モルゴス

概要

カテゴリー人名
スペルMorgoth
その他の呼び名メルコール*1(Melkor)
バウグリア(Bauglir)
冥王、暗黒の王(Dark Lord)
世界の暗黒の敵、この世の黒き敵(the Black Foe of the World)
大敵、大いなる敵(the Enemy)
初代の大敵(the First Enemy)
強大な敵、大いなる敵(the Great Enemy)
かの大いなる影(the Great Shadow)
暗黒の王(the Lord of the Dark, the Dark King)
暗黒の主(the Lord of the Darkness)
北方の暗黒の力、北方の冥王(Dark Power of the North)
世界の王(King of the World)
マンドスの囚人(jail-crow of Mandos)
大いなる闇の御方(Great Dark One)*2
種族アイヌアヴァラール
性別
生没年
兄弟マンウェ(兄弟)

解説

アルダの諸悪の根源。初代冥王
元来この者は、クウェンヤで「力にて立つ者(He who arises in Might)」を意味するメルコールの名*3で呼ばれた最も強大なアイヌアであった。だがメルコールはイルーヴァタールの主題に反逆し、兄弟たるマンウェ王国(アルダ)を力ずくで我が物にしようとして数限りない損害をアルダに加えた。そのためメルコールの名は剥奪され、もはやヴァラールの一人には数えられない。
フィンウェが殺されてシルマリルが奪い取られたことを知ったフェアノールがこの者をシンダール語で「黒き敵(Black Enemy)」を意味するモルゴスと呼び、以後はその名で知られるようになった。シンダール語で「圧制者(Constrainer)」の意であるバウグリアとも呼ばれた。

アイヌアとしては酷寒と灼熱を生じさせた者だった。しかしモルゴスがアルダに害を加える上で最もよく用いたのが暗闇であり、彼と同一化された暗闇はすべての命ある者にとって甚だしい恐怖の対象となった。このために冥王の名で呼ばれる。
中つ国ではウトゥムノ、およびアングバンドを拠点とし、その下にはマイアールの悪霊(サウロンバルログ等)や被造物の怪物(オークトロル等)、邪悪な人間東夷等)からなるおびただしい数の堕落した召使が集っていた。これらの召使達の中で生き残った者はモルゴス亡き後も中つ国とそこに暮らす自由の民を害し続けたが、モルゴス自身はこういった勢力を構築してアルダを侵食することに力を費やしたため、晩期にはアイヌアとしての能力をほとんど失っていった。

モルゴスは怒りの戦いによって虚空に放逐され、現存する目に見える姿では二度とアルダに戻ってくることはない。しかし彼の投げかけた暗闇はいまだにアルダを覆っており、その意思と虚言は依然として召使達を支配している。

「予こそ長上王なり。われはメルコール、全ヴァラールのうち、最初にあって最も力ある存在、世の開闢以前にあって世を創りし者。わがもくろむ影はアルダを覆い、地上に起こるすべてのことはひそやかに、だが着実に、わが意を表してゆくであろう。 … 」*4

最も力ある者

「げにアイヌアは力ある者なり。アイヌアのうちにありて、この上なき力を持つ者はメルコールなり。」*5

イルーヴァタールより、メルコールは全アイヌアの中で最大の力と知識が与えられており、そればかりでなく他のヴァラールの資質をもいくらかずつ分け与えられていた。
しかし彼はやがて自らの手で創造を成したいと欲すようになり、不滅の炎を求めてただ独り虚空をさ迷うようになる。そのため彼は、他のアイヌアとは異なる独自の考えを抱くようになった。

アイヌアの音楽が奏せられた時、メルコールは自分に与えられた声部(パート)の栄光をさらに大きなものにしたいと思い、歌唱に自らの考えを織り込んで不協和音を生じさせた。メルコールの力はあまりに大きく、他のアイヌアの斉唱は圧せられ、イルーヴァタールの提示した主題が二度もかき消されるほどであった。中には、むしろ彼に同調して共に不協和音を起こす者達すらいた。
しかしイルーヴァタールが三度目に示した主題は力では決してかき消されることのない悲しみと美が基調となっており、メルコールとその同調者達の不協和音すら取り込んで一つの音楽となった。

アイヌアの音楽がアルダの歴史としてかれらの眼前に幻視されると、メルコールはアイヌアの誰よりもその場所に心を奪われ、アルダとそこに暮らすイルーヴァタールの子らエルフ人間)を思うがままに支配したいと望むようになる。
彼は本心を隠し、子らのために自らの不協和音から生じた酷寒と灼熱を統御するという口実を自分でも信じ込んで、エアに下向した最初のアイヌアの一人となった(ヴァラール)。

ヴァラールの反逆者

かれの心中に燃える悪意と鬱屈した気分のため、その形は暗く、恐ろしかった。そしてかれは、ほかのヴァラールの誰よりも強大な力と威厳を見せてアルダに降り立ったが、さながら、頭を雲の上に出し、氷を身にまとい、煙と火を頭上に戴き、海を渡る山のようであった。メルコールの目の光は、熱をもって萎らせ、死の如き冷たさで刺し貫く炎のようであった。*6

エアに下向したヴァラール達は、やがて生まれ来るイルーヴァタールの子らのために世界を築くという大事業に取り掛かる。しかしメルコールは世界は自分のものだと宣言して思いのままにそれを形作ろうとし、兄弟のマンウェを筆頭とした他のヴァラールと争った。やがてヴァラールがアルダの形を造り上げてそれに準じた姿を纏うと、メルコールもそれに応じて強大な姿を纏うようになる。

マンウェは自らの下にアイヌアを招集し、成されることすべてを自分の思う方向にねじ曲げようとするか、あるいは全く損ねてしまおうとするメルコールの妨害に対抗した。メルコールは熱と冷気によってウルモの領域を侵犯しようとするが、ウルモはマンウェと力を合わせてそれを退ける。また、アウレの仕事を妬んだメルコールはこれに絶えず損害を与えようとし、アウレはメルコールが加える傷を修復することに次第に消耗するようになった。

だがトゥルカスの到来によってメルコールは完全に打ち負かされ、外なる暗闇に逃亡した。
これによってようやくアルダの構造と秩序は形を成したが、メルコールの絶えざる妨害のためにヴァラールの当初の構想が完全に実現されることはなかった。

暗闇の支配者

かれは最初、光を強く欲したが、それを独占できないとなると、火と憤怒に身を焼き、熾烈に燃えさかって大暗黒の中に下っていった。*7

外なる暗闇に逃れたメルコールだが、彼はヴァラールに仕えるマイアールの中に多くの間者を持っていた。そのためメルコールは同胞が成し遂げたことを全て把握し、いよいよ憎悪を強くする。
ヴァラールがアルダを照らす二つの灯火イルルインオルマルを完成させ、アルマレンに宮居を築いてそこに住まうようになると、メルコールは夜の壁を越えて北方に鉄山脈を築き、それを防壁としてウトゥムノの地下城砦を築き上げる。(灯火の時代

メルコールはまず北方からアルダを浸食し、ヤヴァンナが目覚めさせた動植物(ケルヴァールオルヴァール)を汚染してアルダの春を台無しにする。そしてヴァラールの機先を制し、二つの灯火を強襲してこれを打ち倒した。灯火が倒壊した衝撃のためにアルダは大損害を被り、その混乱にまぎれてメルコールはマンウェの怒りとトゥルカスの追跡を免れてウトゥムノに逃げ帰る。

ヴァラールはアルダがこれ以上破壊されることを恐れ、大海を隔てたアマンへ撤退。以後中つ国は非常に長い期間、ウトゥムノに君臨するメルコールの支配下に置かれることとなる。

ウトゥムノの冥王

暗闇にはメルコールが住まい、さまざまな力と恐怖の形をとり、依然としてほしいままに出歩いていた。かれは、山々の頂から山々の下なる深い溶鉱炉に至るまで、冷気と火を支配した。何であれ、残酷なもの、暴力的なもの、死に至るものは、当時、すべてかれの管理のもとにあったのである。*8

ヴァラールはアマンを照らす新たな光として二つの木を生み出したが、中つ国は星々の薄明の下にとどめおかれた。(二つの木の時代(星々の時代)
当時の中つ国北方は、地下にメルコールの火と召使達で満たされたウトゥムノが穿たれていたため、無残に荒れ果てていたといい、その力は絶えず南へと伸長していた。メルコールは周囲にバルログ達を集め、鉄山脈の西の外れにはヴァラールの攻撃に対する備えとしてアングバンドを築いてサウロンをその守りにあたらせる。そして変節させた悪霊や怪物達を放ち、アルダを侵食していった。

ヴァラオロメは、こういったメルコールの怪物を狩り立てる狩人であった。メルコールはしばしば中つ国に馬を進めてくるオロメを非常に恐れ、その進行を妨げるために霧ふり山脈を隆起させた。
他のヴァラールも中つ国のことを見捨てたわけではなく、ヴァルダはメルコールに対する挑戦の印としてメネルマカールヴァラキアカといった新たな天空の星々を築いた。そしてヴァルダが仕事を終えた時、中つ国東方のクイヴィエーネン湖のほとりにエルフが誕生する。

警戒怠りないメルコールは、目覚めたエルフの存在を真っ先に察知したと言われている。そこでメルコールは暗闇と狩人の姿をした悪霊を送り込んでエルフを狩り立て、かれらの心に影を投じるとともに、オロメを恐れるように仕向けた。遠くまでさまよい出たエルフはこの狩人に捕らえられ、仲間たちの許に戻ってくることは二度となかったという。
後のエルダールの賢者達が推測したところによると、捕らわれたエルフ達はウトゥムノの地下牢に連れて行かれ、そこでメルコールの緩慢かつ残忍な術によって心身共に捻じ曲げられた。かくしておぞましいオーク族が作り出されたのだと考えられている。

やがてオロメがエルフを発見し、かれらがメルコールに脅かされていることが判明すると、ヴァラールイルーヴァタールの声に従ってエルフを救い出すべくメルコールに戦いを仕掛けた。(力の戦い
メルコールは中つ国北西部でヴァラールを迎え撃ったが打ち破られ、アングバンドは陥落、ウトゥムノは長く熾烈な包囲戦の末ついに落城して徹底的に破壊された。その地下抗は残らずむき出しにされ、最深部に逃れたメルコールは再びトゥルカスに打ち負かされると、アウレの鍛えたアンガイノールの鎖で縛られてアマンへと連行された。

マンドスの囚人

「わたしもまたヴァラではないか。げにわれこそ、ヴァリマールの玉座に得意然と坐するかの者たちに勝る者であり、アルダの民の中で最も技にすぐれ、最も勇敢なるノルドール族の(かわ)らぬ友であるのだぞ」*9

審判の輪に引き出されたメルコールは和睦を乞うたが聞き入れられず、マンドスの砦に三紀の間投獄された。かくしてアマン中つ国はその間平和な時代を謳歌することができた。
三紀の刑期が過ぎた後、再び引き出されたメルコールは許しを請うてアルダの傷を癒すことを誓い、ニエンナの口添えもあって釈放される。マンウェはこれでメルコールの悪は矯正されたと考えたが、彼は内心では妬みと憎しみをますます募らせていた。

メルコールは自身の敗北の原因になったエルダールを憎み、その間に甘言と虚言を混ぜて不和の種を蒔き、ヴァラールから引き離そうと腐心した。中でもノルドールがその標的となり、またノルドールの王子フェアノールが作り出したシルマリルを激しく渇望するようになる。
このためフェアノールとフィンゴルフィンは互いにいがみ合い、メルコールの知識によってもたらされた武器を密かに鍛えて蓄えるようになる。さらにノルドール族は「ヴァラール中つ国人間に与えるつもりで、エルダールをアマンに連れて来て閉じ込めているのだ」と不平を漏らすようになった。
こうしてヴァリノールの至福は汚され、二つの木の光は陰って影が長く伸びるようになる。

フェアノールが公衆の面前でフィンゴルフィンに剣を突きつけるに及んでついにヴァラールは調査に乗り出し、メルコールの悪意が明らかとなる。メルコールはヴァリノールから姿をくらまし、二つの木の光は再び明るく輝いた。しかしアマンの民の心中から不安が去ることはなかった。

光の簒奪者

さて、メルコールは、アヴァサールに来てかの女を探し出すと、かつてかれがウトゥムノの圧制者として見せていた姿を再びとった。丈高く、見るだに恐ろしい暗黒の王の姿である。その後かれは、ずっとこの姿をとったまま変わらなかった。*10

メルコールはアマンから逃走したと見せかけて、その近隣のアヴァサールにひそんでウンゴリアントを呼び出し、「協力するならお前の飢えを癒やすどんなものでも与える」と空約束をして協力を取り付けた。ヴァリノールの祝祭日に舞い戻ったメルコールは、テルペリオンラウレリン二つの木に黒い槍を突き立てて瀕死の傷を負わせ、その傷口からウンゴリアントが樹液をすすり毒を流し込むことで、二つの木を枯死させるに至る。こうしてアマンにはそれまでになかった恐るべき暗闇が招来された。
さらにメルコールとウンゴリアントはフォルメノスを襲撃してフィンウェを殺害。その地下宝物庫にあったシルマリルを奪い取った。これを知ったフェアノールが彼をモルゴスと呼び、以後はその名で呼ばれるようになる。

モルゴスとウンゴリアントは暗闇に紛れてヴァラールの追跡をかわし、ヘルカラクセを渡って中つ国まで逃亡する。だがそこでウンゴリアントが報酬としてシルマリルを要求すると、シルマリルに魅了されていたモルゴスはこれを拒否、二人は仲違いを起こした。ウンゴリアントは網にかけてモルゴスを殺そうとしたが、モルゴスは恐ろしい叫び声を上げてアングバンドからバルログ達を呼び出し、ウンゴリアントを追い払った。(このため一帯は「大谺」を意味するランモスと呼ばれるようになる)
モルゴスはアングバンドを再建・強化してサンゴロドリムの塔を築き上げると、そこに拠って再び中つ国の制圧を目論んだ。

アングバンドの圧制者

かれはその高慢の鼻をへし折られるウトゥムノ時代にも増して、今や完全に憎悪の虜となり、召使いを駆使し、邪悪なる欲望をかれらに吹き込むことに精魂を傾けていたからである。とはいえ、ヴァラールの一員としてのかれの威光は久しく痕を留め、畏怖というより恐怖すべき対象になり果てたのであるが、かれの面前では、最も力ある者以外には、黒々とした恐怖の穴に落ち込まない者はなかったのである。*11

アングバンドに君臨したモルゴスは、巨大な鉄の冠を鍛えるとそれに奪ったシルマリルをはめ込み、「世界の王」を僭称した。

第一紀宝玉戦争は、シルマリルを戴いてアングバンドに立て篭もるモルゴスに、復讐とシルマリル奪回のため中つ国に帰還してきたノルドール、モルゴスの圧制にあくまで抵抗しようとするシンダール、そしてモルゴスの暗闇を拒んだ人間であるエダイン達が挑んだ望みなき戦いである。
モルゴスの力は大きく、アングバンドの地下坑からはおびただしい数のオークトロル、恐るべき力を持つバルログ、寒気や火炎流などが繰り返し解き放たれ、ベレリアンドは次第に疲弊していった。

一方でモルゴス自身はそうした勢力を構築することに力を費やしたため、次第にアイヌアとしての力を失い、ますます大地に縛り付けられて地下の玉座から動くのを厭うようになる。
ヴァラールが空に放った太陽もまた、モルゴスにとっては大きな脅威であった。モルゴスは一度影の精を差し向けて月を襲撃したことがあったが撃退され、太陽の光に対してはもはや為す術を知らなかった。そのためモルゴスは暗闇と噴煙で自分の居所と召使達を隠すことを余儀なくされる。オークトロルが太陽の光を忌むのはこのためである。

太陽の光と、ノルドール族の武勇のため、モルゴスの伸長は阻まれその力は一時北方に封じ込められたことがあった。(アングバンドの包囲
だがそれでも、エルダールはアングバンドそのものを攻め落とすことはできないでいた。一方でモルゴスは地の底深くで腹黒い企みを懐き、眠ることなく次なる禍事の準備を続けていた。

フィンゴルフィンとの一騎打ち

そこでモルゴスは現れた。地下の玉座からゆっくり登ってきた。その足音は、地の下を揺るがす雷の如く轟いた。
立ち現れたモルゴスは、黒の鎧に身を固め、塔のように王の前に立ちはだかった。頭には鉄の王冠を戴き、紋章のない黒一色の巨大な盾が、嵐を孕む雲のように王の上に影を落とした。 …
モルゴスは、地下世界の鉄槌グロンドを高々と振り上げ、雷光の如く打ち下ろした。*12

アングバンドの包囲ダゴール・ブラゴルラハで破られる。これをベレリアンドノルドール王家の滅亡と信じたフィンゴルフィンは、憤怒に駆られて単身アングバンドの門前にまで馬を進め、大音声でモルゴスを呼ばわり一騎打ちの挑戦をした。フィンゴルフィンは公然とモルゴスを侮辱したため、モルゴスは乗り気ではなかったが挑戦に応じて姿を現した。

フィンゴルフィンは彼の剣リンギルによってモルゴスに七つの傷を与え、今際のきわにモルゴスの左足に斬り付けて深手を与えた。さらにフィンゴルフィンの亡骸を救出しに飛来したソロンドールはモルゴスの顔に消えることのない傷跡を残した。
モルゴスの苦悶のたびにその全軍勢は動揺し、モルゴスがこの時受けた傷の痛みは以後癒えることがなく、ずっと左足を引きずって歩くようになったという。

モルゴスが自ら姿を現して武器を振るったのはただこの一度のみであった。現身の肉体に縛られるに至っていたモルゴスは傷つくことを極度に恐れるようになっていたのである。

シルマリルの一つを失う

かの女は、かれの目の前に黒髪のマントを投げかけ、夢を注ぎかけた。かつてかれが独り歩いた外なる空虚のように暗い夢である。突然かれは、丘が山崩れを起こすようにくずおれたかと思うと、雷のように玉座からもんどり落ちて、地獄の床にうつ伏した。鉄の冠が音立てて転げ落ちたあとは、すべてが音もなく静まりかえった。*13

三つのシルマリルは依然としてモルゴスの鉄の王冠に嵌っており、アングバンドは不落であったが、その守りが破られる事態が起こる。

シルマリル奪回の誓いを立てたベレンルーシエンが、幾多の困難を潜り抜けてアングバンドの最奥にあるモルゴスの玉座にまで到達し、ルーシエンが眠りの魔法でモルゴスと下僕達を眠らせている間にベレンが鉄の王冠に嵌ったシルマリルの一つをこじり取ったのであった。このことはレイシアンに歌われている。
目覚めて事態に気づいたモルゴスは憤怒し、サンゴロドリムを噴火させたが、ベレンとルーシエンはついにその魔の手を逃れてシルマリルの一つが奪回された。

この一件はフェアノールの息子たちに、不可能と思われていたアングバンド攻略の望みを呼び起こし、マイズロスの連合が提唱される要因となった。だがモルゴスはかねてから間者を通じた不和と裏切りの準備をしていたのである。

人間を呪う者

しかし、人間の心に暗い影がさしていることを(同族殺害マンドスの下した宣告の影がノルドール族にのしかかっているように)、エルダールは、自分たちが初めて知り合ったエルフの友たる人間たちの中にさえ、はっきりと認めたのである。*14

太陽が初めて空に昇った時、中つ国の東方ヒルドーリエン人間族が目覚めた。このこともまた、直ちにモルゴスの知るところとなる。これを大事件と思ったモルゴスは、アングバンドの指揮をサウロンにまかせて自ら密かに人間たちの許に赴き、かれらを誘惑したと言われている。
それゆえ、人間族はその歴史のはじめからモルゴスの投じた暗闇に付きまとわれている。東夷をはじめとした多くの人間がモルゴスとその召使の側に与しがちなのもそのためであった。
ニアナイス・アルノイディアドにおいて、東夷のウルファングの一族はエルダールを裏切り、モルゴスに勝利をもたらした。この戦いによってベレリアンドのほぼ全土がモルゴスの手に落ちた。

モルゴスの暗闇を拒み、そこから逃れようと西方を目指した人間の一派がエダインである。人間族の中で、かれらのみが公然とモルゴスを敵として戦うことを選んだが、そのかれらと言えどもモルゴスの暗闇から完全に自由になったわけではなかった。
モルゴスは、エダインの勇者フーリンが、自らの責苦と呪言にも不屈であるのを見て取ると、彼と彼の一族を呪い、非業の運命を生ぜせしめた。このことはナルン・イ・ヒーン・フーリンに歌われている。
さらにこれらのことからモルゴスは、ニアナイスの後も存続していたエルダールの隠れ王国であるナルゴスロンドドリアスゴンドリンを滅亡させる禍をも生じさせた。

モルゴスの没落

かくしてベレリアンドの全王国は滅び、エルダールエダインはわずかにシリオンの河口バラール島に持ちこたえるのみとなった。
モルゴスの勝利は目前となったが、そのシリオンの河口より船出したエアレンディルが、ベレンルーシエンに奪い返された一個のシルマリルによってヴァリノール隠しを突破してアマンに到達し、その嘆願を聞き入れたヴァラールによってエオンウェ率いるヴァリノールの軍勢が中つ国へと進軍してくる。
この怒りの戦いにおいて、モルゴスの築き上げた膨大な勢力はまたたく間に滅ぼされ、最後の切り札であるアンカラゴンを祖とした翼ある龍らも、エアレンディルのヴィンギロト大鷲によって打ち破られ、サンゴロドリムはアンカラゴンの下敷きとなって毀れた。アングバンドは徹底的に破壊され、その奥底に逃れたモルゴスは和睦を求めたが赦されず、再び捕らえられた。

こうしてモルゴスは打ち破られ、その没落がもたらされた。

その後

モルゴスは両足を切断されれると再びアンガイノールの鎖で縛り上げられ、この世の外なる虚空に投げ出されて、現存する目に見える姿では二度と戻ってくることはないという。天空を航行するエアレンディル明星)がその見張りに立った。

だがモルゴスの蒔いた邪悪な種子は中つ国に残り続けていつまでも果実をつけ、彼の意志は依然として召使い達を支配している。
バルログオークといった堕落した怪物たちは一部が生き残り、後世に禍根を残した。ヌーメノール人の堕落も、大海を渡ってきたモルゴスの影に端を発すると言われている。最強の召使サウロンはモルゴスの後を継いで冥王となり、再び中つ国に暗闇を広げた。

「それでも後世に生じるかもしれぬ災いはほかにいくらもあろう。なぜならサウロン自身、一個の召使、あるいは使者にすぎぬからじゃ。」*15

世の終わりダゴール・ダゴラスにおいて彼はアルダに帰還すると言われている。

画像

ジョン・ハウ作画による二つの木を枯らすモルゴスとウンゴリアント ジョン・ハウ作画によるフィンゴルフィンと戦うモルゴス

コメント

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照(コメントページ直接編集もこちら)

  • ――モルゴスは――二度とこの世界へは戻れなかった。ヴァラと冥王の中間の生命体となり永遠に虚空をさまようのだ。そして戻りたいと思っても戻れないので――そのうちモルゴスは考えるのをやめた。 -- 2015-05-19 (火) 20:34:47
    • それ、俺が前に書き込んだネタ… -- 2015-05-19 (火) 21:22:29
      • すみません知りませんでした。これからコメント書くときはなるべくエシディシのネタにします。 -- 2015-05-19 (火) 21:59:09
      • それより前のコメントを確認することをお勧めします -- 2015-05-19 (火) 22:10:33
      • 確認したらありました。仲のいいモルさんとマンウェ -- 2015-05-20 (水) 19:25:10
  • メルコールさんは、サウロンより強いし、能力の高いかたですよ。サウロンは、力だけでなく悪賢いし、しつこいから、そのサウロンに勝ったなら、能力も -- 2015-05-20 (水) 23:01:58
    • 恐ろしい…明日雪が降るんじゃなかろうか…… -- 2015-05-20 (水) 23:46:05
  • サウロンはモルドールから指輪は火の中で作られたです。 -- 2015-05-31 (日) 21:30:10
  • サウロンは、メルコールさんには、勝てないでしょう -- 2015-05-31 (日) 22:21:37
  • 北の果てなる集いの山に座し、いと高き者の如くならむ… 世界観的には、キリスト教のルシファーも、メルコールの記憶の遠いこだまと言うことになるのだろうか。 -- 2015-09-18 (金) 11:22:00
  • (一個体としては)見る影も無く劣化した筈のモルゴスが夜の扉を打ち破るなんて本来有り得ないので彼は虚空にて「不滅の炎」を見つけたのかも知れませんね、 -- 2015-10-22 (木) 21:56:54
    • 不滅の炎はエルと共にあるものなのでモルゴスが手に入れるのは難しいのでは。世界と共にヴァラールやエルフも老いて弱りゆく世界観ですから、夜の扉も劣化モルゴスが打ち破れる程度に脆くなってくんじゃないですかね。 -- 2015-10-24 (土) 10:04:19
  • モルゴス「アルダは青かった・・・」 -- 2016-01-07 (木) 01:04:04
  • "現存する目に見える姿では二度と戻ってくることはない"、"世の終わりダゴール・ダゴラスにおいて彼はアルダに帰還する"どっちやねん -- 2017-02-11 (土) 14:47:58
    • 目に見えない姿で帰還するのではないかと -- 2017-02-13 (月) 12:05:53
  • 最初にフェアノールが「モルゴス」と呼んだそうですが、シンダール語だったのでしょうか。まだフェアノールは、中つ国へ渡ってシンダールに触れてなかったのでは。最初は「黒き敵」に対応するクウェンヤだったのでしょうか。 -- 2017-02-25 (土) 05:30:16
    • フェアノールはシンダールと接触をもってないのでクウェンヤで呼んだはずです。後記クウェンタの記述者がシンダリンで記述したのでしょう。ちなみにHoMe10巻ではMorgothのクウェンヤ形はMoringottoになるそうです。 -- 2017-02-25 (土) 09:10:16
      • ただMoringottoは束教授の案の一つなのでこれが正解というわけではないので、そのへんご了承ください。 -- 2017-02-25 (土) 09:52:29
    • もともとメルコールさんが名前で、その人を「黒き敵」と呼んだというだけでしょうね。記述されていた本がシンダール語だったのでモルゴスと記載されていただけで、英語の本ならBlackEnemyと表記されたでしょう。日本語の本の場合はカタカナで表記してしまうので「黒き敵」とはせずにモルゴスにしてしまうのですが、筆記者の使用言語に左右されたという事案でしょうね -- 2017-04-19 (水) 13:53:05
  • よくフーリンは拘束された絶望的な状態でモルゴスに喧嘩売ったと思う。これほど相対するに心萎える存在なのに、すごい胆力だ。 -- 2018-01-15 (月) 23:24:12
    • 作中フーリンは人間で最強のものとされてるからな。 -- 2018-01-15 (月) 23:41:36
    • チートなんだろ・ -- 2018-02-23 (金) 09:15:01
コメント: (他のコメントへの返信は、そのコメントのラジオボタンにチェックしてください)

*1 旧訳ではメルコオル
*2 ドルーエダインの呼び名
*3 この名のシンダール語形はベレグーア(Belegûr)だが、エルフたちはこれを用いず、「大いなる死(Great Death)」の意味のベレグアス(Belegurth)を用いた
*4 終わらざりし物語』「ナルン・イ・ヒーン・フーリンフーリンに向けられたモルゴスの大言壮語
*5 シルマリルの物語』「アイヌリンダレイルーヴァタールの言葉
*6 シルマリルの物語』「アイヌリンダレ」 最初に形をまとった時のメルコールの様子
*7 シルマリルの物語』「ヴァラクウェンタ
*8 シルマリルの物語』「世の初まりのこと」
*9 シルマリルの物語』「シルマリルとノルドール不穏のこと」 フェアノールを懐柔しようとするメルコールの言葉
*10 シルマリルの物語』「ヴァリノールに暗闇の訪れたこと」
*11 シルマリルの物語』「ノルドール族の逃亡のこと」
*12 シルマリルの物語』「ベレリアンドの滅亡とフィンゴルフィンの死のこと」
*13 シルマリルの物語』「ベレンとルーシエンのこと」
*14 シルマリルの物語』「西方に人間の来住せること」
*15 指輪物語 王の帰還』「最終戦略会議」 ガンダルフの言葉

トップトップ   編集編集 凍結凍結 差分差分 バックアップバックアップ 添付添付 複製複製 名前変更名前変更 リロードリロード   新規新規 一覧一覧 単語検索単語検索 最終更新最終更新   ヘルプヘルプ   最終更新のRSS最終更新のRSS
Last-modified: 2018-04-04 (水) 14:54:51 (53d)