レイシアン

概要

カテゴリー詩・歌
スペルLeithian
その他の呼び名レイシアンの歌(Lay of Leithian)

解説

シンダール語で「囚われの身よりの解放(Release from Bondage)」の意。ベレンルーシエンについて語った歌物語で、太古の世を歌った歌を除いて、最も長い歌物語(散文詩)と言われる。アン=センナスという旋律で歌われる。

「世界は今速やかに大いなる出来事に向かって動いています。いつか人間の一人、それもほかならぬベオル一族の者が実際にこの地に来るでしょう。その時はメリアン魔法帯もかれを妨げることはないでしょう。わらわの力より大きな運命がかれを遣わしてくるからです。かれの訪れによって生まれる歌は、全中つ国が姿を変えた後も歌われ続けるでありましょう」*1

指輪物語』より

指輪物語』では、アラゴルン二世馳夫)が風見が丘でその一部を共通語に訳してホビット達に聴かせている。
この歌は『指輪物語「中つ国」のうた』ではベレンとルーシエンの歌(Song of Beren and Lúthien)と題されている。

指輪物語』での邦訳*2

木の葉は長く、草は緑に、
 ヘムロックの花笠はのびて、あでやかだった。
木の間の空地にさしこむ光は、
 夜空にまたたく星明かりだった。
そこに踊るのは、ティヌヴィエルよ、
 見えない笛の音にあわせて。
星明かりを髪にかざし、
 まとう衣をきらめかせて。

きびしい山から、ベレンはおりて、
 道ふみ迷い、さまよう森辺、
エルフの川のとどろくあたり、
 ひとり嘆いて、たずねていけば、
ヘムロックの葉蔭にかいま見た、
 黄金の花々を裳と袖にさし、
髪を影のようになびかせて、
 おどる美しい乙女の姿。

山々を越えてさまよう運命に疲れた足も、
 魅せられた心にたちまち癒えて、
烈しく早く駆けよったベレンの
 手につかんだのは、きらめく月光ばかり。
織りなす木々をすりぬけて、わが家へ
 乙女は踊る足どり軽く逃げていった。
あとに男は、なおも淋しく、
 耳すませつつ静まる森をさまよった。

男はきいた、菩提樹の葉ずれのように軽い
 にげゆく乙女の足音を。
またきいた、地下から湧き出でて
 かくれた窪地に鳴る楽の音を。
はやヘムロックの花束はしおれて、
 一葉一葉、溜息(ためいき)をつき
ささやきながら、ぶなの葉は落ちた、
 冬の森に、たゆたうように。

男は、乙女を求めて遠くさまよった、
 年々の落葉が厚くつもる処を、
月の光、星の明かりをたよりに、
 寒さきびしい空の下にふるえながら。
かなた、高い山の頂上で、
 衣を月光にひるがえして
乙女は踊るよ、その足もとに
 銀の霧がうずまいて散った。

冬がすぎて、乙女はもどった。
 その歌声がとき放つ、にわかな春に、
雲雀(ひばり) は舞い、雨はくだり、
 雪解け水は、泡立って流れた。
乙女の足もとに咲いたエルフの花を、
 男は見て、悲しみをまた癒された。
かれの望むのは、芝草の上で
 乙女をおどさずに、歌い踊ることだった。

ふたたび乙女は逃げたが、男は早かった。
 ティヌヴィエルよ! ティヌヴィエル!
エルフの名で呼ぶ男の声に、
 乙女は足をとめて、耳をかたむけた。
その声にこもる魔力で
 立ちつくす時の間に、ベレンは来た。
かくてティヌヴィエルに運命はくだり、
 ベレンの腕にかがやかしく横たわった。

乙女の髪の陰の二つの眼を
 ベレンがのぞきこんだとき、
夜空にゆらぐ星の光が、
 そこに映ってふるえるのを見た。
エルフの美女なるティヌヴィエル、
 命つきせぬエルフの乙女、
陰なす髪は、ベレンをつつみ、
 双の(かいな) は、銀のようにかがやいた。

運命のみちびく道は、長かった。
 冷たい灰色の石の山を越え、
鉄の広間を通り、お暗い戸口をくぐり、
 朝の来ない夜の森をぬけ、
別れの海にへだてられたが、
 二人はついに、ふたたび出会った。
して、遠いそのかみ、二人はともに、
 歌いながら、嘆きも知らず森へ去って行った。

英語原文

The leaves were long, the grass was green,
 The hemlock-umbels tall and fair,
And in the glade a light was seen
 Of stars in shadow shimmering.
Tinúviel was dancing there
 To music of a pipe unseen,
And light of stars was in her hair,
 And in her raiment glimmering.

There Beren came from mountains cold,
 And lost he wandered under leaves,
And where the Elven-river rolled
 He walked alone and sorrowing.
He peered between the hemlock-leaves
 And saw in wonder flowers of gold
Upon her mantle and her sleeves,
 And her hair like shadow following.

Enchantment healed his weary feet
 That over hills were doomed to roam;
And forth he hastened, strong and fleet,
 And grasped at moonbeams glistening.
Through woven woods in Elvenhome
 She tightly fled on dancing feet,
And left him lonely still to roam
 In the silent forest listening.

He heard there oft the flying sound
 Of feet as light as linden-leaves,
Or music welling underground,
 In hidden hollows quavering.
Now withered lay the hemlock-sheaves,
 And one by one with sighing sound
Whispering fell the beechen leaves
 In the wintry woodland wavering.

He sought her ever, wandering far
 Where leaves of years were thickly strewn,
By light of moon and ray of star
 In frosty heavens shivering.
Her mantle glinted in the moon,
 As on a hill-top high and far
She danced, and at her feet was strewn
 A mist of silver quivering.

When winter passed, she came again,
 And her song released the sudden spring,
Like rising lark, and falling rain,
 And melting water bubbling.
He saw the elven-flowers spring
 About her feet, and healed again
He longed by her to dance and sing
 Upon the grass untroubling.

Again she fled, but swift he came.
 Tinúviel! Tinúviel!
He called her by her elvish name;
 And there she halted listening.
One moment stood she, and a spell
 His voice laid on her: Beren came,
And doom fell on Tinúviel
 That in his arms lay glistening.

As Beren looked into her eyes
 Within the shadows of her hair,
The trembling starlight of the skies
 He saw there mirrored shimmering.
Tinúviel the elven-fair,
 Immortal maiden elven-wise,
About him cast her shadowy hair
 And arms like silver glimmering.

Long was the way that fate them bore,
 O'er stony mountains cold and grey,
Through halls of iron and darkling door,
 And woods of nightshade morrowless.
The Sundering Seas between them lay,
 And yet at last they met once more,
And long ago they passed away
 In the forest singing sorrowless.

シルマリルの物語』より

クウェンタ・シルマリルリオン 第十九章 ベレンとルーシエンのこと」では、レイシアンの内容が要約されて述べられているが、一部に詩文も載せられている。

サウロンフィンロドの歌合戦
シルマリルの物語』での邦訳

かの者の唱うるは、呪術(まじない)の歌、
見抜き、開く歌、裏切れ、
正体を現わせ、友を売れと、
その時、不意にフェラグンドは、
揺らぐ体を踏みとどめ、歌い返した。
持ちこたえよ、抵抗せよ、力と戦え、
秘密を守り、塔の如く強かれ、
信頼は損なわれずと。自由よ、逃亡よ。
形は移り、姿は変わらん。
陥穽(かんせい)は避けられ、罠は断ち切られ、
牢獄は開き、鎖は絶たれん。
往きつ戻りつ、歌は揺れ、
強さ増す敵の詠唱、
よろめき、くずおれ、
フェラグンドは戦う。
エルフの国の魔法と力のすべてを
歌の言葉に注ぎ込む。
暗がりにかすかな小鳥の(さえず)り、
遥か遠くナルゴスロンドに歌う鳥、
西方世界のかなたなる、
エルフの故国、真珠の砂浜に打ち寄せる、
わたつみの吐息にも似た波の音。
その時、薄闇が次第に募り、
ヴァリノールに暗闇は濃く、
海辺には赤い血が流れる。
わたつみを渡ってきた者たちを、
ノルドール殺した
そして盗んだ白い帆の白い船、
灯火に照らされた港から船出させた。
風は慟哭(どうこく)し、が吠える。
(からす)が逃げる。
海峡に氷が軋む。
悲しき虜囚はアングバンド呻吟(しんぎん)する。
雷鳴とどろき、火は燃える――
そしてフィンロドはくずおれた、
かの者の玉座の前に。

英語原文

He chanted a song of wizardry,
Of piercing, opening, of treachery,
Revealing, uncovering, betraying.
Then sudden Felagund there swaying,
Sang in answer a song of staying,
Resisting, battling against power,
Of secrets kept, strength like a tower,
And trust unbroken, freedom, escape;
Of changing and shifting shape,
Of snares eluded, broken traps,
The prison opening, the chain that snaps.
 Backwards and forwards swayed their song.
Reeling foundering, as ever more strong
The chanting swelled, Felagund fought,
And all the magic and might he brought
Of Elvenesse into his words.
Softly in the gloom they heard the birds
Singing afar in Nargothrond,
The sighing of the Sea beyond,
Beyond the western world, on sand,
On sand of pearls on Elvenland.
 Then in the doom gathered; darkness growing
In Valinor, the red blood flowing
Beside the Sea, where the Noldor slew
The Foamriders, and stealing drew
Their white ships with their white sails
From lamplit havens. The wind wails,
The wolf howls. The ravens flee.
The ice mutters in the mouths of the Sea.
The captives sad in Angband mourn.
Thunder rumbles, the fires burn―
And Finrod fell before the throne.

ベレンの別離の歌
シルマリルの物語』での邦訳

さらばかぐわしい大地、北の空よ、
とこしえに祝福されてあれ、
の下、太陽の下、この地に横たわり、
しなやかな四肢もてこの地を駆けし
ルーシエン・ティヌーヴィエル
定命(じょうみょう)の人間の言葉に尽くせぬ美しさ、
この世のもの、すべて滅び、
すべて消え失せ、古の深淵に帰るとも
この世の作られたるはよし、
黄昏(たそがれ)(あかつき)と、大地と海のありしゆえ、
ルーシエンのこの世にしばらくありしゆえ。

英語原文

Farewell sweet earth and northern sky,
for ever blest, since here did lie
and here with lissom limbs did run
beneath the Moon, beneath the Sun,
Lúthien Tinúviel
more fair than mortal tongue can tell.
Though all to ruin fell the world
and were dissolved and backward hurled
unmade into the old abyss,
yet were its making good, for this―
the dusk, the dawn, the earth, the sea―
that Lúthien for a time should be.

映画版での設定

指輪物語』での「ベレンとルーシエンの歌」はアニメ映画『ロード・オブ・ザ・リング 指輪物語』にも入っている。
実写映画『ロード・オブ・ザ・リング』では、スペシャル・エクステンデッド・エディションぶよ水の沢地アラゴルンが「ベレンとルーシエンの歌」の一部を歌うシーンが追加された。

コメント

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照(コメントページ直接編集もこちら)

  • このベオル一族の人間の一人がトゥオルなんですよね。使命をおびた。 -- 2013-08-10 (土) 08:45:00
    • いや、ここでメリアンが言っているのはベレンのことでしょう。 -- 2013-08-10 (土) 15:35:04
  • ??? -- 2018-01-04 (木) 11:41:23
コメント: (他のコメントへの返信は、そのコメントのラジオボタンにチェックしてください)

*1 シルマリルの物語』「西方に人間の来住せること」 メリアンガラドリエルに語った予言
*2 旅の仲間』「闇夜の短剣」

トップトップ   編集編集 凍結凍結 差分差分 バックアップバックアップ 添付添付 複製複製 名前変更名前変更 リロードリロード   新規新規 一覧一覧 単語検索単語検索 最終更新最終更新   ヘルプヘルプ   最終更新のRSS最終更新のRSS
Last-modified: 2018-01-04 (木) 11:41:23 (139d)