ルーシエン†
概要†
カテゴリー | 人名 |
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スペル | Lúthien |
異訳 | ルシアン、ルシエン |
その他の呼び名 | ティヌーヴィエル(Tinúviel) |
種族 | エルフ(シンダール)とマイアの血を引く |
性別 | 女 |
生没年(1) | 二つの木の時代(1200)頃~第一紀(467) |
生没年(2) | 第一紀(469)~(503) |
親 | シンゴル(父)、メリアン(母) |
兄弟 | 無し |
配偶者 | ベレン |
子 | ディオル(息子) |
解説†
上古に生きたエルフの乙女で、この世のあらゆる存在の中で最も美しい女性だと言われる。
人間の英雄ベレンと結ばれ、彼と共に冥王モルゴスの鉄の王冠から大宝玉シルマリルの一つを取り戻した。その功業と運命はレイシアンという歌に歌われている。
その衣は曇りのない蒼穹のように青く、その目は、星明かりの夕空の如き灰色をしていた。マントには金色の花々が繍りされ、髪は、宵闇のように黒かった。かの女の輝かしさ、かの女の美しさは樹々の葉にきらめく光、清冽な水のせせらぎ、夜露の上に瞬く星々のようであった。そしてその顔には、照り映える光があった。*1
アルウェンは彼女の子孫であり、エルフの中で最もルーシエンに似ていたという。
前半生†
星々の時代にドリアスの王国で、シンダール・エルフの王シンゴルと、マイアのメリアンの間に一人娘として生まれた。ニフレディルの花は、ネルドレスの森に彼女が生まれた時に花開いたといわれる。
ルーシエンが生まれたのは、アルダの全土が平和を謳歌していた時代だった。やがて北方にモルゴスが君臨すると、ドリアスは魔法帯で守られるようになり、ルーシエンはその内側で暮らした。
父のシンゴルは、ルーシエンのことを何よりも大切に思っており、いかなるエルフの公子でもその夫には不足だと考えていた。
またシンゴルの宮廷詩人ダエロンはルーシエンを愛し、歌と音楽にその思いの丈の一切を込めていた。
ベレンとの出会い†
エルフの美女なるティヌーヴィエル、命つきせぬエルフの乙女、
陰なす髪は、ベレンをつつみ、双の腕は、銀のようにかがやいた。*2
エダインの英雄ベレンは運命に導かれて魔法帯を突破し、夏のネルドレスの森でルーシエンに行き逢った。
はじめルーシエンは月明かりの下、エスガルドゥイン川のかたわらにある林間の空地で踊っていたが、たちまち姿を消し、秋と冬にもまた現われては消えていった。その間、ベレンは口を利くことも動くこともできなかったが、春が巡ってきてルーシエンが歌い出すと、ベレンの口も解けて彼女にティヌーヴィエル「小夜鳴鳥」と呼びかけた。たちまちルーシエンはベレンの姿を認め、このとき二人は恋に落ちた。ルーシエンは一度逃げ去ったが、絶望に沈むベレンの許に戻ってきてその手を取り、二人は再び夏になったネルドレスの森を逍遥して歩いた。この時の二人ほど大きな喜びを味わった者は現在に至るまで他にいないと言われている。
だが二人の仲はたちまちダエロンの知るところとなり、ダエロンはシンゴル王にそのことを密告する。最愛の娘にはエルフですら釣り合う者はいないと考えるシンゴルは、ましてや卑しい人間の男が娘に思いを寄せたことを知って激怒した。
そこでルーシエンは、ベレンに危害を加えないことをシンゴルに誓わせると、自らベレンをシンゴルの許に引き合わせる。するとシンゴルは、娘と結ばれたければシルマリルの一つを手に入れてくるようにとベレンに要求し、暗に彼を葬り去ろうとした。ところがベレンは笑ってこの難題を引き受けた。
シルマリル探求†
探索行に出たベレンがトル=イン=ガウルホスでサウロンに囚われると、不吉な予感に襲われたルーシエンは母のメリアンからベレンの境遇を聞き出す。他に助けがもたらされる望みがないため、自ら救出に向かうことを決意したルーシエンは、そのことをダエロンに相談したために、またもシンゴルに察知されてしまう。驚き恐れたシンゴルは、ヒーリルオルンの木の上に家を建てさせると、そこにルーシエンを軟禁した。
そこでルーシエンは魔法で伸ばした自身の髪に眠りのまじないを込めると、それで影のような長衣を織り上げて、番人を眠らせてドリアスから出奔した。
飛び出したルーシエンはケレゴルムとクルフィンに保護されるが、二人は誓言に突き動かされてベレンの探索行を妨害した上、ルーシエンの美しさに邪心を起こして彼女を監禁する。だがこれにケレゴルムの猟犬フアンは憐れを催し、ルーシエンを助けて脱出させるとそのまま背に乗せてトル=イン=ガウルホスまで運び、探索行を手助けした。
ルーシエンは島に通じる橋の上で歌い、土牢からベレンがそれに応えて歌ったのを聞くと、さらに大きな力のこもった歌で塔を揺るがした。そこでサウロンは次々と巨狼を差し向け、最後に自ら強大な狼の姿に変じてフアンとルーシエンに挑んできた。あまりの恐ろしさにルーシエンは気が遠くなったが、倒れる刹那に影の長衣をサウロンの鼻先に投げかけ、眠気で虚を突かれたサウロンは激しい戦いの末ついにフアンに組み敷かれて敗北した。
ルーシエンがサウロンから島の支配権を取り上げたことで、要塞は倒壊し地下牢はむき出しになる。破れた土牢で、ルーシエンはベレンと再会した。
しばし再会を楽しんだ二人だが、そこにまたケレゴルムとクルフィンが行き当たり、二人はベレンを殺してルーシエンを奪い去ろうとした。これはベレンの膂力とフアンの真心のために阻止されたが、ベレンはクルフィンの放った矢からルーシエンを庇って負傷し、ルーシエンはフアンに助けられてその傷を癒やした。
ベレンが単身で探索行を再会しようとした時、ルーシエンは後を追いかけてこれを肯んぜず、フアンはもはや二人の宿命は一つに織り合わせられているとベレンを説得した。
ベレンとルーシエンは、巨狼ドラウグルインと吸血蝙蝠スリングウェシルの皮衣で変装し、長い旅の末にアングバンドにたどり着く。城門は最強の巨狼カルハロスが守っていたが、ルーシエンはマイアールの血を発揮して巨狼を眠らせ、二人は地下に潜入しついに地の底にあるモルゴスの玉座まで到達した。そこでルーシエンは、モルゴスの凝視にさらされたが、全ての魔力を尽くしてモルゴスとその廷臣たちを眠らせ、とうとうベレンが鉄の冠からシルマリルの一つを取り戻した。
だがこれで力を使い果たしたルーシエンは、地上への道を阻むカルハロスに抗することができず、カルハロスはベレンの右手ごとシルマリルを飲み込んでしまった。二人は大鷲のソロンドールに運ばれてドリアスの国境に帰り着いた。
ルーシエンは懸命の治療によってベレンを毒牙の傷から癒やし、二人は再び春の森を逍遥する。二人の功業を聞いて驚嘆したシンゴルは、ベレンとルーシエンの婚約を認めた。
死と生還†
しかし、シルマリルを飲み込んで狂乱したカルハロスを討伐するための狼狩りで、ベレンはシンゴルを庇って致命傷を負った。ベレンの死の間際、ルーシエンは大海のかなたで自分を待っているよう告げる。
そのままルーシエンの魂は、死んだベレンの後を追ってマンドスの館に赴き、イルーヴァタールの子らであるエルフと人間の悲嘆を歌ってマンドスの心を動かした。それゆえ、二人はついにこの世の涯なる岸辺で再び相会った。
マンドスはマンウェに相談し、マンウェは心の裡にイルーヴァタールの啓示を求めた。その結果、ルーシエンはエルフの運命である不死の命を捨て、ベレンと同じ死すべき運命に組み込まれることとなり、二人は束の間中つ国に蘇って夫婦として時を過ごすことになった。
中つ国に戻ったベレンとルーシエンはシンゴルとメリアンに暇を告げると、トル・ガレンに去り、それゆえその地は「生ける死者の国」を意味するドル・フィルン=イ=グイナールと呼ばれるようになった。
この地で二人の間には息子のディオルが生まれた。また、シンゴルが殺されてシルマリルを嵌め込んだナウグラミールの首飾りがノグロドのドワーフに略奪された時、ベレンは緑のエルフを率いてこれを破り、ナウグラミールを取り戻してルーシエンの許にもたらした。シルマリルとルーシエンの力により、かの地は束の間ヴァリノールと見紛うほど美しい地になったという。
やがてシンゴルの世継としてドリアスの王となったディオルの許に使者が来て、シルマリルの付いたナウグラミールをもたらした。そこでディオルは父と母が今度こそ本当に死んで、人間の宿命に従い世界の圏外に去ったことを悟った。
ベレンとルーシエンがこの世を去るのを見た者はなく、ついに二人が身を横たえた場所に墓標を立てた者もいなかったという。
運命のみちびく道は、長かった。
冷たい灰色の石の山を越え、
鉄の広間を通り、お暗い戸口をくぐり、
朝の来ない夜の森をぬけ、
別れの海にへだてられたが、
二人はついに、ふたたび出会った。
して、遠いそのかみ、二人はともに、
歌いながら、嘆きも知らず森へ去って行った。*3
画像†
トールキン夫妻との関係†
ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンは、自分の妻エディスをルーシエンに見立てており、ベレンとルーシエンの物語は二人が経験した苦難に基づいている。
トールキンはエディスが死ぬと、その墓にルーシエンの名を刻ませた。その後、彼自身が死去したとき、トールキンの墓にはベレンの名が刻まれた。
コメント†
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