イルーヴァタール†
概要†
解説†
クウェンヤで「万物の父(Father of All)」の意。唯一神エル*1のこと。繋げてエル・イルーヴァタールとも呼ばれる。全能神であり、万物の創造主。
アイヌルは彼の思考から生まれた者達で、またエルフと人間は彼の子らにあたる。アルダ(地球)は彼が示した主題にアイヌルと子らが参画することによって創造され、紡がれているものである。
「すでに汝らに明かせし主題により、われは汝らが調べを合わせ、大いなる音楽を作らんことを望む。われは汝らに不滅の炎を点じたり。故に、汝らそれぞれに、思いを尽くし、工夫を尽くし、持てる力を尽くしてこの主題を飾るべし。われはここに坐して聞き、汝らの力により、大いなる美が目覚めて歌となるを喜ばん」*2
万物の父†
世界が始まる前、イルーヴァタールは時なき館においてアイヌルを生み出して不滅の炎を与えると、かれらに「主題」を示して創世の音楽(アイヌリンダレ)を奏でさせた。メルコールが起こした不協和音のために音楽は三度の変更を余儀なくされたが、その度ごとにイルーヴァタールは新たな主題を示し、三つ目の主題は不協和音をも取り込んで一つの音楽となって終わった。
するとイルーヴァタールは、音楽が実はアルダ(地球)の姿とその歴史を形作るものであったことを明かし、虚空に不滅の炎を送り出してエア(世界)を創造する。そしてアイヌルの中で望む者はエアに入って実際にアルダを創造することを命じた。(ヴァラールとマイアール)
さらにアルダの住人としてイルーヴァタールの子らを生み出し、エルフには世界の圏内で最高の美を案出する能力(「不死性」)を、人間には世界の運命に束縛されない自由(「死すべき運命」)を、それぞれ贈り物として与えた。これにより、アルダの創造は細部に至るまで完遂されるのだと言われている。
世界が終わり、アイヌルと子らによって第二の音楽が奏せられた暁には、全ての者達の思いに対して不滅の炎が与えられるという。
アルダへの介入†
エアの創造以後、アルダの管理と発展はヴァラールの采配と子らの働きに委ねており、アルダの内側にいる者達からはイルーヴァタールの意図は隠されている。だがヴァラールの内でマンウェのみは、自らの心の奥深くに呼びかけることでイルーヴァタールの声を聞くことができた。
- 【ドワーフの誕生】
- 子らの目覚めを待ちきれないアウレが独断でドワーフを作り出した時、イルーヴァタールは自らアウレに語りかけてその真意を問い質した。アウレが恭順を示してドワーフの父祖たちを打ち壊そうとし、それに父祖たちが怯える様子を見せると、イルーヴァタールは憐れを催してアウレを赦し、ドワーフをアルダの住人として嘉納した。そのためドワーフは「イルーヴァタールの養い子」とも呼ばれる。しかし「最初に生まれた者たち」であるエルフより先にアルダで生を受けることは許さず、しかるべき時が来るまでドワーフたちは眠りに就かされた。
「天地創造の時、アイヌルの考えにわれが存在を与えし如く、われは汝の願望を取り上げ、世界の中に場所を与えたり。されど、汝の製作物にわが手を加うることはせず」*3 - 【エントと大鷲の到来】
- ドワーフの一件を知ったヤヴァンナは、彼女の愛するオルヴァール(植物)とケルヴァール(動物)が子らにほしいままに虐げられるのではないかと危惧し、マンウェに相談した。マンウェが黙想していると、イルーヴァタールはマンウェの心の内に語りかけ、再びアイヌルの歌の光景を幻視させると、子らが目覚める時にはエントと大鷲もまたアルダで生を受けることになっていると告げた。
「汝ら、ヴァラたちよ、汝らの中には、かの歌声のすべてを、いと小さき声に至るまで、われが聞かざりしと思う者ありや」*4 - 【エルフの救出】
- 中つ国でエルフ族が目覚めると、メルコールはかれらをウトゥムノに連れ去ったり、影の精を送り込むなどして害をなした。このことをオロメの報告で知ったヴァラールは審判の輪に集い、いかに対処すべきか合議した。最後にマンウェが心の内に問いかけると、イルーヴァタールは以下のように答えた。これにより力の戦いが起こった。
「われらは、たとえいかなる犠牲を払おうと、もう一度アルダの支配権を手に入れ、クウェンディをメルコールの影より救い出すべきである」*5 - 【ベレンとルーシエンの復活】
- ベレンが死んだ時、ルーシエンは彼の後を追ってマンドスの館に至り、子らの受難を哀歌にして歌ってマンドスの心を動かした。マンドスはマンウェに相談し、マンウェは心の内にイルーヴァタールの啓示を求めた。結果、ルーシエンにはエルフと人間いずれの運命に殉じるか選択が与えられることになり、ルーシエンはベレンと共に人間として生きて死ぬことを選び、共に中つ国へ戻って暮らした。この二人の結びつきから半エルフの血脈が生じた。
ヌーメノールにおける崇拝と没落†
ヴァラールから直接教えを受けた上のエルフを除けば、イルーヴァタールの存在とその意味を正しく理解している者はほとんどいない。中つ国の民にとってはヴァラールの方がより身近かつ崇拝すべき対象であり、しばしばヴァラールは「神々」と誤って呼ばれる。
一方、ヌーメノール人はヴァラールが遣わしたマイアールと上のエルフから教えを受けたため、ヌーメノールではイルーヴァタールが唯一神として崇拝されていた。メネルタルマの頂上はイルーヴァタールに捧げられた聖所とされ、そこでは年に三回、国民が集まって礼拝が行われた(エルキエアメ、エルライタレ、エルハンタレ)。
だがヌーメノールが堕落するにつれて祭祀はなおざりにされた。やがて島にやってきたサウロンはイルーヴァタールの実在を否定し、メネルタルマへの参上を禁ずる。とはいえサウロンといえどもイルーヴァタールの聖所をあえて穢すことはできなかったという。
第二紀末、堕落の極みに達したヌーメノール人は人間には与えられていない「不死」を奪い取るためにアマンへ侵攻する。この事態にヴァラールはアルダの統治権を返上し、それを受けてイルーヴァタールはアルダの構造を根本から作り変えた。平面であった地表は球形となり、ヌーメノールの島は覆されて大海に没し、アマンは地上から取り除かれて世界の圏外に移された(世界の変わる日)。
『指輪物語』において†
「その背後には、指輪の造り主の意図をも越えた、何か別のものが働いていたじゃろう。こういえば一番はっきりするだろうか。ビルボはその指輪を見つけるように
定められていた 、ただし、その造り主によってではないと。そうだとすれば、あんたもまたそれを所有するように定められている ことになる。ことによるとそう考える方が元気づけられるかもしれない。」
「そんなことないです。」と、フロドはいいました。「もっともわたしには、あなたのおっしゃることがよくわかってないのかもしれませんが。」*6
『終わらざりし物語』によると、第三紀にヴァラールがイスタリを中つ国に派遣する際にも、マンウェはイルーヴァタールの言葉を仰いだのだと言う。
また、本文で明確にされているわけではないが、山頂の闘いで力尽きたガンダルフを「白のガンダルフ」として蘇生して送り返したのはイルーヴァタール自身であったという。
備考†
トールキンは敬虔なカトリックであり、イルーヴァタールはキリスト教の神と同一の存在だとしている。
コメント†
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