) 01:26:51
  • 私も同意します。the One, the Great, the Masterの表現に対する穿った見方の記述は削るべきだと思います(いわゆる独自研究では)。ただし作者であるトールキン親子がどこかでそういった寓意を提示ないし推測しているならば、(出典を明記した上で)むしろ載せてほしいです。 -- 2017-04-29 (土) 02:58:08
  • もう大学かどこかに場所を変えたら・・・・・ -- 2017-04-30 (日) 01:02:39
  • なるほど フロドがナズグルが来る度に指輪を嵌めようとしたのは指輪の意思だったのか -- 2017-05-21 (日) 11:59:31
  • bring them allって、"すべてを捕え"と訳されてますが、全ての指輪をサウロンにもたらすってイメージなんですかね。 -- 2017-05-22 (月) 22:44:00
    • 捕らえたものを、暗闇につなぎとめるということですね。 -- 2017-12-08 (金) 10:50:07
    • より精神的な方面から、誘き寄せ、引き込み、心を囚える、といったイメージかもですね。 -- 2017-12-09 (土) 02:52:35
  • 松岡修造がはめたら溶けるかな? -- 2018-04-18 (水) 19:19:27
  • 魂を物に封じて死を防ぐというのは分霊箱と少し似ている。元ネタなんだろうか。 -- 2018-06-07 (木) 03:03:05
    • 直接の元ネタとは考えにくいけど、ローリング女史が似てるのに気づいてなかったと言うのも考え難いな -- 2018-06-07 (木) 12:06:25
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*1 力の指輪についての伝承の歌
*2 イシルドゥアが一つの指輪について書き残した文献中の表現。
*3 ゴクリは指輪の使用が頻繁でなかったためか、ホビットとしての頑強さのためか、細りはしたが薄れるまでには至らなかった。
*4 ただしゴクリの場合は外見が著しく変化している。それが長い年月によるものか特殊な条件によるものかは不明。
*5 ガンダルフは、ビルボ安らかに眠れる可能性については言明を避けつつも、自分の意志で手放したために「影響を脱するまで幸せに生き続けるだろう」と述べている。またゴクリは指輪を失った後に年を取ったように感じた。がっくりと老いこんだように感じたといい、ガンダルフはそれを「少し元気を回復した」ことだと述べている。
*6 指輪物語 二つの塔』「黒門不通」
*7 指輪物語 旅の仲間』「エルロンドの会議」
*8 終わらざりし物語』の記述による。ナズグールに情報を与えたのはグリマとも、サルマンの手下の仲介人ともされる。
*9 指輪物語 追補編』「著者ことわりがき」トールキンの言葉。
*10 『J.R.R.トールキン:世紀の作家』254ページ
*11 同上256ページ
*12 『指輪物語 追補編』「著者ことわりがき」トールキンの言葉。

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Last-modified: 2018-06-07 (木) 12:06:25 (41d)