アイヌリンダレ

概要

カテゴリー詩・歌
スペルAinulindalë
その他の呼び名アイヌアの音楽(Music of the Ainur)
大いなる音楽(Great Music)
大いなる歌(Great Song)

解説

クウェンヤで「アイヌアの音楽」の意。
世界を創造したアイヌアの音楽のことで、ルーミルによって作られた創世記の題名でもある。『シルマリルの物語』の一編。

三つの主題と不協和音

かくて、アイヌアの歌声は、ハープの如く、リュートの如く、管の如く、トランペットの如く、ヴィオルの如く、オルガンの如く、無数のクワイアの歌うが如く、こもごも起こって、イルーヴァタールの主題を大いなる音楽に作りなし始めた。そして、無限に取り交わされるあまたの旋律は、妙なる諧調に織りなされ、一つの楽の音となって響きわたり、もはや耳にも達せぬ深きところ高きところにまで届き、イルーヴァタールの宮居も溢れるほどにその響きに満たされ、溢れ出た楽の音の音と谺は外に流れて虚空に入り、虚空はもはや虚空ではなくなった。*1

エル・イルーヴァタールは自らの心より生み出したアイヌア不滅の炎を点じ、かれらに力ある主題を明かしてそれを各々が思いと工夫を凝らして奏することを望んだ。そこで全てのアイヌアはイルーヴァタールの宮居に集い、それぞれの声部(パート)に分かれて斉唱する。
しかしアイヌアの内で最大の力を持っていたメルコールは、虚空に不滅の炎を求めて独りさまよったために彼自身の考えを抱くようになっていた。自らの声部をさらに大ならしめたいと欲したメルコールは歌に自らの思いを織り込み、調和を乱す。彼から生じた不協和音は他のアイヌアの歌声を圧し、中にはメルコールに同調する者まで現れた。

イルーヴァタールははじめ黙したまま耳を傾けていたが、やがて微笑して立ちあがり、左手から新たなる第二の主題をアイヌアに示す。これは第一に主題に似ていたが、次第に力強さを増し新たなる美を獲得するものだった。
第二の主題の主たる奏者はメルコールの兄弟であるマンウェであった。しかし再びメルコールと彼が率いる者達による不協和音が巻き起こり、激しい戦いの末にやはりメルコールが勝利を収めた。

そこでイルーヴァタールは厳しい顔をして再び立ちあがり、右手から第三の主題を示す。これは前の二つの主題とは似ておらず、はじめは静かだが決してかき消されることがない、力と深さを次第に増していくものだった。そしてこの主題には測り難い悲しみが基調となり、そこから美が生じていた。この時アイヌア達は気付かなかったのだが、この第三の主題にはエルフ人間の存在が織り込まれていた。
メルコールの不協和音はかつてない激しさでこれと争ったが、主題をかき消すことはできず、それどころか主題は不協和音をその中に取り込んで一つの音楽となった。

三たび立ちあがったイルーヴァタールの顔は仰ぐだに恐ろしく、その両手より発せられた一つの和音によって、アイヌアの音楽は終わった。

「げにアイヌアは力ある者なり。 … されど、メルコールは知るべし。すべてのアイヌアは知るべし。われはイルーヴァタールなり。 … 何人もイルーヴァタールに挑戦して、その音楽を変え得ざることを知るべし。かかる試みをなす者は、かれ自身想像だに及ばぬ、さらに驚嘆すべきことを作り出すわが道具に過ぎざるべし。」*2

アルダの幻視とエアの創造

アイヌア一同が感嘆して見守るうちに、この世界はそれ自身の歴史を繰り広げ始めた。それは生きて、育ってゆくように思われた。 … 「汝らの音楽を見よ! これは汝らの歌いし歌なり。」*3

イルーヴァタール虚空アイヌアを導き、その音楽によって織りなされたアルダの姿と歴史を視覚としてアイヌアに示す。
アイヌアはかれら自身の考えから生じたことどもと、イルーヴァタール自身から生じた存在であるエルフ人間を目にして驚嘆し、それに魅せられた。同時に、アイヌアの歌がそれと知らずイルーヴァタールの子らのための世界を準備するものであったことに気づく。
しかしイルーヴァタールが歌と世界についての知識をアイヌアに与えている最中、アルダの幻視はかれらの眼前から取り去られる(アイヌアに視覚として示された歴史は、エルフが去り、人間の時代が到来するまでのものであったという)。

そこでイルーヴァタールは虚空に不滅の炎を送り出してエアを創造し、アイヌアの中で望むものはエアに下って幻視されたアルダの姿と歴史をそこで実現することを許した。
アイヌアの内でもっとも偉大なる者達が、自らの歌から生じたことと、自らと全く異なるイルーヴァタールの子らへの愛に惹かれ、エアに下ることを選んだ。かれらはヴァラールと呼ばれるようになり、ヴァラールの許に集いアルダ生成のために働くアイヌアがマイアールとなった。メルコールもまた、自らの支配欲の充足をエアの内に求めてそこへ下ることを選んだ。

アイヌアの音楽は、(人間を除く)アルダに生きる全ての者にとって宿命に等しいものであり、ヴァラールとマイアールが持つ智慧は、それを歌い、目にしたことに多くを拠っていた。だが、個々のアイヌアの叡智には限界があり、歌われたことや目にしたことの全てを常に意識にとどめ、理解しているわけではなかった。そのためアイヌアにとってもアルダの歴史はしばしば驚くべきものであり、イルーヴァタールの意図はアイヌアからも隠されていた。

水の音に伝えられる音楽の谺

アイヌアの音楽の谺は、アルダにおいては水の音にいまなお生きていると言われている。そのためイルーヴァタールの子らは海鳴りや川のせせらぎに心を奪われ、ふと耳を傾けるが、それが何故なのかは知らないのである。
アイヌアの内にあって最も音楽に秀でたウルモはそれゆえ水を愛し、その中に住んで絶えず音楽の谺に耳を傾けているのだと言う。そして彼の吹き鳴らすウルムーリの角笛の音を聞いた者は、海への憧れを留めることができなくなる。

第二の音楽

アルダの歴史が終わった後には、イルーヴァタールの許で全てのアイヌア子らエルフ人間)のクワイアによって新たな音楽が奏せられるという。*4
その時、全ての者は自らに割り当てられた声部(パート)の意味するところを完全に理解し、イルーヴァタールの主題は正しく奏せられ、イルーヴァタールはかれらの思いに不滅の炎を与えるだろうと言われている。

コメント

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  • どんな歌だったのか聴いてみたい。「ハレルヤ」みたいなものか? -- PINPIN
  • 『ナルニア国物語』でも、世界は創造主アスランの歌声によって創られたということになっている。 -- ホビット 2008-12-07 (日) 14:14:49
    • トールキン氏とルイス氏が友人だったことに関係があったとしたら面白い。 -- 森愛 2010-09-12 (日) 18:04:00
      • 確かにそうですね。 -- 2010-09-12 (日) 18:44:34
    • リーアムボイスないし津嘉山ボイスの歌か……それはちょっと聞いてみたいな…… -- 2014-04-26 (土) 23:28:29
  • 『アレクサンドル=ブロークの詩による7つの歌』の7つめは「音楽」という詩に曲をのせています。メロディアスな曲とは言い難いのが残念ですが、詩はとても素敵です。 「夜、恐怖が眠っているとき 街が暗闇の中でけぶるときにも ああ、神の御許にはなんと多くの音楽が、地はその響きに満ちていることか!」「人生の嵐がどれほどのことか、あなたの薔薇の花が咲きほこるなら 人類の涙がどれほどのものか、夕陽が鮮やかに輝くときに」 2番目の『予言の鳥ガマユーン』では人々への愛に燃える鳥の文字通り最後の力を尽くして災厄を予言する姿が歌われ、6番目『秘密のしるし』ではどこにも逃れ場の無い絶望のサインが歌われます。『音楽』を7番目に配置したのは無神論者の作曲家ですが、1つめの詩から通して読むと非常に、非常に意味深に感じます。 余談をいえば、ガマユーンの予言はまったくもって不吉ですが、かの鳥は真実の愛に満ちているのです。これなど、わたしはローハンでの蛇の舌とガンダルフのやりとりを思い出しました。 -- なんとか亭 2009-04-13 (月) 22:02:07
  • 第一の主題が創造の時代、第二の主題が灯火の時代、第三の主題が星々の時代以降に対応しているのだろうか。不協和音の勝利が灯火の大破壊、不協和音の敗北がダゴール・ダゴラスと解釈できる。 -- 2014-12-10 (水) 18:12:13
  • いや、第一の主題はメルコールを含めた全てのアイヌアが力を合わせた美しい歌、第二の主題は力強さから美しさが表れる歌、第三の主題は深い悲しみから美しさが表れる歌です。メルコールが調和を乱したのは第二の主題からであり、アイヌアの中で最も強い力を持っていた彼が勝利したのです。そして第三の主題はその中にエルがアイヌアに気付かれないようにエルフと人間の存在を織り込んでいました。アルダはこの第三の主題から生まれたものなのです。ダゴールダゴラス後に歌われるのはこの三つの歌より素晴らしいといわれています。つまり、全アイヌアの調和の取れた歌よりも、最終戦争でモルゴス側の全ての者が滅ぼされ、善の側にいるエルフと人間、エルの子らが加わった歌の方が素晴らしいということです。新たな世界は今よりも素晴らしいものになる、と解釈すべきではないでしょうか。 -- 2015-01-06 (火) 21:26:50
    • 本文にもあるとおり、メルコールが不協和音を奏で始めたのは第一の主題からですよ -- 2015-01-06 (火) 23:00:09
    • 第一主題の始まりからしばらくは全アイヌアが調和していたのは、メルコールがアルダの始まりからいきなりマンウェ達を妨害していたわけではない事に対応するかと。力強さから美しさが表れる第二主題も、まだ悲しみの少ない若く素朴な楽園だった灯火の時代に合っていると感じます。 -- 2015-01-08 (木) 20:41:02
  • クラシックな演奏会で一人だけデスメタルを奏でてれば、そりゃ誰だって顰蹙を買うわな -- 2016-10-08 (土) 15:03:36
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*1 シルマリルの物語』「アイヌリンダレ」
*2 同上
*3 同上
*4 エルフがどうなるのかについては不明とされている箇所もある。また、ドワーフがどうなるのかについても不明である

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Last-modified: 2018-01-04 (木) 11:58:40 (227d)